転生恋生 第十二幕

185 転生恋生 第十二幕(1/5) ◆.mKflUwGZk sage 2009/08/04(火) 22:13:30 ID:FZPA4iXV
 せっかくのゴールデンウィークを病院で過ごさなければならないお袋は気の毒だと最初は思った。けどまあ、考えてみれば専業主婦のお袋にとってはあまりゴールデンウィークのメリットはないし、むしろ家事から解放されるから、本当の意味で骨休めになるのかもしれない。
 現在大阪に単身赴任中の親父は、お袋が入院したという話を聴いて最初は心配したようだが、すぐに退院できると知って安心すると、急に関心をなくしてしまった。
「それじゃあ、家に帰ってこないのか? 1度くらい見舞いに行ったら?」
「虫垂炎ならどうってことないだろう。わざわざ金と時間を費やして戻る必要があるとは思わん」
「久しぶりに我が家に帰ろうとは思わないわけ?」
「母さんがいるならゆっくりできるが、入院中の家事は仁恵がやることになるんだろう? 父さんの面倒まで見させるのはかわいそうだ。少しでも負担を軽くするために父さんは大阪に残る」
 俺としては姉貴の関心が少しでも親父に向いて、俺の負担が軽減されることを期待したんだが、親父は察してくれなかった。
「母さんの留守をしっかり守れよ。仁恵に全部押しつけないで、太郎も少しは手伝うんだぞ」
 いっそ、姉貴の魔の手から俺を守ってほしいと泣いてすがりつくべきだろうか。
「それじゃあ、元気でな」
 そう言って親父は電話を切ってしまった。
 やれやれ、俺はこれから5日間、独力で貞操を守らなければならないわけだ。
 ……どんなに希望的観測を重ねたシミュレーションを繰り返しても、陥落必至という答えしか出ない。なんとかして親父を呼び戻す手を考えなきゃならんな。
「たろーちゃん、夕食にしましょう」
 ダイニングから姉貴の声が聴こえてきた。お袋は夕食の支度中に倒れて病院へ運ばれたわけだが、俺たちふたりで入院手続きを済ませて帰宅してから、姉貴が作りかけの夕食を完成させた。これからいつもより遅い夕食だ。
 こういう点は姉貴がいてくれてよかったとは思うが、どうにも素直に感謝できない。
 食卓に向かい合って座り、「いただきます」とハモってから食事にかかる。
「ねぇ、こうしてふたりっきりでご飯食べてるとさぁ……」
 姉貴がニコニコしながら話しかけてきた。食卓に会話があってもいいとは思うが、姉貴とふたりきりの場合は「黙って食え」と言いたくなる。どうせくだらない話題だろう。この後の姉貴の台詞も想像がつく。
「まるで新婚夫婦みたいだよね、私たち」
 相変わらず予想を外さない。無視しようかとも思ったが、暴走するくらいなら適度に相手をしてやって、多少方向性を修正しようと試みる。
「産まれてこのかた、十年以上も一緒に暮らしてるんだから、新婚なんていうほど初々しくないだろ」
「そうだね。もう、酸いも甘いもかみ分けて、お互いのことは性感帯も好きなプレイも全て知り尽くしてる熟年夫婦だよね」
 俺は姉貴の性感帯なんか知らないし、知りたくもない。
「熟年夫婦ってゆーか、むしろ倦怠期だな」
「それじゃあ、刺激を取り戻すために過激なプレイに挑戦しようよ」
 俺の方向修正の努力をものともせず、姉貴は姉弟相姦に向けて突っ走り続ける。もう、これ以上話すと食欲が失せそうなので、黙って食うことにした。
 俺が食っている間も、姉貴は延々とラブラブ会話をひとりで続けた。そのせいで食事が遅れていたが、俺が「ごちそうさま」と言って席を立つと物凄い勢いで食べ終える。
「さあ、一緒にお風呂に入ろうね」
 歯を磨き終えたところで俺は姉貴に拘束された。有無を言わさず風呂場へ引きずられていき、服を剥がされて洗い場へ連れ込まれる。とりあえず腕力ではかなわないので、俺は無駄な抵抗はしなかった。
「うふふ……、今夜はふたりっきりだから、長い夜にしようね。大声あげても誰も来ないから」
 本人はムードを出しているつもりだろうが、途中からまるっきり強姦魔の口調だ。

 世の男たちは一生のうち何人の女と一緒に風呂に入ることができるだろうか。まあ、恋人ないし夫婦関係になる女の数とほぼ等しいだろう。
 では17歳でそのような経験ができる男は全体の何パーセントか。これはかなり小さい数字になると予想できる。
 だが、そのような経験ができて、なおかつ相手が実の姉だという男は、日本でも片手で数える程度しか存在しないだろう。
 幸か不幸か、俺がまさにその一人だ。



186 転生恋生 第十二幕(2/5) ◆.mKflUwGZk sage 2009/08/04(火) 22:14:32 ID:FZPA4iXV
 現在、俺と姉貴は真っ裸で浴室にいる。俺は椅子に腰掛け、姉貴は鼻歌交じりで俺の背中を流しているという構図だ。
「たろーちゃんの背中は広いねー」
 俺の背中は石鹸の泡で包まれ、弾力のある感触が上下に往復している。姉貴が胸を押しつけて洗っているのだ。
 ……まあ、風俗物のAVで見たことがあるから、ソープランドでそういう洗い方をするというのは、知識としては知っている。
 だけど、どう考えてもこんな洗い方で垢が落ちるわけがないよな。姉貴はさっきから鼻息を荒くするばかりだが、俺は全く反応しない。
「じゃあ、今度は腕ね」
 姉貴が右側に回り、俺の二の腕を胸の谷間に挟み込んで上下にこする。更に手の先を股間にこすりつける。
 ……陰毛があるから、まだしも摩擦が働くか。スポンジたわしみたいなものかな。まあ、逆に何かが付着しそうな気がするが。
 同じことを左腕にもやり、続いて俺の足に跨って股間をこすりつけた。姉貴は息が荒くなる一方だが、俺は相変わらず反応しない。
 いくらプロポーションがよくても、美人でも、身内の体なんて肉と脂肪の塊でしかない。普通のAVやエロ雑誌なら興奮するわけだから、相手が姉貴であるということが唯一最大の要因なわけだ。
「たろーちゃん、どう? 気持ちいい?」
 いつの間にやら、姉貴は俺にのしかかって、俺の胸に乳房を押しつけている。俺が平然としているのに気づいているのかいないのか、まるっきり風俗嬢のノリだ。
 身内にこんなことをされると、どんどん気分が悪くなる一方だ。なんでわからないんだろう?
「それじゃあ、いよいよ……」
 目をぎらつかせながら、姉貴は俺の前に膝をついて、泡まみれの両掌で俺のペニスを包み込む。竿と玉袋にまんべんなく泡をまぶし、優しくしごく。
 傍から見ると鼻血モノの光景のはずだが、俺としては気持ち悪くて仕方がなかった。肉親に性器をいじられるなんておぞましいと思う俺が異常なんだろうか。
 いや、俺が正常だ。断じて異常ではない。そうでなければ、世界は異常者で満ち満ちていることになってしまう。姉貴の方が異常なんだ。
 姉貴は目を血走らせて興奮しまくっているが、どうしてこんなことができるんだろう?
 ……俺のことを弟と思っていないからか。それはそれでショックだな。
 死んだ恋人の代償として俺相手に性欲を発散させようとしているのだと思うと、裏切られた気分だ。
 俺は姉貴をキモいと思うが、肉親に対する愛情は持っているつもりだ。それが一方通行な思いで、姉貴は俺を都合のよい肉人形か何かとして扱っているとなると、本気で凹む。
 もう、いい加減終わりにするか。
「姉貴さぁ」
「なぁに?」
「さっきから色々やってるけどさ。俺は全然気持ちよくないぞ。むしろ気持ち悪い。手を離してくれ」
 姉貴はがっくりと肩を落とした。
「ごめんね。私が下手で」
「そういう問題じゃないよ。巧くてもダメだと思う」
「まさか、そんな……」
 姉貴は青くなった。
「たろーちゃん、女に興味がないなんて言わないわよね? 男が好きだなんて……」
「違うよ!」
 途方もない誤解が生じそうになったので、俺は慌てた。
「俺はノーマルだよ。普通にAVも見るし」
「ああ、よかった」
 姉貴は胸を撫で下ろした。



187 転生恋生 第十二幕(3/5) ◆.mKflUwGZk sage 2009/08/04(火) 22:15:37 ID:FZPA4iXV
「でも、それならどうして私に反応しないの? 自分で言うのもなんだけど、スタイルには自信があるのよ。たろーちゃんに気に入ってもらえるように努力して磨いてきたんだから」
 確かに、姉貴はスタイルがいい。バストの大きさや形、ウェストからヒップにかけてのラインなんかは申し分ない。だけど、姉貴の体というだけで台無しだ。
「姉貴の体じゃ興奮しないんだよ。手コキされたって同じことだ。自分でする方がよっぽどいい」
「なんですって!」
 右手にも劣ると言われて、さすがに姉貴は傷ついたらしい。上体が揺れて、床のタイルに手をついた。よろめいてしまったんだな。
「思うにさ、姉貴は俺に裸を見せ過ぎたんだ。見慣れちまったんだよ」
 物心ついた頃から一緒に風呂に入っていたし、胸を押しつけられるのもペニスをしごかれるのも日常茶飯事だ。非日常的な刺激こそが最良の媚薬だということが、姉貴にはわかっていないんだな。
 エロ本だって、今にして思えば中学生の頃に人目を気にしながらコンビニでこっそり立ち読みするのが一番興奮した。姉貴のアソコなんか、散々拝まされてきたから、ありがたくもなんともない。
「どうしてよ? 私はたろーちゃんの体を見るだけで濡れるわよ」
「でも、俺の方は見飽きたんだよ」
「ひどい! 私の体に飽きただなんて……!」
 誤解を招くような言い方をするな。……いや、ある意味正しいか。
「さっきさ、熟年夫婦に喩えただろ? 実際、夫婦も長年一緒にいると異性として意識しなくなるらしいしさ。姉と弟だって同じだよ」
「同じじゃないもん! 私は物心ついた頃からたろーちゃんに欲情し続けてきたもん! 私とたろーちゃんがセックスできる年齢になるまで、一日千秋の思いで待ち続けてきたのよ!」
 知るか、そんなこと。物心ついた頃からって、姉貴が幼稚園児で、俺がまだよちよち歩きの頃からか? 嫌過ぎる幼児だな。
「とにかく、俺は姉貴を異性としては見られないんだよ」
 俺は自分でシャワーを使って泡を洗い流すと、湯船に浸かった。姉貴は恨みがましい目つきで俺を見やったが、この場は諦めたのか、自分の髪と体を洗い始めた。
 さっさと風呂場を出ようかとも考えたが、これからの数日間を考えると、いやこの先の人生を考えると、どこかで腹を割って話さないといけない。
 姉貴が体を洗って湯船に入ってくるのを待って、俺は極力真剣な声を出して語りかけた。
「姉貴さ、さっきの続きだけど、大学行けよ。そしてちゃんと仕事しろ。それが姉貴のためだし、俺がそうしてほしい」  
「たろーちゃんは、嫁に家にいてほしくないの?」
 この場合の「嫁」が一人称であることは明らかだった。俺はため息をつきたくなるのをこらえる。
「そうだな、どっちかっていうと、働く女の人が好みだな」
 おふくろは専業主婦だが、一日中家にいて退屈じゃないだろうかと思う。友達の話を聴いても、共働きの母親の方が若々しい気がする。
「じゃあ、考える」
 案外素直に姉貴は前言を撤回した。そうか、こういう言い方をすれば説得できるのか。
「学校へも進路希望を出し直しておけよ」
「でも、たろーちゃんと同じ大学に行きたいから一浪する」
 わかってねーよ!
「そういうの、もういい加減にやめてくれよ! 姉貴の人生は姉貴の人生だろ! いつまでも俺にべったりくっつくのはお互いのためにならないんだよ!」 
 堪えきれずに声を荒げた俺に対して、姉貴は浴槽の中で体を寄せてきた。湯に浮く乳房が俺に押しつけられる。
「私たちはずっと一緒にいなければいけないの! そう誓ったんだもの! やっとめぐり逢えたのに、離れ離れになるなんて考えられない!」
 姉貴も珍しく声を苛立たせている。まるで姉貴の話を理解できない俺が悪いと言いたげだ。いや、本気でそう思っているんだろうな。
「やっとめぐり逢えたって、どういう意味だよ。ずっと家族として一緒に暮らしているっていうのに」
「千年ぶりに逢えたって意味だよ」



188 転生恋生 第十二幕(4/5) ◆.mKflUwGZk sage 2009/08/04(火) 22:16:34 ID:FZPA4iXV
 またその話か。もううんざりだ。
 いよいよ俺は切り札を出すことにする。
「姉貴、俺はもう知っているんだ」
「何を?」
「姉貴が俺以外の男に恋をして、その相手に死なれたせいで、俺を身代わりにしようとしているってことさ」
 姉貴の顔色が変わった。やっぱり、一番の急所を突かれたせいだろう。
「悲しい恋の終わり方をした姉貴には同情するよ。だけど、俺をその男の身代わりにするのは間違っている。早く吹っ切って、新しい出会いを……」
「何の話をしているの!」
 姉貴が血相を変えて俺を遮った。こんな表情の姉貴を見るのは初めてだ。ちょっと怖いが、勇気を奮って続ける。
「だから、姉貴が前に付き合っていた男の話だよ」
「そんな人はいないわ! 私がたろーちゃん以外の男を好きになるわけないでしょ! 誰の話をしているの!」
「誰かは知らないけどさ、当事者から聴いたんだよ」
「誰よ! 誰がそんな嘘を吹き込んだの!」
 姉貴が俺の両肩をつかんで詰め寄る。指が食い込んで痛い。雉野先輩の名前を出したくはなかったが、痛みと怯えのせいで口を滑らせて閉まった。
「雉野先輩から聴いたんだよ」
「あのクソキジが! あいつが何を言ったの!」
 ますます指が食い込んできた。皮膚を破って血が出そうだ。
「昔、雉野先輩とその友達が取り巻きをやっていた男を姉貴が奪い取って、その後男が死んでしまったせいで、姉貴と先輩たちの関係が悪くなったって、雉野先輩から聴いたんだよ」
 姉貴はキツネにつままれたような顔をした。俺の肩をつかむ力が急に脱けていく。俺は姉貴の手を振り払ってまくし立てた。
「元はといえば、姉貴が他人の男にちょっかいを出したのが原因だろ? そりゃ、恋愛は自由だし、好きになったものはしょうがないだろうけどさ。姉貴が恨まれるのは当然だよ。何より、俺を巻き込むのはやめてくれ!」
 湯の中で叫ぶのは意外と体力を使うらしい。俺は少し息が荒くなっていた。
 黙って聴いていた姉貴だったが、いつの間にか冷静な表情に戻っていた。
「なーんだ、そのこと」
 拍子抜けしたように言う。
「たろーちゃん、誤解してるよ。あのクソキジが紛らわしい言い方をしたせいだね」
「どういう意味だよ。雉野先輩が嘘を言ったっていうのか?」
「嘘というわけではないわね。まあ事実を歪めているけど」
「男を奪い合ったっていうのは事実なんだろ?」
「本当のことよ」
 あっさり認めやがった。改めて本人の口から聴くと、ちょっとショックだな。あれだけ俺にべったりしておきながら、他の男を好きになっていたなんて。
 だが、姉貴は俺が全く予想していなかったことを言った。
「だって、その男ってたろーちゃんのことだもの」
 何を言っているんだ、このキモ姉貴は。
「クソキジが言ったのは千年前のことよ。あいつら、たろーちゃんの家来だったの。でも、私がたろーちゃんと愛し合うようになって、嫉妬に駆られて主人を裏切ったのよ」
「おい、ちょっと待て」
「まるで私のせいでたろーちゃんが命を落としたように言うなんて、本当にクズだわ。性根が腐っているのは相変わらずね」
 当時のことを思い出したかのような口ぶりだが、それはおかしいだろ。



189 転生恋生 第十二幕(5/5) ◆.mKflUwGZk sage 2009/08/04(火) 22:17:15 ID:FZPA4iXV
「さすがに刑事事件になったら面倒だと思って見逃していたけど、今度もまた私とたろーちゃんの仲を引き裂こうとするなら、本格的に痛めつけてやらないと……」
「待てって言ってるだろ!」
 俺が怒鳴ったせいで、姉貴はひとり語りをやめた。
「何?」
「俺は姉貴の妄想話のことなんか訊いちゃいない。姉貴が雉野先輩と奪い合った男の話をしているんだ」
「だから、千年前の話だって言ってるんじゃない」
「違うだろ! せいぜい一昨年かそこらの話のはずだ。おおかた、俺が中学生のときに高校で付き合っていた男がいたんだろ?」
「そんなわけないじゃない。私はたろーちゃん一筋なんだから」
 憤慨したように言う。待て待て、どうにも話が噛み合わない。姉貴は俺を死んだ彼氏の身代わりにする為に、千年前からの絆云々の話をでっち上げて、俺にまとわりついていたんじゃないのか?
 ……いや、でも確かに姉貴は物心ついた頃から俺にべったりだった。生まれ変わりの話も随分昔から口にしていた。昨日今日作った話じゃない。
 だとすると……、馬鹿な、そんなことあるわけないじゃないか。
「姉貴、雉野先輩と男を奪い合ったこと自体は認めるんだな」
「そうよ。前から何度も話しているじゃない。私とたろーちゃんは千年前からの絆があるって。……ああ、そうか」
 姉貴は腑に落ちたという顔になる。
「考えてみれば、千年前に私とたろーちゃんがあいつらのせいで命を落としたという話はしなかったわね。あんまり思い出したくなかったし、私たちが愛し合っていたということの方が大切だから」
「じゃあ、雉野先輩は千年前のことをさも最近のできごとのように話したっていうのか?」
「そのとおりよ」
「それだと、雉野先輩は千年前の仇の生まれ変わりで、しかもその記憶を持っているっていうことになるぞ!」
「別に不思議なことじゃないでしょ」
 わかりきったことといわんばかりの姉貴に、俺は一気に湯冷めしそうなほどの寒気を覚えた。
 姉貴がイカレているのはいい。今に始まったことじゃない。だが、雉野先輩まで姉貴に話を合わせているだと?
 どういうことだ? 雉野先輩が仲の悪い姉貴と話を合わせる必要があるのか? そんなわけがない。
 雉野先輩が嘘を言った? 何のために? 俺はふたりの仲が悪い理由を教えてほしいと頼んだ。その理由を説明するのに、もっともらしい嘘をついたのか?
 だが、姉貴は雉野先輩の話は本当のことだと言う。仲の悪い先輩をかばう必要はない。やっぱり、ふたりが意図的に話を合わせたとすると不自然なことになる。
 とすると、ふたりとも嘘は言っていないと考えるしかない。同じ男を奪い合ったことは事実だ。
 でもそれは千年前のことだと? それじゃあ、それじゃあ……、雉野先輩も姉貴の同類で、千年前の生まれ変わりがどうのなんて話を信じているサイコ女なのか!?
 いや、辻褄が合いすぎる。千年前の話が事実だと思うしか……。
 そんなことあってたまるか!
「顔が赤いよ。そろそろ出ようね」
 長く湯に浸かりすぎたせいか、湯当たりしてしまったらしい。
 ぼうっとして頭がふらつく俺を、姉貴が抱きかかえて風呂場から連れ出した。姉貴の腕力なら、どうってことなく軽々と俺を運べる。
 そのまま姉貴はふたりして全裸のまま俺の寝室に入り、俺をベッドに寝かせて絡みついてきた。体中を撫で回され、特に局部を刺激されたが、やっぱり俺は反応しなかった。
 最終的に姉貴は添い寝するだけで満足することにしたようだが、俺は雉野先輩のことが頭の中をぐるぐると駆けめぐり、なかなか寝つけなかった。
 あの笑顔の裏で、エロ親父な態度の裏で、俺を千年前に失った男として見ていたのか……?
 確かめないといけない。でも確かめるのは怖い。雉野先輩が姉貴の同類だとしたら、今までどおり接することはできない。
 唯一の逃げ道は姉貴が嘘をついていると思うことだ。そう思うことにしよう。
 その結論に達して、ようやく俺は眠りにつくことができた。既に明け方近かった。


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最終更新:2009年08月10日 21:24
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