350 名無しさん@ピンキー sage 2008/12/23(火) 21:13:35 ID:7meSZcWn
――――あの人は歪んでいます。
幼馴染にそう言われたのはいつのことだったろう。
「あの人」が私の姉を指すと気づいたのも最近のことだ。
姉さんはいつも私に優しかった。
それこそ、生まれたときから私は姉さんの怒った姿をあまり見たことがない。
年の近い弟だからか、姉さんはいつも私と遊んでくれた。
傍にいてくれた。
けれど、そのことに違和感を覚えたのは
つい先日のことだった。
私は幼馴染の娘と恋仲になった。
初恋は叶わないとはよく言うが、私たちにはどうやら当てはまらなかったらしい。
姉さんも喜んでくれる――
そう思って一番に姉さんに報告しに行ったのだ。
ことあるごとに、いつも私が付いていますからね、お前の面倒はずっと見ますから、などと
言われ続けてきたのだ。周りでも評判になるほど美人の姉さんが、縁談を断り続けてきたのも
私が不甲斐ないせいだったのだと思っていた。
しかし、これで姉さんの肩の荷を降ろしてやることができる。良い相手を探してくれる。
そう思っていた。
351 名無しさん@ピンキー sage 2008/12/23(火) 21:14:54 ID:7meSZcWn
最初、姉さんは無表情で聞いていた。
しかし、話が進むにつれてその顔は少しづつ、私の知らないものになっていった。
驚かそうとしてもそうはいきませんから、と笑っていた時はまだ良かった。
ところが、次第に顔が紅潮し、私の大切な宗太郎さんを、とか、あの糞猫が、とか喚き始めた。
かと思うと、私にもたれ掛かり、愛しています、だからどこにも行かないで、などと泣き出す始末。
ぞっとした。そしてその時初めて気が付いた。
姉さんは私のことを男として見ていたことに。
――確かに姉さんは歪んでいた。
けれども、私も姉さんのことは家族として愛していた。
だからこそ、真っ当な道に進んでほしかった。
――故に私は姉さんを拒絶した。
それからの姉さんは抜け殻のようだった。
あんなに美しかった長い髪も乱れ、生気を吸い取られたかのよう。
だが、私には距離を取ることしかできなかった。
時間が解決してくれる――私は根拠もなくそう思っていた。いや、ただ逃げていただけだった。
しばらくして姉さんは立ち直った。
以前と変わらない、淑やかな姉さんに戻ったのだ。
私は嬉しかった。これで家族として、お互いが上手くやっていけるのだと。
なのに、ここに転がっている幼馴染の首は何なのだろう。
出来の悪い人形のようになってしまった胴体に、何度も何度も刃を突き立てているあの人は誰なんだろう。
嗚呼。そうか。
彼女が言っていた言葉の意味が、真意がようやく理解できた。
確かに姉さんは歪んでいる。こんなにも醜く、美しく。
私に気付いて振り返った姉さんの顔は、私が見たこともないくらい綺麗な血染めの笑顔だった。
最終更新:2008年12月28日 23:04