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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox/Part24-1 - (2010/12/05 (日) 18:38:11) の1つ前との変更点

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---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox) 九月の狂想曲  上条は警備員用詰め所として用意されたテントで、ゴム紐とそれを通すための棒を借りた。  十万人単位で学生が参加する大覇星祭では、やれ靴紐が切れただのパンツが破けたなどという事が頻繁に起こる。警備員の詰め所では裁縫道具は引っ張りだこの大人気を誇っているのだ。  普段は家庭科の先生や保健室の先生やってます、なんて人が出てくれば幸運(ラッキー)なのだが、上条に応対したのは長い髪をひとくくりに束ねた女の警備員だった。  彼女の名前は黄泉川愛穂。  上条の担任・月詠小萌の同僚で席は隣、担当科目は体育のヘビースモーカー。  巨乳で美人だが枕詞として『いろいろともったいない』が付くのはこの際脇に置く。  もったいない美人の黄泉川は上条の説明に大爆笑して、 「何? 彼女の目の前で短パンがストーンの安物下着がドーン? そりゃ最悪じゃん」  あまりにも無体なコメントを涙ながらに聞き流し、短パンに新しいゴム紐を通しずり落ちない事を確認すると、上条は一応のお礼を述べて外へ出た。 「ちくしょう、安物とか粗末とかどいつもこいつも言いたい放題言いやがって……不幸だ」  この道を左に曲がって少し歩くと屋台の区画がある。  土御門の代わりに出なければならないムカデ競争までまだ時間があるので、ちょっとのぞいてみようかな、と上条は思った。  本当だったら隣には美琴がいて、二人で屋台を冷やかしながら歩いていたはずなのだが、先ほどの件で上条を警戒した白井の手によって美琴は連れて行かれてしまった。 「……何だろうな、こういうの。当てにしていた何かが立ち消えになって寂しいっつーか、すっきりしねえっつーか」  やるせない気持ちを抱えて上条は屋台の区画へ足を踏み入れた。  立ち並ぶ屋台からはソースだの醤油だの味噌だの辛子だのが混じり合ってプン、と良い匂いが立ちこめて、上条の鼻をくすぐる。  短パンのポケットにはわずかだが小銭が入っている。喉が渇いた時に手近な自販機でスポーツドリンクでも買おうとあらかじめ放り込んでおいたものだ。  昼食の時間までは間があるし何か買って小腹でも満たそうかな、などと考えたところで上条の目は一軒の屋台に釘付けになった。  そこには、  ヒヨコのアップリケが目立つエプロンとピンクの三角巾を身に着けたウェスタンルックサムライガールがいた。  自分は何も見ていない。  そう念じて通り過ぎようと思ったところでヒヨコのアップリケ、もといウェスタンルックサムライガールとうっかり目が合ってしまった。  上条はできるだけ愛想良さそうな笑顔を作って、 「……おっすー神裂。お前ここで何やってんの?」 「久しぶりですね、上条当麻。私でしたら見ての通り販売員をしていますが?」 「いやまぁ、そこでそんな事をしてるってことはそうなんだろうけどよ」  ウェスタンルックサムライガール改め神裂火織は『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師であり、付け加えるなら一応修道女である。  このほかにも聖人だとか女教皇様(プリエステス)だとか変な呼び名もあるのだがそれについては説明するのが面倒なので無視しておく。 「必要悪の教会っていつから屋台経営に手を出すようになったんだ?」 「あなたは何を言ってるんですか。私達は学園都市で『塾』を経営している『企業』ですよ? 私達は正式な許可を取って企業出店し、『塾』の運営資金を獲得しているんです」 「インデックスの食費の間違いじゃねーかそれ?」  必要悪の教会は『神学系の私塾を運営する』という名目で第七学区の一角に教会型の建築物を所有している。所有企業の名称はもちろんダミーだし、登記簿をひっくり返してみたって必要悪の教会の名前は一文字たりとも出てこない。  そんな事はとっくに知っているが、 「……話を変えるぞ。必要悪の教会が屋台で何を売ってんだ? 聖書か? それとも賛美歌のカラオケでも入ったCDか?」 「お茶漬けですよ。梅茶漬けが一杯一五〇円、鯛茶漬けが二〇〇円です。ちなみにお茶漬けに使う梅干しは私が手作りしました」 「……売れんのかそれ?」  良く見れば神裂の右隣には大きな炊飯釜が置かれ、左手には寸胴鍋、手前にはお茶漬けの具が入っているらしいタッパーが重ねられている。  神裂は慣れた手つきでスチロールのカップに白飯を盛りつけ、その上に潰した梅干しを一つ乗せ、寸胴鍋から持ち手の長いお玉でだし汁をで掬い白飯の上からざぶざぶ注ぐ。 「どうぞ。知り合いのよしみで代金は結構ですから」 「……いただきます」  神裂のぎこちない営業スマイルにたじろいで、上条は差し出されたカップと割り箸を受け取る。  箸をパチン、と二つに割って湯気の立ちこめるスチロールのカップに恐る恐る口をつけ、匂いを嗅ぐ。 「……ふうん、良い香りだな。これってブランド物の梅でも使ってんのか?」 「日本のスーパーで普通に手に入る梅ですよ。それを根気よく天日で干しただけです」 「へぇ、そうなのか」  一口啜って、 「……ん、美味いな」 「梅干しに含まれるクエン酸は疲労回復につながります。競技に出場して疲れている今のあなたにはぴったりでしょう。白飯もおにぎりにするより、温かい汁と共に食した方が胃の負担も少なくてすみます」 「そっか」  神裂の密かな心配りに感謝して梅茶漬けを啜る。  上条はスチロールのカップから顔を上げて、 「そういや、インデックスは? アイツはすぐにつまみ食い始めるから教会で留守番か?」 「いえ、あの子なら」  神裂は右腕を伸ばして三軒左隣の屋台を指差す。  と同時に、まるで示し合わせたかのように白い修道服姿の少女が振り向く。  少女の口の周りは茶色いソースにまみれていた。  何かを食べている最中なのか、リスのように両頬がぷっくり膨らんでいる。 「い、インデックス……相変わらずだな」 「……ふぉーふぁ?(とうま?)」  しばらく顔を合わせていないはずなのに何も変わらない少女の態度にちょっとだけ、いろんな意味で切なくなる上条と、キョトンとした顔で走り寄ってくるインデックス。  彼女の後ろには身の丈二メートルに届く赤髪の少年が控え、収納量限界ではち切れそうなコンビニ袋を両手に提げていた。袋の口からはお好み焼きやフランクフルト、焼きそばを収めたと思しき透明なプラスチックのパックがはみ出している。  あれ全部でいくらになるんだろうな、と上条が意識を別方向に向けていると、 「とうま! ……むぐ、久しぶりだね」 「久しぶりだね、上条当麻」 「口に物を入れたまましゃべるのはお行儀が悪いぞインデックス」  何やら得意げに笑みを浮かべる赤髪の少年を無視して上条はインデックスに向き直る。  二人の間に存在を主張するべく先ほどの少年が割り込み、右手に持ったコンビニ袋を左手に持ち変えると胸元からポケットティッシュを取り出す。  彼はインデックスのソースまみれの口元を拭ってやりながら念を押すように、 「久しぶりだね」 「……、そうだな。ステイル」  それってそう言う態度で使う言葉か? とツッコミたくなるのを押さえる上条。 「とうま、とうま。あのねあのね」  口元を拭いてもらいながらジャパニーズ屋台は今年もおいしかったんだよ、と話すインデックスの無邪気な姿に、上条はかすかな胸の痛みを覚えた。  本当だったらインデックスの隣にいるのは自分で、年中金欠な財布と戦いながらインデックスと二人で屋台を冷やかしていたはずなのだ。 (あれ……さっきも似たようなことを考えてなかったか?)  思った事は同じでも、美琴の時とインデックスの時で何が違うのか。  痛みは忘れかけていた何かを揺り起こすように。  上条の胸を繰り返し浅く突く。  ここはスペイン・バルセロナ。日本との時差はマイナス七時間。  コンクリートを白く塗っただけの壁に囲まれたホテルの一室で、まだ夜の明けきらぬ時間に御坂旅掛はふわぁ、と大きなあくびを一つして起き上がる。  重しを取り除かれたスプリングが背後で軋みを上げ、御坂は硬いベッドで圧迫された背中を片手で軽くさする。  宿なんてとりあえず寝られるベッドがあれば良い。  欲を言えば寝酒ができるならもっとありがたいのだが、財布を妻にがっちり握られている状態ではそんな贅沢もできない。  御坂はベッドから降りると周りをぐるりと回り、窓辺に置かれたテレビのスイッチを入れる。  今時リモコンがないというのもナンセンスだが、大方他の宿泊客がいたずらして壊したか、あるいは盗まれてしまったのだろう。リモコンなしでもスイッチが入れられるのがせめてもの幸いだ。  御坂はフリーのコンサルタントで、『世界に足りないもの』を示すことを生業としている。家族構成は妻一人娘一人。神奈川県の郊外に一戸建てを所有しているが、そこに帰るのは年間でも数えるほど。  それが御坂旅掛という男だった。  そんな彼が早朝からテレビを見るのは、何もビジネスの種を探そうと言うのではない。  彼のかわいい愛娘、美琴が暮らす学園都市で大覇星祭が行われているからだ。  ここバルセロナでも番組は放映されているが、残念なことに生放送ではない。  録画の、しかもダイジェスト版なのだ。  そしてどうやら競技中に起きたハプニングシーンだけを集めて流しているらしく、編集で付け加えられた笑い声が耳障りだ。  こっちの放送局は視聴率稼ぎにあまり熱心ではないのかも知れないな、と御坂は思う。  それでもこんな朝っぱらから特番を組んで流すだけましなのだろうと思い直し、 「うちの娘が映ってるかも知れないってのに、何でこのホテルは衛星放送と契約していないんだ」  そうは言っても宿なんてとりあえず寝られるベッドがあれば良いと、このホテルを選んだのは御坂自身だ。今度からは衛星放送が見られるかどうか事前にチェックしてから部屋を取ろうと考えて、首を軽く横に振った。  次にその心配をするのは一年後だ。  一年後、自分が世界のどこにいるか分からないのだからこんな考えには意味がない。  御坂は無精髭が伸びた頬を一撫でして、 「美鈴が美琴を連れ戻すことを止めて一年、か。あの街で何があったのかは容易に想像つくが……さて、少しは何か面白いことでも」  あったのか、と呟きかけて滅多な事では動じない御坂の動きが凍り付く。  四角くて古ぼけた画面の中で、  彼のかわいい愛娘が見知らぬツンツン頭の少年の腕に抱かれて大通りを駆け抜けている。 「……、な」  何だこれは。  何が起きている?  美琴は何故嬉しそうに頬を染めている??  あの少年は誰だ???  御坂はベッドに向かってダイビングを敢行し枕元に置いた携帯電話に手を伸ばす。  海外からでは通話料金が馬鹿にならないが、今回だけは話が別だ。  液晶画面に妻・美鈴の番号を呼び出し通話ボタンを親指で力一杯押し込む。  国際電話のせいか呼び出し音の繰り返しが長く感じられる。  イライラしながら待っているとブツリ、という回線接続音の後に続けて賑わう街のざわめきが聞こえてきた。  喧噪と衝動と闘争のお昼ご飯タイムが終わる頃。  御坂美琴と美鈴の母娘は、街中を歩いていた。  二人は歩道橋を渡りきったところで他の歩道橋と接続するために作られた空間に差し掛かる。  空間と言っても隅に木製のベンチが置かれているし、景観を損ねぬ程度に常緑樹も植えられている。  夕暮れ時や休日にはここでシンガーソングライターを気取る学生達がギターを片手に警備員と戦ったり怪しげな大道芸を披露する。  所謂パフォーマー達のたまり場のようなところだった。  今日は学生達の代わりに観光客目当ての露店が幅をきかせ、金切り声を上げて空気を震わせている。  こんなところまで二人が足を伸ばしているのは美鈴が例によって学園都市土産を求めているからであり、美琴としては次の競技までの空き時間を利用して美鈴を案内するためだ。  店の一つ一つをのんびり冷やかしていると、すれ違う人々が小声で『うわ、すげー美人姉妹』と口にする。  それを聞いてご満悦な美鈴と、浮かれる母親を見て『何やってんだか……』とあきれる美琴。  美鈴はとある露店のテーブルに置かれた怪しく光るブローチを熱心に見ていたが不意に顔を上げて、 「美琴ちゃん、そう言えば地底横断ロケットの発射口ってどっち? 去年はまだみたいだったけど、さすがに今年は整備終わってるわよね? お母さん、帰る前に一度乗っておきたいわ」 「んなもんあるかっ!! 前回で学習したと思ってたけど相変わらず学園都市がどんなところか分かってないでしょ?」  お母さん、の一言で周囲の若者達が美琴達を見やって『うげ!? あの若さで母親? 一体いくつで娘産んだんだ』『相手が犯罪行為に足つっこんでんじゃねーの?』と囁き合う。  周囲から予想通りの反応を受け取ると美鈴はにんまりと笑って、 「うっふっふ、今日のためにお肌つやつや強化コースに通っていて良かったわー」  自分の頬に人差し指の先をつけ弾力を確かめる。  美琴は周囲にニコニコ愛想を振りまく美鈴を横目で見ながら、肌の張りといい艶といい年頃の娘を持つ母親とは思えないわね、と密かに思う。 「でも美琴ちゃんの天然の若さにはかなわないのよねー。あと上条さんにも」  ここで美鈴が口にした『上条さん』とは、上条当麻の母・詩菜のことである。  詩菜の外見を一言で例えるなら『病弱な大学生のお嬢様』がぴったりなくらいに若く見える。  と言っても決して若作りしているわけではない。しかも特にエステなどには通っていないというから驚きは倍率ドンさらに倍である。  一七歳になる息子を抱えてあの若さなのだから犯罪行為に足を突っ込んでいるのは上条家の方じゃないか、と考えてしまうくらいだ。 「学園都市謹製の美容グッズでも買って帰ろうかしら。あのピチピチお肌には負けたくないのよね」 「……いや、あれはもう科学の領域を超えてるんじゃない?」  などと互いに口にしていると、美鈴は一軒の露店の前で足を止めた。  美鈴は通り過ぎようとした美琴に『ねぇねぇ』と手招きして、 「これ、パパ宛のお土産にどうかな? 『携帯野球ゲーム板学園都市スペシャル消える魔球付き』だって。折りたたんで持ち運べるからかさばらないし長旅の間の暇つぶしに使えると思うんだけど」 「消える魔球? 学園都市製のゲームとは言えアナログ仕様でそんな仕掛けが……って、これバッターボックスの手前に穴が空いてそこにボールが落ちるだけじゃない!」  美琴は美鈴の手から携帯野球ゲーム板をひったくり店のテーブルに戻す。  こういうインチキなお土産屋に引っかかりそうだという心配が早くも的中したところで、携帯電話の着信メロディがかすかに聞こえてきた。  美琴は聞き慣れないメロディに耳をやって、 「母さん、もしかしてケータイ鳴ってない?」 「あら、誰かしら」  ハンドバッグの中から携帯電話を取りだした美鈴の顔がにまぁ、という笑みに変わる。 「美琴ちゃん、パパからよ。たぶん今朝のお姫様抱っこを見て慌てて電話かけてきたんでしょうね」 「え? ええ?? だってあれは朝の出来事だしあれから何時間も経ってるでしょ?」 「もしもーし。パパ、元気してる? ……うんうん、美琴ちゃんならここにいるわよ」  美琴の狼狽を軽く流すと美鈴は携帯電話に向かって会話を始めた。  耳を澄ますと携帯電話のスピーカーから何やら男の叫び声のようなものが聞こえる。  どうやら美琴の父・旅掛は相当興奮(エキサイト)しているらしい。  美鈴は美琴に向き直るとにんまり笑って、 「美琴ちゃん。パパが美琴ちゃんとお話ししたいんだって。どうする?」 「……どうするもこうするもないわよ。出るから貸して」  ため息を一つついて美琴は美鈴から携帯電話を受け取ると、本体から少し距離を開けて耳に神経を集中させる。  開口一番でいきなり怒鳴られたらたまらないわね、と美琴が身構えていると、 「……美琴か?」  久しぶりに聞く父親の声はやけに疲れているように感じられた。  美琴は深呼吸して、 「……と、父さん? 元気だった?」 「美琴。あのツンツン頭は何者だ?」  追求の声が響く。  ―――やっぱり来たか。  ここから父親は間違いなく母が言うところの『面白い反応』を見せるに違いない。  美琴は腹を括ることにした。 「……あのね。その……私の彼氏。今、付き合ってる人」 「……、」  携帯電話の向こうからは何の反応もなかった。  ひょっとすると父は怒りのあまり絶句しているのかも知れない。 「そ、その、そのうち父さんに紹介しようと……父さん? もしもし?」  沈黙と、おそらく向こうで父親が見ているであろうテレビの音声に混じってバターン!! と人が倒れる音が聞こえたような気がした。  電話の向こう側でも異音を聞きつけたのか、現在進行形でドアをノックしているらしい硬質な音と『senor? senor?(もしもし、お客様?)』と呼びかける男の声がかすかに聞こえる。  美琴は深いため息をついてから携帯電話を美鈴に差し出した。  美鈴は受け取った携帯電話がまだ通話中であることに気づいて、 「パパ、もしかして卒倒しちゃった?」  美琴は返事の代わりに小さく頷く。  美鈴は携帯電話を耳に当て、向こう側の様子を確かめると 「スペインにいるみたいね。多分ホテルマンがパパの異変に気づいてそろそろマスターキーでドアを開けて入ってくる頃かな」  片目を軽くつぶって終話ボタンを押し、携帯電話をハンドバッグの中にしまう。 「かっ、母さん? 父さんのこと心配じゃないの?」 「んー、心配には心配だけど電話越しじゃどうすることもできないしね」  それはそうと、と美鈴は言葉を続けて、 「美琴ちゃん、お正月は上条くんをうちに連れてきてね」 「? アイツはうちについて誤解してるみたいだから一度実物を見せようとは思ってるけど……何で?」 「だってー、美琴ちゃんが上条くんとお付き合いするようになってから、お母さん一度もちゃんとした紹介されてないのよ?」  一児の母に見えない美貌を注目されるのが楽しいのか、ことさらに『お母さん』という単語を強調する。 「は? 母さんしょっちゅうアイツと電話で話してんでしょ? 今さら紹介だなんて必要あるの?」  美琴の問いに美鈴は体をくねらせながら、 「だからって、可愛い一人娘が照れながら『これが私の彼氏』って言い出すイベントをスルーするなんて話はないでしょう? ちょうどその頃にはパパも帰ってくるから一石二鳥よん。大丈夫、上条くんがパパに会う時はママもフォローするから」  こう言うのは『一石二鳥』ではなく『前門の虎後門の狼』だろう、と美琴は思う。  しかも虎(ははおや)は笑みを浮かべて手ぐすね引いているし、狼(ちちおや)に至っては下手をすると(上条が)噛み殺されかねない。  とにかく上条に会って今の話を伝えよう。  そう心に決めて、美琴は再び露店に意識を移した美鈴の後を追いかける。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox) 九月の狂想曲  上条は警備員用詰め所として用意されたテントで、ゴム紐とそれを通すための棒を借りた。  十万人単位で学生が参加する大覇星祭では、やれ靴紐が切れただのパンツが破けたなどという事が頻繁に起こる。警備員の詰め所で裁縫道具は引っ張りだこの大人気を誇っているのだ。  普段は家庭科の先生や保健室の先生やってます、なんて人が出てくれば幸運(ラッキー)なのだが、上条に応対したのは長い髪をひとくくりに束ねた女の警備員だった。  彼女の名前は黄泉川愛穂。  上条の担任・月詠小萌の同僚で席は隣、担当科目は体育のヘビースモーカー。  巨乳で美人だが枕詞として『いろいろともったいない』が付くのはこの際脇に置く。  もったいない美人の黄泉川は上条の説明に大爆笑して、 「何? 彼女の目の前で短パンがストーンの安物下着がドーン? そりゃ最悪じゃん」  あまりにも無体なコメントを涙ながらに聞き流し、短パンに新しいゴム紐を通しずり落ちない事を確認すると、上条は一応のお礼を述べて外へ出た。 「ちくしょう、安物とか粗末とかどいつもこいつも言いたい放題言いやがって……不幸だ」  この道を左に曲がって少し歩くと屋台の区画がある。  土御門の代わりに出なければならないムカデ競争までまだ時間があるので、ちょっとのぞいてみようかな、と上条は思った。  本当だったら隣には美琴がいて、二人で屋台を冷やかしながら歩いていたはずなのだが、先ほどの件で上条を警戒した白井の手によって美琴は連れて行かれてしまった。 「……何だろうな、こういうの。当てにしていた何かが立ち消えになって寂しいっつーか、すっきりしねえっつーか」  やるせない気持ちを抱えて上条は屋台の区画へ足を踏み入れた。  立ち並ぶ屋台からはソースだの醤油だの味噌だの辛子だのが混じり合ってプン、と良い匂いが立ちこめて、上条の鼻をくすぐる。  短パンのポケットにはわずかだが小銭が入っている。喉が渇いた時に手近な自販機でスポーツドリンクでも買おうとあらかじめ放り込んでおいたものだ。  昼食の時間までは間があるし何か買って小腹でも満たそうかな、などと考えたところで上条の目は一軒の屋台に釘付けになった。  そこには、  ヒヨコのアップリケが目立つエプロンとピンクの三角巾を身に着けたウェスタンルックサムライガールがいた。  自分は何も見ていない。  そう念じて通り過ぎようと思ったところでヒヨコのアップリケ、もといウェスタンルックサムライガールとうっかり目が合ってしまった。  上条はできるだけ愛想良さそうな笑顔を作って、 「……おっすー神裂。お前ここで何やってんの?」 「久しぶりですね、上条当麻。私でしたら見ての通り販売員をしていますが?」 「いやまぁ、そこでそんな事をしてるってことはそうなんだろうけどよ」  ウェスタンルックサムライガール改め神裂火織は『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師であり、付け加えるなら一応修道女である。  このほかにも聖人だとか女教皇様(プリエステス)だとか変な呼び名もあるのだがそれについては説明するのが面倒なので無視しておく。 「必要悪の教会っていつから屋台経営に手を出すようになったんだ?」 「あなたは何を言ってるんですか。私達は学園都市で『塾』を経営している『企業』ですよ? 私達は正式な許可を取って企業出店し、『塾』の運営資金を獲得しているんです」 「インデックスの食費の間違いじゃねーかそれ?」  必要悪の教会は『神学系の私塾を運営する』という名目で第七学区の一角に教会型の建築物を所有している。所有企業の名称はもちろんダミーだし、登記簿をひっくり返してみたって必要悪の教会の名前は一文字たりとも出てこない。  そんな事はとっくに知っているが、 「……話を変えるぞ。必要悪の教会が屋台で何を売ってんだ? 聖書か? それとも賛美歌のカラオケでも入ったCDか?」 「お茶漬けですよ。梅茶漬けが一杯一五〇円、鯛茶漬けが二〇〇円です。ちなみにお茶漬けに使う梅干しは私が手作りしました」 「……売れんのかそれ?」  良く見れば神裂の右隣には大きな炊飯釜が置かれ、左手には寸胴鍋、手前にはお茶漬けの具が入っているらしいタッパーが重ねられている。  神裂は慣れた手つきでスチロールのカップに白飯を盛りつけ、その上に潰した梅干しを一つ乗せ、寸胴鍋から持ち手の長いお玉でだし汁をで掬い白飯の上からざぶざぶ注ぐ。 「どうぞ。知り合いのよしみで代金は結構ですから」 「……いただきます」  神裂のぎこちない営業スマイルにたじろいで、上条は差し出されたカップと割り箸を受け取る。  箸をパチン、と二つに割って湯気の立ちこめるスチロールのカップに恐る恐る口をつけ、匂いを嗅ぐ。 「……ふうん、良い香りだな。これってブランド物の梅でも使ってんのか?」 「日本のスーパーで普通に手に入る梅ですよ。それを根気よく天日で干しただけです」 「へぇ、そうなのか」  一口啜って、 「……ん、美味いな」 「梅干しに含まれるクエン酸は疲労回復につながります。競技に出場して疲れている今のあなたにはぴったりでしょう。白飯もおにぎりにするより、温かい汁と共に食した方が胃の負担も少なくてすみます」 「そっか」  神裂の密かな心配りに感謝して梅茶漬けを啜る。  上条はスチロールのカップから顔を上げて、 「そういや、インデックスは? アイツはすぐにつまみ食い始めるから教会で留守番か?」 「いえ、あの子なら」  神裂は右腕を伸ばして三軒左隣の屋台を指差す。  と同時に、まるで示し合わせたかのように白い修道服姿の少女が振り向く。  少女の口の周りは茶色いソースにまみれていた。  何かを食べている最中なのか、リスのように両頬がぷっくり膨らんでいる。 「い、インデックス……相変わらずだな」 「……ふぉーふぁ?(とうま?)」  しばらく顔を合わせていないはずなのに何も変わらない少女の態度にちょっとだけ、いろんな意味で切なくなる上条と、キョトンとした顔で走り寄ってくるインデックス。  彼女の後ろには身の丈二メートルに届く赤髪の少年が控え、収納量限界ではち切れそうなコンビニ袋を両手に提げていた。袋の口からはお好み焼きやフランクフルト、焼きそばを収めたと思しき透明なプラスチックのパックがはみ出している。  あれ全部でいくらになるんだろうな、と上条が意識を別方向に向けていると、 「とうま! ……むぐ、久しぶりだね」 「久しぶりだね、上条当麻」 「口に物を入れたまましゃべるのはお行儀が悪いぞインデックス」  何やら得意げに笑みを浮かべる赤髪の少年を無視して上条はインデックスに向き直る。  二人の間に存在を主張するべく先ほどの少年が割り込み、右手に持ったコンビニ袋を左手に持ち変えると胸元からポケットティッシュを取り出す。  彼はインデックスのソースまみれの口元を拭ってやりながら念を押すように、 「久しぶりだね」 「……、そうだな。ステイル」  それってそう言う態度で使う言葉か? とツッコミたくなるのを押さえる上条。 「とうま、とうま。あのねあのね」  口元を拭いてもらいながらジャパニーズ屋台は今年もおいしかったんだよ、と話すインデックスの無邪気な姿に、上条はかすかな胸の痛みを覚えた。  本当だったらインデックスの隣にいるのは自分で、年中金欠な財布と戦いながらインデックスと二人で屋台を冷やかしていたはずなのだ。 (あれ……さっきも似たようなことを考えてなかったか?)  思った事は同じでも、美琴の時とインデックスの時で何が違うのか。  痛みは忘れかけていた何かを揺り起こすように。  上条の胸を繰り返し浅く突く。  ここはスペイン・バルセロナ。日本との時差はマイナス七時間。  コンクリートを白く塗っただけの壁に囲まれたホテルの一室で、まだ夜の明けきらぬ時間に御坂旅掛はふわぁ、と大きなあくびを一つして起き上がる。  重しを取り除かれたスプリングが背後で軋みを上げ、御坂は硬いベッドで圧迫された背中を片手で軽くさする。  宿なんてとりあえず寝られるベッドがあれば良い。  欲を言えば寝酒ができるならもっとありがたいのだが、財布を妻にがっちり握られている状態ではそんな贅沢もできない。  御坂はベッドから降りると周りをぐるりと回り、窓辺に置かれたテレビのスイッチを入れる。  今時リモコンがないというのもナンセンスだが、大方他の宿泊客がいたずらして壊したか、あるいは盗まれてしまったのだろう。リモコンなしでもスイッチが入れられるのがせめてもの幸いだ。  御坂はフリーのコンサルタントで、『世界に足りないもの』を示すことを生業としている。家族構成は妻一人娘一人。神奈川県の郊外に一戸建てを所有しているが、そこに帰るのは年間でも数えるほど。  それが御坂旅掛という男だった。  そんな彼が早朝からテレビを見るのは、何もビジネスの種を探そうと言うのではない。  彼のかわいい愛娘、美琴が暮らす学園都市で大覇星祭が行われているからだ。  ここバルセロナでも番組は放映されているが、残念なことに生放送ではない。  録画の、しかもダイジェスト版なのだ。  そしてどうやら競技中に起きたハプニングシーンだけを集めて流しているらしく、編集で付け加えられた笑い声が耳障りだ。  こっちの放送局は視聴率稼ぎにあまり熱心ではないのかも知れないな、と御坂は思う。  それでもこんな朝っぱらから特番を組んで流すだけましなのだろうと思い直し、 「うちの娘が映ってるかも知れないってのに、何でこのホテルは衛星放送と契約していないんだ」  そうは言っても宿なんてとりあえず寝られるベッドがあれば良いと、このホテルを選んだのは御坂自身だ。今度からは衛星放送が見られるかどうか事前にチェックしてから部屋を取ろうと考えて、首を軽く横に振った。  次にその心配をするのは一年後だ。  一年後、自分が世界のどこにいるか分からないのだからこんな考えには意味がない。  御坂は無精髭が伸びた頬を一撫でして、 「美鈴が美琴を連れ戻すことを止めて一年、か。あの街で何があったのかは容易に想像つくが……さて、少しは何か面白いことでも」  あったのか、と呟きかけて滅多な事では動じない御坂の動きが凍り付く。  四角くて古ぼけた画面の中で、  彼のかわいい愛娘が見知らぬツンツン頭の少年の腕に抱かれて大通りを駆け抜けている。 「……、な」  何だこれは。  何が起きている?  美琴は何故嬉しそうに頬を染めている??  あの少年は誰だ???  御坂はベッドに向かってダイビングを敢行し枕元に置いた携帯電話に手を伸ばす。  海外からでは通話料金が馬鹿にならないが、今回だけは話が別だ。  液晶画面に妻・美鈴の番号を呼び出し通話ボタンを親指で力一杯押し込む。  国際電話のせいか呼び出し音の繰り返しが長く感じられる。  イライラしながら待っているとブツリ、という回線接続音の後に続けて賑わう街のざわめきが聞こえてきた。  喧噪と衝動と闘争のお昼ご飯タイムが終わる頃。  御坂美琴と美鈴の母娘は、街中を歩いていた。  二人は歩道橋を渡りきったところで他の歩道橋と接続するために作られた空間に差し掛かる。  空間と言っても隅に木製のベンチが置かれているし、景観を損ねぬ程度に常緑樹も植えられている。  夕暮れ時や休日にはここでシンガーソングライターを気取る学生達がギターを片手に警備員と戦ったり怪しげな大道芸を披露する。  所謂パフォーマー達のたまり場のようなところだった。  今日は学生達の代わりに観光客目当ての露店が幅をきかせ、金切り声を上げて空気を震わせている。  こんなところまで二人が足を伸ばしているのは美鈴が例によって学園都市土産を求めているからであり、美琴としては次の競技までの空き時間を利用して美鈴を案内するためだ。  店の一つ一つをのんびり冷やかしていると、すれ違う人々が小声で『うわ、すげー美人姉妹』と口にする。  それを聞いてご満悦な美鈴と、浮かれる母親を見て『何やってんだか……』とあきれる美琴。  美鈴はとある露店のテーブルに置かれた怪しく光るブローチを熱心に見ていたが不意に顔を上げて、 「美琴ちゃん、そう言えば地底横断ロケットの発射口ってどっち? 去年はまだみたいだったけど、さすがに今年は整備終わってるわよね? お母さん、帰る前に一度乗っておきたいわ」 「んなもんあるかっ!! 前回で学習したと思ってたけど相変わらず学園都市がどんなところか分かってないでしょ?」  お母さん、の一言で周囲の若者達が美琴達を見やって『うげ!? あの若さで母親? 一体いくつで娘産んだんだ』『相手が犯罪行為に足つっこんでんじゃねーの?』と囁き合う。  周囲から予想通りの反応を受け取ると美鈴はにんまりと笑って、 「うっふっふ、今日のためにお肌つやつや強化コースに通っていて良かったわー」  自分の頬に人差し指の先をつけ弾力を確かめる。  美琴は周囲にニコニコ愛想を振りまく美鈴を横目で見ながら、肌の張りといい艶といい年頃の娘を持つ母親とは思えないわね、と密かに思う。 「でも美琴ちゃんの天然の若さにはかなわないのよねー。あと上条さんにも」  ここで美鈴が口にした『上条さん』とは、上条当麻の母・詩菜のことである。  詩菜の外見を一言で例えるなら『病弱な大学生のお嬢様』がぴったりなくらいに若く見える。  と言っても決して若作りしているわけではない。しかも特にエステなどには通っていないというから驚きは倍率ドンさらに倍である。  一七歳になる息子を抱えてあの若さなのだから犯罪行為に足を突っ込んでいるのは上条家の方じゃないか、と考えてしまうくらいだ。 「学園都市謹製の美容グッズでも買って帰ろうかしら。あのピチピチお肌には負けたくないのよね」 「……いや、あれはもう科学の領域を超えてるんじゃない?」  などと互いに口にしていると、美鈴は一軒の露店の前で足を止めた。  美鈴は通り過ぎようとした美琴に『ねぇねぇ』と手招きして、 「これ、パパ宛のお土産にどうかな? 『携帯野球ゲーム板学園都市スペシャル消える魔球付き』だって。折りたたんで持ち運べるからかさばらないし長旅の間の暇つぶしに使えると思うんだけど」 「消える魔球? 学園都市製のゲームとは言えアナログ仕様でそんな仕掛けが……って、これバッターボックスの手前に穴が空いてそこにボールが落ちるだけじゃない!」  美琴は美鈴の手から携帯野球ゲーム板をひったくり店のテーブルに戻す。  こういうインチキなお土産屋に引っかかりそうだという心配が早くも的中したところで、携帯電話の着信メロディがかすかに聞こえてきた。  美琴は聞き慣れないメロディに耳をやって、 「母さん、もしかしてケータイ鳴ってない?」 「あら、誰かしら」  ハンドバッグの中から携帯電話を取りだした美鈴の顔がにまぁ、という笑みに変わる。 「美琴ちゃん、パパからよ。たぶん今朝のお姫様抱っこを見て慌てて電話かけてきたんでしょうね」 「え? ええ?? だってあれは朝の出来事だしあれから何時間も経ってるでしょ?」 「もしもーし。パパ、元気してる? ……うんうん、美琴ちゃんならここにいるわよ」  美琴の狼狽を軽く流すと美鈴は携帯電話に向かって会話を始めた。  耳を澄ますと携帯電話のスピーカーから何やら男の叫び声のようなものが聞こえる。  どうやら美琴の父・旅掛は相当興奮(エキサイト)しているらしい。  美鈴は美琴に向き直るとにんまり笑って、 「美琴ちゃん。パパが美琴ちゃんとお話ししたいんだって。どうする?」 「……どうするもこうするもないわよ。出るから貸して」  ため息を一つついて美琴は美鈴から携帯電話を受け取ると、本体から少し距離を開けて耳に神経を集中させる。  開口一番でいきなり怒鳴られたらたまらないわね、と美琴が身構えていると、 「……美琴か?」  久しぶりに聞く父親の声はやけに疲れているように感じられた。  美琴は深呼吸して、 「……と、父さん? 元気だった?」 「美琴。あのツンツン頭は何者だ?」  追求の声が響く。  ―――やっぱり来たか。  ここから父親は間違いなく母が言うところの『面白い反応』を見せるに違いない。  美琴は腹を括ることにした。 「……あのね。その……私の彼氏。今、付き合ってる人」 「……、」  携帯電話の向こうからは何の反応もなかった。  ひょっとすると父は怒りのあまり絶句しているのかも知れない。 「そ、その、そのうち父さんに紹介しようと……父さん? もしもし?」  沈黙と、おそらく向こうで父親が見ているであろうテレビの音声に混じってバターン!! と人が倒れる音が聞こえたような気がした。  電話の向こう側でも異音を聞きつけたのか、現在進行形でドアをノックしているらしい硬質な音と『senor? senor?(もしもし、お客様?)』と呼びかける男の声がかすかに聞こえる。  美琴は深いため息をついてから携帯電話を美鈴に差し出した。  美鈴は受け取った携帯電話がまだ通話中であることに気づいて、 「パパ、もしかして卒倒しちゃった?」  美琴は返事の代わりに小さく頷く。  美鈴は携帯電話を耳に当て、向こう側の様子を確かめると 「スペインにいるみたいね。多分ホテルマンがパパの異変に気づいてそろそろマスターキーでドアを開けて入ってくる頃かな」  片目を軽くつぶって終話ボタンを押し、携帯電話をハンドバッグの中にしまう。 「かっ、母さん? 父さんのこと心配じゃないの?」 「んー、心配には心配だけど電話越しじゃどうすることもできないしね」  それはそうと、と美鈴は言葉を続けて、 「美琴ちゃん、お正月は上条くんをうちに連れてきてね」 「? アイツはうちについて誤解してるみたいだから一度実物を見せようとは思ってるけど……何で?」 「だってー、美琴ちゃんが上条くんとお付き合いするようになってから、お母さん一度もちゃんとした紹介されてないのよ?」  一児の母に見えない美貌を注目されるのが楽しいのか、ことさらに『お母さん』という単語を強調する。 「は? 母さんしょっちゅうアイツと電話で話してんでしょ? 今さら紹介だなんて必要あるの?」  美琴の問いに美鈴は体をくねらせながら、 「だからって、可愛い一人娘が照れながら『これが私の彼氏』って言い出すイベントをスルーするなんて話はないでしょう? ちょうどその頃にはパパも帰ってくるから一石二鳥よん。大丈夫、上条くんがパパに会う時はママもフォローするから」  こう言うのは『一石二鳥』ではなく『前門の虎後門の狼』だろう、と美琴は思う。  しかも虎(ははおや)は笑みを浮かべて手ぐすね引いているし、狼(ちちおや)に至っては下手をすると(上条が)噛み殺されかねない。  とにかく上条に会って今の話を伝えよう。  そう心に決めて、美琴は再び露店に意識を移した美鈴の後を追いかける。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/Equinox)

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