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水面下の戦い [sage] :2012/11/03(土) 09:05:38.07 ID:HJs1XAbD (2/4)
チャイムが鳴り、午前中の講義が終わる。
この後は授業もないし、喫茶店でゆっくり昼飯でも…。
ふと思い出し、OFFにしたままだった携帯の電源を入れる。
メールが一件来ていた。
妹からのようだ。
―――――――
件名:夕食
今日は何時頃にお帰りになられますか?
もし兄さんがよろしければ、家で一緒に夕食を摂りたいと思います。
予定が分かりましたら、連絡下さい。
追伸:夕食で何か希望がありましたら、教えて下さい。
―――――――
早めに帰れること、夕飯のメニューは任せるということを添えて返信。
喫茶店で時間を潰し、本屋で物色しているうちに夕方になっていた。
商店街の通りは人だかりが出来ていた。
学生はもとより、早上がりしたリーマン達も家路を急いでいるようである。
今日が金曜日だというのも理由のひとつだろう。
「あら今帰り?」
その中に姉もいたようだ。
「今日は午前中だけだったからね。
姉さんも早かったみたいだね」
「ええ―――ねぇ、どこかで食べていかない?奮発するわよ♪」
「いや、晩御飯用意するってあいつからメールがあったから今日は家のほうが…
あれ?あいつから連絡なかった?」
日ごとの予定次第では俺は夜遅くに帰ることもある。
それは姉さんも同様のようで、結果的に妹は一人で晩飯を摂ることも多い。
両親は既にいないため常に寂しい思いをしてきたに違いないのだ。
―――だから、三人が集まれる日くらいは団欒な夕食を過ごさせてやりたい。
「さっきメールがきて、友達の家で勉強会やるってあったわよ?
晩御飯もそっちで食べるからって」
「えっ!?」
すぐさま携帯をチェックしたが、俺のにはメールの受信も着信もなかった…。
――――――なんか複雑な気分だ…
「さて、どこ行こうか?このあたりなら…」
対する姉さんは上機嫌だった。と、そこに―――
500+1 :水面下の戦い [sage] :2012/11/03(土) 09:07:30.92 ID:HJs1XAbD (3/4)
「いえ、その必要はありませんよ」
妹が現れた。膨れたエコバックを持っていることから、買い物帰りらしい。
「食材もちゃんと買ってきました。今日は兄さんの好きなすき焼きにしようと思いまして」
「あれ?!勉強会は?」
「“友達”が急に別の用事が入ってしまって中止になってしまったんです。
それで予定通りにしようかと」
「ならメールぐらい入れろよ」
「御免なさい、うっかり充電を忘れてしまって…」
すまなそうにうなだれる妹を慰めるように頭をなでてやる。
気持ちよさそうにするその顔を見て、犬を可愛がる気分になったのは秘密だ。
うってかわって姉さんを見ると、いかにも不機嫌そうな顔だった。
何故かいたたまれない雰囲気だ…
「ま…まぁ、これで晩飯は三人で食べれるんだし―――」
「そういえば、さっき家にいるときに姉さんのご同僚から電話が掛かってきましたよ。
大分焦っている様子でしたけど…」
妹が急に告げた内容に姉さんは―――
「そんな!?嘘よっ!なら私の携帯に着信があるはずよ!!」
「いえ、何度掛けても繋がらなかったらしくて…早く会社に戻ったほうがイイノデハ?」
妹の楽しそうな顔?はさておいて…
「姉さん、何かあったなら戻ったほうがいいよ。一大事かもしれないし」
瞬間、地獄に落ちたような顔をする姉。
何でそんな顔するんだよ…。
「―――くっ!すぐ戻ってくるから!!」
走り去る姉を見送る―――間もなく
「さぁ、兄さん。今夜は家ですき焼きパーティーよ。」
「あのなぁ…そんな楽しそうにするなよ。少しは姉さんのことも考えてやれって」
「あら、ごめんなさい。“ちゃんと”姉さんの分も残しておきましょう」
こうして今日も俺たち三人は夕食を一緒に摂ることができなかった…。
ちなみに姉さんのすき焼きは残らなかった―――
何故かといえば、妹が過剰に俺に勧めてきて全部食べざるをえなかったからだ…。
最終更新:2012年12月02日 10:40