935 :
関西から来たキモウト1 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/19(土) 21:12:47.55 ID:6A/eOGsd (2/8)
『件名:お兄さんへ511 差出人:神菜 一ヶ月前
暖かくなってきましたね。
新学期も始まり私も高校生活を楽しんでいます。
受験の時は本当にありがとうございました。
私が合格できたのは、お兄さんがメール越しにでも勉強を丁寧に教えてくれたおかげです。
お母さんはまだ、お兄さんとお父さんと会うのを許してくれませんが、いつかは会ってみたいです。
東京に行ってみたいです。そして、できればお兄さんと一緒に一緒の高校に通いたいです。
お兄さんは元気でしょうか。体は大丈夫でしょうか。
そちらの近況も聞かせてください。お返事待ってます』
生まれは東京、育ちも東京。
俺は東京が好きだ。
地元と言う意味でもそうだし、なにより東京は日本の中心だし、なんでもある。
日本中じゃなく世界中から人が集まってくるし、何もかもが新しく文化の中心。
世界に誇れる街。それが東京だ。
その反対に大阪が大嫌いだ。
野蛮な喋り方で図々しい。
やけにフレンドリーでテンションが高く付き合った大阪系も苦手な奴らばかりだった。
奴らがネットスラングで阪人だの大阪民国だと言われるのもわかる。
何よりテレビを見ればその品のなさは見て取れる。
阪神ファンは最悪だし、マスコミに出てくる芸人らの下品なトーク。
何より気持ち悪いのは一方的に東京を変に意識していることだ。
ネットでも高圧的な奴が多い気がする。
そんな俺には2歳下の高校一年の可愛い妹がいる。
家の事情でもう10年以上会ってないが妹は大阪で暮らしている。
関西人でも妹だけは例外だ。
それは定期的にやり取りしているメールの文体からも読み取れる。
女子が普段使うような絵文字や顔文字もほとんどない。
きっと環境が良くて大阪に染まらずに育ったんだろう。
たまにメールと一緒に写真も付いてるが、はっきり言って可愛い。
黒髪のショートカットがとてもよく似合っている。
目元もぱっちりしていて笑顔が最高だ。
妹バカと言われるかもしれないが自慢の妹だ。
なんせ最近付き合いだした幼馴染の彼女が嫉妬するくらいだ。
実はそんな可愛い妹がこの夏休みに大阪から東京に来ているのだ。
936 :関西から来たキモウト2 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/19(土) 21:13:27.21 ID:6A/eOGsd (3/8)
『件名:お兄さんへ1023 差出人:神菜 3時間前
やっと会えます! お兄さんがどんな人か楽しみです!
東京も楽しみ! 直接お兄さんとお喋りできます!
あと彼女も紹介して下さいね!』
妹はもう新幹線で東京に着いていると言っていた。
あとはこの場所にいつ来るか。
目の前には忠犬ハチ公がいる。
渋谷でもこの場所は有名だし。
妹が見たいと言っていたし喜ぶだろう。
『件名:お兄さんへ1024 差出人:神菜
やっと着きました。ひょっとして水色のカッターシャツの人ですか?』
お、近くには来てるのか? 『そうだよ』と返事をする。
妹らしき人物を探すべく周りを見渡す。
…トントン
肩を叩かれて振り返る。
そこには妹がいた。
間違いない。写真と同じだ。
ショートカットの髪型にグレーのラフなTシャツにチェックのスカートが似合ってる。
「…」
「…」
なんせ10年ぶりの再開だ。
お互い顔を見合わせるが言葉が出てこない。
しばし見つめ合う。
「…お兄ぃ…なん?」
「…神菜…か?」
「うわ…写真よりかっこええやん」
「そ…そうか」
おまえも可愛いぞ、と言いたいが黙っておく。
「なあ、めっちゃ疲れたから、その辺でお茶せーへん?」
「いいよ」
「じゃ、あっこのマクドでええ?」
「あ、ああ」
うわぁ…関西弁だよ。なんかカルチャーショックだ。
喋るとメールの印象とは随分違う。でも間違いなく妹だ。
10年越しに会った妹は生粋の関西人だった。
937 :関西から来たキモウト3 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/19(土) 21:14:24.65 ID:6A/eOGsd (4/8)
「お兄、彼女できたんやって?」
「うん」
「どんな女なん?」
「普通だと思う」
「幼馴染なんやろ?」
「まあ」
「メールで聞いたけど結構気ぃキツイんやって?」
「いや、おまえほどじゃ…」
やばっ…うっかり本音が…
妹のこっちを見る目が変わる。
品定めをされるような視線が…
「ふぅん。で、可愛いん? 美人? どっちなん?」
「び…美人かな…」
それにしても何か圧迫感を感じる。
メールで想定していたギャップが余計にそう感じさせるのか?
さらに可愛い外見とは違いキツそうな性格。
「写真どこ?」
「え? 何の?」
「幼馴染のんに決まってるやろ。メールでゆったけど送ってくれへんかったやん」
「あ、こ、これ…」
ケータイを操作して幼馴染の彼女の写真を見せる。
それを黙って無表情で見つめる妹。
「告白したん、この女からやろ?」
「え?」
なんでわかったんだろう。メールには付き合い始めたとしか書いてないのに。
「お兄の性格みたらわかるわ。あと喋っててもわかる」
「ど、どんな性格なんだよ」
なんか見透かされてる感じがして気分が悪い。
「良うゆうたら大人しい。悪くゆえば…」
「言えば?」
「ヘタレ」
ぐさっとくる。ああ、そりゃ大人しいほうだよ。
だから押しの強い人間が苦手なんだ。
妹の神菜は違うと思ってただけにショックだ。
おまえも世間で言われてるような関西人なのか?
「やっぱ決めたわ。一週間で大阪戻る予定やったけど夏休み中ここにおる」
「げ…マジかよ…」
「なんかゆうた?」
「う…」
「そんでアタシがお兄を一人前の男に育てたる」
可愛い顔に似合わない、拳を立てるポーズを取る。
お前はどこの仙一だよ、と突っ込みたくなった。
が、できない自分を呪うのだった。
938 :関西から来たキモウト4 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/19(土) 21:15:56.56 ID:6A/eOGsd (5/8)
ちなみに家のマンションに入るまで、妹に東京の何ヶ所の名所に案内させられた。
観光名所を見ながら、その説明をさせられた。
その間、妹はやけに興奮していた。
すっご、やっば、めちゃええやん、とか繰り返していた。
さらに大阪との違いについても質問されるはめに。
俺がそんなん知るかよって。
もうすでに1年分の関西弁を聞いた気がする。早く帰って欲しい。
「うち、コーヒーちゃうくて、紅茶な! 砂糖多めで牛乳な!」
お茶を出そうと思った瞬間にこれだ。
あと、ソファにもたれかかる時、ふぅー疲れたわーとか言ってゴロンと横になる。
その間パンツが見えたが黙ってたら、むっつりはダメとか怒られた。
何様だお前は。家族だからってちょっとは遠慮しろよ。
「お兄、リモコンどこなん?」
「あ、テレビの下じゃなくてテーブルの下」
「ん、あんがと」
「そこは『おおきに』じゃないのか?」
会ってから始めての感謝の言葉に思わず突っ込んでしまう。
「アホ、マスコミに乗せられすぎや。若いんは老人以外使わへんで」
「そうなのか」
あまり勉強ならない。つーかどうでもいい知識だ。
「なんや、テレビも大阪とあんま変わらんやん。つまんなー」
「そんなもんじゃないのか? 大阪だって一応、都会だろ」
「…いちおう?」
こ、怖い。妹の表情が変わる。ひょっとして俺は今、大阪をバカにしてしまったのか?
「いや、大阪は最高の都会だよ。日本で一番人材を輩出してるのは関西、それも大阪だと言い切れるね」
「せやろ? わかってるやん」
っていうか、なんで俺は、客の立場である妹にお伺いを立ててるんだろう。
自分のヘタレさ加減に泣きたくなる。
939 :
関西から来たキモウト 最終話 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/19(土) 21:18:34.96 ID:6A/eOGsd (6/8)
「はい、紅茶」
「ん…サンキュ…ずず…」
そこにプルルルルと電話が鳴る。家の固定電話だ。
「はい、もしもし」
「有か?」
「ああ、父さん」
「神菜とは会えたか?」
「今家にいるよ」
「そうか良かった。あのな。落ち着いて聞いてくれ」
「なんだよ、もったいぶって」
「俺はしばらく帰らん」
「はぁ?」
「その…ひょっとしたら復縁するかも知れん」
「誰と?」
「母さんだ」
「はぁ?」
「お前と神菜の母さんだ」
「マジかよ…もう離婚届け出してるんじゃなかったのか?」
「…詳しくはあとで話す。今は母さんと大事な話があるんだ。
仕事の関係もあるが、しばらくは大阪に滞在することになる」
「ちょっと待て…」
「すまん。神菜とは仲良くするんだぞ」
「無理だって! ちょっと待て!」
ガチャン…ツーツーツー…
なんつー勝手な親だ…
そりゃフリーライターだから仕事場は選ばないだろうさ。
結婚だって父さんの自由だ。
でも、だからってこのタイミングで行くか?
「お兄…」
「おまえは知ってたのか?」
「うん。でも心配ないで」
「気休めはよせ」
「ちゃうって。お兄はアタシが育てるもん」
「…」
軽く目眩がした。
俺の夏は終わりそうにない。
きっと妹に関西人にされてしまうんだ。
夏が終わる頃には俺も関西弁になっているんだ…
もうやだ…このキモウト…
~終了~
最終更新:2012年06月10日 13:00