未来のあなたへ5.5

745 未来のあなたへ5.5 sage 2009/01/13(火) 17:22:21 ID:7GyXmKXk
絶望を越えたなら、自由はそこにある。
世界はなんて美しい。





片羽桜子の奇妙な人生 ~経絡秘孔の一つを突いた、お前は既に死んでいる!~





僕は片羽桜子だ。命はまだある。
さて。僕という人間を語るとき、どこから話せばいいのか、少し悩むことがある。
過去の僕を語るか、現在の僕を語るか、未来の僕を語るか。
そういう区分分けになるのだが。それぞれのパートでオチがつくので、どのオチを最後に持って来るべきか悩むわけだ。
というわけで、三項目にざっとした内容を設けたので好きなところから見てほしい。
1.過去編(家族のこととか)
2.未来編(病気と心構えのこととか)
3.現在編(今の環境のこととか)
もっとも、そもそも僕の語りなんて興味ない人もいるだろうから、そういう人は全飛ばしでも構わない。どうせ本筋には影響ないしね。
それにこの先は、多かれ少なかれ死を取り扱った話になる。普通の人にとっては卑怯な話題だから、話半分程度に受け取るのがちょうどいいんじゃないかな。
それでは。退屈な話になるだろうが、片羽桜子という人間の半生を語ろうか。


746 未来のあなたへ5.5 sage 2009/01/13(火) 17:24:08 ID:7GyXmKXk

1.過去編
愛ゆえに生き、愛ゆえに死す。

僕も今では身寄りはないが、六年前までは家族がいた。父と母、そして僕という核家族構成。
今はもういない。二人とも死んでしまった。
父は僕が見るに普通の人だった。少々頼りないところがあり、お人好しなのが取り柄、そんな人だった。榊君に少し似ているかもしれないね。
僕の病気は生まれつきで、昔から入退院を頻繁に繰り返していた。昔からその世話を見てくれるのは父の役目で、よく背負われては病院に通った。
少し変な話だけど、僕にとって父は兄のような人だった。無論、僕には兄などいないけど、いたとしたらそんな感じだったんだろう。
父自身が実年齢よりもかなり若く見える、要するに童顔だったせいもあるんだろうけど。何より彼自身の性格に、押しというものが決定的に欠けていたのが原因だろう。
総じて、彼は誰かに害を及ぼすことのない人間だった。静かに生きて、静かに消える。僕にもそういうところがあるのは、遺伝なんだと思うことにしている。
今でも時々思う。父の人生は一体なんだったのだろう。
あんなふうに生きて、あんなふうに死ぬ。そこに父自身の意思は、どこまで通っていたんだろう。
それとも僕みたいに、妙な悟りでも開いていたんだろうか。悲しいことのはずなのに。そう思えば少し微笑ましい、というのは不謹慎なんだろうな。
母は、まあ、その、なんというか。
端的に言うと、狂っていた。母は、夫……父への愛に狂っていた。
あの人の人生には、たった二人。父と自分しか存在せず、父と自分しか必要としなかった。他の人間は障害物程度にしか思っていなかったし、それは僕とて例外じゃない。
愛のためならあらゆる倫理を突破する。そういう気性が存在することを、僕は生い立ちから知っていた。優香君も同じ方向性だね。
母自身のステータスはずば抜けたものがあった。僕の美人は母譲りだし、女ながらに大企業の管理職を勤めていたと聞いている。能力が高いだけにその行動を阻止するのは容易ではなく、母は我が家で絶対権力者だった。
その狂いっぷりを示す事例はいくらでもあるんだが。その中でも特大三つを一気に列挙してみよう。
1.父とは実の姉弟。
2.自分の両親(僕にとっての祖父母)を殺害。
3.死因は父との無理心中。
どうだい、酷いだろう。半端じゃない。



747 未来のあなたへ5.5 sage 2009/01/13(火) 17:24:44 ID:7GyXmKXk
まず、1のそもそも血の繋がった姉弟という点からおかしい。しかも僕という子供までいる。近親相姦以外の何物でもない。これはちょっと成歩堂氏でも弁護はしきれない。
ただし、父と母が姉弟という間柄にも関わらず、なぜ未婚とはいえ夫婦なのか。その経緯を推測するとき、僕の存在は鍵となる。つまり近親相姦妊娠逆レイプ。つくづく父のお人好しには頭が下がる。
自身が、父を繋ぎ止めるための道具として生まれた。そのことについて思い悩んだこともある。まあ結論から言えば、他にも色々ありすぎてその程度は埋もれてしまったわけだけど。
そうそう。というわけで、優香君が榊君を愛している、という推測に至ったのはこういう環境からだった。僕にとっては前例ありまくりな訳だからね。二回も係わり合いになるとは、一体どういう確率なんだろう。
ちなみに僕がどうやって1の驚愕事実を知ったのかといえば、母は家で父に姉さんと呼ばせていたからだ。おかげで世間に接するまで、姉というのは妻への呼称だと思ってたさ!
2の祖父母殺害についてだが、実のところ裏付けはない。事故死だったとは聞いているけど、当時の状況も詳しくは知らないのだ。
ならばどうしてそう思うのかといえば、父や母の言葉の端々を集積したとしか言えない。たとえばこんな具合だ。
『大丈夫。泥棒猫はお姉ちゃんが殺してあげるから……ね? 父さんや母さんみたいに』『や、やめてよ姉さんっ! 僕が悪かったから!』
ちなみに姉がそんな凶行に走ったとして考えられる動機は、言うまでもないので省略する。それはまあ、普通の親なら絶対認めないだろうなあ。
3は、僕自身が目の当たりにした最後だ。とはいえ、その瞬間を目にしたわけじゃない。ある日退院して両親の待つ家に戻ったら、二人は血塗れでロビーに倒れていた。凶器は包丁。喉と腹がざっくりと開いていた。
ちなみに僕もその場で卒倒して死にかけた。興奮や驚愕で不整脈に陥るようになったのはこの日からだ。全く、これ以上の驚きが一体どこにあるって言うんだろう!
母がどうして父を刺したのか。その理由は未だにわからない。いい加減父も我慢の限界だったか、あるいは浮気でもしてると誤解したのか。もはや永遠の謎だが、僕としては理由をあまり気にしてはいない。
今思えば、理由なんてきっかけに過ぎない。母がああいう人間である以上、遅かれ早かれこうなっていただろう。生きた不発弾のようなものだ。
僕の母は、愛が強すぎた。
愛は人を殺す。
今はもういない、僕の家族から得たものの幾つか。
僕の、色恋沙汰に対する淡白な態度は。こうした精神的な土台からも生まれてきたものだと思う。
そして、この僕の病も。生まれついての心臓病も。
血の繋がった姉弟で愛し合ったことに対する、神様の辻褄合わせなのかもしれないね。


748 未来のあなたへ5.5 sage 2009/01/13(火) 17:25:23 ID:7GyXmKXk
2.未来編
死を恐れるな、だが命は惜しめ。

僕は、生まれついて重度の心臓病を負っている。
簡単に言うと、他人よりも心臓の筋肉が弱いという病気で。普段は何とか普通に行動はできるんだが、ちょっとしたことで心臓がパニックになると心不全に陥ったりする。
いわゆる奇病で、治療法はまだ確立されていない。心臓移植が唯一効果があるそうなんだが、僕は体質的に稀なパターンらしく(血液型にもあるよね)かなり絶望的なんだそうだ。宝くじで前後賞がまとめて当たるぐらいの確率だとか。
というわけで、僕はこの心臓と生涯付き合っていかなければならない。今からこいつのことは心臓君と呼ぼう。
心臓君は貧弱な坊やで、興奮するとすぐにばててしまう。それだけなら僕も倒れるだけで済むんだが、心臓君がひっくり返って気絶してしまったりすると、僕はもれなく心停止で死んでしまうという、困った一蓮托生だったりする。
一応、症状を和らげる薬は常備してはいるけれど、市販の風邪薬と同じ程度の効能らしい。ま、それでも無いより余程心強いけどね。
何より大事なのは、興奮しないこと、平静を心がけること。
そうして僕は生きてきた。
興奮を過剰に煽る諸々、遊園地の絶叫系アトラクション、ホラー映画、急激な運動、恋愛、唐辛子。そういったものを能動的に避けるのは勿論ある。
そして、後は受動。突然遭遇した出来事に対しても、驚愕や動揺をしないように、常に心がけていなければならない。
平静であれ、感情を乱すな、クールになれ、素数を数えろ……
朝起きた時から、夜寝るまで。物心ついた時から、ずっと。
生きるために。

そうして、当たり前だが僕は。感情をほとんど表さない人間になっていった。
いいや。表さないだけじゃない。感情というものを、心底下らないと思うようになっていったんだ。
何があっても笑いもしないし、泣きもしない。美しいものを見ても感動などしないし、自分の病状にも失望しない。逆に、そういった事柄に一喜一憂する人間を軽蔑していた。
愛など僕には不要だ。
世界はなんて下らない。
全く、なんて可愛げのないロリだろう。いや、ガキだろう。ラッシュを見開きで五ページぐらい食らわせたいよ。おらおらー。
心が歪めば世界も歪む。
その時の僕には、世界は平坦にしか見えなかった。外に興味を持たず、病院と家と学校を往復する日々。それだけで満足する日々。
勿論、それは僕自身の心が平坦だったわけだが。けれど、決して自ら改めようとはしなかった。
本当は、怖かったからだ。
そう。下らないと決めつけながら、僕は本当は怖かった。恐ろしくて恐ろしくて仕方がなかった。
脅威と興味に満ちた、外の世界が。そして、脅威と興味の果てに訪れる、死が。僕は恐ろしかったんだ。
まさに、取れないブドウは酸っぱい論理。
まあ、結局僕は甘ったれているだけだった。心の底では、いつか病気が治って普通に生きられると思っていたんだからね。
何故なら、自分はこんなにも我慢しているのだから。我慢して生きているんだから、報われないとおかしい、と。
表では世の中全てを興味がないと見下して、裏では死を恐れながら他人から与えられる救いをただ待っている。いやあ、なんて可愛げのないロリ(略)
さて、そんなガキに皆さんお待ちかねの天罰が二度ほど下る。
正に絶望というものを味わい、その衝撃で発作を起こし、二度ほど死の淵を彷徨うことになる。

ところで。ここで脱線するのだけど、まず絶望の定義からしてみよう。おっと、これは単なる僕の持論だからね。
簡単に言うと、絶望とは『どうしようもなさ』だと僕は思う。
ある問題が存在するとして、それが解決可能なものなら。人は怒ったり悲しんだりするかもしれないが、解決のために手段を執るだろう。
けれど、その問題を解決する方法がないのだとしたら。人はいったい、どうすればいいのか。
勿論、そんな問題は幾らでもある。例えば、死など最たるものだ。人間はどう足掻いても死ぬ。それはどうしようもない。だから、死と絶望は強く結びついている。
ただし人間は面の皮が厚くできている。どうしようもない問題は、スルーすることを知っている。深入りしてもどうしようもないことに、わざわざ自分から深入りする人はあまりいない。
だが、問題は時に。問答無用で人間に突きつけられることがある。スルーしようがないほど、どうしようもなく。
つまり絶望とは。『どうしようもない』問題を『どうしようもなく』突きつけられた時に、起こるものだと思う。
問題そのものに絶望するんじゃない。避けようのない問題に対して一切何の手も取れないことに、絶望するんだ。



749 未来のあなたへ5.5 sage 2009/01/13(火) 17:26:05 ID:7GyXmKXk

さて、分かり難いあやふやな話はこれくらいにして。具体例にいってみようか。
第一の絶望は、両親の死。
僕がどう足掻いたところで、父と母は生き返らない。
第二の絶望は、余命の宣告。
僕がどう足掻いたところで、僕はあと数年で死ぬ。
いやはや。間を置かずほぼ二連発だったからね。例えるならガゼルパンチからデンプシーロールを食らったようなものだよ。
余命に関しては、以前からわかっていたことではあるんだろうが。両親は本人に伝えないことを選んだんだろうね。で、二人が死んで本人に来ただけのことだ。
これで、いつかは治るなんて無根拠な願望を抱いていたんだから、全くもって。人生はショートで見れば悲劇、ロングで見れば喜劇だね。
ま、数年と言いつつ余命予測は二十代半ばだったのはさておき。
絶望したよ。
某先生風に表現するなら。絶望した! 両親が死んだことに絶望した! あと数年で死ぬことに絶望した! といったところだね。
目の前で無惨に死んでいた両親。近い内に自分も辿る未来。
正に、『どうしようもない』問題を、『どうしようもなく』突きつけられたわけだ。
死のうと思ったよ。
死のうと思って、病院の屋上に登った。
いずれ死ぬのに今死ぬなんて、馬鹿げてると思うかい? けど、絶望の中で何年も生きるなんて、死ぬより余程辛いとそのときは思ったものさ。
いや、これは今でも思っている。死ぬよりも、生きるほうが余程辛い。
病院の屋上に登ったのは、看護師が最も忙しい夕方だった。シーツが取り込まれ、誰もいないがらんとした屋上に、物干し台だけが立ち並んでいた。墓標のようだと思ったよ。
屋上の端まで歩き、フェンスを乗り越える。死ぬと決めたからか、体は妙に軽かった。
病院暮らしが長いから、たまに飛び降りる患者がいることも知っていた。死にたくない人は、足から落ちて両足を折る。だから、頭から落ちないといけないな、と考えてたよ。
フェンスの向こう側の迫り出しに立つ、その向こうにあるのは、夕焼けと朱に染まった街並みだ。
ま、引っ張るのはこれくらいにしておこう。ありきたりな話だが、結局僕は死ぬのをやめた。直前で心変わりしたんだ。
夕焼けと朱に染まった街並みが、あまりに美しかったから。
死に対する恐怖で、世の中全てを興味がないと見下していた僕は。死が確定したことで、やっとそんな下らなさから開放されたんだ。
君は目が覚める音、というのを知っているかい? めりめりと、目ヤニで固まった瞼が痒痛と共に開いていくんだよ。額にもう一つ、目ができたような感じだったよ。
世界はなんて美しい。
そうして、開いた目で自分を見てみれば。
この美しい世界と同じように。僕が生きていることが、急に惜しくなったんだ。
わかるかい? みんなや僕の足元に共通で広がる死の淵が怖いんじゃない。みんなや僕がそれぞれ持っている、命という火が惜しいんだ。
僕の命は、もうすぐ消える蝋燭の火のようなものだ。
だが、それだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。数年後には消えるが、まだ消えてはいない。
それが、僕の持って生まれた命で。それをどうするかは、完全に僕の自由だ。
生きるというのは。死を恐れて逃げ回ることじゃなかった。
この命を、どう使うか。生きるというのは、そういうことじゃないか。




750 未来のあなたへ5.5 sage 2009/01/13(火) 17:27:55 ID:7GyXmKXk

3.現代編
覚悟は『幸福』だぞエンポリオ!

両親が死んだ後、僕は数少ない親戚から引取りを断固として拒否された。
そりゃまあそうだろう。なにしろ無理心中した姉弟の娘なんだからね。その上重度の心臓病で、祖父母も不審な死を遂げている。忌まわしいことこの上ない。
結局、一応の保護者として大叔父の庇護下に入るけど、基本的に親族とは断交することになった。まあ両親の遺産がかなりあり、当時すでに十四歳だからこそできた芸当だね。

おっと、少し脱線するがここで数字の誤謬を正しておこう。
問:両親が死んだのは六年前なのに、当時十四歳とはどういうことか。
答:僕は今年で二十歳になる。成人式を迎えられる年齢だ。
はっはっは。いや、別に騙すつもりはなかったんだけど。わざわざ言い出すのも変かなあ、と思ってね。榊君には悪いことをしたなあ。
ま、普通に考えれば当たり前で。これだけ入退院を繰り返してれば、当然出席日数も足りなくなる。ちなみに小学五年生で一回、高校二年生で一回留年してる。
ちなみに今年の誕生日は既に迎えているので、僕は既に二十歳だ。名前の通り、春生まれだったのでね。

すっぱいブドウ理論で武装していたせいで、僕には友達というものができたことが無い。そこから自由になっても、出席日数の少なさと留年による大先輩扱いで結局無理だった、まあ仕方ない。
そんなわけで。僕は入退院を繰り返しながら、一人で絵をかいては暇を潰すという生き方を続けてきた。
それができる程度の遺産は両親、そして祖父母は残してくれていた。というか父と祖父母の保険金……まあいいか。
絵を描き始めたのは父の影響だ。といっても、父が絵描きだったわけじゃない。入院中、退屈そうにしている僕に、クレヨンとお絵かき帳を渡したのが父だった、というだけの話さ。
何しろ暇だけは有り余っていたから、才能はさておき腕前は上達していった。画材もクレヨンからスケッチ、パステル、水彩とエスカレートしていったけど、流石に油絵はやめておいた。体力的に。
けれどそのうち、モチーフに行き詰った。前述の通り、僕は外界に関わることが恐ろしかったから。病院周辺の景色ばかり、いつまでも描いていては飽きもくる。
そうして飽きたということで、その時は絵筆を投げ出した。けれどそれは、ただ自分や周囲を上辺だけで誤魔化しただけだ。
本当は、外の世界を描きたかった。
だから、目が覚めた後は。外の世界を描くことにした。
夕焼けに染まる街並みを。青春を謳歌する生徒達を。日々通う平和な場所を。ゆっくりと巡る季節の移り変わりを。それらの景色を目の当たりにした時に抱く、僕の感情全てを込めて。
この美しい世界を、描きたいと思ったんだ。
感動とか悲しみとか、ありのままを感じた末に、倒れたこともよくあったけど。まあ、まだ生きているから結果オーライでいいだろう。その程度のリスクは織り込み済みだ。
それに、理由はそれだけじゃない。その、なんだ、あれだよ。
僕は死ぬまで性交ができない。膜が破れると同時に心臓も破れてしまうからね。HAHAHA。
逆説的に。性的興奮が御法度なら、下手くそ相手ならいいのか? という考え方もあるが、となると僕は童貞専門というすごいレッテルを貼られてしまう。それに童貞でテクニシャンだったらどうするんだ。
ま、冗談はさておき。この場合の問題は快楽ではなく、その結果。つまり子供だ。
僕の体力で妊娠、出産に耐えられるかどうか、がまずかなり怪しい。更に、僕自身があと数年で死ぬのというのに、子供に対して無責任でしかない。トドメに、僕自身の先天的疾患が遺伝しないとは限らない。
色々あるが、僕は子供を残せそうにない。
だからまあ、絵を描くのはその代償行為だ。いずれ消えるこの命を、形にしてこの世界に残したい。それは生物としてごく自然な欲求じゃないかな。
僕が死んだら、これらの絵は数少ない知人に配布してもらうよう、既に遺言状に書いてある。その中には榊君も柳沢君も優香君も晶君も含まれている。何しろ何時死ぬかわからない身だ、頻繁に書き換えないとね。
勝手に押しつけるわけだから、下手くそだと捨てられないよう、一枚一枚できるだけ上手に描いている。それでなくても、僕の人生を塗り込んでいるようなものだ。手など抜けるわけがない。
ま、ただのオナニーにならないように頑張るよ。


751 未来のあなたへ5.5 sage 2009/01/13(火) 17:30:40 ID:7GyXmKXk

僕の語りはこんなところだ。長々と退屈な話題ですまなかったね。
最後に、榊君と優香君のことでも話そうか。
榊君と付き合うつもりはない、と言ったのは本心だ。前述の通り、僕は子供を残せない。性交も無理だ。それなら、男女交際を行う理由がない。
それに僕はあと数年で死ぬ。そんなどうしようもないものを、榊君に突きつけるつもりはない。絶望を越えた時、人は自由になれる。だが、越えられなければ屍と化す。
とはいえ、優香君を応援するのかといえば。それもなんだかな、という気もする。
僕は近親相姦自体を否定するつもりはない。何しろ僕自身がその結果だ。自分自身を否定することになる。
問題は純粋に、果たしてそれで榊君が幸福になれるのか、ということだ。
どうも優香君には僕の母と同じ臭いがするんだよな。その願望だけじゃなく、高いスペックで事態をごり押しするところとか、相手の感情を実は全く思いやっていないところとか。
このまま行くと、父のようになんじゃこりゃーと終わりそうな気がしてならない。いや、父が不幸だったかといえばノーと言いたいけど、妙な悟りを開かなければ幸せとは言えないだろうなあ。
榊君には恋愛感情はないけれど、大事な後輩であることには変わりない。せめて卒業するまでは、面倒を見てあげたい気持ちはある。今まで気付かなかったけど、僕は過保護なタイプなのかもしれないな。
あと数年で死ぬからといって、無責任に投げ出したくはないんだ。
僕が死んでも彼等は生きていくし、僕が影響を与えたことは彼等の中で続いていく。
絵と同じだ。遺伝子ではないけれど、この世界に僕が残す生きた証の一つ。それなら、せめて良い影響でありたいよ。

死は不可避だが、僕はそれを恐れてはいない。
胸を張って、軽く笑って、命を好きに使えばいい。
自由な心さえあるのなら、世界はなんて美しい。
ふふん。

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最終更新:2009年01月18日 19:59
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