パンドーラー14

412 名前:パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2014/10/18(土) 22:42:51.43 ID:qvA8NWS5 [2/7]
「では、その時に叫んだわけだね?」
「はい、無我夢中でもがいている内に口の拘束具が外れたんで…」

とある病室で、警官から事情聴取を受けているトシヤ。
監禁生活から抜け出した後に、数日の検査入院が必要になったのだ。

「ありがとう、協力に感謝するよ。じゃあ今日のところは失礼するよ」

そう言って、退室する警官。
それを凝視している人物がもう一人…。

「ね、姉さん…。ちょっと離れて」
「嫌よ」

マキはトシヤにべったりとくっついていた。

「あぁ、無事で良かった、トシヤ…トシヤ…」

そう呟くマキ。

保護されて検査入院した日、マキは狂乱しながら病室に無理やり入って来た。
そしてトシヤを気が済むまで抱きしめた。
さらに近づく人間、特に女性には敵意…よりも殺意を剥き出しにしていた。
おかげで、女性看護師達は何も出来ず、まだ数人しかいない男性看護師が付くことになった。

それからずっと、トシヤの傍を離れていない。

413 名前:パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2014/10/18(土) 22:44:18.89 ID:qvA8NWS5 [3/7]
「よっと」

ベッドから降りるトシヤ。

「どうしたの?」
「ちょっとトイレ」
「私も行くわ」

トシヤにはこれも頭の痛い問題だった。

「いいけど、入り口で待っててよね」
「何言っているの?危ないじゃない」
「(何が危ないんだろうか…)」

マキはズカズカと男子トイレに入っていき、トシヤの傍にいようとした。
流石に“大”の方は個室の外で待ってもらったが、最初は手伝いまでしようとしたので
必死になって追い出した。

「(これじゃあ、監禁から軟禁だよ…)」

個室でトシヤは考えていた。
マキの行動の変化について…。

前はオドオドしている印象もあったのに、今はまるで逆だ。
本当に自分を男として見ているのだろうか…。
これまでの経緯を冷静に辿れば…。

ドンドン!

「早くしてよ!」

個室の外からの声。

「わ、わかったって」




退院日。
病院食以外の物を食べさせようとしたマキの提案でファミレスに向かった二人。
そこで、トシヤは意外な人物と鉢合わせることになる。

「お久しぶり、トシヤ君。とりあえず生還おめでとう」
「ユリコちゃん?!」
「…」
「そんなに睨まないで下さい。私には兄さんがいますから」
「えっ?」
「そういえばトシヤ君には話してなかったかもしれませんね。
でもまずは何か食べましょう」

414 名前:パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2014/10/18(土) 22:46:19.02 ID:qvA8NWS5 [4/7]
「たまたま、マンションに入っていくトシヤ君を見つけたのは私だったんですよ」

注文したハンバーグを冷めないうちに食べるユリコ。
喋りながらも、手は止まることは無い。

「で、その後に失踪したと大騒ぎして…」

また一切れを口に頬張りながら、マキを見つめるユリコ。

「ええ、そうね。あなたはトシヤの命の恩人だもの、感謝しなくちゃね」
「ありがとう、ユリコちゃん」
「どういたしまして」

最後の一切れを食べ終え、紅茶を口に含むユリコ。

「それで、お二人はこれからどうするんです?」
「?」
「トシヤ君。あなたは知らなかったでしょうけど、お姉さんがどれだけ心配していたか、
少しは考えたらどうなの?」
「そ、そうだね…」
「ふう、ご馳走様でした。私のお代はここに置いておきます。―――お姉さん、幸運を」

そう言って立ち去っていくユリコ。

「本当に、あの子には頼りっぱなしね…」

そう呟くマキはある決意を固めていた。

415 名前:パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2014/10/18(土) 22:48:29.94 ID:qvA8NWS5 [5/7]
数日振りに帰宅した我が家はどこか懐かしい気がしていた。
もしかしたら、二度とここには戻れなかったかもしれないからだ。

「トシヤ、話があるから部屋に来て」
「うん…」

神妙な面持ちのマキにトシヤの心境は懺悔の念で溢れていた。

パタン―――
ゆっくりドアが閉まり、広くもない密室で二人きりになる。

「ごめんなさい…」
「ど、どうしたの、姉さん。謝るのは―――」
「いいえ、私が…私がいけないのよ。私が―――おかしいから…」

後ろを向いたまま俯いて話すマキ。

「実の弟に恋愛感情を持つなんて…トシヤ、あなたにも迷惑かけたわね」
「そんな事は…」
「何度も自分に言い聞かせたわ。普通になろうって。でも無理だった…。
意識しないようにしようとするほど、あなたが頭に浮かんでくるの。
でもあなたはきっと、私から離れて他の人と恋に落ちて…」
「…」
「認めたくはなかったけれど、でもあなたの意思を捻じ曲げることもしたくなかった。
だってあなたのことが大好きだから…。だから、もし許されるなら…もう少しだけ…
私の傍にいて…」

その背中は震えていた。
声も嗚咽交じりで消えかかっていた。

トシヤはなんとかしてやりたいと思った。
それは罪悪感から来るものだったのかもしれない…。

「うん、マキ姉さん…。僕もマキ姉さんのことが大好きだよ…」

そう呟き、背中からマキを抱きしめるトシヤ。
それはその場しのぎの発言だとトシヤは自己嫌悪していた。

しかし、発言の中身は嘘偽りないものでもあった。
もっともこのときのトシヤにはそこまで考える余裕はなかった。

「ヒック―――うぅぅ…」

向き直りトシヤに抱きつくマキ。
抑えていたものが一気に溢れ出ていた。

416 名前:パンドーラー14 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2014/10/18(土) 22:49:46.16 ID:qvA8NWS5 [6/7]
警察署の留置場。
見回りの警官がある独房を覗いた。

「?!!」

壁一面には文字が書きめぐらされていた。
どうやら人の名前のようだが…。

そして、空いた壁のスペースに今なお名前を書き続けている女が一人。
なにかぶつぶつ呟いている。
その文字の色は全て赤であった。血文字のようだ。

「な、何やってる?!」

中に入り、女を取り押さえる警官。

「トシヤ君トシヤ君トシヤ君トシヤ君トシヤ君―――」

ミコトは狂気に憑りつかれながら、自らの愛しい男の名を書き続けた―――

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最終更新:2015年03月22日 02:09
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