関西から来たキモウト 第3話

80 :関西から来たキモウト9 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/29(火) 03:37:13.00 ID:NxPjrPjo (2/11)
「とにかく、お兄とアタシは今、家族会議中やから切んで」
『なっ…? ちょ、ちょっと待ちなさ…』

―プツ

神菜はそう言いながら俺の携帯を操作した。
そのあと俺に向かって、ひょいと携帯を投げてきた。

「お兄は今、大事な時期やから、その女とは電話ナシな。メールだけにしとき」
「大事な時期ってなんだよ…あ、着信拒否になってる。ヤバイって」
「ええやん。メールはできるんやから」
「よくないって! あのな、こんなことしたら…」

―ドン! ドン! ドン!
―ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!

ほら…こういうことに…
ドアを叩く音とチャイムの音が連続で鳴り始める。
そう、マンションのお隣さんだから幼馴染なわけで…

「ん? なんなんいったい?」

そう呟いてから玄関に向かう神菜。まずい。

「おいっ神菜! 俺が行く!」
「どうせセールスかなんかやろ。ウチが追い払うわ」
「ちょっとその前に包丁置けって!」
「あ、ごめん。忘れてたわ」

それをテーブルに置いてから玄関に向かう神菜。
だから俺が行く…と言おうとしたときにはもう遅かった。
玄関のドアをチェーンは付いたまま、少し開いた状態で対応していた。

「ん? なんなんアンタ?」
「有の彼女よ! 開けなさい!」
「セールスちゃうくて宗教か。夜中に非常識で迷惑やで。ほんじゃ」
「なっ? ちょ…」

―ガチャン

すると、またチャイムとノックが鳴り響く。

「うっさいなー、なんなん? もう!」

もう一度ドアを開ける神菜。

「ちょっと有! 開けて! 中に入れて!」
「うわ、エロ~、いきなり中に入れてとか考えられへんわ~」
「卑猥なのはあんたよ! 有! ちょっと! ドア開けて!」

結局、なんだかんだで幼馴染の翔子を家に招くのだった。


81 :関西から来たキモウト10 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/29(火) 03:38:10.56 ID:NxPjrPjo (3/11)
「こいつは妹の神菜。こっちは幼馴染の翔子」

二人にお互いの紹介をする。
さっきから睨み合いはしないものの、険悪なムードを漂わせながらテーブル越しに座っている。
二人ともまともに話す気がないみたいなので、俺が全員の紹介をするしかなかった。

泉水 有こと俺。身長も体重も一般男子平均値だ。
泉水 神菜こと妹。身長155㎝で小柄でスレンダー。顔は可愛い系だと思う。生まれも育ちも大阪。
鳴瀬 翔子こと幼馴染。身長165㎝で大柄で良い体格。顔は美人系。生まれも育ちも東京。

ここでは敢えて性格の紹介を省く。

先に切り出したのは神菜だった。

「引越しそばくらいないん?」
「あんたは引っ越してきたわけじゃないでしょ」
「まだわからんで。一緒に暮らすかも知らんし」
「は? 本当なの、有?」

俺に振るなよ。

「いや、詳しくは父さんに訊かないと…」
「一週間だけって言ってたじゃない」
「いや、それも…」
「なんなの? はっきりしなさいよ」
「いや、だからさ…」

翔子の鬼のような形相が怖い。
ちなみに怒った顔も美人とは翔子のような女子を言うんだと思う。
幼馴染で見慣れてしまっているが、神菜と一緒でかなりルックスはいい。
ただ同じルックスや体型でも二人とも正反対だ。
神菜のショートカットの髪型と対比して腰まで届きそうな長い髪のロング。

「やめや。お兄が困ってるやろ。ウチらにもわからへんねん」
「あなたには訊いてない。有、どうなの?」
「アタシ夏休み中はここにおるで」
「あなたには訊いてないって言ってるでしょ! 本当なの、有?」

だから俺に訊くなって。

「わからんって言うてるやん。アタシもわからんって事はお兄もわからんってことや」
「…あなた一年なんでしょ? 私と有は三年。先輩にはちゃんと敬語使ったら?」
「尊敬でけへんから別にえーやん」
「このっ…」
「翔子、落ち着けって。神菜も煽るなよ」

とりあえずテーブルに置いてあった包丁をしまっといてよかった。
同族嫌悪か知らないが二人ともかなり性格が似ている。
まあ神菜の方は今日になるまでわからなかったけど。

「この子、本当に有の妹なの? 性格真逆じゃない」
「失礼やな。誰がどう見ても兄妹やん。顔もよう似てるし」
「あなたね…さっきから…」

まずい。翔子が切れかかってるのがわかる。
幼馴染が故に表情と空気で読めてしまうのだ。
逆に神菜の方はメールは全然参考にならないので読めない。


82 :関西から来たキモウト11 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/29(火) 03:39:19.13 ID:NxPjrPjo (4/11)
「とりあえず、あんた、もう帰りや。ウチも眠いしお兄にしてもらうこと、やまほどあんねん」
「…」

翔子が無表情で黙る。まずい。危険レベルが急激に上がっていく兆候だ。
それも危険指数はこれまでとは比較にならない。

「ウチらの夕飯もまだ作ってる最中やねん。前からお兄はうちも料理食べたいゆうてたし、邪魔や」
「…フフフ」
「何笑ってん? キモ…」
「ふふ…そこはね。いつもは私の席なの。ふふ…」
「なんなん? この女…」
「ふふふ、うふふ…」

俯き加減の翔子からプチンと聴こえない音が聞こえてきそうだ。まずい…
もちろん神菜にそんなことがわかるはずがない。
俺は怖くて黙るしかなかった。

「いい? はっきりさせといてあげるわ、神菜ちゃんだっけ?」
「気安う呼ばんといて」
「そんなにお兄さんのことが好き? メールでは一途だったわよね」
「…!? お兄、見せたん?」

神菜の質問にぶんぶんと首を振る。
携帯の中は翔子はもちろん父さんにも見せたことがない。

「とりあえず私と有が結ばれたときの為にも練習はしてた方がいいんじゃないからしら。
 私のこと『お姉さん』って呼んでみてよ。ね? 神菜ちゃん」
「…」

今度は神菜の方が黙る。
表情からは…何も読めない…
ただ只事じゃない気はした。

「…人のメール盗み見とか最悪やな」
「有の話を聴く限りじゃ、必要だったからね。有にもあなたにも」
「最低や…」
「あなたは妹。有が抱きたいのは私なの。ごめんね。
 所詮あなたは妹で、あなたがやってることは無駄な努力。
 有が妹のあなたを異性として好きになることはありえないの。
 ちゃんと言ってあげないとダメと思ってね。
 勘違いしてそうだから」

こんなの見たくなかった。翔子のそれは明らかに女として神菜を見下しているものだった。
神菜もうっすらと涙目になってる。ここに来て気弱な妹も見たくなかった。

そして知りたくもなかった。妹が女として俺のことが好きな事実を。

でも思えばそういう気配はメールからもあった。
無意識に目を逸らしていたのかもしれない。

「ひぐっ…帰れ…! 帰れーーーっ! くんなっ! 二度と来んなッ! はよ帰れっ!!」

ちゃんと気づいてやってれば、泣き叫ぶ神菜を見ずに済んだのかも知れない。
翔子がメールを覗いた事実も。

気づいたら翔子はいなかった。

神菜はずっと『好きんなってゴメンな』と俺に謝りながら泣いていた。


83 :関西から来たキモウト12 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/29(火) 03:40:11.93 ID:NxPjrPjo (5/11)
『件名:お兄さんへ756 差出人:神菜 12ヶ月前

いよいよ夏休みです。

今年もお母さんにお兄さんの所に行けるように頼んでみます。
ただ会えるだけで楽しみで仕方ありません。

きっとお兄さんと会ったら、色々な何かが変わると思うんです。

本当は大阪じゃなくて東京のお兄さんの高校を受験したいです。
私立でもいいなら受けられるんですけど残念です。

もし今年が無理でも来年は高校生ですから、一人でも絶対に東京に行きます。

その時はよろしくお願いします(_ _;)』


84 :関西から来たキモウト ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/29(火) 03:40:35.60 ID:NxPjrPjo (6/11)
投稿終わりです


87 :関西から来たキモウト ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/29(火) 11:35:33.28 ID:NxPjrPjo (7/11)
サンクスです。追加投下します。


88 :関西から来たキモウト13 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/29(火) 11:37:24.11 ID:NxPjrPjo (8/11)
私は勝ったんだろうか。ふと、ため息をつく。

暗い部屋のノートPCの画面に有の家のリビングを映し出す。
どうもあの子はあのまま泣き疲れてそのまま眠ったようだ。
有の介抱にも嫉妬しないくらい落ち着いている自分に気付く。

『巨人まさかの9点差をひっくり返す大逆転! これで一位の順位が入れ替わりました!』
『これは球史に残る一戦かも知れません。誰がこんなことを予想したでしょうか』
『敗因はやはり阪神の慢心ですね。二軍上がりの投手を見ていつでも打てると思ったのが間違いでした。そもそも…』

ぼんやりとあの子の予想した試合を見る。
あの子は8回の表で阪神の勝ちだと予想した。
当然だろう。12対3で勝っていたらだれでもそう思う。
加えて8回の表で交代した2軍上がりの名前も知らない投手が出てくれば、誰でも敗戦処理に走ったと思うのは当然だ。

だけど私は『巨人が勝つ可能性が広がった』と予想した。

あの投手は身体能力的には問題ない選手だったし、今年の巨人と阪神のチームの出塁率と長打率はほとんど変わらない重量打線同士だ。
阪神の投打が緩むのは目に見えた。
実際、夏のビジターの連戦で主力を休ませて、抑え投手も昨日の激投で出ないことが明らかだった。
この時点で阪神のチーム出塁率と長打率が半分以下、予想防御率が5点台になったが、巨人は変わらなかった。
統計学的に見れば巨人がチーム予想打率が5割の状態だったのだ。
これだと何が起きてもおかしくない。

あの子はそれが見えていなかった。

 兄を思う気持ちと一緒で、『感情だけで見ているから』こういうことになる。

あの子は二年前の私だ。
有に付きっきりで一途だったあの頃の私。
二年前のそんな私に屈辱的な敗北感を与えたのがあの子だった。

きっかけは有が私に誤送信した一つのメールだった。


89 :関西から来たキモウト14 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/29(火) 11:38:46.23 ID:NxPjrPjo (9/11)
『件名:神菜ヘ256 差出人:有 二年前

こうやってメールでしか話せないのってちょっと寂しいな。
電話は父さんと母さんに止められてるけど、お前が必要なら公衆電話でもスカイプでも使えばいい。
バレたら怒られるだろうけど、今、お前は辛い状態だろ?
告白された男子のことはちゃんと吹っ切れたって本当なら安心だけど、
その本当に好きだけど無理だと言ってた奴のことの相談にも乗るぞ。
いつでも連絡入れてきてくれ。あ、俺もお前のこと好きだぞ』

この時初めて妹とのメールのやり取りを知った。
そして直感的に感じた。件名の数字を見れば二人の親密度がわかった。
この妹が兄に家族としてではなく異性として好きな事も。
『好きだけど無理だと言っていた奴』とは間違いなく有のことだ。

そしてその二人の積み重ねの大きさに、私は恐怖した。
少なくともこんな濃密なやりとりを、有としたことなんて私は一度もなかったから…
私はすぐに有の携帯を無断で借り、メールのデータを自分のPCにコピーした。
妹とのやりとりも逐一チェックした。

でも、時が経つごとに、こちらとは超えられない線があることに気づいて安心していた。
あの子はどんなに頑張っても東京には来れない。
メールだけのやりとりだけなら許してやるのが恋人というもの。

そう思っていた。今日の朝に来たあの子と有の二人の様子を見るまでは…

「お兄、ほら、皇居やで! 広ぉ~」
「こら、くっつくなって」
「えーやんえーやん」
「あはは…で、まだどっか行くのか?」
「あったりまえだのクラッカー!」
「…」
「なんなん? そのリアクション? そんなときはこうや」

有の肩を思いっきりはたいた後で、あの子が眩しい笑顔で笑う。

「何世紀前のギャグやねんって!」
「痛ってーな」
「ほら、やってみ?」
「無理」
「ほらほら~叩いてや~」
「お前はマゾかい」
「お、ええツッコミやん!」

どこから見てもカップルのそれだった。
私は見つめるだけだった。
あまりにもお似合いのカップルだったから。

しばらく呆けながら二人を観察していた。
渋谷のハチ公前からマンションに帰るまで全部。
どの観光名所でも二人はベストカップルだった。

途中、嫉妬と憎悪で、胸が破れるんじゃないかと思ったほどだった。
二人はカップル…それもお互いを知り尽くした恋人同士そのものだった。


90 :関西から来たキモウト15 ◆qtuO1c2bJU [sage] :2012/05/29(火) 11:40:11.46 ID:NxPjrPjo (10/11)
私にはあんな笑顔で話してくれたことなかったじゃない!
私にあんなフランクに接してくれないじゃない!

…あの子は危険だ…私があの子から有をおぞましい近親相姦の道から救ってあげないといけない!

それに、あの子は有と血が繋がっているんだから。
そしてそれがもっとも危険なのだ。

すでの私の想い込めた料理の中には私の血、愛液などがあり、有の体は私の物と言えるけど、そんなのとは比較にならないくらいあの子の血は、有と共有しあっている。
私が負けている点はそこだ。そしてそんなことは絶対あってはいけない。
有のためにもあの子を切り離さないといけない。
最悪の場合は殺してでも…

―ピンポーン

家の玄関を開けるとそこには有がいた。

「翔子、頼みがあるんだけど」
「何…?」

嬉しさより戸惑いを感じた。
有から見たら私は妹を泣かせた幼馴染の彼女だ。
あの子に嫌われるぶんにはいいけど、有にも嫌われたんじゃないだろうか気が気じゃなかった。


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最終更新:2012年07月15日 22:37
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