『花言葉デンドロビウム』その三前半

952 名無しさん@ピンキー sage 2008/06/26(木) 15:40:33 ID:wrFl7tVA
 雪が降った。寒くて、寒くて、凍えそうな冬の日に。
外は昼間でも薄暗い。部屋の中は明かりも無くて更に暗い。
違う。部屋とも呼べない。真新しい二階建ての新居。その庭の隅に立てられた八畳ほどのプレハブ小屋。不要品を押し込める荷物置き場。
その中で、その隅で、二枚の畳(たたみ)の上で、弾力の無い布団の上で、二人の子供が抱き合って幼い身を震わせる。寒さに、虐待に、両親の暴力に脅えながら。
二枚の汚れた毛布で、それぞれ背を覆って抱き合い、白く色付いた息を吐いて励まし合う。
いつか助かる。
誰か助けてくれる。
もしかしたら両親が優しくなるかも。
神の存在を信じていた双子の兄妹に、いつか。誰か。もしかしたら。そんなモノは最後まで来なかった。
兄の身体は生傷が絶えなく、新しい傷が出来る度に妹はソレを舐めて癒す。
土が残っていようが、埃が付着していようが、綺麗に汚れが落ちるまで、小さな舌で一生懸命に舐め続けた。
兄が二人分の傷を受け、妹が二人分の傷を癒す。その循環。
食事は一日に一度だけ。出来合いのおにぎりと、パックのジュースが二つずつ。それを二人でゆっくりと、時間を掛けて、噛み締めて、胃に納めて行く。後は抱き合って将来の夢を語らい合う。毎日がその繰り返し。同じ事を何度も、何度も。
神様、かみさま。カミサマ……呟きながら。

両親が虐待を始めたきっかけは恐らく妹。妹は兄の側を離れず、両親にはいつまでも懐かなかった。いつまでも無表情で。
それが面白くなくて妹は手を上げられた。それでも無表情。
見ていられなくて兄は妹を庇った。代わりに殴られ続けた。そこで漸く(ようやく)。妹が泣いた。わんわんと大声で泣いた。虫の息で倒れる兄に覆い被さって、その小さな身体を、もっと小さな身体で抱いて泣き崩れた。
兄が暴力を振るわれ、妹が泣き、親は笑い転げる。
家にも入れて貰えない。
朝早くに起きて、荷物の中に有った洗面用具を使って、庭の水道で顔を洗い、歯を磨き、プレハブ小屋に戻る。
一日一度の食事と、週に一度の暴力。
頬に傷ができれば頬を舐め。舌を切れば舌を舐め。目が腫れれば目を舐めた。ぴちゃぴちゃと音を立てて眼球を舐めて舌を這わせる。
逃げ出そうなんて思いもしない。
神様、かみさま。カミサマ……
そんな生活が半年。半年経ち、双子の兄妹に仕事が与えられる。

兄は母に連れられて見通しの悪い通学路へ。
綺麗な洋服を着せられ、
美容室で髪型を整え、
新品のランドセルを背負って、
スピードの出てない、
軽自動車を狙って、
突き飛ばされた。
子供を使うアタリ屋。身体は吹き飛んで、痛くて泣いて、母も嘘泣きで兄を抱きしめて、高額な治療費を請求して笑う。
それが月に一度。兄は病院には連れて行かれず、痛みが引くまでプレハブの中。横になって唸り続ける。



953 名無しさん@ピンキー sage 2008/06/26(木) 15:41:21 ID:wrFl7tVA
 妹は濡れタオルを兄の額に乗せ、頻繁に取り替えて熱を冷まし、傷の一つ一つを丹念に舐めた。
月に一度の仕事。兄は死に際の詐欺を強要される。
その間、妹は、父と二人。
風呂で背中を流させられ、キスをされ、舌を入れられ、胸を揉まれ、尻を撫でられ、男性器をしゃぶらせられた。
死にたくなる様な嫌悪感。これが兄のモノならどれだけ良かったろうと、これは兄のモノと言い聞かせてやっと堪えれる。
兄は肉体的に死の淵を歩き、妹は精神的に死の淵を歩く。
神様、かみさま。カミサマ……兄は妹の変化に戸惑い、一層に願う。一年中願う。毎日、毎日。
願い続けて、仕事の日が来た。
兄は母に連れられてレストランへ。美味しい物をたくさん食べさせられた。なんて事はない、最期の晩餐。
食べ終わったら駅に。人込み溢れるホームで、最前列に立たされる。
兄はそこで殺されると気付き、トイレへ行くと言って小窓からそっと逃げ出した。
神様、どうか神様。助けてください……ずっと願って、今まで願っていたけど、神様は救ってくれない。
泣いていた。走って逃げながら泣いていた。
妹にいつか神様が助けてくれると嘘を言い続けていた事を後悔して。
神様はいない。神様なんて者は存在しない。
走って、走って、家に着く。プレハブへ向かう。兄は一刻も早く謝りたかった。

小屋の眼前に立ち、戸に手を掛けて、妹の悲鳴を聞く。父の怒声よりも遥かに大きな声で兄の名を連呼し、助けを求めてひた叫ぶ。
初めて。兄はここに来て初めて分かった。妹は神様なんか信じちゃいない。居ると信じていたのは兄だけ。
妹が助けてくれると信じていたのは、神様ではなく兄だったのだと。
全てわかり、戸を思い切り開け、驚愕を浮かべる父に体当たりし、押し倒されそうになっていた妹の手を引いて家からも逃げ出した。
兄は裸足で、妹は兄の靴を履いて、雪の降る冬の道を、幼い手を繋いで走る。
すぐに捕まるだろうと思いながらも、兄は妹を助けたい一心で走った。
だけれども子供の体力。やがて力尽き、辿り着いたのは、半分以上が取り壊されて屋根も無い古びた教会。
キリスト像の前、最前列のベンチに座り、神の模型を見上げて、見下す。
もう信じてやるものかと、妹の身体を抱き包み丸くなる。
そして兄は、ずっと二人で居ようと約束し、寒さと眠気で目を閉じた。
そして妹は、神の前で兄の身体とまぐわう。兄を起こさぬように気を付けながら、信じていた者に救われた事を、操を捧げて感謝した。

朝を迎え、目を覚まし、捜索願いを受けていた警察に見付かる。ただし。出していたのは両親で無く親戚。
両親は二人で車に乗り、兄妹を追って雪道を飛ばし、信号機で止まれずにトラックにぶつかられ……

死んだ。



954 名無しさん@ピンキー sage 2008/06/26(木) 15:42:15 ID:wrFl7tVA
  『花言葉デンドロビウム』




1
 ずっと二人で……

幼い頃に交わした、俺と妹の約束。
だけどそんなモノは、俺が妹をその場凌ぎで騙す為に付いた嘘。
妹と一緒に生きて、妹と一生を過ごす。出来るわけがない! 冗談じゃないぞ! 死ぬ時まで一緒なんて絶対にゴメンだ!!

俺の半身。
俺の妹。
俺の大切な、真道硝子……
お前は生きろ。俺よりもずっと長く。不幸は全部引き受けるから。情なんて掛けずに、見限って、切り捨てろ。幸せになれ。
俺みたいな屑の世話をして嬉しそうに笑うなよ。
笑うのは最期だけで良い。お前の為に死んで、仰向けに倒れて。それを見て微笑んでくれるだけで良いんだ。馬鹿な男だねって、その瞬間だけで良いんだよ。
それだけで俺は幸せだから。
そこまでして初めて、俺は罪から解放される。自分を許せる。
幼かったから。
力が無かったから。
そんなクソみたいな言い訳はとっくに死んだ。殺した!
もう、あんな思いは絶対にさせない……

この家に来てからは俺以外にも笑うし、親戚夫婦とも仲良くやってた。学校にも行き始めて俺よりも先に友達を作り、クラスの中心にはいつも妹。
硝子は輝く。だから俺も、俺の役目も終わり。
俺が居なくても硝子は輝けるから。俺が居ると硝子は輝けないから。幸せになれないから。そう分かったから。
俺は妹の幸せだけを考えて行動して来た。故に交遊関係も狭い、たいした趣味も無い、魅力も無い、ツマラナイ男。
だから高校に入り、加藤と出会った時は嬉しかった。コイツなら硝子の全てを受け入れて幸せに出来る。一見で思わされたから。頑張っても兄でしか無い俺よりもずっと、ずっと……
嗚呼、ここまで。償いはここまで。これからは俺も自分の為に生きてみたい。良いよな硝子? 離れていても、俺達はずっと一緒だから。お前が必要としたらスグに駆け付けるから。
そう思って、決心して、昨日の夜、硝子に話した。
この家を出たいって。
離れて暮らそうって。
好きな男を作れって。
硝子は驚いていたけど、その時は首を縦に振ってくれた。
そのやりとりで俺も、分かってくれたのかって安心して……

したらこのザマ! 人前で犯されて、授業中にセックスを迫られて、最低の方法で加藤を裏切った!!


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最終更新:2012年05月31日 14:36
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