パンドーラー18

385 名前: パンドーラー18 ◆ZNCm/4s0Dc :2015/03/02(月) 09:46:05 ID:324832cf2 [sage]

視界がグラついた…様に感じた。
一体何を言っているんだ?

姉さん…」
「トシヤ、私のお腹に…あなたの子がいるの」
「でも!…ちゃんと対策は!!」

避妊はしっかりしていたはずだ…。

「多分…あの夏の日じゃないかしら…」
「!!」

そうだ…そうだった…。
あの日は、お互いに…何も考えられなくなって…。

「トシヤ、大丈夫?」

マキ姉さんがゆっくりと近づいてきた。
ゆっくりと手を…

パシッ!

「へっ?」
「あ、いや…その…」

気付けば手を払っていた。
何でだ?
僕はマキ姉さんのこと…好きだったはずなのに…。

「トシヤ…?」
「…ゴメン、考える時間をくれない?頭が混乱してるんだ」

足早に部屋を出ることにする。
今の僕は…おかしい。

「トシヤ!」

マキ姉さんが呼びかけてくるが、今は駄目だ。


386 名前: パンドーラー18 ◆ZNCm/4s0Dc :2015/03/02(月) 09:47:37 ID:324832cf2 [sage]

トシヤは部屋に戻ると、ベッドにうつ伏せに倒れこんだ。

もう何も分からない。
何をどうすればいいか…。

人生は都合よくいかない。

ふと、そんな一文が頭に浮かんだ。
多分、皆そうなんだろう。

トシヤは自分の行動の浅はかさを呪った。
子供が出来るような行為をしていたわけだから…。たいした覚悟も無く…。
これが社会人なら…働いているなら…まだ、何か対応が取れたのかもしれない。

マキ姉さんはどうするつもりだろうか?
やはり産むのだろう…。
そう、それが自然だ。

父親…、僕が父親?
中学生の僕が?
父親は、子供と母親を養うために働く。

「(中卒で働ける所って何処だろう…)」

夜も深くなり、トシヤは手早くインスタント麺を作り、食べ終えると
そのまま寝入った。
結局、マキの部屋には行かなかった。


387 名前: パンドーラー18 ◆ZNCm/4s0Dc :2015/03/02(月) 09:49:10 ID:324832cf2 [sage]

なんだ…?
何か、苦しい…。
夢か?

目を開けると、マキの顔が映っていた。

「トシヤ」
「マキ姉さん…」

起き上がろうとして、起き上がれない?

手が、足が動かない。
視線を向けると、手はベッドにビニール紐で縛られていた。

足は見えない、けど同様に縛られているようだ。

「―――?―――!!これは?!」
「トシヤ、あなた、逃げるつもり?」
「へ、逃げる?!」
「私から逃げて、私を避けて、私を否定して…」
「な、何を言って?!」

「逃 が さ な い」

ぞくり―――

この感情は…かつて、ミコト先輩に襲われたときの…恐怖…!

「あ―――あ―――」
「私達はもう離れられないのよ、この子がいる限り…」

マキは愛おしく自らの腹を撫でた。

「こんなことになるとは思ってなかった?」
「だって…僕らの歳で子供なんて…」
「私はもう16歳よ、法律上は結婚だって出来るわ。子供だって、ね」
「!!」
「でも、もしかしたら検査器が間違ってるかもしれないわね…」
「…そうだよ!ちゃんと医者で診てもらわなきゃ!!」
「ええ…」

その可能性があった。
マキは簡易的な検査キットで見たにすぎない…。


388 名前: パンドーラー18 ◆ZNCm/4s0Dc :2015/03/02(月) 09:50:18 ID:324832cf2 [sage]

「だから、ちゃんと証明するために、子作りしましょう?」

マキは笑っていた、その笑顔はとても美しく、トシヤが今まで見たどんな表情よりも
美しかった。
見惚れていたかったが、それどころではない。

「姉さん、待ってくれ、ちゃんと考えてくれ。子供なんて出来たら、
僕ら、どうなるんだ…。どうやって育てるんだ、子供のことちゃんと…」
「私と、あなたと、この子と…それだけで十分じゃない?」

駄目だ。
マキはもう正常な判断がつかない状態だ、トシヤはそう思った。

トシヤは心が絶望に包まれるのを感じていた。
その最中もマキはトシヤの元に歩み寄っていった。
すでに寝巻を脱ぎ捨て、若く張りのある肢体が露わになっている。

嫌だ!
こんな、こんなことになって…。
誰か、誰か助けて…。

トシヤがそう願っても誰も助けには来ない。
ミコトの時とは違うのだ。

「さぁ、あなた…」
「――――――――!!!」


389 名前: パンドーラー18 ◆ZNCm/4s0Dc :2015/03/02(月) 09:51:23 ID:324832cf2 [sage]

マキとトシヤの父、向田マサキは数か月ぶりに我が家に帰宅した。
というのも、トシヤからのメールで急いで帰ってきてほしいとのことだったからだ。

彼の心は後悔に苛まれていた。
二人の子供の親としての責務を放棄したも同然だったのだ。
今更、何をしてやれるのか?
でも、そんな自分を頼ってきてくれたのだ、無碍には出来ない。

「ただいま」

ドアをゆっくりと閉め、中に入る。

ふと階段のほうに何か…。

「トシヤ!」

階段の最上段でトシヤが縛られて寝転がされていた、口には猿轡が。

急いで階段を駆け上がる。

あと一歩でトシヤのところに…

ドン!

突然現れたマキが父親の胸を強く押した。

「っ?!」

ドドン!ドカ!!

向田マサキはそのまま階段を転げ落ちた。
頭からは血が出ていた。

「うっ…」

意識が途切れそうになる中、マキがゆっくりと降りてくる。
手には金槌が握られていた。

「最期に親らしく、私達の役に立ってよね?」

そうか…これは罰だ。
愛した女と離婚して孤独死させ…子供達から逃げてきた…罰―――


金槌は何の感慨もなく振り下ろされた―――

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最終更新:2015年03月22日 02:22
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