雪の華

561 :雪の華1 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/08(水) 17:33:04.15 ID:/gOh4pbX (2/8)

「そろそろ部屋に戻らないと…また寝ちゃうぞ」
「ん………」

目をクシクシとこすりつつ、かろうじて返事があった。
かなりおねむなのであろう。
身長180を超える俺のあぐらの中にすっぽり収まった、
ハムスターのようなしぐさをしているのは華(はな)
2つ年上の身長140程度の小さな姉。

そのまま寝返りをうつように、そのままオレの胸によりかかった。

「だめだよ、今日は運ばないぞ」
「んん……すー、すー」

返事はしたものの、力尽きたようだ。
ああ、毎度のことながら仕方ないな。
と読んでいた文庫本を閉じ、こたつの上にあったTVのリモコンを取りTVを消す。
こたつを消して、そっと壊れ物を扱うようにやさしく抱え上げる。

「ん……」
よく寝てるな、これでまた朝までぐっすりだろうな。
嬉しそうな顔して俺の胸に顔を擦り付ける。
どんな夢みてんだか。

小さな華を胸にだき、起こさないように部屋まで運んで、そっとベットに寝かせつけた。

「太郎…そんなことしちゃだめだ………」
いったい夢の中で俺は何をしているんだろう。
これだけでかくなっても、俺は小さな弟のままなのだろうか?
そんなことを思って姉を見ると
融ける雪のような、とろけるような微笑みを浮かべていた。

「おやすみ姉さん」

そっと起こさないように扉を閉めた。

【雪の華】




562 :雪の華2 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/08(水) 17:33:54.28 ID:/gOh4pbX (3/8)

「だめだ、もっと大きくするんだ。それじゃまだ頭が小さすぎるだろ?仕方ないな太郎は」
「だってお姉ちゃん、これ以上大きくしたら、重くて動かないよ」
「いいから、もっと大きくするんだ。ほら、一緒に押せば、動くから」
必死で、雪玉を押す二人。公園には、昨日降り積もった雪で遊ぶ子供たちの声が響いていた。

「誰にも負けないおっきな雪だるまをつくるんだろ?」
「でも、もう十分大きいじゃないか、」
「まだだ、ほらあいつらもっと大きなのを作ってるじゃないか」
と赤いミトンの手袋で、公園の片隅を指差す姉。

「う~ん。じゃあもっと大きくしないとダメだよね」
「そうだ、まだまだだよ。そ~れ」
二人一緒に雪玉をごろごろと押す。
どれぐらい押しただろう

「よーし、これぐらいならいいだろ」
自分たちの肩くらいまで成長した雪玉を眺め、満足そうにペタペタとたたく。

「でもこれ、下の体より大きいよ?」
「なら、これを体にすればいいんじゃないか」
「そっかーお姉ちゃん頭いいー」
「それくらい常識だ。じゃあ、こっちはおいといて、そっちを上げるぞ!太郎、向こう側へまわれ」
「はーい」
「いくぞ、そーれ」

二人で雪玉を持ち上げようとするがビクともしない。

「うーんお姉ちゃん、動かないよ」
「おっかしいな、もう一度、そーれ!」
二人で顔を真っ赤にして雪玉を持ち上げようとする。少しだけ浮いた雪玉はすぐに地面に張り付いてしまった。

「やっぱりだめだよ、お姉ちゃん……」
「しょうがないな、ちょっとだけ小さくするか」
と雪玉を削り出す姉。弟もあわててそれに倣う。

二回り程小さくなった雪玉を不満そうに見つめながら
「これなら上げられるだろ、ほら太郎、こっちに並んで今度こそあげるぞ」
「うんわかったお姉ちゃん。今度こそだね」
「そうだ、今度こそ、いくぞ、そーれ!!」

またも真っ赤な顔をして持ち上げる。今度はさっきよりも上がった。

「それもう少し」

と胸にまで持ち上げたとき、支えられていた雪玉が、そのまま向こうへ、
何かに引っ張られたように動いた。

「うわっ!!」
「お姉ちゃん!!」

―――それは一瞬の出来事だった。
太郎に突き飛ばされたと思った瞬間、目の前が真っ白になって、
気が付いたとき、華は雪玉の横にうつ伏せになっていた。

何が何だかわからず、しばらく雪の上でもがいていたが、
顔をあげてみるとそこには太郎の姿はなく
雪玉だけが、いや、太郎の黒いズボンと靴だけが見えていた。

「太郎?……たろう!!」

華は狂ったように必死で雪玉を掻く、太郎、太郎と叫びながら。



563 :雪の華3 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/08(水) 17:36:02.84 ID:/gOh4pbX (4/8)

……………………

…………



「………太郎、……太郎」

姉さん大丈夫だよ。そんな心配しなくても

「たーろー、たろーおってば」

もう、大丈夫、俺動けるから、ほら、と身体をひねる。

「うわわわ、太郎、寝ぼけてんじゃない。いい加減起きろ!」

ボスン、ボスンと太郎の横腹の上で飛び跳ねている。

うーん、大丈夫だってばと反射的にもう一度身体をひねる。

「わわわ、もう何時だと思ってるんだ、遅刻してしまうぞ!」

ふと我に返り、顔を上げると、腹の上には制服姿の華が飛び跳ねていた。

「………姉さん、おはよう」
「おはようじゃない。早く起きろ。遅刻するぞ!」

傍らの目覚まし時計をみる。
「…まだ6時前じゃないか、遅刻どころか、まだ小一時間寝られるよ」

「だめだ、私が遅刻してしまう。今日は大事な模試の日なんだから」
「………姉さん、遅刻どころか日曜じゃないか」

「だから、大事な模試だといってるだろうが」
「………俺関係ないよね?」

「関係大有りだ!外を見ろ!大雪だぞ。こんな大雪の日に私ひとり出かけたら、
どうなってしまうかわからんだろうが」

………姉さん。子供扱いするなといつも言っているくせに。

「それで、送っていけと?」
「さすが太郎、よくわかってるな」

そんな大雪なら模試ぐらいいいじゃないか、もしかしたら中止かもしれないのに。


564 :雪の華4 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/08(水) 17:38:11.03 ID:/gOh4pbX (5/8)

「わかったから、とりあえず俺の腹の上からどいてくれるかな?
それにさっきからパンツ見えてるから」

華が視線を太郎から自分の股に移すと、飛び跳ねていたせいか、
スカートがめくれあがって、真っ白なショーツが見えていた。

「……な、なに見てんだ。この変態////」
とあわててスカートを押さえつける。

「大丈夫だよ、そんな子供パンツみてもなんとも思わないから」
「………!子供パンツ!しっけいな、見てみろ、このレース!高かったんだからな!!」
売り言葉に買い言葉、スカートをまくりあげ、見せつけるように、
太郎の顔に向かって器用ににじり寄っていく。

「ああもう、わかった、わかったから」
とにじり寄ってくる華の腰をつかみ上げ、腹筋よろしく起き上がりながら、
頭の上に華をリフトアップ。
まるで子供を高い高ーいとするように。

「なにすんだ、放せー」
「はいはい」
とじたばた暴れる華を自分の膝の上に下してやる。

「もう、太郎が素直に起きないから、こんな恥ずかしいことになるんだ」
「それは、姉さんの勝手でしょ。とにかくおはようございます」
「ん…おはよう」
とおじぎした太郎の頭に、“ポン”と手を乗せ、撫でる。
そんな手をそっとやさしくつかみ、スカートの上に戻してやった。

「さあ、起きて着替えるから、姉さんは下で待ってて。すぐ行くから」

「うむ、わかった。すぐ着替えろ」
といいつつ膝の上から動かない。

「姉さん、どいてくれないと着替えられないよ」
「うむ、そのまま着替えていいぞ」

「………わけがわからないよ。もういいから、ほら」
と両手を華の両脇にそっといれて、持ち上げる。猫を持ち上げるようにして。
そのまま自分もベットから降り、華をやさしくベットおろし腰掛けさせてやった。

「さあ着替えるから、下行っててね」
「うむ、私にかまうな、着替えていいといっておるだろうが」
「………見たいの?」
「見てくれっていうのなら、その見てもいいが、いや別に特別見たい
というわけではないぞ。
う、うむ、一人で待ってるのもなんだし、リビング寒いからな。だから…」

565 :雪の華4 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/08(水) 17:40:51.75 ID:/gOh4pbX (6/8)

「あーわかったわかった、ちょっと待って」
「おお、そうか。み、見てくれっていうなら見てあげないこともないが」
「もういいから、さあ下りよう。一人は嫌なんでしょ」
「下りようって着替えておらんではないか」
「いいんだよ、後で着替えるから」
と、うーんと身体を伸ばす。手が天井に届いていた。また背が伸びたのかもしれない。

「時間がないといっておろうが」
「模試は何時から?」
「9時からだ。」
「場所は?」
「隣町の○○予備校」
「じゃあ、電車で一駅だし、ここから30分で着くよね」
「でも大雪だから、」
「歩いても1時間かからないし。まだ6時だから大丈夫だよ」
「むぅ…」

「そんなかわいい顔してもだめだよ」
と華のほっぺたを両手で押さえて、ふくれっ面をつぶす。

「……かわいい…だと……////」
「いいから下りよう」
と華を持ち上げ、抱っこする。

「もう、子ども扱いするなといつもいっておろうが」
ぽかぽかと肩越しに背中をたたく。

「じゃあ、下そうか?」
「………ん、そのままで……いい//」
「ははは、姉さん、やっぱりかわいいな」

そんな毎日のやり取りをしながら、リビングに下りて行った。
いつからだろう、二人の立場が逆転してしまったのは…
おとなしく太郎に抱っこされ、肩に顔をのせながらそんなことを考えた。

566 :雪の華5 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/08(水) 17:42:26.26 ID:/gOh4pbX (7/8)

いつもいつも太郎は、私の後を追いかけてきた。
どこに行くにも、“お姉ちゃん、お姉ちゃん”としつこいぐらいにまとわりついて来た。
そんな太郎をかわいいと思いながら、たまに邪見に扱ったりもしたが
太郎は離れるどころか益々離れなくなった。

ある大雪の次の日、雪玉につぶされそうになった私を助けた太郎。
太郎は、周りの大人たちに助けられ病院に運ばれた。大した怪我もなく念のために
3日ほど検査入院するにとどまった。

病院の太郎のベッドで泣きじゃくる私に太郎は
「ごめんねお姉ちゃん。心配かけたね。大丈夫だよ。
今度からは、怪我しないようにするから。」
「僕がお姉ちゃんを守るから。だって男の子だもん」

私が守るべき太郎。それが逆に助けられた。
それまで私は守るべきか弱い存在として認識していた「小さな太郎」
がいつの間にか“男”として、私を守るという。おかしなことだと思った。

守られるべきは太郎のはず。
それからの私は、太郎から離れずなにをするにしても、嫌がってもまとわりついて
離れなかった。

そんな私と太郎をみて母がどう思ったのか、太郎を柔道に通わせた。
当然私もついていくと駄々をこねたが、めずらしく太郎が怒って絶対にだめだ
と言い張った。

嫌われたのかと思ってしばらく意気消沈し、太郎にもしばらく近づかなかった。
太郎もそんな私をみて何かいうかと思ったが、何も言わず二人の距離は離れて行った。

そんな私を不憫に思追ったのか、母が後でこっそり教えてくれた。
「お姉ちゃんを守るために強くなりたい、どうすればいいの?」
と太郎から尋ねられ、近所の柔道場に通わせることにしたと。

私は驚いて母に尋ねた。
「私が守らないといけないのに、なんで?お姉ちゃんなのに?」
「華は女の子でしょう?女の子を守ってこそ一人前の男の子なのよ」
「女の子は男の子に守られるかわりに愛してあげればいいの」
愛するってなんだろう?そう母に聞きたかったが、
その言葉を聞くと胸の奥がほんのり熱くなって、なんだか聞いちゃいけないような
そんな気がした。

「そっと見守ってあげてね。太郎は男の子なんだから」

太郎が中学にあがるころには、身長がグングン伸びだした。
私をあっという間に追い越し、とどまることを知らなかった。
高1になった今でも身長は伸びているようだ。

それに合わせて、男臭くなった。
あんなに小さくかわいかった太郎。

それが、気が付いたときには“男”になっていた。
風呂あがりに半裸の太郎を見たとき、ドキッとした。
それだけにとどまらず、太郎のまとっていたものからは、オスの匂いが立ち上っていた。

気づいたその日、はじめて太郎を思って一人でした。いわゆる“おかず”にして。
ものすごい背徳感と、自分に対する嫌悪感、罪悪感につつまれ、寝られなかった。

それ以来、男として認識してしまった私は、どう接すればよいのかわからず
ことあるごとに太郎につらくあたった。

それでも太郎はやさしく受け止めてくれた。

もう…ダメだった。

574 :雪の華6 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 11:08:06.33 ID:ve1pbSGr (2/16)

「トースト、バターにする?ジャム?」
「ジャムでたのむ」
「はいはい」
そういいながら、イスにちょこんと座り、TVを見ながらマグカップを両手で持ち、
ホットミルクをすする。その様子はまるで木の実をかじるリスのように見える。

「で、雪はどう?」
「今年初めての雪なのに、大雪になってしまったようだ」
「そう、電車は?」
「どうやら止まっているようだな」
「今日は模試も中止なんじゃない?予備校に電話してみれば?」
「まだ、こんな時間だから繋がらないだろう。もう少ししてからかけてみる」

時刻はまだ7時前。

「一応自覚はしているんだね…」
「何が?」

「とにかく、今日はもうやめて家でゆっくりしたら?」
「そうはいかん、これでも受験生だからな。それにセンター試験の頃もよく雪降るだろう。
予行演習だ」

「予行演習って…。ということは姉さん、やっぱりセンター試験にも俺ついていかないと
ダメなの?」
「当然だ。私に何かあったらどうするんだ」
「どうするって大丈夫だろう?子供じゃないんだし」
「そうだが、いいのか?私を……」
「……姉さん。」

「私を…まもっ………いや、いい。」
声が掠れつつ小声になる。私はどんな表情をしているのだろう。
俯いて、哀れな子犬役になっているのだろうか。

そんなとき、あたたかな何かに包まれた。

「わかってるよ姉さん。姉さんを守ってくれる人が現れるまで、姉さんを守るのは俺だよ」
「………そうか」
太郎の暖かな胸に抱きしめられ、ゆっくりと頭を撫でられた。

………守ってくれる『人』か。
今は太郎がいるけど、この先いつかは私もそんな人が現れるのだろうか?

いや太郎にも…。太郎に、そんな人がいてもおかしくない。
そんな…でも…そうだ……それが普通なんだ。
私より守りたい人。守らなければならない人。
私以外に………そうあの日みたように。

575 :雪の華7 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 11:10:06.60 ID:ve1pbSGr (3/16)

……………………

…………


私は高1ぐらいまでは太郎のことをできるだけ無視していた。

けれども、それは表面上であり、気が付けば
太郎のことを目で追っていた。
太郎のことを考えていた。
太郎が私のことをどう思っているか考えた。
小さな胸がはじけそうなくらい、太郎のことでいっぱいだった。

でも、どうすればわからなかった。

ある秋の日だった。
一人、学校からの帰り道を歩いていた。

その日も太郎のことを考えぼんやりとしていた。

ふと前をみると、曲がり角から見覚えのある大きな後ろ姿をみつけた。
その影からもう一人女の子が見えた。
仲よくふたりで話しながら、時折女の子がじゃれついているように見えた。

太郎だった。

誰?
誰なんだ?
クラスメートか、部活の知り合いか、もしかして……。

まさか!?
まさか、そんな、そんなことが……。

なんで?どうして?

その場所にいるのは、私のはずじゃないのか?
太郎の横には私がいるはずじゃないのか?

私を………
私を守ってくれるのはずじゃ…

嫌だ………
嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。そんなの嫌だ!!
太郎の隣は私だけのはず。

でも……

太郎、こんなに近くにいるのに声もかけられないなんて…

太郎、たろう、た…ろ………

気が付けば、熱い雫がほほを伝って流れ落ちていた。
胸がざわざわと騒がしく、鼻の奥がツンとなってどうしようもなかった。

何も考えられなかった。ただその場を動けなかった。

どれぐらいそうしていただろう。
影が舗道にのびて、夕日が照らしていた。


576 :雪の華8 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 11:11:56.02 ID:ve1pbSGr (4/16)

「姉さん?」
顔を上げると太郎が心配そうに私を覗き込んでいた。

なぜ?

「姉さん、どうしたの?」
声が出なかった。
なんで太郎はそんな顔をしているんだろう?

あの子は?

「大丈夫?姉さん」
太郎そんな優しくしないでくれ、私はどうすればいいんだ?

あの子のことはいいのか?

「そう…」
太郎はそっとしゃがみ、黙ってハンカチで私の顔を拭いてくれた。
太郎なぜそんなことをする?そんな資格は私にはないはず。

私じゃないだろう?

けれど何もいえなかった。

胸の中は言葉が詰まって、はじけそうになって苦しいのに。

私はこんなにも太郎のことを思っているのに。

私はなぜこんなにも苦しいんだろう
私はどうして泣いているんだろう
私はどうすればいいんだろう。

太郎のために、なにができるんだろう。

「帰ろう」
一言そういって私の手を握ってくれた。
大きな手がやさしく、温かくつつんでくれた。

のびた陰を舗道に並べ、黙って夕闇の中を太郎と歩いた。
手を繋いで、いつまでもずっとそうしていたかった……。

でも、いつまでそばにいられるのか
暖かい大きな手を感じたら、また泣きそうになった。

風が冷たくなって冬の匂いがした。

そろそろこの街に太郎と近づける季節がくる。
またあの頃のように、
二人より添うことができるのかな……。

今は私だけの太郎。そう今だけなら、いいはず。
この先はわからないけど、それまでは、私だけの……。

だから、私はもう少し素直になる。
自分の気持ちに、太郎への気持ちに……

そんなことを思って、二人で歩いた。


577 :雪の華9 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 11:14:06.87 ID:ve1pbSGr (5/16)

……………………

…………


「………………姉さん、姉さん?大丈夫、姉さんってば」
「ああ…すまん。考え事を…そう考え事をしていた」
「そう、ならいいんだけど、本当に大丈夫?風邪でもひいたのかな?」

んん?どういうことだ?目の前に太郎の顔が、
近い、近い、ちかーい!
なんだなんだなんだ?
わわわ………。

あわててぎゅうっと目を瞑る。
おでこに温かい感触と、熱い息が鼻にかかる。
目をうっすらとあけるとそこには、その先にはやわらかそうな唇。
ああ………もう………。

「んー熱はないようだね、顔は赤いけど、のぼせちゃったかな?暖房熱すぎた?」
「………………」
「姉さん?本当に大丈夫?」

そういいつつ心配そうに、おでこを離す太郎。

「あ………ああ…………って、その、なにするんだ、私は子供じゃないぞ!!」
「あはは、それだけ元気なら大丈夫だね」

そっと当てられていたおでこを触る。
そこには当てられた感触と太郎の熱が残っているような気がした。

「雪どうなのかな?」
そういいながら、太郎がリビングのカーテンを開けた。

そこには舞い落ちてきた雪が、窓の外をずっと
降り止むことを知らないかのように、街を染めていた。


581 :雪の華10 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 17:41:47.89 ID:ve1pbSGr (8/16)
「どうだった?」
「うむ、とりあえず1時間遅れでやるそうだ」
「そう、やるんだ、でもやっぱりやめた方がいいんじゃないかな」
「ダメだ。大事な模試なんだ。この時期の判定で決まるからな」
「そっか、じゃあ早めに出ようか。支度するよ。ちょっと待ってて」

時刻は8時前、2時間前だが、早めに出るにこしたことはない。
太郎はキッチンをかたずけ、洗面所に向かった。

「で、姉さんは何をしているのかな?」
もう一度、顔を洗い、髭をあたり、歯ブラシに歯磨き粉をつけながらそう言った。

「何をと言われても、太郎を待ってるのだが?」
太郎の背中にもたれながらそう言った。
背中といっても、太郎のほぼ尻のあたりに、もたれた私の背中が来ているが。

「寒いでしょ?おとなしくリビングで待ってれば」
「………いや、でも、その、なんだ。そう太郎が寂しいかと思って、な…」

歯ブラシを口に咥え、振り返る太郎。
じっと私を見るその眼は、愛おしいものをめでるようにやさしげだ。

「……なんだ?何か、私についているか////」
顔が真っ赤になっているのがわかる。ほほが熱い。

ぷはぁ、ぺっ、ガラガラガラ…ぺっ
と洗面台に向き直し口をゆすぐ

「ふふふ、姉さんが一緒にいるから寂しくないよ」
「……なっななっ何をいうんだ」
と背中をポカポカとたたく。

「ははは、姉さんが言ったんじゃないか、ほら」
とそっとしゃがんで、タオルで私の口の端をやさしく拭いてくる。

「姉さん、ジャムがついてたよ。もう一度顔洗った方がいいんじゃない?」
「……………」
頭から湯気が立ち上るくらい、顔が真っ赤になっていた。
な、なんだこれは、何をされているんだ私は。

「しょうがないな、ほら」
お湯を出してタオルを絞り、そっと顔を拭かれる。
太郎のなすがままになっていた。

恥ずかしさと愛おしさと太郎の思いで、いっぱいいっぱいになって
何もできず立ち尽くしてた。

582 :雪の華11 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 17:44:34.76 ID:ve1pbSGr (9/16)

「それぐらいにしておきなさいよ、太郎。華が機能停止してるわよ」
「母さん」
ニヤニヤと笑いながら、母が洗面所の入り口に立っていた。

「おはよう、太郎、華もいつまで固まってるの?出かけるんでしょ?」
「おはよう、母さん。そうだね。朝食済んだから、後は父さんと二人でゆっくり食べて」

「ありがとう、あんまり華を弄るんじゃないわよ?ほら、華、は~なってば」

「はっ………。あ、母さん、なんで?アレ?」
「おはよう華。朝から愛されてるわね」
「え?あ、お、おはよう。…愛される?ええ愛されてるのか?ああ、私は、私は………」
ブツブツといいながら、再び真っ赤な顔をして固まる。

「母さんこそ姉さんのこと弄ってるじゃないか。ほら姉さんもう少しだから」
とタオルでもう一度真っ赤になった私の顔をやさしく拭きあげる。

「ん、きれいになったよ。今日もかわいいね」
「っ!………//」

「………太郎、それわざと?わが子ながら、あきれちゃうわね。さすが父さんの子。
でも、いつまでもそんなことやってると、出かけられないわよ?」
「そうだね、姉さん着替えてくるから、玄関で待ってて」

「かわいい……かわいい……太郎が私のこと…かわいいって」
真っ赤な顔をしてブツブツといいながらかたまったまま。
他に何も考えられなかった。

「ほら、華も、愛しい太郎、いっちゃったわよ」
「えっ!あ、あれ?た、たろう?どこいっちゃったんだ?太郎?」
とまわりをキョロキョロする。まるで、リスが周りを警戒するようなしぐさ

「わが娘ながら、かわいいわ。太郎じゃなくてもそういいたくなるわね…」
「とにかく落ち着きなさい、華」
と母はしゃがみ、両手を私の肩に置いた。

母は私と違って170近い。ちなみに父も180はあるだろう。
なぜか私だけが小さい。両親の祖母は両方小さかったが、隔世遺伝なのだろうか。

「いい?華。前にも言ったけど、守ってもらうかわりに、あなたが太郎を愛するんでしょう?」
「……でも母さん、私達は実の姉弟だ。血のつながった姉弟だ…」

「そんなこと言われなくてもわかってるわよ。私が生んだんだもの」
「そういうことを言ってるんじゃないわよ」

「え?」
「女の子は愛されて、愛することができて一人前なのよ。どちらか一方だけじゃだめなの」
「それがどんな相手でもいいの、自分で愛することができて、愛されるならば……ね。」

よくわからなかった。
どんな相手でもいい。それじゃあ?

「許されない恋?棘の道?禁忌?倫理?そんなことどうでもいいの」
「後はわかるわね♪」
とウィンクされて
「さあ、頑張ってらっしゃい。王子様がお待ちかねよ」

「姉さん?出かけるよ?どこにいるの?」
と玄関で声がする。

「はい。じゃあいってきます」
とぴょこんとお辞儀して、てててと洗面所からかけていった。

583 :雪の華12 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 17:47:05.68 ID:ve1pbSGr (10/16)

街は白く染まって、しんしんという音が聞こえるような雪が降っていた。

それ以外の音は聞こえず、朝の喧騒はなかった。
日曜日の朝というだけでなく、雪がすべてを覆い隠しているようだった。

「結構積もってるな。長靴で正解だった」
「姉さん、傘挿した方がいいよ」
「挿してるじゃないか」
「いや、一本だけだと濡れちゃうよ。ほら姉さん、肩に雪が積もってるよ」
とやさしく華の肩を払う。

何故か、二人は1本の傘で相合傘。
太郎が何をいっても受け付けず、1本の傘でと華が言い張った。

「いいんだ。この方が暖かい気がする」
「そうかな?濡れて余計に寒くなるような気がするけど」
「男のくせにゴチャゴチャとうるさいやつだな。気にするな。
私がいいと言ってるんだからいいんだ」

せっかくのチャンスなんだ。活かさずしてどうするかと思いながら、
太郎が傘を挿している方の手にぶら下がるように抱きついた。

「わわっ危ないよ。転びそうになったじゃないか。しょうがないな姉さんは」
「ふふ、なんとでも言え、この方が楽だし暖かい」
「楽かもしれないけど、暖かくないよ」
「なに、この姉の温もりを感じないとは、薄情なやつめ、ってうわわわ」
足を滑らせ、後ろにひっくり返りそうになるが、
太郎が傘を投げ捨て慌てて、受け止める。

「ほら、姉さんそんなはしゃいでるから、そんなことになるんだよ。大丈夫?」
「ううう、すまん。大丈夫だ」
「よかったね。受験生の禁句言わなくて済んだね」
とカラカラと笑う太郎。

「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃないか」
と思いながら状況を把握する。

ん?抱きしめられてる?んんん?太郎の顔が・・・顔が・・・

真っ赤な顔をして固まる華。

「どうしたの?姉さん。足でもひねった。大丈夫?」
と覗き込むように見る太郎。

「ううううう、大丈夫大丈夫だから、そ、そんな心配しなくてもいいから、
は、早く、早く離れろ」
「もう、どうしたいの?くっつきたがったり、離れろって言ったり」
「いいから、離れろ、いやそのままの方が、でも………」
「もう、しょうがないな。じゃあこうしよう」

584 :雪の華13 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 17:50:47.60 ID:ve1pbSGr (11/16)

そっと華を持ち上げ、抱っこする。

「これで大丈夫でしょ?転ぶこともないしね」
「わわわ、何するんだ!!公衆の面前だぞ、それに太郎が転んだら私まで
転んじゃうじゃないか」
「ああ、大丈夫だよ、周りに誰もいないし、俺は、父さんの草野球のシューズ
履いてるから」
「ええ?いつの間にそんなものを。父さんに叱られるぞ」
「いいんだよ。古くなったものをもらったんだから、雪の日のためにね。
これスパイクになってるから」

「いやでも、そのなんだ、は、恥ずかしいじゃないか、子供じゃないんだから……//」
「そんなに嫌なの?じゃあ下そうか」

「ん、うん………、でもその、せっかく太郎が……その…」
「わかったわかった。たしかにこれじゃ前が見難いし、バランスが悪いから一旦下すよ」
「ええ~?下すのか?」
あきらかに意気消沈した華。
下されないように、あわてて太郎の首に手を回してしがみ付く。

「もう、姉さん、どっちなの?とりあえず、一度下りて体制を立て直したいからさ」
「………わかった」

渋々太郎の首に回した手をほどき、そっと地面に下された。
せっかく太郎に抱きついて、太郎の匂いに浸れたのに。なんて馬鹿なんだろう私は
と軽く凹む華。

太郎は傘を拾い上げ、そっとその場にしゃがんだ。
「さあ、姉さん来て、背中にどうぞ」
「ええ?おんぶ?」
「そうだよ。さあ早く」
モジモジと太郎の大きな背中を見る。

「でも、スカートだから、その見えちゃうだろ…」
「さっき防寒対策で分厚いタイツはいただろう?パンツみえないから大丈夫だよ」
「いや、でも……」

「どうしたの?姉さん。やっぱりやめとく?」
「誰も嫌だとは言ってないだろう。ちょっとまて」
とあわてて太郎の背中におぶさった。

大きなコートの背中はちょっと湿っていた。

「あ、ちょっとまって」
とマフラーを外す太郎。

「はい、もう一度、そう、それでいいよ」
そっと立ち上がり、軽々と華を持ち上げる。

「姉さん、悪いけどさ、マフラー巻いてくれない?姉さんごとさ」
「へっ?な、何をいってるんだ?マフラー巻けって。
だいたいそんな二人分なんて巻くほど長くはないだろう?」
「何言ってんのさ?去年姉さんがくれたマフラー、長めに編んだからっていってたじゃないか」

585 :雪の華14 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 17:52:39.73 ID:ve1pbSGr (12/16)

そうだった。
去年慣れない編み物を友達に習って、クリスマスプレゼントとして作ったのだ。
誰にあげるんだと散々からかわれながら、どれぐらい編んでいいのかわからず、
思ったよりも、いやかなり長くなってしまった。
その時太郎は、ものすごく喜んでくれて、
これだと姉さんと一緒に巻けるねと微笑んでくれた。

「姉さん?悪いけど、早く巻いてくれないかな?寒いんだけど」
「ああ、すまんすまん」
慌てて巻こうとするが、自分の巻いているマフラーが邪魔なのに気付いた。

「すまん、太郎これ持ってくれるか?」
と自分のマフラーを手提げかばんに入れ手渡す。
その後、太郎のマフラーを自分を含めて巻こうとしたが、

よく考えれば肩越しに太郎の顔に密着させないといけないことに気付いた。

「姉さん、まだ?寒いんだけど、早くしてよ」
太郎にせかされ、真っ赤な顔をしながら、そっとマフラーをまいていった。

暖かい。
太郎の温もりだ。
なんだろう、安心する匂いがする。
ひくひくと鼻を鳴らす。
ちょうど太郎の左耳の裏のあたり。

「姉さん、くすぐったいよ。ちょっと、だめだよ」
くすぐったそうに身をよじらせ、文句を言う太郎。

こんないい匂い、嗅げるときに嗅がないと。今度いつ嗅ぐことができるかわからないじゃないか
と必死に鼻をひくひくさせる。
鼻息がよほどくすぐったかったのか、太郎は笑い出す始末。

「くくく、もう、姉さん、いい加減に………」
と振り返る太郎。
当然、鼻をひくひくさせていた華にぶつかり…

――――― 一瞬の出来事だった。

586 :雪の華15 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 17:58:13.46 ID:ve1pbSGr (13/16)

何がなんだかわからず、二人はそのまま固まった。

太郎の頬に暖かい感触が
華の唇にやわらかい感触が

華は太郎の頬にキスをした。

それも口唇に近いところで、もう数センチずれていたら
ファーストキスになっていたはず。

先に気付いたのは、太郎だった
我にかえった太郎はあわてて前に向き直し、鼻を背負ったまま歩き出した。
耳まで真っ赤にして。

華はしばらく固まっていた。
気づいたら、太郎が歩いていた。
ゆさゆさと華を揺さぶりながら、ゆっくりした足取りで

なんだったんだ?今のは?夢?夢なのか?でも、唇に残る感触は、温かくて柔らかった。
首に回した左手を自分の口唇にあてなぞってみる。
確かに感触があった。


「ごめん。姉さん………」
何を謝ってるんだろう?

「姉さんの大事な唇………」

…………………………………!

「き、きに、きに、気にするな!じ、じ、事故、そう事故だから」
「でも……」
「いいから、気にするな、犬にかまれた、いや舐められたとでも思ってくれていいから……」
「そんな、犬だなんて、姉さん。ゴメン…」
「本当にゴメンね。姉さん」

なんで謝るんだ、太郎…。
そんなに嫌だったのか。
そんなに気持ち悪かったのか。
そんな、そんなに………。

「姉さん?」

いつの間にか、また頬に流れる雫。
私はこんなに泣き虫だったろうか?
私は死ぬほど嬉しかったのに、
拒絶されるのがそれ以上につらいなんて

「…すまなかった。太郎。もう…下してくれ。一人で……、ひとりで…行けるから」

濡れた頬が冷たかった。
胸も凍りつきそうだった。

「姉さん……ゴメン。そんなに…嫌だった?」
「えっ?」

すっとしゃがみ、そっと華を放す。

「ゴメン、そんなつもりじゃなかったんだ。そんなつもりじゃ…」
抱きついたままの大きな太郎の背中が小刻みに揺れる。

「ち、ちがっ」
「ごめんね…、本当にごめんね…。俺、俺、姉さんを傷つけ…ちゃったんだよね…。」
「守るはずなのに、傷つけちゃったんだよね…」

こちらを振り返らず俯いて、しゃがんだまま小刻みに肩を揺らす。

そんな太郎を見た途端、愛しい気持ちが胸の奥から湧いてくる。
首にまわしていた手をほどき、そっと太郎の頭を胸に抱きしめた。


587 :雪の華16 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 18:01:17.49 ID:ve1pbSGr (14/16)

「………太郎は泣き虫だな。昔からそうだった。小さい太郎のままじゃないか」

さっきまで凍てついた胸が熱くなった。
太郎の頭の熱も相まって思った以上に熱く感じた。

「太郎。私が太郎のこと嫌なわけないじゃないか」
「で、でも……」
「太郎がいつでも私を守ってくれた。太郎がいると安心できるんだ。
どんなことでも乗り切れる気持ちになるんだ。」

「姉さん………」

「太郎、笑顔のときも、涙に濡れているときも、いつも、いつでもそばにいたいんだ」
「太郎、私はずっと一緒にいたい」
「けれど太郎は気持ち悪いだろう。実の姉からこんなことを言われて」

「そんなっ」

「いいんだ、私は姉、太郎は弟だ。けれど私は……。」

それ以上は言葉にならなかった。
言いたいのに、なぜか言えなかった。
自分の勝手な思いを、愛しい人に押し付けるわけにいかなかった。

そっと太郎の頭を放し、伸びていたマフラーを外す。

「太郎すまなかった。だから泣かないでくれ。私のために。いや気持ち悪いだろうけど」
「姉さん!」

―――――次の瞬間、太郎の顔が目の前でいっぱいになった。

白い息が二人の間から立ち上り
あふれ出す感情が、
温もりのある感触が、
熱くなった胸の奥に満たされていく。

一瞬の出来事だったと思う。
けれど、ずっといつまでも続くように、と祈りたくなった。
そう、ふたりの時間が止まるように、と。

………。

すっとはなれていく太郎。

離れないで、私から離れないで、私との時間を動かさないで。
ヤダヤダヤダヤダヤダ、ヤダァ…………。
もっと、もっと、もっとぉ、もっとだよぉ………。
太郎、たろう、た…ろう………。
身体の半分が離れていき、その隙間に雪が吹き込んでくる、そんな気がした。

ふたりの間には、つーっと透明な露の橋ができていた、が、やがてそれも…。

「…ゴメン、姉さん。俺は、俺は姉さんを守るって決めたんだ。なのに姉さんを傷つけて」
「……まだ、言う……のか………」

「違うよ。姉さん。そういう意味じゃない。姉さんの気持ちにずっと気づいていながら、気づかないふりをしてきた」

「太郎………」

「怖かったんだ。禁忌、倫理、世間体、そんなものはどうでもいい。けど…」
「けれど、それを無視して姉さんに押し付けるなんて、とてもできなかった。どうしても無理だった………」
「傷つけたくなかった。姉さんにつらい思いなんてして欲しくなかった。」
「でも俺は……、俺は!もう!!」


588 :雪の華17 ◆dtvnEZ7OsY [sage] :2012/08/09(木) 18:03:03.37 ID:ve1pbSGr (15/16)

「もう、もういいよ。もういいんだ。太郎。その気持ちだけで私は……」


太郎の唇に人差し指をそっとあてた。

口の端に残る露を、そのまま人差し指でそっとぬぐった。

愛しい露が光る人差し指の先に、雪の華が舞い降りて、すうっと消えた…。

私は、太郎のおかげで知った。
『誰かのため、何かをしたい』と思えるのが愛ということを知った。

だから、私はこんなにも、満たされている。
    私は太郎からこんなにも愛されている。

だから、

    「太郎、あなたを愛している」

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最終更新:2012年08月16日 01:49
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