人格転生 第6話

769 :人格転生14 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/20(金) 17:02:14.76 ID:ETtsFxCZ (3/9)

朝が来た。ベッドから起き上がる。支度をしてから由衣を起こしに行かないといけない。
ああ鬱だ。あの家政婦さん来るんだよな。帰って下さいとか言えないよな。
どうするどうするどうするどうするどうする
どうするどうするどうするどうするどうする
ああ昨日の由衣の思考が移った。マジでどうしよう。

爺ちゃんからは絶対にうちで働いてもらうように言われている。
なんでももう契約済みだとか。そして信用度もお墨付きらしい。
どの筋からなのかは言わなかったが、とにかくプロ中のプロらしい。

今日は休日だし由衣は起こさないでいいか。ほっておこう。

ん? リビングから声がする。

なんだ泥棒か!

急いでリビングに行く。

「いや~それでね。お兄ちゃんったらさ~愛理さんに怯えちゃってたの~」
「はは、そうなんですか。でも、お嬢様も面白い方ですね」
「そうかなあ、お兄ちゃんほどじゃないよ」
「それで、続きを聞かせて下さいませ」
「なんだったっけ?」
「お兄様が怯えながら愛理様になんと言ったのですか、です」
「そうそう、あのね…」

俺はリビングに入った瞬間コケた。
まるで芸人のように鮮やかに前へ倒れた。
単に足が引っかかったんだけど。

「おはよう! お兄ちゃん!」
「おはようございます、ご主人様」

開いた口が塞がらない。
いったい何が起こってるんだ? 眼の前でお茶してるふたりはなんなんだ?
そもそもなんで由衣が起きてる? 今日は台風か?
それにメイド服を着たポニーテールにカチューシャの女性は誰なんだ?

「お兄ちゃん。おはよう、は? お・は・よ・う」
「ちょっと来い」

俺は由衣を引きずってキッチンの奥に連れ込む。

「えへへ、どうしたの?」
「えへへじゃねぇ! なんで起きてんだよ!」
「起こしてもらったの」
「誰に?」
「あの人」
「あのメイドさんか?」
「うん」

ゆっくりと由衣を問い詰める。


770 :人格転生15 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/20(金) 17:03:26.41 ID:ETtsFxCZ (4/9)

「どうやって起こしてもらったんだ?」
「外から『きーん!』って音がしたから起きた」
「それから?」
「窓開けたらあの人がにこにこ笑ってた」
「で?」
「玄関向かって指さして、こっちに向いてウィンクしてた」
「それで玄関のドアを開けた、と?」
「うん!」

由衣は満面の笑みで頷いた。

「うん、じゃねー!!」

由衣にチョークスリーパーをかけた。

「ぐぐぐ…ぐるじい…やめで…!」

ちょっと弱めてやる。

「お前な、もしあの人が強盗とかだったらどうすんだよ」
「ぜぇぜぇ…そ、それはないよ」
「なぜだ?」
「だ、だってメイドさんだもん」
「は?」

言ってる意味がわからない。とうとう頭逝っちゃったか? 元から逝ってたけど。

「メイドさんが泥棒なわけないよ」
「ちょっと待て。メイド服着てたのか?」
「うん」
「朝っぱらから?」
「うん、日の出だったから綺麗だったよ」

想像してみる。朝焼けを背に家の前で佇むメイドさん。シュールな光景だ。
だが、そんなことはどうでもいい。

「俺が問題にしてるのはお前が知らない人を家に上げたということだ」
「知ってるよ」
「はぁ?」
「昨日ぶつかった人」
「…」

言葉を失う。俺は由衣を羽交い締めにしつつ、そーっと首を伸ばしてリビングを伺う。
こっちを向いて微笑んでる。その姿を観察する。こちらに会釈してきた。
俺もガン見しつつ会釈を返す…確かに昨日のあの人だ。気が動転してて気づかなかった。

「おい」
「なになに?」
「おまえにちょっと質問がある」
「いいよーでも腕どけてー」
「おまえの返答による」
「あうう…早く言ってよぉ」


771 :人格転生16 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/20(金) 17:04:25.11 ID:ETtsFxCZ (5/9)

今日はあの人だったからまだいいが、別の人だったら大問題だ。
こいつが下手したら強盗でも来客として招待する可能性がある。

「よし。今日の例に例えるぞ。スーツ姿のイケメン君が朝方に玄関のドアの前でウロウロしていたとする」
「イケメンってお兄ちゃんみたいな?」
「何気に嬉しいこと言ってくれるな。今度小遣い増やしてやる」
「やったあ!」
「話を戻す。そのイケメンスーツ君が困ったことがあるから玄関を開けて欲しいと、由衣に言ってきた。さあ、どうする?」
「う~ん。なんで玄関を開けて欲しいのかな?」
「家の財産が目的かも知れん。だが純粋に何か困ったことがあるのかも知らない」

つーか質問を質問で返すな。余計に難しくなるだろうが。主に出題者側が。
これはお前の防犯意識を計るテストなんだ。

「ドア越しで話してみるよ」
「そうか」

なんでコイツはここまで質問にのめり込めるのだろう。

「そいつは財布を無くしたから電車賃を貸してくれと言ってきている。どうする?」
「うーんうーん…! 開けないっ!」
「おお偉いぞ! 兄ちゃんは嬉しい!」
「やった! あたし勝ったんだね!」

由衣は万歳している。アホだなあ。

「でもその人はこう言ってきたんだ『俺、俺だよ、ここ開けてくれよ』」
「えぇっ? 俺って誰?」
「『君の兄だ』と言ってる」
「ええ!? 早く開けて助けないと!!」
「アウトーッ!!」

側にあったスリッパで思いきり由衣の頭をはたく。スパーンという音がした。

「あうぅ!!」
「なんで一瞬でオレオレ詐欺に引っかかってんだよ。相手は『君』って言ってるだろ。俺がおまえを『君』って言ったことあるか?」
「うう、ない…ぐすん。うえぇん、ええぇぇん…」

ヤバイ、本気で泣かせてしまった。リビングからの視線も気になる。

「ごめん。言い過ぎたよ。今度からは気をつけてくれたらいいんだ」
「ぅぅ…違うよ…お兄ちゃんを間違えちゃった自分が恥ずかしいの…ぐす…えぇん…ごめんなさい」
「いやだから、悪いのは俺だから。第一、俺だったら声でわかるもんな」
「うぅぅ…でも…」

全力でフォローするしかない。確かに質問も曖昧だった。マジですまん。

「今日はさ。これからのこともあるし、あのメイドさんと3人で紅茶とケーキ買ってきて家で家族会議…じゃなかった、楽しくおしゃべりしようぜ。ほら、クオリアのケーキ買ってきてさ」
「う…うん、わかったよ…ぐす…でもそのケーキ今食べてるよ」
「へ?」
「メイドさんが持ってきてくれたから一緒に食べてたの」
「…そ、そうか」

もう驚かない。驚かないったら驚かない。
俺は由衣の手を引いてリビングに顔出した。


772 :人格転生17 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/20(金) 17:05:27.97 ID:ETtsFxCZ (6/9)

「あの…はじめまして。美里良也と妹の由衣です。よろしくお願いします」

そう言うとメイドさんは椅子から立ち上がり深々とお辞儀をしてから髪をかきあげながら顔を上げた。

「はい。改めて紹介させていただきます。姫乃メイド協会から参りました如月薫(きさらぎ かおる)と申します。こちらこそよろしくお願い致します」
「…姫乃メイド協会? …姫乃?」
「わーい! メイドさんだメイドさんだ!」

由衣は喜んでいるが。俺はそのメイド協会とやらの名前に引っかかった。
あと如月にも…

「おい由衣」
「なぁにお兄ちゃん」
「ちょっとメイドさ…如月さんと話させてくれるかな?」
「うんいいよ」
「じゃあテレビでも観ててくれ」
「うん」

俺はキッチンの上のリモコンを操作して土曜の朝の子供向け番組にチャンネルを合わせる。
ちなみにリビングの方は32型だがこちらは26型のテレビ専用だ。音量を少し小さめに設定する。

「あの、如月さん」
「はい、ご主人様」
「すみません、とりあえずご主人様はやめてもらえませんか?」
「はい、では坊ちゃまで」

背筋がひやりとした。勘弁してくれ。

「いえ、それもやめてもらえると」
「では良也様と」
「それも」
「良也さん」
「うーん、普通に良也でいいですよ」
「雇用主に対して呼び捨ては困ります。敬意を持って仕えさせていただく身としては呼び捨てとは大変失礼に当たるかと存じます。それにわたしにもプロ意識と言うものがあります。そのへんを考慮に入れて貰えたら大変嬉しいのですが」
「でも、ご主人様はちょっと」
「では良也様と」
「わかりました。それでいいです」

この辺が妥協点だよな。ってなんか凄い妥協させられたような気がするんだが気のせいか?

「あと、こいつのこともお嬢様とか呼んじゃダメですよ。つけあがりますから」
「了解致しました。由衣様とお呼びします」

由衣はテレビに集中している。確か料理戦隊マイだったか。よくこんなに必死になれるもんだ。まあ確かに主人公のマイは可愛い。きっといい子役を使っているんだろう。

「爺ちゃんから聞きました。俺の学業の負担を軽くするために来てもらったとか」
「さようでございます」
「どの辺りまで聞いてるんですか?」
「とおっしゃいますと?」

言いにくいなぁ。この人もかなりやりにくい相手だ。
由衣の人格について知ってるか聞きたいがどう聞けばいいんだろう。
くそ。でも住み込みで働くと契約済みらしいから隠しても仕方ない。

ふとテーブルを見ると赤い日記が目についた。
ケーキの箱が大きくて視角になり見えなかったのだ。
俺は日記を手に取る。


773 :人格転生18 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/20(金) 17:07:23.45 ID:ETtsFxCZ (7/9)
こういうときだけ律儀に読むなよ! こいつ朝は読まない日の方が多いのに。
昨日も読まなかったはずだ。由利との交代で支障がでる場合があるため毎朝読むように言ってあるが、普段は忘れることが多いのだ。帰ってきてから書くときだけ読むことがほとんどである。

「由衣はこれ読んで何か言っていましたか?」
「いいえ特に。何かとはなんでしょうか」
「例えば夕方や夜のこととかを…」
「特に聞いておりませんが」
「そうですか」

ため息をつく。なるほど由衣も少しは考えているらしい。見直したぞ由衣。

「あ、そういえば『由利ちゃんはなんで怒ってるんだろう』と言っていました」

前言撤回。楽しそうにテレビを見てる由衣をグーで殴りそうになる。
由利は絶対に反対するぞ。どうすんだよ?
ああ、もう話すのも面倒くさい。嫌でもわかるんだから夕方まで黙っておこう。
ここで話しても由衣がいるし余計な混乱を招くだけだ。

「それと如月さん」
「薫と及び下さい」
「じゃあ薫さん」

今度は話術に引っ張られないぞ。

「なんでしょう」
「そのメイド服どうにかならないんですか?」
「何か問題でもございますか」

そう言って自分の服を見る薫さん。
完全にコスプレというより完璧な洋式のメイド服。
カチューシャに黒のタイトな服にエプロン。
しかも綺麗な人なのでその道の人が見たら萌え死にしそうだ。

「ああ、和装の方が好みでしたか」
「そういう問題じゃありません!」

いや、それも見たい。見たいけどダメだろうそれは。
今日もその格好で朝に家の玄関にいたらしいし。
とにかく目立つのはまずい。

「もう少し普通の服はないんですか?」
「ああ、なるほど」

薫さんは服を脱ぎだす。


774+1 :人格転生19 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/20(金) 17:08:44.49 ID:ETtsFxCZ (8/9)

「だああああああ!! なにしてんすか!?」
「落ち着いて下さい。エプロンを取っただけです」
「あああ…びっくりさせないでくださいよ」

ああ。寿命が縮まる。

「お兄ちゃん、うるさいよぉ」

テレビを見ながら由衣に注意される俺。
俺、なんか悪いことしたかなぁ?
あとでいじめてやる。

「これでどうでしょうか」
「あ。確かに普通ですけど、メイド…服…ですよね?」
「ええ。でも外に出ても違和感はないでしょう」

まあ確かに。ひらひらの白いエプロンと派手なカチューシャを少しカジュアルな白いブラウスとシックなカチューシャに変えただけだがずいぶんと印象が違う。
それでもメイドの体裁は保ってる。なんかこだわりでもあるのかな。

「あのそれでは本日より家事を承らせて頂きます」
「あ、はい。お願いします。それでは家を案内します」
「お願い致します」
「そんなかしこまらなくていいですよ」
「はい。ありがとうございます」

結局その場は収めて薫さんに家の案内する。
夕方のことを考えるとさらに欝になるのだった。
由利は怒る。絶対怒る。どうしよう。


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最終更新:2012年02月16日 15:41
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