何の障害物もない砂漠に延びるコンクリートの道を
一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。
日も落ちてきたために気温は低く、かじかむような冷気が辺り一面に漂う。
その中をモトラドはただただ道に沿って直進していた。
「おかしいな……そろそろの筈なんだけど」
運転手の言葉にモトラドが答える。
「目的地が見つからないのはいつものことでしょ、キノ。そろそろ慣れようよ」
「うん、慣れてたつもりなんだけど……さすがに凍えそうだよ、エルメス」
キノと呼ばれた運転手がぶるっと身震いした。
「本当にあるの? そのお師匠様が言ってたっていう2ちゃんねるの国って」
「たぶん、ある。詳しくは教えてくれなかったけど。『二度と行きたくないと思った国は
あそこが最初で最後』、だって。相当強烈みたいだ」
エルメスは少し考えて、
「2ちゃんねるってどういう意味さ、放送局が二つしかないとか?」
「さあ……でも興味がある。あの人に二度と来ないとまで言わせた国だ。
何かの参考ぐらいにはなると思って―――見えてきた」
遠くの地平線に巨大なドームが現れる。
エルメスが感嘆したような声を上げる。
「建物の規模や外装から判断するとかなり技術力の高い国だね。
あれだけの大きさの物をよくドーム状に建てられたもんだ。そしてなにより――」
「壁面に大きく描いてある『Welcome to under
ground』の文字と……あれは顔文字かな
前に行った国で、似たようなものを見たことある」
キノが呟く。するとエルメスが、
「オチの予想はついた?」
何処かの誰かに、身も蓋もないことを言った。
「おやwww旅人さんでありますかwww敬礼www」
城壁からすぐの入国審査室で、軍服を着た男性が立っていた。スピーカーから
音声が流れる。
『「ハッキング」から「今晩のおかず」までを手広くカバーする巨大掲示板群『2ちゃんねる』へようこそ!』
「三日間ほどの滞在を希望したいのですが……」
「あと腕利きの整備士の場所も教えて」
男が了解でありますwww、と言うとすぐに後ろから一枚の地図を持ち出してきた。
「これがwwwこの国の全体図でありますwww住人はすべて各個人の意思で
様々なジャンルに分けられた居住エリアに住んでいるでありますwww」
地図にはニュース速報、大規模OFF、Downloadなどの地名が書かれていた。
男が、ここでは地名じゃなくて板というでありますwwwと付け加えた。
「なんでこんなにブロック分けされてるの?民族間の対立とか?」
とエルメスが聞くと、男が答える。
「住み分けというやつでありますwwwここの住人にはいろんな方がいらっしゃいますが、
私たちは自分たちの境遇、趣味、年齢などでカテゴライズされることによって
アイデンティティを確立しているのでありますwww」
「ちなみに、貴方はどこに住んでいらっしゃるのですか?」
キノが聞くと男は気恥ずかしそうにうつむいて、ポツリと一言だけ呟いた。
「……ホモが好きな子この指とーまれ」
キノの姿は、既になかった。
「とりあえず、モトラドが整備できそうなところは……バイク板ってところがあるみたいだね。
趣味っていうジャンルのところにあるみたいだから、まずはそこに向かおうか」
キノがエルメスを押しながら歩いていると、中年の男が歩いてきた。
「お前、旅人か?この国は道が複雑に入り組んでるからな。
迷ってるならここからすぐの案内にある初心者の質問に行くといい。
そこの奴らならきっと全力で答えてくれるはずだ」
そういうと男は去って行った。
「親切なおっちゃんだったね」
エルメスが言った。
「うん……でも全裸だったよね」
キノは、それ以上なにも言わなかった。
「本当に全力で答えてくれた、あんなに勢いのある人たち初めて会ったよ」
感心するキノにエルメスが答える。
「で、どこを通り抜ければバイク板にいけるのさ」
「とりあえず次は……というところに行けと言われた」
「まあ観光がてら色々なところを見て回るのはいいけど、ちゃんと修理してよねー?」