三つの鎖 9 前編

541 三つの鎖 9 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/19(土) 01:53:19 ID:XOuT2u+2
三つの鎖 9

 あの日。兄さんと夏美がキスしたのを見た日。
 兄さんは私を追ってこなかった。

 あの後、私は部屋に引きこもっていた。兄さんが来るのをずっと待っていた。
 春子がいろいろ話しかけてきたが、無視した。うるさいだけだった。
 父さんと母さんは春子が説明したようだ。何も話してこなかった。なんて説明したのかは知らないし知りたいとも思わない。家の家事も春子がやってくれたようだ。
 頭に浮かぶのは悪夢のような光景。兄さんと夏美のキス。恥ずかしそうに幸せそうに寄り添う二人。私が追い求めてやまない光景。そして絶対に手に入らない光景。
 私が背を向ければ兄さんは追いかけてくれた。なのに。何で来てくれないの。私が背を向けるとすぐに追いかけてきてくれたのに。
 夏美といる方が兄さんにとって大切なの。
 全身が熱い。私はすでに汗だくだった。考えにふけっていると、ドアが控えめにノックされる。
 「梓ちゃん?」
 春子の声。
 「入るよ」
 お盆を持って春子が入ってきた。
 「朝ご飯食べよ」
 もう既に朝なのか。カーテンの奥はすでに明るくなっていた。春子の持つお盆にはサンドイッチと飲み物が乗っていた。
 「兄さんは?」
 春子は困ったような顔をした。兄さんは来てくれなかったんだ。どうして。
 お盆の飲み物を見ると喉がからからなのを今さらになって自覚した。コップを手に口にすると冷たくて微かな苦みが喉を通る。アイスティー。私の好きな飲み物。兄さんはいつも冷蔵庫にアイスティーを入れてくれている。
 次にサンドイッチを食べた。鳥の照り焼きが入っている。兄さんの料理と似た味。
 「鳥の照り焼きを教えたのは春子だったんだ」
 「そうだよ」
 私の独り言に春子は答えた。兄さんの得意な料理の一つ。私の好きな兄さんの料理。
 何で?何で兄さんは来てくれないの?
 私に負い目を感じている兄さんはいつも私を追いかけてくれた。私が冷たくすれば必ずそばに来た。
 何で今は来てくれないの?
 「梓ちゃん。ちょっといいかな」
 春子が話しかけてくる。憂いを含んだ悲しそうな顔で私を見つめてくる。いつもののんびりとした表情は無い。
 「幸一君を縛るのはもうやめてあげようよ」
 心臓がきしむ。
 「何を言ってるの?縛るって何のこと?」
 「幸一君の罪悪感に付け込んでいるでしょ?」
 「私は何もしていない。兄さんが勝手に引け目を感じているだけよ」
 春子が私を見る。表情に浮かぶ悲しみ。不快だ。
 「かわいそうな梓ちゃん」
 私は春子を睨みつけた。私は数ある選択肢から一番ましな方法を選んだ。その結果に同情などされたくない。
 他にどんな方法があるというのか。兄さんも私も幸せになる選択なんて無い。兄さんを不幸にせず、私も不幸にならないぎりぎりの妥協。それが私の選んだ選択。
 春子はそんな私を悲しそうに見つめた。春子は腕を伸ばし私の頬に触れる。温かい感触。それが余計に私をいらつかせる。
 「幸一君を追っても追い切れないから、幸一君の罪悪感に付け込んで従わせた」
 うるさい。
 「梓ちゃんを追いかける過程で幸一君は本当に成長したよ。昔のお調子者で思慮の浅い手のかかる男の子は、今の幸一君になった」
 梓が私の頬をなでる。その手にはテーピング。昨日私が痛めた手。
 「全部梓ちゃんのためだよ」
 「私は一度も頼んでない」
 私は吐き捨てた。
 「春子は関係ないでしょ。私と兄さんの兄妹の関係に口出ししないで」
 「関係あるよ」
 春子は悲しげに微笑んだ。
 「私は幸一君と梓ちゃんのお姉ちゃんだよ」
 「血のつながった私の兄弟は兄さんだけよ」
 「梓ちゃんも気が付いているでしょ。幸一君は罪悪感で縛るのはもう無理だって」
 春子の頬を涙が伝う。
 「幸一君も薄々気が付いているよ。梓ちゃんは本当は嫌っても憎んでもいないって。幸一君を縛る罪悪感は幻だって」
 「うるさい。黙って」
 「かわいそうな梓ちゃん。幸一君が欲しくて、でも手に入らないならせめて傍に置くために幻の罪悪感という鎖で縛りつけて」
 私の頬に当てられた春子の手が震える。
 「でもね、幸一君は鎖に縛られたままで必死にもがいて、必死に努力したんだよ。梓ちゃんのために。本当に残酷だよ」
 春子の涙はとめどなく流れる。涙が床に落ちる。


542 三つの鎖 9 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/19(土) 01:55:40 ID:XOuT2u+2
 「幸一君を束縛しても、幸一君の心は手に入らないんだよ」
 「春子に私の気持ちの何が分かるの」
 私の声はどうしようもなく震えていた。私は最善の方法を選んだはずなのに。
 「分かるよ」
 春子はまっすぐに私を見た。涙でぬれた瞳。そこに同情も憐憫も無い。あるのは悲しみだけ。
 「お姉ちゃんにもよく分かるよ」
 私の怒りは急速にしぼんだ。春子の言葉に同情や憐憫があれば私は爆発したに違いない。しかし、春子は同情も憐憫もしてない。悲しみだけがある。
 分からない。春子がそこまで悲しむ理由が分からない。
 春子は悲しげに私を見た。
 「梓ちゃん。昨日幸一君は来るはずだったんだよ」
 私は春子の言っていることが分からなかった。
 来るはずだった?
 「どういう事?」
 「私が止めたの」
 一瞬で私の頭は沸騰した。
 春子の胸倉をつかみ足を払う。倒れた春子に馬乗りになり胸倉をつかみいつでも首を締め上げれるようにする。
 「私が幸一君にメールしたの。私が話すって。今は顔を合わせない方がいいって」
 春子は淡々と言った。微塵の恐怖も感じさせない落ち着いた声。それが何よりも私をいらつかせた。
 「ふざけないで!何でそんな事をしたの?」
 春子の胸倉をつかむ手に力がこもる。
 「幸一君は梓ちゃんに誠実に話すと思う。そうなったら梓ちゃんは今私にした事と同じことしたでしょ」
 私の手を春子の手が包む。テーピングの巻かれた手。私が痛みつけた手。
 「弟と妹が傷つけあうのをもう見たくないの」
 私は唇をかみしめた。
 ふと脳裏に浮かんだ疑問。昨日、兄さんは家に戻ってこなかった。兄さんは昨日の晩どこにいたのだろう。
 まさか。
 「兄さんは昨日どこにいたの」
 春子の顔色がわずかに変わった。
 私が最後に見たとき、兄さんは夏美といた。
 「夏美なのね」
 春子は唇をかみしめた。
 兄さんが夏美の家に泊まった。女の家に。
 私は部屋を飛び出した。
 「梓ちゃん待って!」
 春子の声を振り切り、私は家を出た。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 私は夏美のマンションに向かった。何度か遊びに行った事があるから道は分かっている。マンションのカギはかかっていた。
 外から回り込む。夏美の部屋は二階だ。私は周囲を見て誰もいないのを確認すると、排水官をつかみ手早く上った。ベランダに侵入する。
 カギがかかっているのを、ガラスをたたき割り鍵を開け侵入した。
 リビングから夏美の部屋に入る。ベッドはきれいに整理されていた。
 ベッドの匂いを嗅ぐ。洗ったシーツの匂いに加え微かに兄さんの匂いがする。
 私は風呂場の洗濯機を開けた。女ものの服や下着に加え、シーツが入っていた。
 シーツをつかみ匂いを嗅ぐ。女の匂いと兄さんの匂い。シーツを広げる。白い粘り気のある液体がこびりついている。男の匂い。微かに固まった血が混じっている。
 私は唇をかみしめた。
 夏美。殺してやる。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 お昼休みになった。耕平が食事に誘ってくれたが僕は断った。一人でいたい気分だった。
 春子と梓は学校に来ていない。
 梓の事が気になる。やはり昨日話に家に戻るべきだったのではと思うけど、すぐにうち消す。今は春子を信じるしかない。
 夏美ちゃんの家から直接来たので今日はお弁当は無いし食欲も無い。食事にする気にはなれない。教室はクラスメイトが多い。一人でいたかった。
 屋上に行こう。僕はクラスを出た。
 廊下を歩いていると、夏美ちゃんがこっちに歩いているのに気がついた。向こうも気がついて控え目に手を振るってパタパタと走ってきた。
 「あの、お兄さん。お昼どうしますか?」
 夏美ちゃんは恥ずかしそうにもじもじする。可愛いかも。
 「お弁当が無いから屋上でのんびりしようと思っている」
 覚えのある匂いが鼻孔をくすぐる。断じて言うが、女の子の匂いでは無い。嫌な予感がする。


543 三つの鎖 9 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/19(土) 01:58:36 ID:XOuT2u+2
 「あの、ありあわせですけど、その、お弁当を作ったんです」
 恥ずかしそうに下を向く夏美ちゃん。うなじまで赤い。
 「よかったら、一緒に食べませんか?」
 正直に言う。僕は今すぐにでも背を向けて「グッバイ夏美ちゃん!」と言って走り去りたかった。無論、そんな失礼なことはできない。
 「僕でよければ喜んで」
 断腸の思いで言葉を吐きだした。夏美ちゃんの顔が喜びに輝く。
 「あざーっす!さ、屋上に行きましょう」
 夏美ちゃんは僕の手を握り走り出した。もう片方の手にはお弁当が揺れる。
 僕の手を握る夏美ちゃんの手が温かくて柔らかい。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 屋上のベンチで並んで座る。夏美ちゃんは僕にお弁当を渡した。にこにこと嬉しそうに笑う。僕は礼を言って受け取り、蓋に手をかける。躊躇を押し殺してお弁当の蓋を開けた。
 独特の香りが鼻につく。
 「ありあわせですけど、どうぞ召し上がってください」
 恥ずかしそうに、そして嬉しそうに夏美ちゃんが笑う。なんでそんなに嬉しそうなの。
 「ありがとう。いただくね」
 僕は微笑んだ。笑顔がひきつってないか心配だ。
 スプーンを握る。そう。スプーンを。
 僕はお弁当から一口分すくい口にした。
 「どうですか?」
 不安をにじませ話しかけてくる夏美ちゃん。
 「おいしいよ」
 嘘ではない。ただ、同じ会話をこれで三回した。昨日の夜と、今日の朝。そして今。
 「よかったです」
 そう言って夏美ちゃんもお弁当を開きスプーンを握った。
 「私、カレーは大好きなのです」
 そう。夏美ちゃんのお弁当はカレーだった。ちなみに言うと、今日の朝御飯もカレー、昨日の晩御飯もカレー。
 正直つらい。僕自身料理はこるし、教えてくれた人も料理がうまいから舌はそこそこ肥えている。三食同じカレーは味覚的にも栄養的にも拷問に近い。
 おいしそうに、実においしそうにカレーを食べる夏美ちゃん。
 カレー自体はおいしい。でも朝昼晩カレーはもういい。
 それでも僕はカレーを残さず食べた。せっかく用意してくれたのを残すわけにはいかない。
 夏美ちゃんは水筒からお茶を入れてくれた。僕は礼を言って受け取った。
 そのまま無言。気まずいのではなく、心地よい沈黙。
 正直、こんな事をしている場合ではないと思う。梓の事が脳裏に浮かぶ。
 「お兄さん」
 夏美ちゃんは僕を見た。心配そうな表情。
 「梓の事、ですよね」
 僕は戸惑った。正直に今の気持ちを告げてもいいのだろうかと思ってしまう。
 何か他の話題を。
 「あの、夏美ちゃん」
 夏美ちゃんは僕を見た。
 「その、体は大丈夫?」
 顔を赤くする夏美ちゃん。僕は馬鹿か。他の話題があるはずなのに。よりによってなんて話題を。
 「えっと、その、心配してくれてありがとうございます」
 太ももをもじもじする夏美ちゃん。その動きはやめて欲しい。
 「まだ奥に残っている感触がありますけど、痛みはもう無いです」
 「良かった」
 本当のところは分からない。女の子の最初はすごく痛いって聞く。夏美ちゃんは単に気を使って言ってくれただけかもしれない。
 そのまま黙る僕と夏美ちゃん。さっきとは違う気恥しい沈黙。
 夏美ちゃんの様子がおかしい。顔を真っ赤にして太ももをこすり合わせる。恥ずかしそうに、切なそうにため息をつく。
 「大丈夫?」
 問いかけに僕を見る梓ちゃん。切なそうに僕を見上げる。
 「わ、わたし、お兄さんとの、その、せ、せ、せ」
 夏美ちゃんの声が羞恥に震える。
 「いえ、犯されたのが」
 食べたカレーを噴き出しそうになった。
 「その、すごく、気持ち良かったです」
 うつむく夏美ちゃん。太ももをこすり合わせる。スカートからのぞく白く細いが足が艶めかしい。
 「お兄さんに犯されるのが、本当に気持ち良くて、私、今日の授業も、全然頭に入らなくて」


544 三つの鎖 9 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/19(土) 02:01:23 ID:XOuT2u+2
 夏美ちゃんは胸の前に両手をあて震える。恥ずかしそうにうつむく。
 「私、だめなんです。そんな事考えている場合じゃないと思っても、何度も思い出しちゃって」
 太ももをこすり合わせる夏美ちゃん。
 「私を犯す、その、お兄さんのお、お、おちんちんの感触が、ずっと残っているんです」
 顔を上げる夏美ちゃん。僕を見つめる視線に艶を感じる。
 「私の膣をこする感覚が、犯される感覚が、頭を離れないんです」
 夏美ちゃんは僕ににじり寄る。思わず僕はのけぞってしまい、結果的に夏美ちゃんが僕を覆いかぶさる形になった。
 顔が近い。夏美ちゃんの呼吸を感じるほどに。
 「後ろから犯されるのが、すごかったです」
 夏美ちゃんの手が僕の頬にふれる。息も荒く震える声で卑猥な言葉を紡ぐ夏美ちゃん。
 「腰をがっちりつかむお兄さんの手が、私を逃がしてくれなくて、何度も何度も犯すんです。膣をこすられる度にわたし、わたし」
 太ももをすり合わせる夏美ちゃん。
 「お兄さんが、私の中に出した時も、すごく熱くて、焼けるようで」
 夏美ちゃんの顔が近い。僕は夏美ちゃんの肩を押さえた。
 「夏美ちゃん。落ち着いて」
 こんな場所でセックスするわけにはいかない。時間もあまりない。
 そんなとき、夏美ちゃんの足が僕の股間にふれた。
 「あっ」
 夏美ちゃんがまじまじと見る。僕の股間は盛り上がっていた。
 「嬉しいです。私で興奮してくれるんですね」
 熱い吐息が顔にかかる。女の匂い。
 「今楽にしてあげますね」
 夏美ちゃんは僕のズボンのジッパーを下ろし手を入れた。ってちょっと!
 「夏美ちゃん!ちょっと!」
 僕の言葉と聞かず夏美ちゃんは僕の剛直を取り出した。白い指が剛直に絡みつく。
 「はむ」
 夏美ちゃんは僕の剛直を口にした。思わず腰が浮く。夏美ちゃんの口の中は膣とは違う熱さ。
 「はむっ、れろっ」
 ザラザラした夏美ちゃんの舌が僕の剛直の先端を舐める。膣をこする感覚と違う快感。
 いけない。流されている。
 「はむっ、ちゅるっ、ちゅっ、れろっ」
 「ちょっと夏美ちゃん、うわっ」
 夏美ちゃんの舌が剛直の裏筋を舐める。快感に思わず腰が引く。
 「ちゅっ、おにいひゃん、はむっ、ほうへふは、ちゅっ」
 上目づかいに僕を見つめる夏美ちゃんの視線は濡れていた。
 夏美ちゃんの手が動きだした。僕の剛直をこする。
 「ちゅっ、ちゅっ、ぺろっ、はむっ」
 決して手慣れてはいない。たどたどしく動く夏美ちゃんの舌と手。それがかえって心地いい。
 「はむっ、ちゅっ、んっ、おにいひゃん、なにはへへひまひた、ちゅるっ」
 先走り液が出てくる。夏美ちゃんは嬉しそうに目を細めた。
 ふいに脳裏に浮かぶ。僕の股間をまさぐりながらうっとりする春子。
 思わず夏美ちゃんを引きはがした。剛直が空気に触れる。
 「あっ」
 尻もちをつく夏美ちゃん。
 「あ、あの、お兄さん、その、わ、わたし」
 震える夏美ちゃん。
 「ご、ごめんなさい、わたし、お兄さんが、そ、そんなに嫌がってるって分からなくて、そ、その」
 目に涙を浮かべ必死に言葉を紡ぐ夏美ちゃん。痛々しい姿。
 僕は愚かだ。夏美ちゃんは悪くないのに。
 夏美ちゃんに手を伸ばす。びくっと震える夏美ちゃん。そのまま頭にふれる。
 「ごめんね。ちょっとびっくりしちゃって」
 そのまま夏美ちゃんの頭をなでる。
 「続きをしてくれる?」
 僕はベンチに座りなおす。夏美ちゃんは安堵の息をはき、床に四つん這いになって僕の股間に顔をうずめた。
 「あの、いきますね」
 夏美ちゃんは硬いままの僕の剛直をつかみ、口にくわえた。再び熱い感触。
 「はむっ、れろっ、ちゅっ、ちゅむっ」
 舌のざらざらした感触が気持いい。
 「気持いいよ」
 僕は夏美ちゃんの頭をゆっくりなでた。


545 三つの鎖 9 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/19(土) 02:03:55 ID:XOuT2u+2
 「手も使って」
 夏美ちゃんは嬉しそうにうなずく。手で僕の剛直をこする。たどたどしく動く小さい手。
 「ちゅっ、じゅるっ、はむっ、じゅるっ、ちゅるっ、れろっ」
 夏美ちゃんの唾液と先走り液で滑りがよくなった僕の剛直をこする感覚がすごく気持いい。
 僕が夏美ちゃんの髪の毛をゆっくりとく。サラサラで柔らかい。夏美ちゃんが気持ちよさそうに目を細める。
 「じゅるっ、ちゅっ、ちゅっ、んっ、じゅっ、はむっ、んっ、ちゅっ」
 一生懸命たどたどしい動きの夏美ちゃん。すごい光景だ。ベンチに座った僕に四つん這いになって僕の股間に顔を埋める夏美ちゃんの頭。スカートから白い足がのぞく。太ももが悩ましげにすりあわされ、小ぶりなお尻が揺れる。
 「んっ、ちゅっ、じゅる、れろっ、じゅるっ、んっ、はむ、ちゅっ」
 たどたどしく動く舌と手に射精感が高まる。
 「夏美ちゃん、でるっ」
 剛直を口にしたまま上目ずづかいに僕を見上げる夏美ちゃん。興奮に濡れた視線。
 「んっ、ちゅっ、いいでふ、じゅるっ、だひへふだはい、ちゅっ」
 夏美ちゃんが動きをはげしくする。
 もうだめだ。出る。
 僕は思わず夏美ちゃんの頭を押さえた。そのまま射精する。
 「んっ!?んんんんん!?」
 苦しそうにむせぶ夏美ちゃん。射精の快感に腰が砕けそうになる。何度も精液が飛び出る感覚。
 「んっ、んんんんっ、じゅっ、こくっ、んっ、ごくっ、こくっ」
 喉を鳴らす夏美ちゃん。射精が終わって僕は夏美ちゃんの頭を押さえていることに気がつく。
 「ご、ごめん夏美ちゃん」
 手を離すが、夏美ちゃんは剛直の先端を口にしたまま離さない。
 「んっ、こくっ、ごくっ」
 一生懸命喉を鳴らす夏美ちゃん。
 「いいよ夏美ちゃん、飲まなくても」
 夏美ちゃんはかすかに首を横に振る。結局最後の一口まで飲み込んだ。夏美ちゃんはゆっくりと口を離した。
 「夏美ちゃんありがとう。その、すごく気持ち良かったよ」
 夏美ちゃんが嬉しそうに僕を見上げる。僕は夏美ちゃんの髪をすいた。くすぐったそうに笑う夏美ちゃん。
 予鈴が鳴る。
 僕たちは顔を見合わせた。夏美ちゃんは寂しそうに笑った。僕も寂しかった。
 キスをして僕たちは屋上を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 次は体育だ。
 夏美ちゃんと別れた僕はダッシュで着替え体育館に向かう。走りながら夏美ちゃんの事を考えてしまう。
 僕は間違いなく夏美ちゃんにおぼれている。そしておぼれてもいいと思ってしまった。いつの間に僕はこんなに自制のきかない昔の自分に戻ってしまったのだろう。いや、自制がきいていないと自覚している分、昔よりもたちが悪い。
 梓の事が脳裏に浮かぶ。大丈夫だろうか。
 体育館で貴重品袋の口を開けた。この高校は授業中以外なら携帯を使用してもよい。財布を入れ携帯も入れようとしたとき、メールに気がつく。
 メールを開く。春子からだ。
 『梓ちゃんが家を飛び出しました。今探しています。学校で見たら連絡してください』
 不吉な予感。梓は大丈夫だろうか。
 僕と夏美ちゃんが一緒にいるのを見て走り去った梓。頭を離れない梓の言葉。
 兄さんは結局私を一人にするんだ。ゆるさない。死んでしまえ。
 梓。信じて欲しい。僕は二度と梓を一人にしない。
 僕は自嘲した。今の僕は夏美ちゃんに夢中になっている。説得力が全く無い。
 「危ない」
 顔をあげた瞬間、バスケットボールが目の前にあった。
 反射的に顔をひねり避ける。頬をボールがこする感覚。
 「大丈夫かいな」
 耕平が寄ってくる。いけない。授業中にぼんやりしている。
 「大丈夫だ。すまない」
 他のクラスメイトも寄ってくる。
 「大丈夫か?血が出てるぞ」
 体育の教師が言う。
 頬を何かが伝わる感触。手の甲で拭うと、微かに血が付いていた。避けきれなかったのか。
 「大した傷じゃないが一応保健室に行ってこい」
 僕は大人しく頷いた。今の僕だと迷惑をかけるだけだ。
 保健室に向かいながら深呼吸する。心の雑音を消す作業。自制をきかせる。
 ノックをして保健室に入る。誰もいない。席を外しているようだ。僕は治療道具を勝手に拝借することにした。薬品の入っている棚に近づく。棚を調べていると、ドアが開く音がした。保健室の先生が帰ってきたのだろう。
 「兄さん」


546 三つの鎖 9 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/19(土) 02:06:25 ID:XOuT2u+2
 僕を呼ぶ声に素早く振り向いた。聞き覚えのある声。僕を兄さんと呼ぶのは一人だけ。
 梓。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 梓は幽鬼のように立ち尽くしていた。保健室のドアを閉め鍵を閉める。鍵の閉まる小さな音が耳を穿つ。
 立ち尽くす梓の髪はぼさぼさだった。そういえば今日も髪をといていない。
 僕は体の力を抜き重心を落とす。
 梓が踏み込んでくる。僕の胸倉に伸びてくる手を払う。霞んで見える速さ。
 僕は一歩下がって間合いを取る。
 梓は本気だ。
 無言で間合いを詰める梓。
 制服をつかめば破れるかもしれない。のばしてきた手をつかんで倒すしかない。
 僕は梓の手をつかんだ。はずだった。
 つかんだと思った瞬間、僕の手は空を切った。次の瞬間、梓は僕の胸倉を掴んでいた。
 視界が反転する。背中から叩きつけられた衝撃に息が詰まる。かろうじて受け身をとった僕に梓が馬乗りになる。
 梓の膝が僕の腕を抑える。はねのけようとした瞬間、梓の肘が僕の喉を突く。体重の乗った一撃。
 息が詰まる。むせる僕の腕をつかむ梓。何かを僕の腕に巻きつける。
 「暴れないで兄さん」
 僕の肘を容赦なくねじる梓。はねのけようとすると腕に何かが引っかかる。ロープが僕の両腕を背中で巻き付けられている。
 既視感。春子。
 「兄さん、ほっぺた大丈夫?」
 梓が僕の顔を覗き込む。梓の顔には何の感情も浮かんでいない。ただ双眸が暗い光を放つ。白い指が僕の頬の傷をなぞる。微かな痛み。
 「痛そうね」
 梓の指が傷口に爪を立てる。傷口を広げる白い指。
 「痛い?」
 そう言いながらも梓はさらに傷を抉る。頬に文字通り抉られる痛みが走る。執拗に僕の傷口を抉る白い指。あまりの痛みに額に汗が浮かぶ。
 梓は無表情に僕を見下ろしていた。
 「ねえ。どうなの?痛いの?」
 さらに傷口を梓の指が抉る。神経を直接削られるような痛み。
 僕は痛みをこらえて梓を見上げた。
 「兄さんすごいわね。微動だにしないなんて」
 梓は飽きたように傷口から手を離す。梓の手は僕の血にまみれていた。血に濡れた白い指をなめる梓。その仕草が妙に艶めかしい。
 顔を近づけてくる梓。僕は顔をそむけた。梓は犬の様に僕の傷を舐めた。
 「ぺろっ、ちゅっ、んっ」
 傷口に梓の舌が這う。熱い。さらに顔をそむけようとすると、梓の両手が僕の頭をつかむ。熱い両手。
 「ちゅっ、兄さん、動かないで、んっ、ぺろっ」
 熱心に僕の傷を舐める梓。その姿がお昼休みの夏美ちゃんにかぶる。
 「んっ、兄さん、ちゅっ、いま、ちゅっ、夏美の事、れろっ、考えたでしょ」
 梓が囁く。背筋に悪寒が走る。
 顔をあげ僕を見下ろす梓。強い感情を放つ瞳。
 「夏美と寝たんでしょ」
 梓の顔がゆがむ。
 「私を追わないで」
 僕は梓を下から見上げる。まっすぐに睨む梓の視線を受け止めた。
 「そうだ。僕は夏美ちゃんといた」
 梓が青ざめる。
 「そう。本当なんだ」
 「梓。何であんな事を」
 梓の唇を見る。僕を押し倒しキスした唇。
 「あの女が私の兄さんに手を出すからよ」
 頬に痛みが走る。梓が僕の頬を力いっぱい叩いた。
 「兄さんは私のものなのに」
 僕は首を横にふった。
 見下ろす梓の顔色が変わる。
 「僕は誰のものでもない」
 「兄さんは私のものよ。誰にも渡さない」
 梓の指が僕の唇にふれる。そのまま僕の唇をなぞる梓の指先。ふれる白い指が熱い。
 「兄さんはまた私を一人にするんだ」
 「梓を一人にしない」


547 三つの鎖 9 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/19(土) 02:08:18 ID:XOuT2u+2
 「嘘」
 梓は僕の唇から指を離す。その指をかみしめる。
 「兄さんは夏美に夢中になって私を一人にする。だってそうでしょ?兄さんは夏美が好きなんだもの」
 梓の目尻に涙がたまる。
 「どうなの。夏美が好きなんでしょう」
 涙が梓の頬を伝う。
 「そうしたら私なんてどうでもいいんでしょ」
 梓の涙が僕の顔に落ちる。傷口にしみる。
 「確かに僕は夏美ちゃんに惹かれている。夢中になっているといってもいい」
 僕の正直な気持ち。
 「でも、それと梓を大切に思う事は全く別の事だ」
 梓を見上げる。涙でぐちゃぐちゃになった表情は読み取れない。
 「僕の妹は梓だけだ」
 僕の本心。梓は涙でぐちゃぐちゃの顔を近づける。
 そのままお互いの唇が触れる。
 子供の時を思い出す。梓はよくキスをねだった。
 梓は顔をあげた。何を考えているのか分からない無表情。悲しいのか、怒っているのか。僕には分からない。
 「思い知らせてあげる」
 立ち上がり梓は背を向けて走り出した。保健室のカギを開け出て行った。
 僕はその背中に声をかけなかった。かける言葉が無かった。
 何でこんな事をするのだろう。また家事を押し付けられるとでも思っているのだろうか。それとも、僕が梓に構う事が無くなるのを恐れているのだろうか。
 昨日思いついた考えが脳裏に浮かぶ。梓は僕を独占したいと思っているのだろうか。
 考えるだけでもおぞましい発想。妹が兄に懸想しているなど。
 夏美ちゃんは大切な恋人で、梓は大切な妹。
 梓はそれを分かってくれない。
 「ロープぐらい外して欲しいな」
 僕は立ち上がり、刃物を探し始めた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 私は分かってしまった。兄さんは私のものでなくなった。
 兄さんは私の鎖を抜けたのだ。
 ついこの前まで私を追いかけてくれたのに。私のそばにいてくれたのに。
 元凶の女の顔が脳裏に浮かぶ。
 思い知らせてやる。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 帰りのホームルーム。
 私はぼんやりとお兄さんの事を考えていた。
 お昼休みの事を思い出す。顔が熱くなる。私は何て事をしてしまたんだ。
 お兄さんのを…。
 唇にふれる。この口でお兄さんに…。
 最後は全部飲みこんで。
 あまりの事に頭が爆発しそうになる。
 私はため息をついた。私ってこんなにスケベだっけ。ていうかあれだ。お兄さんと寝たときのがすご過ぎたんだ。
 あの夜、お兄さんは私を抱いた。思い出すだけで体が熱くなる。
 お兄さんの逞しい腕に組み伏せられ、犯される感覚。
 お兄さんの腰の動きが、痛いのに快感に変わる。
 お兄さんが私の中に放ち、染められる感触。
 私、初めてなのに、何度もイって。イかされて。
 ちょっと乱暴にされるのが良くて。
 いけない。私は頭を振る。今の私はどう考えても変態です。本当にありがとうと言ってしまいたい。
 「なつみー」
 クラスメイトの声にびくりと体が震える。いつの間にかホームルームは終わっていた。
 「梓のおにーさんが呼んでるよー」
 私は飛び上るように立ち上がった。教室の入り口でお兄さんが控えめに手を挙げた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



548 三つの鎖 9 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/19(土) 02:11:54 ID:XOuT2u+2
 お兄さんが迎えに来てくれたという青春ヒャッホーというシチュエーションとは裏腹に、話は重かった。
 帰り道を歩きながらいろいろ話をした。
 梓がお兄さんに襲いかかった事、ハル先輩と話しあいの結果、私を家まで送る事にしたなどと、お兄さんは淡々と語った。
 なぜ、お兄さんが私を送る理由は口にしなかったが、聞かなくても分かった。
 梓が私を襲う可能性があるからだ。
 信じられないという気持ちと、やっぱりという気持ちが半々だった。
 「お兄さんはこの後どうするんですか?」
 「梓を探す」
 お兄さんは静かに答えた。お昼までは無かった頬の白いガーゼが痛々しい。
 「あの、私もついていっていいですか」
 私は無駄だと分かっていても尋ねずにいられなかった。
 「ありがとう。でも僕と春子だけで大丈夫だよ」
 お兄さんは微笑んだ。この笑顔を見ると何でもいいから力になりたいと思ってしまう。
 「あの、もし梓が私に襲いかかっても、別にいいです。守って欲しいなんて言いません。足手まといなら見捨ててもらってもいいです」
 私は頼みこんだ。せめて傍にいたい。
 「夏美ちゃん」
 お兄さんが私の頭にポンっと手を置いた。大きくて温かい手。
 「夏美ちゃんに怪我をしてほしくないし、梓が夏美ちゃんを怪我させるのも望まないよ」
 私は顔を赤くした。恥ずかしい。私はお兄さんの事どころか自分の事しか考えていないのに、お兄さんは私と梓の事も考えている。
 恥ずかしいという気持ちと、醜い感情が私の心を渦巻く。
 梓はお兄さんの妹で、私はお兄さんの恋人なのに。比べる意味なんて無いのに嫉妬してしまう。
 私の頭を優しくなでるお兄さんの手。梓はずっとこの手を一人占めしてきたんだ。
 お兄さんは梓の事をどう思っているのかな。梓はお兄さんの事をどう思っているのかな。
 梓はお兄さんの事を嫌っていると思っていた。でも今回の事を見る限り、実はお兄さんの事を大好きなのではないだろうか。というかそれ以外考えられない。
 それにそう考えるとつじつまが合う事がたくさんある。
 梓はお兄さんの事をシスコンといつも罵倒していた。それなのにいつもお昼にお弁当を持ってこさせていた。そんな姿を見ているから、私たちはお兄さんの事をシスコンと思っていた。お兄さんも強く否定することはなかった。ただ苦笑するだけだ。
 だからお兄さんはあまりもてない。背は高いし、細身に見えて引き締まっているし、料理もできて優しい。顔もけっこう格好いい。
 それでもシスコンという評判は大きなマイナスだ。
 梓はわざとそういう評判が立つように仕向けていたのではないか。お兄さんを独占するために。
 私はその仮定に背筋が寒くなった。今回の梓の行動を見るに、仮定ではすまない気がする。
 もしかしたら、梓はお兄さんを兄として好きなのではなくて、お兄さんの事を一人の男性として愛しているのではないだろうか。
 特に昨日の梓の行動はブラコンの域をはるかに超えている。そう考えると梓に恋人がいないのも納得する。
 梓はもてる。美人で、抱きしめると折れそうな細い体。何というか、見た目だけは征服欲を喚起させるような女の子だ。本人にそんな気は一切ないらしいが。
 私は単にお兄さんを見て男に幻滅しているのかと思っていた。でも、もし梓がお兄さんを愛しているなら、恋人など作るはずが無い。
 そして私は恐ろしい考えに行きついた。お兄さんは、梓の気持ちに気が付いているのだろうか?
 今回の梓の行動は、高校からの付き合いの私でもこんな推測をしてしまうぐらいわかりやすい行動だ。ずっと一緒にいたお兄さんが気がつかないはずが無い。
 「あの、お兄さん」
 聞いてはいけない。
 「質問したいことが、あるんです」
 足を止める私たち。まだ間に合う。別の質問を。
 でも、そんな事は無理だ。
 「お兄さんは、梓がお兄さんの事をどう思っていると思いますか」
 お兄さんは無言。
 「その、梓ってもしかしたら、お兄さんの事」
 一人の男性として愛しているんじゃ。
 私がその言葉を紡ぐ前にお兄さんは口を開いた。
 「梓は昔から寂しがり屋だった」
 お兄さんの言葉が独白のよう。
 「だから今回も僕がそばにいなくなると思っているんだと思う」
 私を見るお兄さん。強い視線。
 「僕は梓の兄で、梓は僕の大切な妹だ」
 やっぱり聞くんじゃなかった。
 お兄さんの言葉は、自分に言い聞かせるように聞こえた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 「ここで大丈夫です」
 私たちはマンションの入り口で足を止めた。
 「送ってくれてありがとうございます」


549 三つの鎖 9 前編 ◆tgTIsAaCTij7 sage 2009/12/19(土) 02:13:51 ID:XOuT2u+2
 私はお兄さんに微笑んだ。笑顔がひきつってないか心配だ。
 「夏美ちゃん」
 お兄さんが私を見る。誠実な瞳。
 「今回は迷惑をかけて本当にごめん」
 私は目をそらしたくなった。
 「夏美ちゃんが知りたい事もたくさんあると思う。申し訳ないけど、もう少しだけ時間が欲しい。僕のわがままで本当にごめん」
 お兄さんは全部分かっていた。
 私はバカだ。誰だって隠したいことの一つや二つある。それなのに、私のわがままで聞いても仕方が無い事を聞いて。
 今、一番お兄さんを信じないといけないのは私なのに。
 「お兄さん」
 私はうつむきながら言った。お兄さんの顔を見られない。
 「わがまま言ってすいません。私、お兄さんの事を信じています」
 お兄さんは今どんな表情をしているのかな。
 「ありがとう」
 私は顔をあげた。お兄さんは微笑んでいた。嬉しそうでちょっと恥ずかしそうな笑顔。
 見ているだけで顔が熱くなる。
 「そ、それじゃさよならです!」
 私は背を向けてマンションに入った。私のばか。
 一気に階段を駆け上り、ドアの鍵を開ける。家に入り鍵をかけた。そのままドアを見つめる。もちろんお兄さんは見えずに、ドアが見えるだけ。
 会いたいな。別れたばかりなのにそう思ってしまう。
 「お兄さん。会いたいです」
 ため息をついて振り向いた。
 そこに梓がいた。冷めた表情で、瞳だけは激情を湛えて私を見ていた。


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最終更新:2010年01月07日 20:14
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