人格転生 第8話

36 :人格転生 由利 24 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/28(土) 08:01:49.60 ID:DcF4NkJL (2/6)
私には時間がない。

すべてが動き始めてしまった。
情報はもう完全に漏れたと思った方がいい。
昨日の夕方から寝ていない。
私で居られるうちにしないといけないことがある。
由利から由衣に代わってしまってはわからなくなる。

レポートは全てまとめた。

今日は日曜日。朝から特別の用事がある。

深夜までリビングのPCに日記のデータを打ち込み論文をすべてまとめる作業をしていた。
途中あのメイドが様子を伺いに来たりしていたが、『心配ないから寝て下さい。これからは寝ることも仕事のうちですよ』と追い返した。
邪魔は困る。そして今も邪魔をしようとしている。

「由衣…様? おでかけですか?」
「うん。ちょっと行ってくる。お兄ちゃんには心配しないでって言っておいて」

努めて由衣の振りをする。ちゃんと笑えているだろうか。
口調も仕草も似せているが大丈夫だろうか。自信がない。
それに少し眠くなってきた。
眠ってしまったら交代時間が来て終わりだ。

「了解しました。ですが朝御飯ができていますが…」
「外でなんか買って食べるからいいよ」

あなたの不味い料理など食べたくない。
鬱陶しいから話しかけてくれるのをやめてほしい。

「じゃあ行ってきます」
「いってらっしゃいませ」

私の家で私に笑顔で挨拶をするな。
お辞儀をするな。料理を作るな。起こすな。
あなたの家じゃない。私と兄さんの家だ。
神聖な領域を侵しておいて笑うな。

ドアを閉めると言いようのない嫌悪感が襲ってきた。
ああ気持ち悪い。昨日は手にキスをされた。私に触っていいのは兄さんだけなのに。
本当になんでも言うことを聞くなら私の前でだけ雌犬扱いしてやろうかしら。
従うわけがないけど。どうせ他人など信じられるわけがない。

あのメイドを雇ったのは、御爺様が兄さんの学業の負担を軽くするためと仰っていたようだが、内情は違う。すべてわかっている。
家の電話にはPC経由ですべての通話が記録されているし、兄さんの打ち込んだメールはPCでも携帯でも、すべて受信送信時にPCに記録されるようにプログラムしてあるからだ。


37 :人格転生 由利 25 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/28(土) 08:02:54.93 ID:DcF4NkJL (3/6)
兄さんの携帯はスマートフォンだ。もちろん買うときは私が同行したし薦めた。
ガラケーよりプログラムがしやすくてありがたかった。
そして外部からのクラックは困難だが内部からのハッキングは容易い。
それに兄さんが使うパスワードもだいたいわかっている。

yuiyuri1115

由衣由利に兄さんの誕生日。どのパスワードもこれを使っている。
あの子の名前が先なのが気に食わないが兄さんのことだから悪意はないんだと思う。

兄さんもかなりPCには詳しいと思う。
情報の授業でもほとんどトップだし、PCの話題も豊富だし雑学も多く持ってる。
話しているだけで楽しいし、あれだけの雰囲気の良さを自然に作れるのは、私が家族という理由だけじゃない。
ルックスも悪くない。成績も能力も悪くない。何から何まで悪くない。内面の性格から外面の人間性まですべて。
本当はどれも最高に良い状態にできるのに目立ちすぎないようにしてる。
はっきり言って兄さんは私から見れば完璧な人間だ。そしてそれがわかるのは私だけでいい。

由衣に掛かりきりじゃなければ、兄さんならどんな女でも落とせるだろう。
例えそれが愛理さんでも。あの人は私から見ても別格だと思うが、それでも兄さんがその気になりさえすればなんとかなりそうな気がする。

さつきに至っては自然にレイプしたとしても許してもらえるんじゃないだろうか。

あのメイドのことはどうでもいい。私の監視下中ならいつでもコントロールできる。

だからこそ由衣には手の掛かる妹でいてもらわなければならない。
まあ、あの子は私が特に言わなくても自然にそうしてるんだけど。
本当にあの子だけは理解出来ない。
体に傷を付けないでと言っても擦り傷を作ったりしてる。
髪も乱れてるし服装も適当。下着を裏返しに着てることもあった。信じられない。

話がそれた。そんな兄さんでもPC関係を見れば素人だ。そう、私から見れば。
確かに詳しい。家に盗聴器や監視カメラなど設置したらすぐに気づかれるだろう。
それに由衣との交代もあるしリスクが大きすぎるからしようにもできない。
PCやケータイをちょっといじることぐらいが限界だ。

人格の交代。これさえなければ自由に動けるのに。
それに由衣がいるからコンピュータ機器を持ち歩くことができない。
今までも失くされたし。壊された。持ち歩けるのはこの、子供用GPS携帯だけだ。
もちろん今はGPSは切っている。
この携帯でも設定をプログラムして、パスワードを入れさえすれば、かなりのことはできるようになっているが限界がある。


38 :人格転生 由利 26 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/28(土) 08:04:34.50 ID:DcF4NkJL (4/6)
考え事をして歩いているうちに病院の前につく。やけに日が眩しく感じる。

姫乃総合病院。

広大な敷地にそびえる多数の建物。形容する必要はない。

この国は事実上、姫乃グループに支配されてると言われてるほどの影響力がある。
日本トップ企業で世界3大企業の一つ。世界有数の金融資産。
明治からの伝統と格式。世界トップの技術群と経営能力。皇帝家との繋がりもある。
世界では日本の株価と為替を知りたければ姫乃を見ろと言われるくらいだ。

私もその医療技術に世話になっているわけだが。

受付には人がいたが無視してVIPの最上階に向かうことにする。
いつものように関係者意外立入禁止と書かれているVIP用のエレベータの横のパネルに、いつものVIP用のパスワードを入れる。

ブーと低いビープ音がした。

「え?」

思わず呟いてしまった。通らない? なんで?

「おい小娘。そこで何してる」

振り向くと黒服の筋肉質のスキンヘッドにサングラスの大男がいた。

「最上階に行こうとしただけですが。許可もありますよ」
「そうか。だが今は国賓が来客中だから諦めるんだな」
「はぁ? そんなの関係ないのよこっちは」
「礼儀のないガキだ。とにかく今日は帰れ」
「こっちも急用よ。帰れるもんですか」
「今は貴様のような庶民が来る時間じゃないだけだ」

さっきから眠気とイライラが止まらない。

「…るさいわね…急用だって言ってるでしょうが…ぶつぶつ…」
「なんか言ったかクソガキ」
「急用だって言ってんのよ! ハゲマッチョ!」
「ハ…ハゲマッチョ?」
「とにかく早く通してよ!」
「貴様は俺の触れてはいけない部分に触れてしまった」
「あんたと口論してる暇はないの!」

もう瞼も開きづらいのよ。なんで今日に限って…!

「いいか。よく聞け。今はな…ん?」

大男が黒いケータイを耳にする。

「あ、ああ。わかった。すぐに降りてこられるんだな。準備する」

そう言ったあと何か電話でいろいろと他の場所へ指示している。
数分後エレベーターがつく音がした。
ドアが開く。


39 :人格転生 由利 27 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/01/28(土) 08:07:35.60 ID:DcF4NkJL (5/6)
黒い服の男が何人かいたが構わずエレベーター内に飛び乗った。時間がない!

「何者だ!」
「抑えろ!」

誰かが私を抑えつける。
関係ない! 早く行かないと眠ってしまう!

「さっさと降りて! 最上階へ早く行かないとダメなの!」

エレベーター内に目をやると見知った顔があった。
黒服に囲まれるようにその人がこちらに目をやっていた。

「愛理様! お怪我は!」
「…大丈夫だ」

黒服たちがその人を気にしている。
私は両腕を後ろに回されて壁に押し付けられていた。

「由衣ちゃん…なの? なんで?」

その後ろの声も知った人物だった。
でももう意識が…もう…ダメ…眠い…耐えられない…
でも…ここで眠ったら…何がなんだか…わから…ない…

そこで意識は途切れた。


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最終更新:2012年02月16日 15:46
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