傷(その2)

765 傷 (その2) sage 2008/10/20(月) 22:31:38 ID:yffdd9Lz

 その少年が初めて、この柊木家を訪れたのは、数年前のクリスマス・イヴであった。
 おりしも数年来の大寒波が街を襲い、本来なら払暁までジングルベルが鳴り響くはずの繁華街も、氷点下の吹雪を前にあえなく沈黙を余儀なくされ、ロマンチックなはずのホワイト・クリスマスが、凍死者さえ出すような恐怖の一夜に早代わりしていた、そんな夜。
 柊木葉月は、両親が施設から連れ帰ったという一人の少年を前に、ひたすら困惑していた。
「今日から家族の一員よ。名前は冬馬くん。仲良くしてあげてね?」
 母は彼を、赤ん坊の時に行方不明になっていた長男だと説明したが、そもそも、そんな息子がいた事さえ初耳であった葉月には、“生き別れの兄”などと言われても、にわかに信じる事はできなかった。むしろ、両親は少年に騙されているのではないのかと疑ったくらいだ。


(考えてみたら、第一印象、結構サイアクでしたよね……)
 葉月は、湯舟に肩まで浸かりながら、思うともなく思った。
 社交的な弥生は、自分とさほど年齢も変わらぬその少年とすぐに打ち解け、少年も、姉さん姉さんと弥生に懐いたが、葉月はさすがにそうはいかなかった。
 まあ、我ながら無理もないと思う。
 ある日、突然やってきた少年に、兄と呼んでくれと言われても呼べるわけもなく、妹扱いされても苛立つだけであり、それでいて自分を差し置いて、父母や姉と仲良くしている少年を見ても、家族を盗られたようにしか見えず、怒り以外の感情を覚えようがなかったのだ。

 実際、冬馬が来訪してから最初の数週間というもの、彼と葉月の関係は寒々しいものであった。
 彼の態度に何か落ち度があったかと言えば、そうではない。
 冬馬は実に礼儀正しく、それでいて葉月と仲良くしようという努力は、彼女本人から見ても結構涙ぐましいものであった。まあ、だからこそ、そんな彼の態度がいかにも胡散臭いものに感じられてしまったのも事実ではあるが。
 それまで一家の末娘として、両親や姉の寵を一身に受けていた葉月からすれば、突然出現し、家族の注目を奪ってしまった少年など“侵略者”以外の何者でもなく、“敵”に対して徹底抗戦を唱えるのは、彼女にとって、なんら不思議な事ではなかった。
 その当時から、学業成績に関しては神童の片鱗を見せていた彼女にしては、いかにも非論理的で、幼稚な発想ではある。
 だが、なにしろその当時の葉月は、まだ小学生でしかない。問題用紙の前ならばともかく、対人関係において、頭でっかちの小学生に大人の対応を期待するのは、やはり無理があったというべきだろう。

 そんな葉月の態度が変わったのは、少年の傷だらけの肉体を初めて見たとき。
 そして、彼がこの柊木家に来る前に、――自分が家族の愛に包まれて、何不自由なく育てられていた間に――自分と三つしか歳も変わらぬはずの彼が、どれほど悲惨な生活を送っていたのかという事を、ようやく推測する機会に恵まれたとき。
 葉月は、そのとき初めて、……文字通り、生まれて初めて自分を恥じた。
 死者に鞭打つどころではない。激痛に喘ぐ重症患者の傷口に粗塩をぶっかけるような所業。自分の取り続けてきた態度を形容するならば、まさしくそういうことであろう。
 彼女の潔癖さは、自分自身にそういう非道な部分があることに耐えられなかった。

 それまで己を無視し続けていたはずの少女から、ある日突然、涙ながらの謝罪を受けた冬馬は、むしろ謝罪の言葉よりも泣き喚く葉月に狼狽しながら、
「うん、分かった。分かったから……その……、泣かないで? お願いだから泣くのはやめてよ」
 と、困ったように言ったものであった。


767 傷 (その2) sage 2008/10/20(月) 22:33:15 ID:yffdd9Lz

 一旦、仲良くなってしまえば、彼は兄としても、遊び相手としても実に理想的であることは、すぐにも葉月にも理解できた。
 冬馬の持つ無鉄砲さや行動力は、兄として葉月を引っ張るには申し分なく、冬馬の陽気で優しい一面は、一緒にいても全く退屈を覚えず、さらに冬馬の素直さは、知識をひけらかす彼女に対し、まるで抵抗を示さず、むしろ喜んで教えを請うた。
 皮肉な事に、それからの葉月はむしろ家族の誰よりも、この兄に夢中になってしまったのだ。
 冬馬が友達の元に遊びに行くといえば、当然のように自分も付いていき、冬馬が風邪を引けば、自分も学校を休んで一緒にいると母親に駄々をこねた。
 そして、その思いは、基本的に今でも変わらない。
 今でも葉月にとっては、この世の誰といるよりも、冬馬とともに過ごす時間こそが、最も心安らかにいられる時間なのだ。

 だが、やがて葉月は気付く事になる。
 自分にとって、冬馬がかけがえのない兄であるのと同様に、弥生にとっても彼はかけがえのない弟であるのだという事実に。
 実際、親の前でさえアルカイックスマイルを崩さぬ弥生が、冬馬と二人でいる時だけ、子供のように無邪気に甘え、言いたい放題のわがままを言うのだと知ったとき、葉月は、しばし呆然となったものだった。
 彼女にとって、弥生はあくまで優しく頼り甲斐のある、毅然とした姉であり、それ以外の一面を見たことなど皆無だったのだから。

 これは恋なのだろうか。
 そう疑問に思ったことがないといえば、やはり嘘だ。
 さっき、姉には『それは許されない事だ』と言ったが、両親の言った“生き別れの息子”という話が半信半疑である以上、姉の態度を真っ向から否定する事は難しい。たとえ家族であっても、血が繋がっていないなら近親相姦の禁忌は当てはまらないのだから。
 おそらく弥生自身も、両親の話を完全に嘘だと断じているはずだ。そうでなければ、ああまで迷いの無い熱い眼差しを、弟に向ける事など出来はしない。

 ならば、自分はどうだ?
「ばかばかしい」
 思わず、口から言葉が出た。
 はっとして、狭い風呂場の中を見回す葉月。あたりまえだが、視界に人の姿はない。
 確認が済んでから、ようやく葉月はホッとする。人間、独り言を他人に聞かれる事ほど恥ずかしい事はない。扉の前にいたはずの姉が姿を消していて助かった。
 ざばりと湯から上がると、浴室の扉を開けた。火照った体に外気の冷たさが心地良い。脱衣場に掛けてあったバスタオルを手に取り、背中や胸を拭き始める。



768 傷 (その2) sage 2008/10/20(月) 22:34:49 ID:yffdd9Lz

(ばかばかしい)
 そう、ばかばかしい。
 自分は、姉とは違う。血縁であろうが無かろうが関係ない。兄を恋愛対象に選ぶような、そんな非常識な真似をする気はなかった。家族はあくまで家族なのだ。その範疇を突き破るような感情を、家族の誰かに抱く事など、彼女の潔癖さが許さない。
 自分が兄に対して抱く感情の基盤は、あくまで好意ではなく、心配である。
 柊木冬馬という人間は、地上の誰よりも幸福になる義務がある。
 葉月は、真剣にそう思っていた。
 柊家に来る前に、一体冬馬の身に何が起こったのか。それを彼女は具体的に知っているわけではない。そんなものは、その傷だらけの肉体を見れば、改めて問うまでも無いのだから。ならば、そんな彼が幸福になれない世界など、存在していいはずがない。
 自分は妹だ。
 だから、兄の隣に自分が立つことは在り得ない。
 だから、せめて兄の伴侶には、自分の眼鏡に叶う立派な女性を並ばせてやりたいだけなのだ。

 弥生は言った。
 それは嫉妬だと。
 そして、その嫉妬は正しいと。
 だが、葉月はそうは思わない。
(これは嫉妬なんかじゃない。姉さんのように禁じられた想いなどではない。これは家族として、兄妹としての当然の願いでしかない)
 そして、いずれ姉の想いにしても、遠からず釘を刺すつもりだった。
 弥生は確かに一人の女性として見れば、理想的な存在であろう。頭もよく、性格は真面目だし、人当たりもよく、家事もできる。何より、彼女は美しい。客観的に見れば、葉月からも文句のつけようもないだろう。
 だが、それでも弥生は姉でしかない。冬馬が本当に“生き別れの兄”である可能性が1%でもある以上、彼女は冬馬の隣に立っていい女性には決して成り得ないのだ。第一、そんな事を両親が許すはずがない。
 むしろ、それを承知しているはずの弥生が、何故、ああもあからさまな視線と態度を冬馬に向けるのかが、葉月には分からないくらいだ。

(ああ、もう、ダメダメ!!)
 葉月は、冷水を頭にぶちまけるような面持ちで、自分の両頬を打った。
 脱衣場に、ぱしんと乾いた音が響く。
 どんなことでも明確な結論を望むはずの自分が、あの兄の事を考えると、いつも思考は堂々巡りの袋小路に陥ってしまう。そして無駄に時間だけが過ぎ去っていく事になるのだ。
 時間は貴重だ。考えるべき事は、他に山ほどある。
 たとえば、明日は大学の研究室に行かねばならない日だ。
 論文の提出期限は、まだまだ先だが、それでも研究テーマに関して、自分の考えをまとめておかねばならない。中間報告とまでは言わないが、それでも何を問われても答えられるようにしておかなければならない。
 葉月は下着を身に着けると、髪にドライヤーを当てながら、明日行われるであろう質疑のシミュレーションを頭の中で繰り返し始めた。



769 傷 (その2) sage 2008/10/20(月) 22:36:16 ID:yffdd9Lz

 湯上りの色気立ち上る豊満な女体をピンク色のネグリジェに包み、姉は微笑んだ。

「――王手」

 姉より後に風呂から上がったはずの弟の体は、彼女とは対照的に冷え切っている。
「……」
「“待った”してあげようか? 冬馬くん」
「……」
 待ったもクソもない。
 結局ここまで追い詰められたら、十手くらい前から指し直さない限り、戦況を引っくり返す事は出来ないだろう。いや、それでも結果は変わらないはずだ。敗北への過程と時間が変わるだけで、おそらく二十手先から指し直したとしても、勝敗が覆ることは確実にないだろう。
(実力が違い過ぎる)
 脱帽するしかない。
「……投了します」
 そう言うと、その場に冬馬は土下座した。

 葉月が風呂に行ってから、浴室で彼女と、なにやらボソボソ話していた弥生だったが、リビングに戻ってきて最初に言ったの台詞は、
「夕方の勝負の続きをしましょう、冬馬くん」
 であった。
――で、結局、勝負再開からわずか一時間足らずで、土下座に追い込まれてしまったブザマな弟。そんな彼の頭を優しく撫でながら、弥生は尋ねる。
「やっぱり葉月ちゃんを部屋から呼んで来たほうが良かった?」
「あいつがいたところで、おれが姉さんに勝てたとは思えませんけどね」
 苦い表情のまま顔を上げ、ボソリと呟く弟に、弥生は嬉しそうに笑うと、
「コーヒー、淹れてくるわね」
 と言って、リビングからキッチンへ行ってしまった。

(葉月か……)
 妹が浴室から直接自室に行ってしまったのは、階段を上る音で、冬馬も知っていた。ラブレターを渡したことをまだ怒っているとは思わないが、完全に機嫌が直ったかどうかも分からない。
 このリビングの真上に位置するはずの妹の個室から、物音一つ聞こえないが、眠ってしまったか、勉強に集中しているかのどちらかであろう。ならば、どっちにしても、そんな彼女を将棋に誘うような真似はできない。彼としても、その程度の気遣いは出来るつもりであった。



770 傷 (その2) sage 2008/10/20(月) 22:37:39 ID:yffdd9Lz

「ねえ、冬馬くん」
 トレイに湯気が立ち上るマグカップと角砂糖の入った小瓶やクリープを載せ、弥生がリビングに戻ってきた。
「約束、覚えてる?」
「やくそく?」
「敗者は勝者の命令を一つ、何でも聞くって約束」

 そういえば、そんな事を言っていたような気がする。
 勝負そのものに気を取られて、結果に何かを賭けていた事実など、すっかり忘れていたが、それでも負けは負けだ。潔く命令には従うしかない。
「できれば……結構ソフトなやつをお願いしますよ。ブランド物買うような銭は無いスから」
「ばかねえ。そんなこと言うわけ無いじゃないの」
 弥生は、自分のコーヒーに三つ目の角砂糖を放り込みながら、頬を膨らませる。そんな姉の様子に、思わず冬馬は苦笑いを洩らした。
「私はただ、冬馬くんに訊きたい事があるだけだもん」

「え?」
 彼は思わず拍子抜けした。
 姉が何を訊きたいのかは知らないが、ただ質問がしたかっただけなら、将棋を指すまでも無かった気もする。『何でも言うことを聞く』などという強制執行権を突きつけられなくとも、自分が姉に逆らうなど、想像した事も無いのだから。
(普通の情況なら、おれが答えられないような事を聞きたいのか?)
 なら、質問の対象は限られる。
 過去の――肌の傷に関する虐待の詳細か。
 とも思ったが、彼女の性格からして、そうそう悪趣味な質問をするとも思えない。

「本当にそんな事でいいんスか?」
「うん。その代わり、質問は一つじゃないけど、いいよね?」
「まあ、別に訊かれて困るような事もないですし」
 そう言いながら、冬馬は一口コーヒーをすすった。
 実際、その言葉に嘘はない。
 苦労自慢をする気はないが、冬馬が昔の話を語らないのは、単に訊かれないから話さない、というだけに過ぎない。平たく言えば、この傷を見て、敢えて過去を語らせるような無神経な人間が、この柊木家にいなかったというだけの話なのだ。

「では、『お姉ちゃんから弟くんに百の質問』早速始めちゃうからねっ!!」
「え~~、百個もあるんスかぁ?」
 うんざりしたような冬馬に、弥生はいつもの子供のような無邪気な笑顔を見せた。
「じゃあ質問その1、冬馬くんは、私の淹れたコーヒーは嫌いですか?」
「いや、嫌いだなんて、そんな――好きっスよ。当然のごとく好きっスよ」
 彼は、反射的にマグカップをあおり、その数瞬後に、熱いコーヒーを一気に流し込まれた喉は、声にならない悲鳴をあげた。



771 傷 (その2) sage 2008/10/20(月) 22:39:11 ID:yffdd9Lz



「では質問その23、冬馬くんが嫌いなタレントは?」
「……ギャル曽根……かな……」

 瞼が重い。
 おそろしいほどの眠気が、いま、自分の意識を包んでいるのが分かる。
 気をしっかり持っていないと、このまま倒れ込んでしまいそうだ。
 コーヒーを飲んで眠くなる、なんてどういう事だろう。眠気が覚めるなら分かる話だが、逆に眠くなるなんて聞いたことも無い。自分の体が、そんなに疲れていたとも思えないが。
 おかしな事はまだある。
 意識がぼうっとしているにもかかわらず、何故か弥生の言葉だけが頭に響くのだ。
 まるで鼓膜を通さず、脳に直接問い掛けられているようだ。
 だから冬馬は、これだけの睡魔に襲われているにもかかわらず、弥生の質問に答えることに、どれほどの労力も必要としていなかった。意識を経由せずに届けられる姉の言葉に、これまた勝手に口が動いている。――そんな感じなのだ。
 だから彼は、姉の瞳に妖しい光が浮かんでいる事も気付いていなかった。


「じゃあ質問その29、冬馬くんは――お姉ちゃんが好き?」
「はい……だいすきです……」
「それは姉として? それとも女として?」
「……それは……わかりません……でも、ねえさんは、すき、です……」

 そのとき、喜悦と期待の熱を帯びていた彼女の瞳が、少しだけ失望の翳りに覆われたが、いまの冬馬には、それを知覚するすべはない。

「うん、じゃあ、私が正解を教えてあげる。冬馬くんは、姉として以上に女として、お姉ちゃんが大好きなの。それを自分で気付いていなかっただけなの。――分かった?」
「……はい」
「ふふふ、これで一つ賢くなったね冬馬くん。じゃあ自分で言ってみて?『お姉ちゃんと結ばれたいです』って。『他の女には興味ありません』って」
「……おれは……おねえちゃんと……むすばれたい、です。……ほかのおんなには……きょうみ、ありません……」
「もっと言うの。お姉ちゃんがいいって言うまで、何度でも繰り返して言うの。『お姉ちゃんと結ばれたいです』って。『他の女には興味ありません』って。――ほら、はやくぅ」
「おれは……おねえちゃんと……むすばれたい、です。……ほかのおんなには……きょうみ、ありません。……おれは……おねえちゃんと……むすばれたい、です。……ほかのおんなには……きょうみありません。……おれは……おねえちゃんと……むすばれたいです。……」



772 傷 (その2) sage 2008/10/20(月) 22:41:00 ID:yffdd9Lz



 これでもし効果があったなら、七万は安いかもね。まあ、お酒に混ぜて飲むだけでハイになるようなドラッグが二・三万もする御時世だから、安物といえば安物だし。しょせんダメで元々なんだけどね。
 そう思いながら弥生は、それでも一言一句を心に刻み込むような口調で言葉を繰り返す弟を見て、ほくそえんだ。
 彼女がコーヒーに混入した七万円の薬物と、付随するマニュアルに書かれていた洗脳のテクニック。――はっきり言って、それが、冬馬の深層意識にどれだけの影響を与えられるかは果てしない疑問ではある。
 それでも、少年の口から自分への愛の言葉を囁かせている現実は、それだけで股間を直撃するような刺激を、姉の神経に与える。
(すごい……私、今めちゃくちゃ興奮してる……ッッッ)
 頬を真っ赤に染めつつ、弥生は、自分の指先が疼く股間に向かおうとするのを懸命にこらえた。
 両親は二人とも朝が早いため、午後11時を過ぎれば床に就く。この時間になれば、もう起きてくる事はまず無いだろう。葉月も明日は大学に行く日のはずだから、今頃は予習に集中しているはずだ。つまり、こんな千載一遇の機会に、自分で慰めるなんて勿体なすぎる。

「さあ、冬馬くん、質問の時間はもうおしまい。これからはお食事の――そうね、夕食は済んじゃったから、お夜食の時間よ」
「……はい」
 弥生は、張り裂けそうなまでに激しい鼓動をこらえつつ、立ち上がると、ゆっくりネグリジェをまくり上げ、ショーツを下ろした。
 それを、とろんとした目で見つめる弟。
 粘り気のある透明な体液が、濡れた音を立てる。途端に込み上げてくる乙女の羞恥。
(狂え。覚めるな。もっともっと狂いなさい弥生)

 自身の情欲を最大限に掻き立てることで、羞恥とともに起き上がろうとする理性を懸命に抑え、震える声で心に命じる。実際、正気を可能な限り沈黙させねば、いま自分がやろうとしている事など、とても出来るものではない。
 父親に見られれば、その瞬間に平手打ちが飛んでくるだろう。母親に見られれば、この場で泣かれてしまうかも知れない。妹に目撃されたなら、冷たい声で「どうかしてる」と蔑まれるだろう。いや、葉月ならば或いは、無言で飛びかかって来るかも知れない。
 だが、そんなことはどうでもいい。
 誰に何を言われようが、かまわない。
 私にとっては、今この瞬間がすべてなのだから。

「さあ冬馬くん、お姉ちゃんのお股の割れ目を舐め舐めしてごらん? すっごく美味しいシロップが次から次へと溢れてくるから……」

 姉の命令に吸い寄せられるように、冬馬は、姉の股間に自らの唇を寄せた……。

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最終更新:2008年10月26日 20:44
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