負い目2

279 負い目2-1 ◆DqcSfilCKg sage 2009/06/01(月) 01:11:32 ID:GQp74FgZ

 どうぞ、とカップを差し出すと、姉さんは声のした方に向かって体ごと乗り出してきた。そのまま抱きついてくる
姉さんを、カップ片手の俺はどうにか中身をこぼさない様に抱きとめる。我ながら器用な、と思っていると抱きつく
腕に徐々に力が込められ、胸に埋まる頭からえへへ、と何とも言いがたい笑い声が漏れた。
 いいかげん離れなよ。言おうとする僕を見計らったのかは分からないけれど、ごめんね、と見下ろした先から聞こ
えるそれに何も言えなくなる。「迷惑だよね」と、姉さんは顔を胸に擦りつけながら続ける。見えないけどかぶりを
振る僕に、その揺れで気づいたのか、姉さんは顔を上げて満面の笑みを浮かべた。
 見える右目を眼帯で覆い、見えない左目で僕を見つめるそれは濁っていて、とても綺麗だった。

 月に一度、姉さんは見える右目をわざと覆い隠し光を閉ざす。なんでも、見えなくなった方の目をカバーしようと
右目に必要以上に負担がかかるらしく、左目に引っ張られる形で右目も視力を落としてしまうという。要はガチャ目
みたいなもの、とは姉さんの弁だ。だから、普段から見えないことを前提に生活をしていない為、ひどく不便になる
姉さんのお世話を買って出る事は、僕の中ではとても自然なことだった。
「悪いよ。しゅーくん」
 俯く姉さんの顔には真っ白な眼帯。罪悪感が激しく僕を責めたて、テーブル越しに姉さんの手を取ると、姉さんは
見えない方の目で微笑んでくれた。それだけで救われる気持ちになる自分が、やっぱり嫌いだった。

 こうして始まった月一の介護生活。始めこそ危なっかしい足取り、手つきに手を貸すことが多かったけれど、勝手
知ったるとはよく言ったもので数ヵ月後には部屋の移動ぐらいなら一人でも十分に出来るようになっていた。そのこ
とを褒めるたびに姉さんはなぜだか少し不機嫌そうに口を尖らせるけれど、次の瞬間には決まって僕に抱きついてく
るのだから、本気で気を悪くしてはいないのだろう。
「しゅーくん。絵本読んで」
 代わりに、と言ってはなんだけれど視覚を塞いだ姉さんはいつも以上に僕に絡むようになった。考えてみれば当然
のことで、テレビや読書は視覚が伴うものであるからどうしたって娯楽は限られてくる。おかげで深夜ラジオにはま
ったらしいけれど、何よりも僕と触れる時間が圧倒的に多かった。
 少しだけ斜めに突き出された絵本を受け取ると、姉さんは見えない方の目を細める。絵本はいつも「ヘンゼルとグ
レーテル」。他にプレゼントした絵本も読んであげたかったけれど、あぐらをかく僕の足の上に座り、嬉しそうにお
さまる姉さんを見て僕は表紙を開いた。
 なんとそこにはお菓子で出来た家があったのです。
 姉さんは目をつぶり、もたれかかるように僕に体を預けていた。たまにそのまま眠ってしまう姉さんはでも、今日
はなぜだかもじもじとその小さな体を揺するように動かしている。いぶかしむ僕の雰囲気に気づいたのか、姉さんは
首だけを僕に向ける。少し恥かしそうに身をくねらせる姉さんは、おずおずと口を開いた。
「しゅーくん。おしっこ」



280 負い目2-2 ◆DqcSfilCKg sage 2009/06/01(月) 01:12:09 ID:GQp74FgZ

 細かい作業を伴うもの以外は殆どの事をこなせるようになった姉さんは、なぜかトイレだけは僕を同伴させている。
しかもトイレまで連れて行くだけならまだしも、一緒にトイレに入り姉さんの下着を下げ、用を済ませた姉さんの後
始末までする。いくらなんでも、という言葉はやはり姉さんの言葉で遮られた。
「ごめんね、しゅーくん。そうだよね、変だよねこんなこと弟にさせるなんて。だけどね、その、お姉ちゃん情けな
 いんだけどしゅーくんがいないと何にも出来ないの。駄々をこねる子供に戻っちゃうの。しゅーくんが近くにいな
 いと寂しくて辛くて、もしかしたら世界に一人だけなんじゃないかって。でもしゅーくんは優しいからこの眼帯を
 取ればすぐそばにいるって分かってるのに、ずるいよね、こんなお姉ちゃんイヤだよね? だけどね、お姉ちゃん
 はイヤって思ってても嬉しいの。こうやって休日にしゅーくんにお世話されて、しゅーくんがいないと満足にお手
 洗いにもいけないことにすっごく満足してるの。だから、その、そのね? しゅーくんにはもう少しお姉ちゃんの
 そばにいて欲しいな? いつか捨てられちゃう事ぐらいお姉ちゃんにも分かるけど、分かるけどでも、それでもし
 ゅーくんがこうしてお姉ちゃんの為にこんなことまでしてくれてることがとっても嬉しいの。ごめんね? ごめん
 ねしゅーくん。ダメなお姉ちゃんで」
 狭いトイレの中で僕は跪き、ワンピースをたくし上げている姉さんの下着を下ろす。陰毛の少ない、その綺麗な下
半身をなるべく見ないように便器に座らせると、チョロチョロと水音だけが響く時間が続いた。
「ねえ、しゅーくん。そこにいる?」
 最中、何度も確認する姉さん。僕は「うん」と頷き返し、その度に「よかった」と顔を綻ばせる。
 そんなやり取りを何度も繰り返し、姉さんは「終わったよ」と、僅かに足を開いた。僕は用意していたトイレット
ペーパーで姉さんの股間に手を伸ばす。アンモニア臭が僅かに鼻につくものの、姉さんのものだと思えば不思議と汚
いものには思えなかった。手を抜くと、顔を赤らめた姉さんがこちらを見下ろしていた。
「ありがとう。しゅーくん」
 膝の辺りで留まっている下着を上げている間も、姉さんの見えない左目はずっと僕を捉えたまま離れない。狭い部
屋の中で見当違いの方向を見るなんてまずないのだけれど、見えてるのではないか、という疑いさえかけたくなるほ
どの熱い視線に少し戸惑いを覚える。もちろん、そんな疑念は僕の見えてれば良いなという都合の良い思いでしかな
く、先にトイレを出ようとする僕を姉さんは後ろから抱きつくことで引き止めた。存外に強い力につんのめる僕の体
を、姉さんは器用に先ほどまで自分が座っていた便座の上へと座らせる。見上げると、にやにやとした笑みを浮かべ
た姉さんが、見えないはずの目で僕を見つめていた。
 姉さんは跪き、手探りで僕の股間まで手を忍び込ませると、そのまま僕の性器を取り出す。笑みが更に深くなった
かと思うと、ふいに泣きそうな顔でこちらを見上げる姉さん。
「ごめんね、しゅーくん。お姉ちゃん、こんなにまでしてくれるしゅーくんに何もしてあげることがないの。お姉ち
 ゃんなのに、こんな状態でお料理もお洗濯も出来なくて役立たずのお姉ちゃんで。でもしゅーくんはこんなお姉ち
 ゃんに優しくしてくれて。とっても感謝してる。だから、だからそのね、ね?」
 徐々に寄せる口から漏れる吐息に図らずも強張りを見せる性器に、姉さんは「良いよね?」と最終確認とばかりに
つぶやく。僕が頷くと、感じ取ったのか満面の笑みを浮かべてそれを頬張った。


おわり

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最終更新:2009年06月07日 22:04
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