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三つの鎖 6 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/11/19(木) 23:44:14 ID:FfJ/mHzL
昨日、わたくし加原梓の一日は慌ただしかった。
色々ありすぎて目が回る日々だった。
お昼の弁当はすごくうれしかった。
私はああいうバカップル的なシチュエーションに弱い。いや、憧れている。
お弁当に鮭の身でハートが描かれていた時は本当に興奮した。
私は騒ぐクラスメイトを放置して、一人屋上で弁当を味わった。至福の時だった。
もちろん食べる前に携帯で写真を撮った。ばれないようにロックつきのフォルダにしまった。
予想外の事に私は浮かれていた。まさか兄さんがこんな弁当を用意するなど夢にも思わなかったのだ。ここ数年、ずっと冷たく接しているのに、
午後の授業もそのことを思い出しては幸せに浸っていた。
だから夏美が兄さんに弁当の事を問い詰めに行こうと言っても、問い詰める気は全くなかった。
ただ、兄さんが何を考えてあんな事をしてくれたのか知りたいとは思った。ついでにこの件を利用して兄さんがシスコンという評価を固めるのも悪くないかと思った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
兄さんのクラスに着いたとき私は上機嫌だった。私は意外とめでたい人間かもしれない。兄さんの作ってくれた弁当にハートのマークがあるだけで幸せに浸れるのだから。
だが春子が兄さんに抱きつくのを見て一気に不機嫌になった。兄さんが照れているのも気に食わなかった。
私の兄さんにふれるな。
喉まででかけたその言葉を私はぐっと飲み込んだ。
だいたい兄さんも兄さんだ。私が触れても顔色一つ変えないくせに。毎朝起こしに来るとき私の下着姿を見ているじゃない。家で薄着姿の私の姿も見ている。なのに春子がくっつくだけで何であんなに赤くなるのよ。
その時の私の表情は夏美と耕平さんが後ずさるほどの危険な表情だったようだ。
私に気がついた兄さんがのんびりしているのも腹が立った。何が「梓。どうしたの?」よ!
春子が私に抱きついて頬ずりしてきてもうっとおしいだけだった。春子の腕に抱きしめられ、春子の胸が私にふれる。腹立たしいことに柔らかくて気持ちよかった。
兄さん。春子の胸にデレデレしてたんだ。本当に腹が立つ。
私は春子を突き飛ばして兄さんの前に仁王立ちになった。もちろん兄さんの方が大きいので下から睨めつける形だ。
「私の友達にお兄さんと呼ばせたり、挙句の果てに春子にまでお兄さんと呼ばせたり。そんなに妹が好きなのこのシスコン」
自分でもとんでもない言いがかりだ。
兄さんは膝をついて私と目線を合わせた。その動作が私を子供扱いしているようで余計に腹が立った。
「梓。僕が頼んだわけじゃないよ」
「そーだよ梓ちゃん!私は幸一君のお姉ちゃんだよっ!」
うるさい。春子は無視だ。
「じゃあ今日の弁当は何なの?」
私は不機嫌そうに尋ねた。実際不機嫌だった。ちょっと前まであれだけ上機嫌だったのに。
「あのシスコン丸出しの弁当は何だったの?クラス中が引いてたわ」
私は嬉しかった。
「梓。あれは違う」
「言い訳するつもり?この変態シスコン」
私は兄さんの頬を両手ではさみ揺らす。自分で理由を尋ねて言い訳するなと言う。どれだけひねくれているんだ私。
「何を想像しながらあんな弁当を作ったの?私がどんな事を考えてあの弁当を食べるか分かってた?」
分かる兄さん?あの弁当を食べてる間私は至福の時を過ごした。妹としてでも、兄さんが私を好きな証だと思った。
「梓。落ち着いて」
兄さんの困った顔が目の前にある。兄さんの顔が近い。
「黙れこのシスコン!あのハートは何なの?今時のバカップルでもしないわよ!」
嬉しかった。ハートに兄さんの愛があると思った。
「梓。話を聞いて」
兄さんが私に懇願する。だめだ。濡れそう。
「何?そんなに妹が好きなの?兄さんの分際で私が好きなの?どうなのシスコン?」
違う。妹の分際で私が兄さんを好きなのだ。
「梓」
「私の名前を呼ぶな変態シスコン!」
もっと私の名前を呼んで。
ぶつけた罵倒はそのまま私に帰ってきた。奇妙な興奮を感じた。
兄さんの悲しそうな困った顔がさらに私を興奮させた。
体が熱い。兄さんを罵倒するのも興奮する。私の両手が兄さんの顔にふれている。気持ちいい。
兄さんの顔が近い。唇に目が行く。
キスしたい。キスしてほしい。
「あのー。梓ちゃん」
耕平さんの声が聞こえる。
「あのさ、弁当って鮭を砕いて白米の上にハートの形にまぶしたやつやろ?」
「耕平さんには関係ありません」
602 三つの鎖 6 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/11/19(木) 23:46:50 ID:FfJ/mHzL
邪魔をするな。
兄さんの唇。柔らかそう。
体が熱い。兄さんの唇を見るだけで興奮する。
ふれたい。ふれて欲しい。
「あの弁当って京子さんが作ったって聞いんやけど」
耕平さんが何か言っている。今更そんなことどうでもいい。
兄さんが困ったように私を見る。可愛い。
「あのね梓ちゃん。幸一君のお弁当も鮭でハートがまぶしてあったんだ」
兄さん。もっと私を見て。
「本当だよ。今日は京子さんがお弁当を詰めたんだ。僕もお弁当を開けてびっくりしたよ」
だからもうそんな事はどうでもいい。
兄さん好き。愛してる。
興奮しすぎて頭がくらくらする。
柔らかそうな兄さんの唇。
もういいや。兄さんの唇が欲しい。
兄さんの唇に顔を近づける。だけど力が入らなかった。
そのまま兄さんに倒れこむ私。
兄さんは私を抱きしめて受けとめてくれた。
私は兄さんの腕の中で意識を失った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
気がついた時誰かに背負われていた。
すぐに兄さんの背中だと気がつく。広くて温かい兄さんの背中。
珍しく興奮よりも心地よさを感じた。まるで昔の私たちのようだった。
「あれ?起きちゃった?」
優しい兄さん声。
「寝ていていいよ」
「梓、後でいいからお兄さんに謝っておきなさいよ」
夏美の声。
「…うん」
私は素直に答えた。
兄さんの背中が心地よい。ずっとこのままでいたい。
優しい私の兄さん。勘違いしたままの兄さんに私はいつもひどい事をしている。それでも兄さんは私のそばにいてくれる。
「兄さん」
「何?」
「ごめんね」
だましてごめん。好きになってごめん。妹なのに愛してごめん。
それでも諦めなくてごめん。
兄さんの髪に顔をうずめる。兄さんの匂い。
不思議な気持ちだった。何も知らずに兄さんの事が好きだった、子供の頃に戻った気分だ。
私は兄さんの背中で眠った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めたとき、私は家のベッドで寝ていた。
時計を見ると、もう遅い。両親が帰ってきているかもしれない時間だ。
ベッドを下り部屋を見渡す。きれいに掃除され私の制服が丁寧に畳まれている。私は寝間着に着換えさせられていた。
着替えた記憶がないから兄さんが着替えさせてくれたのだろうか。
体が熱くなる。兄さんが私の制服を脱がしパジャマに着替えさせているのを想像するとそれだけで濡れてきそうだ。
私は深呼吸した。熱い吐息を吐く。きっと弁当みたいに京子さんだろう。あの兄さんが私を脱がす根性があるとは思えない。
お腹が減った。兄さんなら料理を作ってくれているはずだ。私は起き上がり、一階に下りた。
「あら。起きたの」
京子さんがリビングでのんびりとお茶を飲んでいた。
「お母さん。お腹減った」
「はいはい。幸一君の料理があるから待ってね。温めるから」
京子さんは笑って立ち上がった。思わず京子さんの胸に視線がいく。春子と同じかそれ以上。
今日の兄さんは思い出す。春子に抱きつかれて恥ずかしがっていた兄さん。腹が立つ。
「梓ちゃん。どうしたの?乙女がしちゃいけない表情をしているわよ」
にやにや笑う京子さん。この人は全部お見通しなんだろうな。血こそつながってないけど、私が物心ついた時から面倒を見てくれたから。
603 三つの鎖 6 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/11/19(木) 23:50:33 ID:FfJ/mHzL
子供の時から私は疑問に思っていた。京子さんは私の気持ちに気が付いているのだろうか。私が兄さんにゆるされない気持ちを抱いていることを。
京子さんなら気がついてもおかしくない。それなのに何も言わないという事は、やはり気がついていないのだろうか。もし気がつかれたのなら、私は兄さんと引きはがされるはずだ。
「どうしたの?そんなに私の胸が気になる?」
京子さんはにやにや笑いながら私の胸を見た。ちょっとムッときた。私は別に胸の大きさなど気にしない。本当だ。意識したこともないぐらいだ。女の価値は胸なんかでは決まらない。まったく。
ふと思う。私を生んでくれた人は胸が大きかったのだろうか。
「お母さん。怒らないで聞いてね」
「なあに?」
「私を生んでくれた人って胸大きかった?」
京子さんは複雑そうな顔をした。この家で私と兄さんを生んでくれた人の話題は無い。お父さんと京子さんは話さないし、私と兄さんも聞かない。
私も生んでくれた母の事は興味ない。私にとってお母さんと言えば京子さんの事だからだ。ただ、胸がどうだったかはほんの少し気になる。
「そうね」
京子さんはにっこり笑った。
「私と同じぐらい大きかったわよ」
思わず京子さんの胸を凝視してしまった。
「だから梓ちゃんにも将来性は十分よ」
そうなのかな。将来性は十分なんだ。よしっ。ていうか私は何を聞いているんだ。
「お母さん」
「なあに」
「変な事を聞いてごめんね」
京子さんはにっこり笑った。いつもの笑顔だった。
とりあえず牛乳の摂取は続けようと思った。
「あとで幸一君に感謝しときなさいよ。梓ちゃんを背負ってベッドまで運んでくれたんだから」
「お母さんには礼を言うわ。私を着替えさせてくれてありがとう」
京子さんは笑った。いや、にやにやしている。
「なによ」
「梓ちゃんを着換えさせたのは幸一君よ」
…え?
「いやね、私今日はお仕事早く終わって帰ったら梓ちゃんを背負った幸一君とばったり会ったのよ」
言葉が頭に入らない。
「幸一君が私に頼むのよ。梓を着替えさせてほしいって。制服がしわになるし風邪をひくって」
京子さんは楽しそうに話した。
「もちろん私は言ったわよ。お兄ちゃんなんだからそれぐらいしなさいって」
耐えきれないというように京子さんは腹を抱えた。
「幸一君たら必死に抵抗するのよ。年頃の妹にそんな事できないって。ま、無理やり幸一君にやらせたけどね」
あの兄さんが私の制服を脱がせてパジャマに着換えさせた。
意味を理解した途端、頭が爆発しそうになった。体中が熱い。恥ずかしさに叫びたくなる。
「……兄さんはどんな風に私を脱がせたの」
京子さんはにやにやと私を見た。
「面白かったわよ。顔を真っ赤にして恥ずかしそうに梓の服を脱がせるのよ」
あの兄さんが私を脱がせて恥ずかしがった。
そうなんだ。兄さん私の体を見て恥ずかしがってくれたんだ。
私は嬉しかった。兄さんは私を女をとして見てくれたんだ。
「恥ずかしいって聞いたらね、いいえって消えそうな声で言うのよ。すっごく可愛かった」
真っ赤になった兄さんを想像して鼻血が出そうになった。いけない。
「ご飯が出来たら呼んで!」
私は京子さんに背を向けた。部屋で落ち着こう。
「幸一君もう寝てるから起しちゃだめよ」
京子さんの声を聞きながら私は二階に上った。
兄さんの部屋の前で立ち止まる。ドアをゆっくり開けると中はすでに暗かった。兄さんの静かな寝息がかすかに聞こえる。
部屋に入りドアを閉める。私は兄さんのベッドに近づき顔をのぞいた。
兄さんは少し疲れたように寝ていた。寝顔が可愛い。
私は兄さんの手を握った。ひんやりと冷たい兄さんの手。
この手が私の服を脱がしたんだ。
そう思うだけで興奮する。私は本当に馬鹿だ。何で起きなかったのか。そして寝た振りをすれば恥ずかしがりながら私にふれる兄さんを見れたしその手を感じれた。なんてもったいない。
私は兄さんの頬にキスした。ちょっと兄さんの頬を舐めた。兄さんの味がした。
いけない。今の私は完璧に変態だ。でもいいや。
私は何度も兄さんにキスした。ついでにちょっと舐めた。
京子さんが私を呼ぶ。兄さんの作った晩御飯が温まったのだろう。
私は上機嫌で兄さんの部屋を出た。今日の締めくくりは兄さんの手料理だ。
今日は実りある一日だった。
最終更新:2009年11月22日 20:30