176 :
人格転生 由衣 28 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/02/13(月) 16:55:16.44 ID:PYuuYfVW (2/6)
~15時間~
ん。どこだろ、ここ。家じゃない。蛍光灯が眩しい。
まだ眠いや。お兄ちゃんどこかな。
服は私服…てことは由利ちゃんがここにきた。
なるほど。全然わかんない。
とりあえず部屋出たらわかるかな。
それにしてもこのベッドふかふかだなあ。
起きるのがもったいないなあ。
でも起きないとわかんないし。
「よっと」
体みる限り何もない。それにしても…
さすが由利ちゃん、カッコいい服のセンスしてるなあ。
こんな服あったっけ。焦げ茶のカッターに黒のシャツにスカート。
タイツなんてめんどくさいのまで着てる。
くるりと回ってみる。うーんオシャレ。
っていうかあたしカックイイ。
由利ちゃん、家で引きこもってるのはもったいないぞ。
ま、由利ちゃん、お兄ちゃんしか見てないからなあ。しかたないか。
って、それよりお腹減った。
ドアをあけた。
「おはようございます!」
あれサッチンに先生?
「おはよう由衣ちゃん、大丈夫?」
「うん、あれ? ここは?」
辺りを見回して少し見覚えがあるのに気づいた。
由利ちゃんがたまに来るところだ。
「姫乃総合病院、記憶素子力学研究室」
先生がお茶を飲みながら言った。
そういやそんな長ったらしい名前だった。
うーん。由利ちゃんはここに用があったんだよね。
「あれ? でも?」
なんでサッチンがいるんだろう。
「この方が運んでくれたのよ」
「サッチンが?」
サッチンはニッコリ微笑んでる。
「さすが親友! なんかよくわかんないけど、ありがとう!」
「あはは、どういたしまして」
「お礼にお兄ちゃんあげるよ」
「あはは、ありがたい申し出だけど由衣ちゃんも付いてくるから」
「ひどっ!」
「あははは」
177 :人格転生 由衣 29 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/02/13(月) 16:56:06.50 ID:PYuuYfVW (3/6)
あたしたちも笑う。
でも、ここはお兄ちゃんにも秘密だと言われていたはず。
これはマズイぞ。どうしたらいいのかな。
「それじゃ由衣ちゃんも無事だったし帰ります」
サッチンが先生に頭を下げる。
「じゃあね由衣ちゃん」
「う…うん」
ドアを出ていくサッチンを見送るしかなかった。
この場所は秘密と言われたのにどうしよう。
由利ちゃん怒るかな。
「あの先生」
「用意は済んでるわ」
「由利ちゃんとおしゃべり?」
「ええ。でもよく聞いてちょうだい。由利ちゃんにはこう伝えて」
そう言って先生は唇を噛み締める。なんで悲しそうなんだろう。
「あなたの意識はもうすぐ無くなる…って」
「どうゆうこと?」
「恐らく持って15時間。明日はないと思ったほうがいい」
「由利ちゃん、死んじゃうの?」
「死なないわ。ただあなたたちが一緒になってしまえばどんな人格になるか私にもわからないから」
「ん…? それ前にも聞いたような。でも単に一緒になるだけなんだよね。交代もなくなるから便利じゃん」
「あなたはそうかも知れない。でも由利ちゃんは…」
「うーん。なんかよくわからないけど由利ちゃんと話せばわかると思うよ」
「じゃあ、いつもの装置をセットして。もう一度言うわ。残された時間は15時間。これを覚えといて」
「わかった」
あたしは額と首に、なんか色々配線のあるヘッドバンドを付けて診察台の上に仰向けになる。
「行くわよ」
「うん」
ジーンとしたショックと共に頭がぼんやりしてくる。
この起きてるけど眠ってる感覚は相変わらず気持ち悪い。
178 :人格転生 由衣 30 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/02/13(月) 16:57:19.13 ID:PYuuYfVW (4/6)
「…える…? 聞こえる…? い…由衣…」
あ…ああ、由利ちゃん…元気?
「元気? じゃないわよ。あれからどうなったの? 私と話せてるってことは研究室にはいるのよね?」
そうだよ。サッチンが助けてくれたんだ。
「さつきが? 愛理さんはどうしてる?」
いなかったよ。
「なんで…でも…じゃあ国賓って愛理さんのことなの…? でもそれなら…」
ブツブツ言ってもわからないよ。
「しょうがないでしょ。意識の交信なんだから感情だだ漏れなのよ」
そうだ。なんか先生があと15時間しかないって言ってたよ。
「嘘!? 早すぎる…!」
別に一緒になるんだからいいじゃん。
「よくないっ!」
えへへ。これからはお兄ちゃんと思う存分いられるよ。
「由衣…はっきりさせておくことがあるわ」
何?
「あなたは兄さんのことをどう想ってるの?」
大好き!
「それは家族としてってことよね」
そうだよ。
「私はね。おかしいけど異性として好きなの。愛してるの」
前にも聞いたよ。
「あなたの好きと私の好きは違う」
そうかも。由利ちゃん、お兄ちゃんにゾッコンだもんね。
「あなたは兄さんに恋人ができたらどうする?」
いい人だといいなぁ。お兄ちゃんには幸せになってほしいもん。
「私ならどんな手を使ってでも阻止するわ」
でも兄妹じゃ結婚出来ないよ。
「そういう問題じゃないの。良識や常識なんて関係ない」
お兄ちゃんがかわいそうだよ。
「幸せは自分で作るものよ。誰かが作ったルールなんかクソくらえよ」
自己中だなぁ。
「あんたに言われたくない! もう時間がないのよ。私が私でいる内にちゃんと気持ちを伝えるわ」
うん、がんばれ。
「あなたは兄さんを好きじゃないの? あの人の妹に生まれたことをなんとも思ってないの?」
良かったと思ってるよ。お兄ちゃんは大好き。でも由利ちゃんのようには思えないんだ。
「あなたもあなたでいられるのは今日しかないのよ? わかってるの?」
また明日には会えるよ。
「聞いてないの? あなたの意識と私の意識が一緒になれば、そこにいるのは『私達』じゃないのよ」
でも今までのことも覚えてるんでしょ。
「そうかも知れないし。そうじゃないかも知れない」
どうゆこと?
「人格が統合されたあとの人格のケースは4つ」
あはは…わかりやすくお願いね。
「1つめは由衣の人格が多く出るケース。由利の人格は知識くらいのもの」
うーん。今と変わらなくてあたしが賢くなるってことかな。
「2つめは由利の人格が多く出るケース。由衣の人格は性格くらいは少し受け継ぐかも」
由利ちゃんはつらそうな性格だからいいかもね。
「あなたは自分じゃなくなるのが怖くないの?」
ちょっと怖いかな。でも由利ちゃんと一緒にいれるしお兄ちゃんも一緒だよ。
「…っ! …なんで…あなた…は…‥」
泣かないで。
「な…泣いてない! み、3つめはまったく別の人格になるケース」
ええ!? そんなのありえるの?
「ありえるわ。人の自我や意識は今の科学ではほとんど解明されてるけど私たちのケースは特殊だからどうなるかわからない」
うーん、3つめは怖いかな…っていうか嫌だ。
「下手をすれば意識がなくなり廃人になる可能性もある」
うう…怖くなってきた…
「4つめは…これは多分理解できないと思うから例外事項…」
とにかくあたしか由利ちゃんの性格が出ればオッケーなんだね。
179 :人格転生 由衣 31 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/02/13(月) 16:58:17.97 ID:PYuuYfVW (5/6)
「まあ、そうなのかしら。でも私は私でいたい」
あ、そうそう忘れてたけど、あと15時間だって。
「…え?」
先生が15時間って。
「早すぎる!」
そんなこと言われても…
「嘘…そんな…どうしよう…チャンスは今日しかないの…?」
チャンス?
「私達はあと一回しか交代できないのよ…今日が私達の寿命」
でも死なないんでしょ?
「だからわからない」
こうやって話せるのも最後かな?
「そう…ね」
ありがと。楽しかったよ。由利ちゃん。
「…うぅ…やめてよ…ぅ…」
泣き虫だなぁ由利ちゃんは。よしよし。
「ぐす…とにかく…今日は兄さんと過ごして…お願い」
うん。そうするつもりだよ。
「お願い…あとあのメイドには…きを…つけ…ぉ…ょ」
何? 聴こえないよ…由利ちゃん!
「由衣…ありがと…ぅ…こ…れ…もだけ…ど…」
聞き取れないよ…
「由衣…ありがとう…」
あたしも。由利ちゃんありがとう。
そこであたしの意識が戻った。
最終更新:2012年05月06日 13:25