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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side/Part02 - (2011/03/07 (月) 17:01:35) の1つ前との変更点

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---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side) ― バレンタイン ―  同日夕方、とある自販機前 「はぁ…不幸だ…」  上条は未だランドセルを背負っても全く違和感のない担任との1日通しの1対1の補習を終え、帰路についていた。  しかし、彼の不幸は補修だけにはとどまらない。  補修などは別に今日に限ったことではなく、普段からほぼ毎日というほどやっている。  なので補修だけならまだまだ彼にとってはもう不幸というには足らない。  この日の朝、彼は朝寝坊をしてしまったため、朝食を食べることはできなかった。  朝のことは仕方ないと我慢して午前中の授業を乗り切り、朝の分を取り返すつもりで昼食を食べようと学食に向うも、食券を買う直前で財布を家に忘れることに気づいた。  そして結局昼食も食べることもできずに、午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、授業を終えても補修が待ち受けていたため、今の今まで何も食べていなかった。  空腹、それはまだまだ育ち盛りの彼にとっては、これ以上ない苦痛である。 「今の上条さんのお腹は極限状態ですよ…」  早く家に帰って何かを食べたいとは思うものの、早く帰るだけの元気は補習や授業などによって削りとられており、結局家までの最短経路を通りつつもゆっくり歩を進めていた。  気づけばいつも美琴が蹴りをいれている自販機前まで着いていた。  そしてそのいつも気の毒な目にあっている自販機を目にして、ふと上条は考える。 (殴ればジュースは出てくるのだろうか…)  今の上条の腹の空き具合は極限状態にある。  普段ならば彼女がしでかす行動を大手を振って止めている側ではいるが、今この時だけはタダで飲み物を飲めるという幻想にもすがりたくなる。  しかし彼、上条当麻は不幸な少年だ。  彼が腕を振り上げればどんな不幸が起こるかわかったものではない。  なのでデモンストレーションがてら、上条はいつも美琴がしているように、自分が自販機を殴ってジュースを手に入れる図を思い浮かべる。 (いやいやいやいや、不幸な俺がやったところで結果は見えている、どうせ自販機が故障かなんかおこして警報が鳴って警備のロボットが大量にやってきて逃げる羽目になって……ここは我慢…いやしかし…!)  今までの人生において彼は自分の不幸具合、上手くいかない加減は身に染みていた。  そんな彼だからこそ彼の理性は踏みとどまることを指示する。  いつのも上条なら耐えれたであろう。  しかし、今回ばかりは事情が違う。  今彼の腹は極限状態。  その状況下で彼の本能は殴ることを強く推す。  その理性と本能の戦いの狭間で上条は苦悩を強いられていた。  まさにその時だった。 「ちょっとお時間よろしいですの?」  上条は頭の中で理性と本能との葛藤を繰り広げ、悩ましい恰好で頭を抱えていた。  もし仮に、事情を知らない人が今の状態の彼を見たならばろくなことを考えないだろう。  その自覚が彼にあるのかどうかなど疑問だが、真剣に考えている最中に声をかけられたため、反射的に声のした方を向く。  すると彼の目線の先にはツインテールの少女、白井黒子が立っていた。 「なんだ?白井じゃねえか、どうした?」  美琴ならいざしらず、彼女が上条に街中で声をかけてくるのは極めて珍しい、いや、今までなかった。  彼が彼女の慕う人物、御坂美琴と親しい間柄であることをあまりよく思っていないからだ。  それ故、彼女は上条を見るや否や、攻撃を仕掛けてくるのが日常。  質問を投げかけてそれに気づき、ろくでもないことが起こりそうなことを予感し、上条の不幸センサーがビリビリ反応する。 (なんかとてつもなく嫌な予感がするのですが…?) 「あなたに声をかけたのは他でもありません、お姉様のことですの」 「お姉様…?御坂のことか?」 「ええ、あなたが明日お姉様と約束をなさっているのは知っています。ですが、私はそれが…というより、お姉様とあなたがいることが納得できませんの」 「約束…?あぁ、明日のことか?」 「ええ、そうですの」 「なんでお前がそれを…?……って、まぁいいや、お前が約束についてなんで知っているのかは敢えて聞かないでおくよ。それで、お前の目的はなんなんだ?まさか明日約束破れとか言うんじゃないだろうな?」  神妙な口調で淡々と話す黒子を見て、上条はこの御坂美琴至上主義の白井ならあり得ると思った。  以前ならば、簡単に引き下がっていたかもしれない。  だが今回ばかりは上条に思うところがある。  たとえ破れと言われて簡単に引き下がるつもりは彼にはなかった。 「いいえ、まあそれもできるならしてほしいですが、それはお姉様の希望に反します。……私が今日あなたに会いにここまで来た目的は、確認と勝負のためですの」 (勝負って、俺の不幸センサーは伊達じゃねえな……別にいいことでもなんでもないんだがな……はぁ)  ひとまず危惧していたことを回避でき安堵する。  反面、上条としてははあまり当たってほしくない予感が見事的中し、勝負という物騒な単語を聞き、焦る。  黒子は空間移動の使い手で大能力者。  電撃、つまり異能の力を起点に攻撃を行う美琴より相性が悪い。 「勝負ってお前、無能力者を痛めつけて楽しいのかよ!?」 「ご心配なさらずとも、そのような趣味は持ち合わせておりませんわ。……ですが、あなたはその辺の無能力者にはない特殊な能力をお持ちではありませんの?」  うっ、と上条は息を詰まらせた。  彼は異能の力ならなんでも打ち消すことができる右手、幻想殺しを持っている。  だがそれ以外の身体能力などはその辺の無能力者より少し上なだけ。  幻想殺しだけで彼女との戦力差を埋めることは到底できず、分が悪いことには変わりないのである。 「さて、本題に入りましょう。まずは確認ですが…あなた、お姉様のことをどう思ってらっしゃるですか?」 「ぶふぅっ!!」  あの白井のことだ、まとも質問はしてこないだろうと上条は踏んでいた。  だがあまりに期待通りのぶっとんだ質問に、上条は思わず吹いてしまった。 「ど、どう思ってるたって……というか、何でそんなことお前に言わなきゃなんねんだよ!?」 「いいから答えてくれません?私は真剣なんですの」  黒子の言うとおり、彼女の雰囲気は真剣そのもので、浮ついた気持ちでそういったことを聞いてはきた訳ではないように思われる。  上条も次第にそれを察して、多少の気恥ずかしさはあるものの、正直に答える。 「…………少なくとも俺は、御坂のことを気にしてはいる。ちょいはずいけど良い女の子ってのもわかる。……だけどまだ今のあいつに対する感情が好きになるのかは、わからない」 「そうですの……では、あなたは以前私におっしゃいましたよね?『御坂美琴とその周りの世界を守る』と誰かと約束したと……それに偽りはありませんこと?それを守る覚悟はおあり?」 「ああ、その言葉に偽りはねえよ。それに、それを守る覚悟だってある。あいつを悲しませるようなことは絶対にしねえよ」  それは上条の本心だった。  妹達の件のときの美琴はこれ以上ない程に絶望していた。  それを見て、事件を解決した彼としては美琴をこれ以上悲しませてはいけない、させたくないと感じた。  そこに理屈や論理が入り込む余地はない。  ただ本能的にそう思えたのだ。  気付けば考えるよりも先に、彼の口が勝手にそう答えていた。 「……わかりました。では本当にその覚悟あるかどうか、私を倒して証明してくださいませ」  白井黒子の雰囲気が一変してさらに真剣なものとなる。  その眼光は憎しみ、羨望、決意などと様々な感情を宿していた。  彼女は御坂美琴を心から慕っている。  それをどこの誰とも知れぬ男に、美琴の心が奪われたことが許せないのだろう。  彼女の心の底の感情は今表面的に見えるそれよりもはるかに穏やかではない。  始めは上条は乗り気ではなかった。  それでもそれらを肌で感じた上条は何も言わず、覚悟を決め、構える。  彼はまだ美琴と縁を切ることを全く望んでいない。  第一、それでは約束を守れない。  だが、御坂美琴という人間と仲良くしていくには、そして、今後もそうやって過ごし、彼女を守っていくには恐らく必要なことなのだろうと思いながら。  「一応言っておきますが、この勝負であなたに致命傷を与えようとは思ってはおりません。本心はしてやりたいとこですが、それをするとお姉さまが悲しみますので。……ですが、だからといって手を抜くというようなことはしませんので注意してくださいな」  そう言って黒子は僅かに微笑む。  勿論それは顔だけで、目は全く笑っていない。  そして、彼女も武器の金属矢を手に持ち、構える。 「…いきますわよ」  そう言った瞬間、黒子は上条の前から消える。  白井黒子は空間移動能力者。  今まで様々な敵と渡り合ってきた上条だが、このような敵と1対1で戦ったことはない。  「ッ!!」  そんな空間移動移動能力者の対策を練ろうとする上条を、黒子はお構いなしに背後から彼にドロップキックをかます。  上条は少しよろめいて攻撃された後ろに振り向くが、そこにはすでに誰もいない。  最早見失ってしまった彼女を見つけるべく、辺りを見回す。  ――――が、そうしている内にも黒子は1回、そしてまた1回と攻撃を重ねてゆく。 (くそっ!1回1回の攻撃は大したことはないけど、このままやられっ放しは流石にまずい!)  しばらくその状態が続き、上条はとりあえず状況を打破すべく、今立っている所から離れる。 「その程度ですの?あなたの覚悟はとやらは」  現在の上条の位置から、やや離れた所から彼女の声がした。  上条は確かに他の無能力者にはない能力”幻想殺し”を持っている。  それはあらゆる異能の力を打ち消すことができるものである。  だが言ってしまえばそれしかできない。  彼の能力で攻撃を始めた彼女を止めるのは難しい。  (考えろ…どうすれば勝てる…何か打開策があるはずだ)  何があったのか、黒子は今は攻撃の手を止めている。  上条はその間に策を練ろうとするが、簡単にはまとまらない。  だが、一方的なはずの黒子にもちょっとした誤算があった。 (なかなか侮れませんわね…)  彼女考えていた戦略はこうだ。  まず上条の背後や死角に回り込み攻撃を続ける。  それを続けていき、上条が体勢を崩して倒れたところを金属矢で体を固定させ、無力化する…予定だった。  彼女の誤算、それは上条が倒れないことにあった。  金属矢を体に打ち込めばそれで勝負は決まる。  しかし黒子は上条に致命傷は与えないと言っており、それはできない。  むやみに飛ばせば、致命傷を与えかねないからだ。  さらに、上条の右手で触れられればそこでほぼ負けは決定するため、あまり長く組み合うこともできない。  結果、長くは触れられない彼女の一撃は必然的に威力は軽くなる。 (ですが、それら加味してもここまでは…あのタフさはなんですの…!)  勿論そんなことは、この戦略を考えた彼女が一番わかっていた。  それでも仮にも風紀委員の訓練などで鍛えている彼女である。  全開でなくてもそこそこの威力はあるし並みの人間なら5秒も保たないだろう。  だが上条は違う。  これまで渡ってきた死線の数々、実際の戦闘における経験、それによって結果的に鍛えられた肉体。  これらは学園都市で過ごしてきた黒子とは絶対的に異なるものであった。  (致命傷を与えることができないのがこんなにハンデになるとは…!)  黒子は思わず舌を巻く。  そんな中、上条はあることを思い出していた。  (そういえば…確か空間移動は他の能力と違って演算が複雑なんだっけ…)  上条の覚えていたように、空間移動は便利な能力ではあるが、他の能力とは異なり、演算が複雑である。  そのため、能力の使用はその時の精神状態や集中の具合で大きく違い、集中が乱れると能力が使用できない時さえある。 (もしそうなら、能力の発動する瞬間になにかでかい音でも出して集中を乱せば…)  上条は辺りを見回す。  元々上条がいたのは半ば壊れている自販機の目の前で、自販機が必然的に目に入った。 (これしかない…!)  どちらにしろ、このままでは敗色は濃厚。  どんな策でも、無いよりはましだった。 「どうした?かかって来ないのか?」  いくら、能力発動を阻止しても距離を詰めている間に、また能力を使われては意味がない。  上条は自販機を自分の左手が届く範囲の所にまで移動しながら、先程から動きを止めている黒子に挑発するかのように問いかける。  彼女はハッと我に返ったように肩ピクンと揺らし、また先程までと同じ目で上条を睨みつける 「いえ、あまりに一方的だったので少し時間を差し上げましょうと思っただけですの…もう構いませんの?」 「んなもん勝負する前から覚悟はできてんだからいいに決まってるだろ。とっとと終わらせようぜ」  そう言うと、また黒子はまた構えた。 (問題はタイミングが…早すぎてのダメだし、遅すぎてもダメだ。)  上条の立ち位置は自販機を左手にして、道なりに黒子の方を向いており、彼女とは少し距離がある。  さらに左手から自販機までは1メートルもない程にすることで、空間移動の範囲を多少なりとも限定する。 (あいつが俺に攻撃で触れる瞬間…ここで音を…自販機を殴る!)  上条が構えると同時に黒子は空間移動をする。  そしてわずか1秒も満たない内に彼の背後から気配が現れ、そして… (ぐっ!…今だ!!)  ドォォン!!  黒子が背後から体当たりをしてきた瞬間、上条は思い切り自販機を叩き、辺り一帯に自販機が壊れんばかりの音が響いた。  瞬間、彼は背後を振り向く。 (白井は…いる!) (ッ!!マズイですの!)  案の定、黒子は突然上条がだした音により、空間移動ができずにその場にいた。  そこで離れようと再度能力を使う素振りを見せるが、 「捕まえたぞ」  時すでに遅く、黒子の腕は上条の右手で掴まれる。 「これでお前は能力は使えない、俺の勝ちだ」 「!!まだ、まだ私は負けてませんわ!」 「もういいだろ、結果は見えてる……それに、俺はお前を傷つけたくない」  風紀委員とはいえ黒子は女の子でまだ中一、対して上条は男で高一。  結果は火を見るより明らかだ。  それを聞いた黒子は体の力を抜く。  腕を掴んでいた上条もそれを察知し、彼もまた肩の力を抜き地べたに寝転がる。 「うはー、死ぬかと思った…」 「なんでですの…?」 「は?」 「なんであなたはそんな強くいられるんですの…?」  黒子の声は震えていた。  負けたことへの悔しさ、上条への怒り、嫉妬、などとその理由は様々だろう。  しかし、今彼女の中で最も強いものは上条のもつ表面的な強さではなく、たとえ難題を押しつけられていても、それをなんとか解決しようとする、そして本当に解決する内面的強さへ疑問。  前助けられた時も思っていた。  別にそこまで仲良くしているわけでもない赤の他人にどうして命を張れるのかと。 「別に俺はお前が思う程強くねえよ」 「え…?」 「俺が思うに、人一倍何かを守りたいって気持ちが強いんだよ。前だってそうだし、今回もそうだ。お前の件に関しては約束を守りたいって気持ちが強いんだろうな」  上条は強いという言葉を否定した。  その理由も説明した。  それでも、黒子は強いと思った。  それは彼がどんな壁を前にしても一つの信念に基づいて行動し、それを貫いていくからだ。  守りたいという一念だけで普通そこまでのことはできない。  恐らく自分も真似できない。 (悔しいですけど、お姉様がこの方を支えにするのも分かる気がしますわ)  黒子は今なおぐったりと地べたに横たわっている少年を見て、そう思えた。 「――――あなた、いつまでそうやってるおつもりですの?」 「……悪い、朝から何も食ってないんだ……もう動けねえ」 「はぁ?……あなた、よくそんな状態で勝負を受けましたわね」 「しょーがねえだろ?お前がそういう空気つくってたんだから」  腹減ったー、とぼやく上条を横目に黒子負けたことが一層腹立たしくなった。  自分は風紀委員としてそれなりに実践も積んできたし、訓練もかかしていない。  にも関わらず、目の前に横たわるこのツンツンあたまの少年はそんな彼女をあざ笑うかのように、あっさり彼女に勝って見せた。   見たところ、何かしらの武術などのを習得しているわけでもないただの少年に。  それがとても腹立たしい。 「そういえば、先程あなたが自販機を殴った時に何かでてましたわねえ」 「本当か!?な、ならそれ俺にくれ!」  上条はまるで打ち捨てられた犬が餌を欲しがるように黒子を見る。  まったくこの男は、と思うが負けたからか、渋々ジュースを取りに行く。  でていたのは黒豆サイダーだ。  それを見た黒子は次第にちょっとした悪戯心が芽生えてくる。  さっきの勝負といい、言動といい彼女はイライラしていた。  とりあえず彼女は黒豆サイダーを彼の元に持ってゆく。 「せっかくですから飲ませて差し上げますわ。疲れているのでしょう?」 「え?いいのか?なんか悪いなぁ」  それを聞いた瞬間、彼女は悪魔のような笑みを浮かべた。  当然、腹が極限状態、かつ疲れきっている彼はそ不気味なの笑みに気づかない。 「では…」  そう言って、黒豆サイダーを上条の口元へ持ってゆく。  最初は上条は美味しそうにそれを飲む。  しかし、黒子はいつまでたっても彼の口に傾けたジュースを戻さない。  ちなみにこの黒豆サイダーは味はそこそこだが炭酸がきつい事で有名であり、休みなく飲むのは無理だろうと常盤台で評判の代物だ。  それを彼女は上条に休みなく飲ませているということは結果的にどうなるか。 「ぶはっ!…ちょっ、てめ!…かはっ…く、くる…しい…!」  それは当然こういうことになる。  出てきたジュースの内容量はお得サイズの500ミリリットル。  上条の苦しむ姿をニヤニヤしながら見つつ、黒子はなおも傾けるのを止めない。  サイダーは残り300ミリリットル…。  終わっていたかに見えた上条と黒子の戦いは、まだ終わっていなかった。   同日夜、常盤台女子寮  御坂美琴はバレンタインのためのチョコ作りをようやく終え、部屋のベッドに寝っ転がっていた。  ついさっきまで作業をしており、寮鑑が目を光らせる中、作業をするのは困難を極めたが、それでも作っていた人は彼女以外にも数人いた。  結局彼女が作ったのは万人受けするであろうガトーショコラ。  しかも味見をさせた料理自慢の彼女の友人が唸る程の一品が出来上がった。 (アイツ、喜んでくれるかな…?)  美琴は幸せそうな顔をしながら、枕に顔を押し付け出来上がった物に目を向ける。  そこで上条が食べる所を想像し、その想像の中での彼の言葉に頬を赤らめ、足をパタパタさせてまたケーキを見る、この繰り返しを何度もしている。  この部屋に彼女と相部屋の白井黒子がいれば間違いなく絶叫しそうな光景である。 「ただいまですの…」 「ッ!?……お、お帰りー、き、今日は遅かったじゃない、どうし……ってアンタどうしたの!?」  美琴は件の黒子が帰って来たことに驚き、肩を揺らす。  そして帰ってきた彼女に怪しまれまいとさっきまで緩みきった顔を直しつつ(それでも若干引きつってはいるが)、入り口に目を向けると、そこには砂埃で汚れた黒子の姿があった。  それを見て以前黒子を自分の事件に巻き込んでしまったと思っている美琴は、またその可能性を危惧する。  勿論、彼女は風紀委員であって、そういうことは珍しくはないのだが、それにしてはいつもより元気がない。 「……お姉様のお慕いする『あの殿方』にお会いしていましたの」 「は、はぁ!?お、お慕いする殿方って……もしかしてアイツ!?アンタなんで……あれ?、それじゃまさかのその汚れはアイツがつけたものなの!?」 「それは違いますわ、これは私の弱かったたせいですの。……そもそもお姉様の知っている『あの殿方』はそのようなことをお方でして?」  違う、と美琴はその話題の男―――上条の姿を想像しながら心の中で否定する。  彼は美琴が何回も勝負をふっかけて、何回も超能力者の彼女に勝てる場面があったというのに、殴るどころか触れてすらいない。  殴るような特別な理由もないのに誰かを傷つけるのをよしとしないからだ。  そんな彼が自分の後輩を痛めをつけているような場面を美琴は想像できなかった。 「確かに事情がありまして勝負はしましたわ…ですが、あの殿方は私に何もしませんでしたわよ?強いて言うならただ腕を掴まれたぐらいでしょうか」  黒子の返事を聞いて美琴は少し安堵する。  だが彼女の言葉に美琴にとって少し聞き捨てならない単語が含まれていた。 「勝負…?なに?アイツまた何かやらかしたわけ?」  黒子が上条をあまり快く思っていないのは美琴も知っている。  それでも彼女は口ではかなり飛んだ発言をするものの、ちょっとした理由で行動を起こす程馬鹿ではない。  その裏にあるものとして、上条の不幸体質故の出来事しか彼女は思いつかなかった。 「彼は特に何もしていませんわ。私はただ確認のために会っただけですの」 「確認…?」 「ええ、お姉様に関しての確認ですの」  美琴はますます訳が分からなくなった。  黒子が上条に会ったこともさることながら、自分のことの確認。  それがどういう経緯で勝負にまで発展したのか見当もつかなかった。 「まあお姉様がそんな気にすることではありませんわ。………ただ、今日お姉様があの方をお慕いする理由がわかった気がします」 「だ、だから!別に私は、アイツを慕ってなんか…」 「自分の気持ちに正直になってくださいませ、お姉様?そんなことでは明日が楽しめませんわよ?」 「ッ!!な、ななな何でアンタがそれを知ってんのよ!!」 「あら、私は単に昨日お姉様が電話している時に隣にいただけですわ。もっとも、お姉様は夢中で気づいていなかったようですけど?」  全く気づかなかった、と美琴は体中から嫌な汗が吹き出しているのを感じながら昨日のことを思い出す。 (この子の存在に気づかなかったとか…どんだけ私テンパってたのよ!)  わなわなと体を震わせ、美琴のさっきまでの幸せオーラは何処へか消え、代わりに今は羞恥が彼女を支配していた。  このままではとてもじゃないが黒子と顔を合わせられないと思った美琴は、わしゃわしゃと頭をかきむしりながら奇声をあげ、再度枕へ顔を埋める。  しかし、それだけで羞恥がとれる訳もなく彼女は悶々としながら時を過ごした。 同日12時前、上条宅  上条は結局あの後黒豆サイダーがなくなるまで休みなく飲まされ(後半はほとんどこぼしていたが)、しばらくの間咳き込んでいた。  それで気が済んだのか、彼に会いに来た始めの真剣な表情とはうってかわってスッキリしたような表情を見せ、彼女は上条の呼吸が整うのを見届けると、わりと真剣に怒っていた彼を無視し、お姉様をお願いします、とボソッと呟いて去っていった。 「ったく、結局何だったんだ?あいつ」  未だに収まらない若干の怒りを抑え、今日の黒子の行動に疑問を抱きながら一人呟く。  黒豆サイダーの炭酸のおかげで腹はある程度満たされたものの、今になっても少し気分が悪い。  さらに彼は今日は一日補習もこなし、彼女と勝負もした。  そんな彼としては一刻も早く床につきたい一心であったが、この時間まで起きていたのには理由がある。  一つは明日のための補習の課題をやらなければならなかったこと。  もう一つは美琴の連絡を待っていた。  彼女は昨日確かに今日また連絡すると言ったはずだし、彼としても明日の詳細を全く知らないので無視する訳にもいかないのである。 (もう、自分から掛けるか…?)  痺れを切らした上条が携帯を手にとる。  そしてアドレス帳から目的の人物の覧を選び、通話をしようとボタンを押そうとしたとき、  ピピピッ  部屋に着信を知らせる無機質な音が鳴り響いた。  と同時に、携帯の表示が彼がボタンを推していないにも関わらず変わり、御坂美琴の名が表示される。  それを見た彼はやっとか、とため息混じりにすぐに通話ボタンを押す。 「もしもし?えらい遅かったじゃねーか、何かあったのか?」 『う、ううん…なんでもない、なんでもないの…』 「そうか?んじゃ明日の詳細教えてくれ」  上条は言葉を濁す美琴に対し、若干の疑問を覚えるが、早く聞いて寝たかったため用件を聞く。 『えっと、補修は4時ぐらいに終わるのよね?それなら、5時にいつもの自販機前ね。絶対に遅れないこと!』  いつもの自販機、つまり今日上条と黒子が会った場所である。  ここは2人が会うとき、待ち合わせするときは大抵ここで、人通りも少ないので人目を気にすることなく待てるという利点がある。  さらに上条の寮からも美琴の寮からも大した距離はないので、その点も便利だ。 「ああ、わかった…用件はそれだけだよな?」 『えっ?まあそうだけど…』 「じゃもう切って良いですか?上条さん、今日はとても疲れているので早く寝たいのですよ」 『そ、そうなの?ごめんね、こんな時間まで待たせちゃって』 「いや、気にするな。……あ、そうそう、白井にさ、今度会った時は覚えとけよこの野郎って伝えておいてくれ。じゃあな」 『へ?あっちょっとそれどういう…』  上条は美琴が何かを言い切る前に電話を切った。  この話をすれば間違いなく長くなると思ったからだ。 (まぁ明日話せばいいだろう)  そう呟いて一目散にベットに向かう。  今日の黒子の行動、言葉の意味。  明日の補習と美琴との約束。  考ることはたくさんあった。  だがとにかく眠い上条は横になると、それらのこと全てを頭の中から取っ払い、間もなく眠りに落ちた。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side) ― バレンタイン ―  同日夕方、とある自販機前 「はぁ…不幸だ…」  上条は未だランドセルを背負っても全く違和感のない担任との1日通しの1対1の補習を終え、帰路についていた。  しかし、彼の不幸は補習だけにはとどまらない。  補習などは別に今日に限ったことではなく、普段からほぼ毎日というほどやっている。  なので補習だけならまだまだ彼にとってはもう不幸というには足らない。  この日の朝、彼は朝寝坊をしてしまったため、朝食を食べることはできなかった。  朝のことは仕方ないと我慢して午前中の授業を乗り切り、朝の分を取り返すつもりで昼食を食べようと学食に向うも、食券を買う直前で財布を家に忘れることに気づいた。  そして結局昼食も食べることもできずに、午後の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、授業を終えても補習が待ち受けていたため、今の今まで何も食べていなかった。  空腹、それはまだまだ育ち盛りの彼にとっては、これ以上ない苦痛である。 「今の上条さんのお腹は極限状態ですよ…」  早く家に帰って何かを食べたいとは思うものの、早く帰るだけの元気は補習や授業などによって削りとられており、結局家までの最短経路を通りつつもゆっくり歩を進めていた。  気づけばいつも美琴が蹴りをいれている自販機前まで着いていた。  そしてそのいつも気の毒な目にあっている自販機を目にして、ふと上条は考える。 (殴ればジュースは出てくるのだろうか…)  今の上条の腹の空き具合は極限状態にある。  普段ならば彼女がしでかす行動を大手を振って止めている側ではいるが、今この時だけはタダで飲み物を飲めるという幻想にもすがりたくなる。  しかし彼、上条当麻は不幸な少年だ。  彼が腕を振り上げればどんな不幸が起こるかわかったものではない。  なのでデモンストレーションがてら、上条はいつも美琴がしているように、自分が自販機を殴ってジュースを手に入れる図を思い浮かべる。 (いやいやいやいや、不幸な俺がやったところで結果は見えている、どうせ自販機が故障かなんかおこして警報が鳴って警備のロボットが大量にやってきて逃げる羽目になって……ここは我慢…いやしかし…!)  今までの人生において彼は自分の不幸具合、上手くいかない加減は身に染みていた。  そんな彼だからこそ彼の理性は踏みとどまることを指示する。  いつのも上条なら耐えれたであろう。  しかし、今回ばかりは事情が違う。  今彼の腹は極限状態。  その状況下で彼の本能は殴ることを強く推す。  その理性と本能の戦いの狭間で上条は苦悩を強いられていた。  まさにその時だった。 「ちょっとお時間よろしいですの?」  上条は頭の中で理性と本能との葛藤を繰り広げ、悩ましい恰好で頭を抱えていた。  もし仮に、事情を知らない人が今の状態の彼を見たならばろくなことを考えないだろう。  その自覚が彼にあるのかどうかなど疑問だが、真剣に考えている最中に声をかけられたため、反射的に声のした方を向く。  すると彼の目線の先にはツインテールの少女、白井黒子が立っていた。 「なんだ?白井じゃねえか、どうした?」  美琴ならいざしらず、彼女が上条に街中で声をかけてくるのは極めて珍しい、いや、今までなかった。  彼が彼女の慕う人物、御坂美琴と親しい間柄であることをあまりよく思っていないからだ。  それ故、彼女は上条を見るや否や、攻撃を仕掛けてくるのが日常。  質問を投げかけてそれに気づき、ろくでもないことが起こりそうなことを予感し、上条の不幸センサーがビリビリ反応する。 (なんかとてつもなく嫌な予感がするのですが…?) 「あなたに声をかけたのは他でもありません、お姉様のことですの」 「お姉様…?御坂のことか?」 「ええ、あなたが明日お姉様と約束をなさっているのは知っています。ですが、私はそれが…というより、お姉様とあなたがいることが納得できませんの」 「約束…?あぁ、明日のことか?」 「ええ、そうですの」 「なんでお前がそれを…?……って、まぁいいや、お前が約束についてなんで知っているのかは敢えて聞かないでおくよ。それで、お前の目的はなんなんだ?まさか明日約束破れとか言うんじゃないだろうな?」  神妙な口調で淡々と話す黒子を見て、上条はこの御坂美琴至上主義の白井ならあり得ると思った。  以前ならば、簡単に引き下がっていたかもしれない。  だが今回ばかりは上条に思うところがある。  たとえ破れと言われて簡単に引き下がるつもりは彼にはなかった。 「いいえ、まあそれもできるならしてほしいですが、それはお姉様の希望に反します。……私が今日あなたに会いにここまで来た目的は、確認と勝負のためですの」 (勝負って、俺の不幸センサーは伊達じゃねえな……別にいいことでもなんでもないんだがな……はぁ)  ひとまず危惧していたことを回避でき安堵する。  反面、上条としてははあまり当たってほしくない予感が見事的中し、勝負という物騒な単語を聞き、焦る。  黒子は空間移動の使い手で大能力者。  電撃、つまり異能の力を起点に攻撃を行う美琴より相性が悪い。 「勝負ってお前、無能力者を痛めつけて楽しいのかよ!?」 「ご心配なさらずとも、そのような趣味は持ち合わせておりませんわ。……ですが、あなたはその辺の無能力者にはない特殊な能力をお持ちではありませんの?」  うっ、と上条は息を詰まらせた。  彼は異能の力ならなんでも打ち消すことができる右手、幻想殺しを持っている。  だがそれ以外の身体能力などはその辺の無能力者より少し上なだけ。  幻想殺しだけで彼女との戦力差を埋めることは到底できず、分が悪いことには変わりないのである。 「さて、本題に入りましょう。まずは確認ですが…あなた、お姉様のことをどう思ってらっしゃるですか?」 「ぶふぅっ!!」  あの白井のことだ、まとも質問はしてこないだろうと上条は踏んでいた。  だがあまりに期待通りのぶっとんだ質問に、上条は思わず吹いてしまった。 「ど、どう思ってるたって……というか、何でそんなことお前に言わなきゃなんねんだよ!?」 「いいから答えてくれません?私は真剣なんですの」  黒子の言うとおり、彼女の雰囲気は真剣そのもので、浮ついた気持ちでそういったことを聞いてはきた訳ではないように思われる。  上条も次第にそれを察して、多少の気恥ずかしさはあるものの、正直に答える。 「…………少なくとも俺は、御坂のことを気にしてはいる。ちょいはずいけど良い女の子ってのもわかる。……だけどまだ今のあいつに対する感情が好きになるのかは、わからない」 「そうですの……では、あなたは以前私におっしゃいましたよね?『御坂美琴とその周りの世界を守る』と誰かと約束したと……それに偽りはありませんこと?それを守る覚悟はおあり?」 「ああ、その言葉に偽りはねえよ。それに、それを守る覚悟だってある。あいつを悲しませるようなことは絶対にしねえよ」  それは上条の本心だった。  妹達の件のときの美琴はこれ以上ない程に絶望していた。  それを見て、事件を解決した彼としては美琴をこれ以上悲しませてはいけない、させたくないと感じた。  そこに理屈や論理が入り込む余地はない。  ただ本能的にそう思えたのだ。  気付けば考えるよりも先に、彼の口が勝手にそう答えていた。 「……わかりました。では本当にその覚悟あるかどうか、私を倒して証明してくださいませ」  白井黒子の雰囲気が一変してさらに真剣なものとなる。  その眼光は憎しみ、羨望、決意などと様々な感情を宿していた。  彼女は御坂美琴を心から慕っている。  それをどこの誰とも知れぬ男に、美琴の心が奪われたことが許せないのだろう。  彼女の心の底の感情は今表面的に見えるそれよりもはるかに穏やかではない。  始めは上条は乗り気ではなかった。  それでもそれらを肌で感じた上条は何も言わず、覚悟を決め、構える。  彼はまだ美琴と縁を切ることを全く望んでいない。  第一、それでは約束を守れない。  だが、御坂美琴という人間と仲良くしていくには、そして、今後もそうやって過ごし、彼女を守っていくには恐らく必要なことなのだろうと思いながら。 「一応言っておきますが、この勝負であなたに致命傷を与えようとは思ってはおりません。本心はしてやりたいとこですが、それをするとお姉さまが悲しみますので。……ですが、だからといって手を抜くというようなことはしませんので注意してくださいな」  そう言って黒子は僅かに微笑む。  勿論それは顔だけで、目は全く笑っていない。  そして、彼女も武器の金属矢を手に持ち、構える。 「…いきますわよ」  そう言った瞬間、黒子は上条の前から消える。  白井黒子は空間移動能力者。  今まで様々な敵と渡り合ってきた上条だが、このような敵と1対1で戦ったことはない。 「ッ!!」  そんな空間移動移動能力者の対策を練ろうとする上条を、黒子はお構いなしに背後から彼にドロップキックをかます。  上条は少しよろめいて攻撃された後ろに振り向くが、そこにはすでに誰もいない。  最早見失ってしまった彼女を見つけるべく、辺りを見回す。  ――――が、そうしている内にも黒子は1回、そしてまた1回と攻撃を重ねてゆく。 (くそっ!1回1回の攻撃は大したことはないけど、このままやられっ放しは流石にまずい!)  しばらくその状態が続き、上条はとりあえず状況を打破すべく、今立っている所から離れる。 「その程度ですの?あなたの覚悟はとやらは」  現在の上条の位置から、やや離れた所から彼女の声がした。  上条は確かに他の無能力者にはない能力”幻想殺し”を持っている。  それはあらゆる異能の力を打ち消すことができるものである。  だが言ってしまえばそれしかできない。  彼の能力で攻撃を始めた彼女を止めるのは難しい。 (考えろ…どうすれば勝てる…何か打開策があるはずだ)  何があったのか、黒子は今は攻撃の手を止めている。  上条はその間に策を練ろうとするが、簡単にはまとまらない。  だが、一方的なはずの黒子にもちょっとした誤算があった。 (なかなか侮れませんわね…)  彼女考えていた戦略はこうだ。  まず上条の背後や死角に回り込み攻撃を続ける。  それを続けていき、上条が体勢を崩して倒れたところを金属矢で体を固定させ、無力化する…予定だった。  彼女の誤算、それは上条が倒れないことにあった。  金属矢を体に打ち込めばそれで勝負は決まる。  しかし黒子は上条に致命傷は与えないと言っており、それはできない。  むやみに飛ばせば、致命傷を与えかねないからだ。  さらに、上条の右手で触れられればそこでほぼ負けは決定するため、あまり長く組み合うこともできない。  結果、長くは触れられない彼女の一撃は必然的に威力は軽くなる。 (ですが、それら加味してもここまでは…あのタフさはなんですの…!)  勿論そんなことは、この戦略を考えた彼女が一番わかっていた。  それでも仮にも風紀委員の訓練などで鍛えている彼女である。  全開でなくてもそこそこの威力はあるし並みの人間なら5秒も保たないだろう。  だが上条は違う。  これまで渡ってきた死線の数々、実際の戦闘における経験、それによって結果的に鍛えられた肉体。  これらは学園都市で過ごしてきた黒子とは絶対的に異なるものであった。 (致命傷を与えることができないのがこんなにハンデになるとは…!)  黒子は思わず舌を巻く。  そんな中、上条はあることを思い出していた。 (そういえば…確か空間移動は他の能力と違って演算が複雑なんだっけ…)  上条の覚えていたように、空間移動は便利な能力ではあるが、他の能力とは異なり、演算が複雑である。  そのため、能力の使用はその時の精神状態や集中の具合で大きく違い、集中が乱れると能力が使用できない時さえある。 (もしそうなら、能力の発動する瞬間になにかでかい音でも出して集中を乱せば…)  上条は辺りを見回す。  元々上条がいたのは半ば壊れている自販機の目の前で、自販機が必然的に目に入った。 (これしかない…!)  どちらにしろ、このままでは敗色は濃厚。  どんな策でも、無いよりはましだった。 「どうした?かかって来ないのか?」  いくら、能力発動を阻止しても距離を詰めている間に、また能力を使われては意味がない。  上条は自販機を自分の左手が届く範囲の所にまで移動しながら、先程から動きを止めている黒子に挑発するかのように問いかける。  彼女はハッと我に返ったように肩ピクンと揺らし、また先程までと同じ目で上条を睨みつける 「いえ、あまりに一方的だったので少し時間を差し上げましょうと思っただけですの…もう構いませんの?」 「んなもん勝負する前から覚悟はできてんだからいいに決まってるだろ。とっとと終わらせようぜ」  そう言うと、また黒子はまた構えた。 (問題はタイミングが…早すぎてのダメだし、遅すぎてもダメだ。)  上条の立ち位置は自販機を左手にして、道なりに黒子の方を向いており、彼女とは少し距離がある。  さらに左手から自販機までは1メートルもない程にすることで、空間移動の範囲を多少なりとも限定する。 (あいつが俺に攻撃で触れる瞬間…ここで音を…自販機を殴る!)  上条が構えると同時に黒子は空間移動をする。  そしてわずか1秒も満たない内に彼の背後から気配が現れ、そして… (ぐっ!…今だ!!)  ドォォン!!  黒子が背後から体当たりをしてきた瞬間、上条は思い切り自販機を叩き、辺り一帯に自販機が壊れんばかりの音が響いた。  瞬間、彼は背後を振り向く。 (白井は…いる!) (ッ!!マズイですの!)  案の定、黒子は突然上条がだした音により、空間移動ができずにその場にいた。  そこで離れようと再度能力を使う素振りを見せるが、 「捕まえたぞ」  時すでに遅く、黒子の腕は上条の右手で掴まれる。 「これでお前は能力は使えない、俺の勝ちだ」 「!!まだ、まだ私は負けてませんわ!」 「もういいだろ、結果は見えてる……それに、俺はお前を傷つけたくない」  風紀委員とはいえ黒子は女の子でまだ中一、対して上条は男で高一。  結果は火を見るより明らかだ。  それを聞いた黒子は体の力を抜く。  腕を掴んでいた上条もそれを察知し、彼もまた肩の力を抜き地べたに寝転がる。 「うはー、死ぬかと思った…」 「なんでですの…?」 「は?」 「なんであなたはそんな強くいられるんですの…?」  黒子の声は震えていた。  負けたことへの悔しさ、上条への怒り、嫉妬、などとその理由は様々だろう。  しかし、今彼女の中で最も強いものは上条のもつ表面的な強さではなく、たとえ難題を押しつけられていても、それをなんとか解決しようとする、そして本当に解決する内面的強さへ疑問。  前助けられた時も思っていた。  別にそこまで仲良くしているわけでもない赤の他人にどうして命を張れるのかと。 「別に俺はお前が思う程強くねえよ」 「え…?」 「俺が思うに、人一倍何かを守りたいって気持ちが強いんだよ。前だってそうだし、今回もそうだ。お前の件に関しては約束を守りたいって気持ちが強いんだろうな」  上条は強いという言葉を否定した。  その理由も説明した。  それでも、黒子は強いと思った。  それは彼がどんな壁を前にしても一つの信念に基づいて行動し、それを貫いていくからだ。  守りたいという一念だけで普通そこまでのことはできない。  恐らく自分も真似できない。 (悔しいですけど、お姉様がこの方を支えにするのも分かる気がしますわ)  黒子は今なおぐったりと地べたに横たわっている少年を見て、そう思えた。 「――――あなた、いつまでそうやってるおつもりですの?」 「……悪い、朝から何も食ってないんだ……もう動けねえ」 「はぁ?……あなた、よくそんな状態で勝負を受けましたわね」 「しょーがねえだろ?お前がそういう空気つくってたんだから」  腹減ったー、とぼやく上条を横目に黒子負けたことが一層腹立たしくなった。  自分は風紀委員としてそれなりに実践も積んできたし、訓練もかかしていない。  にも関わらず、目の前に横たわるこのツンツンあたまの少年はそんな彼女をあざ笑うかのように、あっさり彼女に勝って見せた。  見たところ、何かしらの武術などのを習得しているわけでもないただの少年に。  それがとても腹立たしい。 「そういえば、先程あなたが自販機を殴った時に何かでてましたわねえ」 「本当か!?な、ならそれ俺にくれ!」  上条はまるで打ち捨てられた犬が餌を欲しがるように黒子を見る。  まったくこの男は、と思うが負けたからか、渋々ジュースを取りに行く。  でていたのは黒豆サイダーだ。  それを見た黒子は次第にちょっとした悪戯心が芽生えてくる。  さっきの勝負といい、言動といい彼女はイライラしていた。  とりあえず彼女は黒豆サイダーを彼の元に持ってゆく。 「せっかくですから飲ませて差し上げますわ。疲れているのでしょう?」 「え?いいのか?なんか悪いなぁ」  それを聞いた瞬間、彼女は悪魔のような笑みを浮かべた。  当然、腹が極限状態、かつ疲れきっている彼はそ不気味なの笑みに気づかない。 「では…」  そう言って、黒豆サイダーを上条の口元へ持ってゆく。  最初は上条は美味しそうにそれを飲む。  しかし、黒子はいつまでたっても彼の口に傾けたジュースを戻さない。  ちなみにこの黒豆サイダーは味はそこそこだが炭酸がきつい事で有名であり、休みなく飲むのは無理だろうと常盤台で評判の代物だ。  それを彼女は上条に休みなく飲ませているということは結果的にどうなるか。 「ぶはっ!…ちょっ、てめ!…かはっ…く、くる…しい…!」  それは当然こういうことになる。  出てきたジュースの内容量はお得サイズの500ミリリットル。  上条の苦しむ姿をニヤニヤしながら見つつ、黒子はなおも傾けるのを止めない。  サイダーは残り300ミリリットル…。  終わっていたかに見えた上条と黒子の戦いは、まだ終わっていなかった。  同日夜、常盤台女子寮  御坂美琴はバレンタインのためのチョコ作りをようやく終え、部屋のベッドに寝っ転がっていた。  ついさっきまで作業をしており、寮鑑が目を光らせる中、作業をするのは困難を極めたが、それでも作っていた人は彼女以外にも数人いた。  結局彼女が作ったのは万人受けするであろうガトーショコラ。  しかも味見をさせた料理自慢の彼女の友人が唸る程の一品が出来上がった。 (アイツ、喜んでくれるかな…?)  美琴は幸せそうな顔をしながら、枕に顔を押し付け出来上がった物に目を向ける。  そこで上条が食べる所を想像し、その想像の中での彼の言葉に頬を赤らめ、足をパタパタさせてまたケーキを見る、この繰り返しを何度もしている。  この部屋に彼女と相部屋の白井黒子がいれば間違いなく絶叫しそうな光景である。 「ただいまですの…」 「ッ!?……お、お帰りー、き、今日は遅かったじゃない、どうし……ってアンタどうしたの!?」  美琴は件の黒子が帰って来たことに驚き、肩を揺らす。  そして帰ってきた彼女に怪しまれまいとさっきまで緩みきった顔を直しつつ(それでも若干引きつってはいるが)、入り口に目を向けると、そこには砂埃で汚れた黒子の姿があった。  それを見て以前黒子を自分の事件に巻き込んでしまったと思っている美琴は、またその可能性を危惧する。  勿論、彼女は風紀委員であって、そういうことは珍しくはないのだが、それにしてはいつもより元気がない。 「……お姉様のお慕いする『あの殿方』にお会いしていましたの」 「は、はぁ!?お、お慕いする殿方って……もしかしてアイツ!?アンタなんで……あれ?、それじゃまさかのその汚れはアイツがつけたものなの!?」 「それは違いますわ、これは私の弱かったたせいですの。……そもそもお姉様の知っている『あの殿方』はそのようなことをお方でして?」  違う、と美琴はその話題の男―――上条の姿を想像しながら心の中で否定する。  彼は美琴が何回も勝負をふっかけて、何回も超能力者の彼女に勝てる場面があったというのに、殴るどころか触れてすらいない。  殴るような特別な理由もないのに誰かを傷つけるのをよしとしないからだ。  そんな彼が自分の後輩を痛めをつけているような場面を美琴は想像できなかった。 「確かに事情がありまして勝負はしましたわ…ですが、あの殿方は私に何もしませんでしたわよ?強いて言うならただ腕を掴まれたぐらいでしょうか」  黒子の返事を聞いて美琴は少し安堵する。  だが彼女の言葉に美琴にとって少し聞き捨てならない単語が含まれていた。 「勝負…?なに?アイツまた何かやらかしたわけ?」  黒子が上条をあまり快く思っていないのは美琴も知っている。  それでも彼女は口ではかなり飛んだ発言をするものの、ちょっとした理由で行動を起こす程馬鹿ではない。  その裏にあるものとして、上条の不幸体質故の出来事しか彼女は思いつかなかった。 「彼は特に何もしていませんわ。私はただ確認のために会っただけですの」 「確認…?」 「ええ、お姉様に関しての確認ですの」  美琴はますます訳が分からなくなった。  黒子が上条に会ったこともさることながら、自分のことの確認。  それがどういう経緯で勝負にまで発展したのか見当もつかなかった。 「まあお姉様がそんな気にすることではありませんわ。………ただ、今日お姉様があの方をお慕いする理由がわかった気がします」 「だ、だから!別に私は、アイツを慕ってなんか…」 「自分の気持ちに正直になってくださいませ、お姉様?そんなことでは明日が楽しめませんわよ?」 「ッ!!な、ななな何でアンタがそれを知ってんのよ!!」 「あら、私は単に昨日お姉様が電話している時に隣にいただけですわ。もっとも、お姉様は夢中で気づいていなかったようですけど?」  全く気づかなかった、と美琴は体中から嫌な汗が吹き出しているのを感じながら昨日のことを思い出す。 (この子の存在に気づかなかったとか…どんだけ私テンパってたのよ!)  わなわなと体を震わせ、美琴のさっきまでの幸せオーラは何処へか消え、代わりに今は羞恥が彼女を支配していた。  このままではとてもじゃないが黒子と顔を合わせられないと思った美琴は、わしゃわしゃと頭をかきむしりながら奇声をあげ、再度枕へ顔を埋める。  しかし、それだけで羞恥がとれる訳もなく彼女は悶々としながら時を過ごした。 同日12時前、上条宅  上条は結局あの後黒豆サイダーがなくなるまで休みなく飲まされ(後半はほとんどこぼしていたが)、しばらくの間咳き込んでいた。  それで気が済んだのか、彼に会いに来た始めの真剣な表情とはうってかわってスッキリしたような表情を見せ、彼女は上条の呼吸が整うのを見届けると、わりと真剣に怒っていた彼を無視し、お姉様をお願いします、とボソッと呟いて去っていった。 「ったく、結局何だったんだ?あいつ」  未だに収まらない若干の怒りを抑え、今日の黒子の行動に疑問を抱きながら一人呟く。  黒豆サイダーの炭酸のおかげで腹はある程度満たされたものの、今になっても少し気分が悪い。  さらに彼は今日は一日補習もこなし、彼女と勝負もした。  そんな彼としては一刻も早く床につきたい一心であったが、この時間まで起きていたのには理由がある。  一つは明日のための補習の課題をやらなければならなかったこと。  もう一つは美琴の連絡を待っていた。  彼女は昨日確かに今日また連絡すると言ったはずだし、彼としても明日の詳細を全く知らないので無視する訳にもいかないのである。 (もう、自分から掛けるか…?)  痺れを切らした上条が携帯を手にとる。  そしてアドレス帳から目的の人物の覧を選び、通話をしようとボタンを押そうとしたとき、  ピピピッ  部屋に着信を知らせる無機質な音が鳴り響いた。  と同時に、携帯の表示が彼がボタンを推していないにも関わらず変わり、御坂美琴の名が表示される。  それを見た彼はやっとか、とため息混じりにすぐに通話ボタンを押す。 「もしもし?えらい遅かったじゃねーか、何かあったのか?」 『う、ううん…なんでもない、なんでもないの…』 「そうか?んじゃ明日の詳細教えてくれ」  上条は言葉を濁す美琴に対し、若干の疑問を覚えるが、早く聞いて寝たかったため用件を聞く。 『えっと、補習は4時ぐらいに終わるのよね?それなら、5時にいつもの自販機前ね。絶対に遅れないこと!』  いつもの自販機、つまり今日上条と黒子が会った場所である。  ここは2人が会うとき、待ち合わせするときは大抵ここで、人通りも少ないので人目を気にすることなく待てるという利点がある。  さらに上条の寮からも美琴の寮からも大した距離はないので、その点も便利だ。 「ああ、わかった…用件はそれだけだよな?」 『えっ?まあそうだけど…』 「じゃもう切って良いですか?上条さん、今日はとても疲れているので早く寝たいのですよ」 『そ、そうなの?ごめんね、こんな時間まで待たせちゃって』 「いや、気にするな。……あ、そうそう、白井にさ、今度会った時は覚えとけよこの野郎って伝えておいてくれ。じゃあな」 『へ?あっちょっとそれどういう…』  上条は美琴が何かを言い切る前に電話を切った。  この話をすれば間違いなく長くなると思ったからだ。 (まぁ明日話せばいいだろう)  そう呟いて一目散にベットに向かう。  今日の黒子の行動、言葉の意味。  明日の補習と美琴との約束。  考ることはたくさんあった。  だがとにかく眠い上条は横になると、それらのこと全てを頭の中から取っ払い、間もなく眠りに落ちた。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/side by side)

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