447 名前:
パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2015/01/31(土) 22:41:37.57 ID:6AW4dGvt [2/7]
季節は移り残暑が厳しい九月―――
夏が名残惜しそうに過ぎ去ろうとし、世間は異常気象による災害で騒いでいた。
しかし、二人にはその世間は遠い場所のように感じられた。
「気持ち良かった?」
「う、うん…」
「あの女、よりも?」
「
姉さん…、そのことはあまり思い出したくないな…」
「そうね…、ごめんなさい…」
トシヤはマキ以外にミコトと関係を持ったことがあった。
ほんの2、3回ほどだが…。
「それに初めては私だしね…」
「うん…」
そのままベッドでお互いに寝転がり、事後の疲労感につつまれながら眠るのが
マキの楽しみだった。
夏祭り以後、マキと情事を重ねる上で、避妊具―――コンドームの着用を
求めたのはトシヤだった。
もし、二人の間に子供が産まれるようなことがあれば、あまりいい結末は
迎えないだろうと考えていた。
マキの方はその提案を快く受け入れた。
トシヤを手に入れたのも同然なのだ。
今はその幸福感だけで一杯だった。
448 名前:パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2015/01/31(土) 22:42:21.23 ID:6AW4dGvt [3/7]
秋に差し掛かり、トシヤは部活を引退、受験勉強に力を入れる時期になる。
マキはトシヤにみっちり勉強を教えることにした。
情欲に溺れて、自分と同じ高校に入れない…そんな事態は避けなければならない。
無論、夜のご褒美も添えてのアメとムチの方法だ。
マキにしてみれば、トシヤの傍にいる理由が増えたので願ったり叶ったりではあったが。
「だから、この公式はここが―――」
「うーん…」
「ここにXを代入―――」
「うん?」
「となると、解が―――」
「ん…」
「トシヤ、ちゃんと聞いてる?」
「…」
「トシヤ!」
「へ?!な、なに?!!」
「…」
と、マキの思惑通りにはいかなかった。
トシヤはそこまで勉強熱心ではなかった。
もともと試験でも平均点を取れるぐらいの勉強しかしてこなかったのだ。
しかし、マキの進学校に入るにはかなり厳しいレベルだった。
「ね、姉さん、少し休ませて…」
「駄目よ、時間は無駄に出来ないわ」
「こんなに詰め込まなくても…」
「何?あんた、私と同じ高校に入りたくないの?」
「いや、レベルが合ってないと進学出来てもやっていけない―――」
「だからこうして教えているのでしょ?私はトシヤと一緒にいたいのよ」
「でも家ならいつも一緒だし、高校は別に…」
「私と一緒じゃ嫌なの?もしかして鬱陶しくなった?」
「へ、ちょっと―――」
「私が鬱陶しい…、もしかして他の女が好きになった…、その子と同じ
高校に入るから私は邪魔…」
「姉さん!何言っているんだよ!」
「トシヤ…本当の事言って、私のこと嫌いになった…?」
「そんなことないから!落ち着いて!」
「だって…私が鬱陶しいのでしょ…、だから…」
マキは顔面蒼白で冷や汗を掻いていた。
思わずトシヤはマキを抱きしめた。
「マキ姉さん、落ち着いて。嫌いになんてならないから」
「トシヤぁ…」
449 名前:パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2015/01/31(土) 22:43:22.21 ID:6AW4dGvt [4/7]
ここ数か月は、マキの不安そうな顔を見なくなり、トシヤは安心していた。
それが、こんな形で復活するとは考えていなかった。
マキの思いに応えてやりたい気持ちはあったが、出来ること、出来ないこと、
自分自身に無理強いするのはよろしくないと考えていたのだ。
―――それに、いつまでこんな関係を続けるのか?―――
それはトシヤが目を逸らしてきた問題である。
マキ姉さんのことは好きだ。
だが、姉弟で結婚は出来ない。
学生から社会人、そして年を取るまでずっとこのまま?
世間体のこともある。
僕らの関係が明るみに出れば、社会は間違いなく攻撃してくるだろう…。
そうなる前にやはり折り合いを付けるべきなのかもしれない。
また、他方ではマキと関係を持った以上、責任は取るべきだとも考えていた。
「(人を好きになるって、大変なんだな…)」
トシヤは一晩考えた末に、自分自身のレベルを上げてマキの高校に合わせるしかない
という至極単純な答えを出した。
そこで、成績優秀なユリコに相談したのだが―――
「ゴメンね、今日は兄さんと寄る所があって…」
「そっか、仕方ないね…うんいいよ、なんか邪魔しちゃって悪いね」
「こっちこそゴメンね」
このように夏以降、ユリコが素っ気無くなったように感じていた。
兄のユウイチを何よりも最優先に考えているようだ。
「(やっぱり、自力でやるしかないか…)」
放課後―――
ほとんど来たことない図書室で勉強することにしたトシヤ。
室内は無人であり、トシヤには好都合だった。
マキに叱咤されながら勉強してきた為、独りでのんびりしたかったのだ。
が、流石に実力が追い付いていないので、問題集を開いても理解出来ないことのほうが多い。
終いには、頭痛までしてきた。
「(あぁ~、もう嫌だぁ~)」
文字通り頭を抱えて悶絶することになった。
450 名前:パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2015/01/31(土) 22:44:15.36 ID:6AW4dGvt [5/7]
「ゲホゲホ!―――ガハッ!!」
マキはその日、体調が優れなかった。
風邪のように身体が怠く、無気力な感じだ。
昼時になっても持参した弁当を食べる気もおきなかった。
とうとう、そのまま早退して家で養生することにしたが…。
さらに嘔吐感までこみ上げてきて、トイレに駆け込むことになったのだ。
「はぁはぁ…、なんなのこれ…」
気持ち悪さの正体がわからず、苛立ちもしてきた。
小康状態になり自室のベッドに戻ると横になり、再び休んだ。
時間の感覚が無くなり、少しうとうとしたときに、ふと思いついた。
この気持ち悪さはもしかして…。
動きたがらない身体を引き摺り、家を出る。
向かった先は薬局。
買ったのは―――
451 名前:パンドーラー17 ◆ZNCm/4s0Dc [sage] 投稿日:2015/01/31(土) 22:45:17.98 ID:6AW4dGvt [6/7]
「はぁ…ただいま…」
図書室で満身創痍になり、帰宅したトシヤ。
時刻は六時過ぎだが、台所の明かりが消えていることに不審に思った。
いつもなら、マキが夕食の支度をしているはずだが…。
「マキ姉さん?」
リビングに行ってみたが、誰もいない。
「(部屋かな?)」
コンコン―――
マキの部屋をノックするトシヤ。
「マキ姉さん、いるの?」
「トシヤ…入ってきて…」
ガチャ―――
「どうしたの?具合でも悪いの?」
マキはベッドの上で上体を起こしていた。
寝巻を着ていることから横になっていたらしい。
「トシヤ…あなたに言わなきゃいけないことがあるの」
「うん?」
「私、妊娠したわ」
最終更新:2015年03月22日 02:13