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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族/09章-2 - (2010/05/16 (日) 15:05:47) の1つ前との変更点

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---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 麻琴「ママぁー!! パパぁー!!」  両親を見つけた麻琴は美琴の手を離し、全速力で駆け出す。 母親「まこちゃん!!」 父親「まこと!!」  まだ20代に見える二人は我が子に気付くと、同じく駆け寄り、カッパに付いた水滴で濡れるのも厭わず抱き しめる。感動の親子再会というヤツだ。  母親は最初は勝手に離れた娘を叱ったが、直ぐに「良かった。ホントに良かった」と呟きながら、目に涙を浮 かべつつ麻琴の頭をなで続けた。父親はホッとした表情でその二人を温かく見守っている。麻琴はと言えば、大 量の涙を流し、顔がまた酷い事になっていた。が、まあ嬉し涙ならそれも良いだろう。ひょっとしたら、かなり 長い間はぐれていたのかもしれない。冬の雨の中、この人混みならば、確かに不安になるのも容易に想像できる。  親子三人は、気持ちが落ち着くのにひとしきり時間を掛けた後、ようやく美琴の存在に気がついた。  美琴としてはそのまま静かに立ち去っても良かったのだが、またしてもボーッとその親子の様子を見つめてし まっていた。だから声をかけられた時は、必要以上に驚いてしまった。 父親「本当に、ありがとうござました」  往来で両親に深々と頭を下げられ、何度もお礼を述べられてしまう。  美琴はどうにもくすぐったくなって、いえいえあはは、などと返答し適当に手を振った。  二人には名乗られたが、美琴とは全く関係なさそうな苗字であり、やはりというか何というか、タイムトラベ ルが出てきそうな展開にはどう転んでもならなさそうである。  美琴は、マンガの読みすぎだ私、と少しだけ凹んでしまった。 父親「後日改めてお礼したいのですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」 美琴「へ? あ、あー。あはは。えーっと、その、私はアレなんで」 麻琴「ピョン子お姉ちゃん!!」 美琴「……じゃなくて、」 母親「そう言えばまこちゃん、そのお面どうしたの?」 麻琴「…………お姉ちゃんに、もらった」  麻琴はばつが悪そうにおずおずと言った。一応褒められるような行為ではないという自覚はあるのだろう。  美琴は面倒な流れになるのを察して間髪入れずにフォローしてやる。 美琴「あ、余ったからあげたのよ。ほら、あと2枚もあるし。まこちゃんもピョン子大好きだもんねー」 麻琴「うん!」  麻琴は素直に助け船に飛びつく。  両親もどうしようか困ったような顔をしていたが、とりあえず母親が麻琴にお礼をきちんと言わせて、それは 丸く収まった。しかし、逆に「お礼がしたい」という両親の主張の方は更に強まる。 美琴「学園都市在住で、帰省してるだけなんで……」  結局白状してしまう。  学園都市在住だから『後日お礼する』というのはほぼ不可能なのだ。  美琴は、ばれませんように、と祈りながらおずおずと言ったのだが、その甲斐虚しく、母親の方が何かに気付 いたようにパアッと表情を明るくした。  反比例するかのように美琴の表情は引きつる。 母親「もしかして、…………(あの、御坂美琴さんですか?)」 父親「え、ああ!!」 母親「馬鹿! 声がデカイ!」  母親の方は周りに気を使って小声で語りかけてくれたらしい。 美琴「あ、あはは……何のことでしょう」  だからといって素直に名乗り出るわけにもいかない。  先刻のような事は心の底からごめんだ。 母親「あ、いえ、ごめんなさいね。さっきの質問は無かったことにして下さい……ただ、一つだけ聞いてもらえ    ますか?」  はい、と美琴は頷き安堵する。どうやら比較的まともな人らしい。 母親「この子の、まことって名前、『麻《あさ》』に楽器の『琴』って書くんですけど。『琴』は美琴さんから    一字頂いたんです」 美琴「へ? ………………………………………………ええっ!!??」 麻琴「??」  美琴は驚いて思わず大声を上げてしまい、自分の手で口を押さえる。 美琴(まこちゃんが本当に麻琴…………じゃなくて、私から一字って、ええっ!? 普通そう言うのって親とか    偉人とか有名なスポーツ選手から取ったりするもんじゃ!? ってか、『麻』はどこから来たのよ!?)  激しく混乱する美琴に、麻琴の両親は照れたように微笑む。  当の麻琴だけ「ねーママなーにー?」と、母親の着物を揺さぶっていた。 父親「当時、4年くらい前。丁度世間一般にも注目されてきた頃、二人で随分はまりまして……」 母親「テレビとか、月刊学園都市っていう本なんか見て、思わず感動しちゃって、美琴さんみたいに強くて元気    で努力を惜しまない子に育って欲しくて」 美琴「えーっと、そ、それは何と言いますか……こ、光栄? というか」  美琴はどうリアクション取って良いのか分らない。  自分が周りより色んな面において優秀であるのは理解していたが、まさかこの年(というか当時は10歳頃?) で他人の娘さんの名前に影響してしまうだなんて夢にも思っていなかった。こそばゆいというか、むず痒いとい うか、よく分らない初めての感覚で満たされる。  もうこの時点においては自分の事を隠していないのだが、何だかどうでも良かった。  結局、その両親は美琴にどうお礼して良いか困り果てていたが、麻琴と居て楽しかったと告げるとそれでどう にか納得したようだった。納得ついでに、麻琴の父親がサインをねだってきた(母親はそれを叱っていた)が、 美琴は快諾して、麻琴がしているピョン子の裏に『御坂美琴』と普通に書いてやった。英語で書くことも出来る が、それだと麻琴が読めないだろう。とは言っても麻琴はよく解っていないようで、むしろ一番喜んでいたのが 母親で可笑しかった。 美琴「まこちゃん、またね。また迷子になったりしちゃ駄目よ?」  そう言って頭を触ると、うん! と元気に返事をしていた。が、別れ際になると何かを察したのか悲しげな表 情で美琴を見つめた。美琴も少しだけ寂しい気がしたが、表情には出さず笑顔で手を振ることにした。  麻琴を真ん中にして、親子三人が手を繋いで並んで行く。  美琴はその情景を飽きるまで見守った。  その内の一人に、自分を重ねて。 美琴「さて、私も行きますかー。っと、先に電話した方かいいかしらね」  美琴は麻琴に逢う前よりはスッキリした面持ちで携帯を取り出すと、画面も見ずに慣れた手つきでボタンを押 し、耳に当てた。  ◆  むかしむかし。ある学園都市運営の外にある銀行に、クソ真面目な男性係長と女性社員が居た。  二人は約2歳離れていて、同じ行内の同じ部署で働いていた。  男の方は、文武両道とまではいかないが武道に長け、頭もそこそこ平均以上。ただし、クソ真面目なつまらな い野郎で、浮いた話も全く無い堅物だった。  女の方は、絵に描いたような薄幸少女だった。物心付く前に一度チャイルドエラーに成りかけ、その末に学園 都市の息の掛かった外の施設に放り込まれたらしい。幼い頃に怪しげな実験をされたのが影響したせいか、酷く 病弱な体であり、複数の持病があった。就職も障害者枠で何とか入った。  それでも女は周囲に対して明るく振る舞い、人一倍努力する娘だった。  男はそんな女に、いつの間にか惚れていた。  女の方も、何かと気に掛けてくれる男には良い印象を抱いていた。  詳細は省くが、二人の関係は数年掛かったものの上手くいった。  男はプロポーズする際、女に誓った。『もう不幸にはさせない。お前とその周りの幸せは絶対俺が守る』と。  腕っ節には自信があったし、正義感も人一倍あった。研修の一環で学園都市へ行き、武器の扱いにも慣れた。 ルール無しの闘いなら大概のヤツには負ける気がしなかった。  女の体調もその頃はたまたま良好で、子供も産むことができた。医者にはもう産めない体になったと言われた が、二人はそれでも喜んだ。  しかし、女が病気と子育てを理由に退社する、最後の日。  あの日、銀行は、4人のテロリストに襲われた。  金を奪って、人質を取って逃げていく強盗ではない。そこで多くの人と、銀行そのものを道連れに死のうとす るテロリストだ。  学園都市を恨み。やり口に抵抗し。命を投げ打ってでも学園都市を弱らせたいとする馬鹿なヤツらだ。  まだ超能力者すらほとんど居なかった10年程度前。日本と学園都市の抗争も水面下ではまだ続いていた時代 だ。日本政府も、一部の日本人も、まだ狂った噂が耐えない学園都市の手綱をどうにか握れると勘違いしていた。 だから、世間も確かにヤツらの行動を理解できないわけでもなかった。明らかに日本より金利が高く、預金が集 中する学園都市の主要銀行が狙われるのも納得が出来た。  だが、男は理解しようとはしなかった。  『何故よりによって今日』『何故大きくもないうちの銀行』『何故強盗じゃなくテロリスト』『何故……』  死者は出なかったが、女は瀕死の怪我を負った。  男は女を守れなかった。  理由は簡単だ。その時男は女の近くにいなかった。女は発作を起こし、逃げ遅れた。そしてテロリストがやる ことなんて、起爆のスイッチを押すだけだ。守るも何も、時間の猶予や駆け引きすら無い。  結局、男が守ったのは、同じく不幸にも逃げ遅れていた小さなガキ一人だった。  男は自分を責めた。責めて責めて責めて責めて…………。自殺しなかったのは、娘が居たからと、女がまだ辛 うじて生きていたからだ。  しかし、女はそれから1年も持たなかった。  何でもない日に、何の言葉も残さず、あっけなく死んだ。  男は荒れた。が、まあそんな話はどうでもいい。  問題はその後、男は偶然にもクソ馬鹿げた情報を手に入れた。  テロリストの1人が忌々しい事に重症を負い、寝たきりになりながらも生きていやがった。公には死んだこと になっていたが、何故か学園都市の刑務所病院に隠されるように入院していた。  男は、仕事で得たコネや人脈を最大限利用し、そいつの所へ面会に行った。  残念ながら防弾ガラス越しで、ブチ殺す事は出来なかったが。ヤツは、そんなことがどうでも良くなるような、 最悪なジョークを言い放った。  『俺達は強盗のつもりだった。テロリストの格好や爆弾はブラフのはずだった。銀行員は強盗に対して対策を 打っているが、テロ対策は遅れている。あの時世間で話題になっていたテロ集団と同じ格好をしていれば、皆逃 げるから、その後ゆっくり盗めばいいと、そう持ちかけられた。だが、花火程度の威力しかない予定だった爆弾 の火薬が、聞いていたのと全然違っていた。本物のテロリストが使っていたような、建物ごと破壊できる規模で はなかったが、俺達の体をバラバラにするくらいの威力は余裕であった。俺達は騙されただけだ。殺すつもりな んて本当に無かった。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。……』  包帯に巻かれながら嗚咽を漏らしたそいつは、男よりずっと年下で、まだ成人もしていないように見えた。  男は愕然とした。  普通なら、そんな戯言無視しただろう。  だが、男の脳内で点と点が線に繋がってしまった。  あのテロに似た事件は何件かあり、結果的に世論を味方に付けた学園都市は、正々堂々とその大規模テログル ープを壊滅させたのだ。  ただし、最後の半分程度は、前半のと手口が違っていた。学園都市に属する重要人物の死傷者が減り、一般人 の死傷者が増え、何より建物やインフラはほとんど無傷だった。  もちろん一部の学園都市に良い印象を持たない者達は自作自演を主張したが、マスコミの報道は揃ってテロリ ストを批難した。  もし、仮に、あれが本当に学園都市側の策略だとしたら……  男は銀行を辞め、独りで情報屋稼業を始めた。いや、稼業なんて言えない。ただの無職野郎だ。それでも、ど うしても真実が知りたかった。妻が死んだ理由を知りたかった。  元々行員だったときの人脈も手伝い、情報は意外と簡単に集った。  やはり統括理事会の一部が裏で手を引いたいたらしい。  その日から裏で手を引いたヤツらは男の敵《かたき》になった。まあ、それもどうでもいい話だが。  男は全てが解明したと思った。が、まだどうしても理解しがたい事があった。  何故、あの見計らったような最悪なタイミングだったのか。  長い時間を掛けて調べ上げるほど首を傾げてしまう。どう考えてもおかしかった。  始めにヤツらは隣の地区にある二回り程でかい銀行を、事件当日の5日後に狙う計画だった。だが、その地区 の警戒レベルがたまたま上がった。そしてターゲットは男の居た地区に移った。  犯人達は焦った。ターゲットの地区で、また警戒レベルが上がっては困る。だから予定を早めた。  だが、その地区は有り得ないことに、止まるはずのない、止まってはいけないシステムが、バグにバグが重な った事で完全に止まって、店を閉めていた。男が居た銀行を除いて。  知誠はそこで話すのと止め、一息付くと、ゆっくりと瞬きをする。 当麻「……」  上条は全身が石のように冷えていくのと、鼓動が痛いくらいに大きくなるのを感じていた。できれば耳を塞ぎ たかったが、してはいけないように思えた。 知誠「男は認めざるを得なかった。その頃、ワイドショーを賑わせていた一人の少年。確かにそのガキだった。    男はあの時、そいつを助けたはずだった。そいつは、周囲に厄災を及ぼす、『疫病神』と呼ばれていた。    もう、そいつが原因としか思えなかった」 当麻「…………」  『馬鹿げている』『八つ当たりだ』『何が人殺しだふざけるな』、そんな言葉が上条の頭の中をこだまする。  反面、心のどこかで認めている自分もいる。  大小含め、『不幸な事件』なら上条の周りで不自然なほど起きている。今でこそ周囲で起こった事件を手当た り次第に解決している上条だが、もし、何の力も持たない小さな子供の頃から似たような事が起こっていたのな ら、それは一体どうなっていたのだろう。誰が解決していたのだろう。  知誠は目の前に横たわる上条を、冬の雨より冷たい目で見下ろしながら、うっすらと笑った。 知誠「男はそのガキについて調べ始めた。馬鹿だと思うだろう? 八つ当たりどころじゃない。単に現場に居た    だけで恨もうなんて狂ってると考えるのが普通だ。まあ、否定する気もない。だが、調べれば調べるほど、    似たような事件がゴロゴロ出てきた。もはや偶然では片付けられなかった。結局、男はガキを殺してしま    おうと思った。いや、殺さなければならない存在だと思った。当時そのガキの周りで何人が傷つき、何人    が死んだか。正義感と復讐心が男を突き動かした。……だが、遅かった。ガキは統括理事長に招かれ、学    園都市へ行っちまった。それで、男はガキを追うのを諦めた。統括理事会内のゴミを潰すのが先だったか    らな。ははは、めでたしめでたしってヤツだ」  知誠はやる気無さそうに手を叩くと、座り直し、今度は鋭く上条を睨み付けた。 知誠「どうだ、少しは業の深さを思いだしたか?」 当麻「…………俺に、どうしろって言うんだ」  上条は地面で天を仰ぎながら誰に問うでもなく呟いた。 知誠「んな事自分で考えろよ。話はまだある。その不幸能力についてだ。そもそもお前のその能力。まあその原    因はお前の方が詳しいかもしれないが、そいつが及ぼす影響は二種類ある。一つは単純に極小さな事でお    前を不幸にする。とは言っても、まあ気の持ちようでどうにかなる程度の微々たるものだ。もう一つは、    お前を事件に遭わせる。これが問題だが、これの本質はさらに二つの可能性を持つ。『事件を見つける性    質』か、『事件を発生させる性質』だ。前者なら実際お前は完全な被害者になるわけだが、後者は完全な    加害者だ。そして、前者では説明しきれない事象が何回か起きている。分かってるだろ?」 当麻「…………」  上条は答えない。ただ、自分を責め続ける言葉が機械的に耳へと入る。 知誠「端的なのは、エンゼルフォールと呼ばれる事件だ。正直情報屋なんて言っても科学側偏重で、魔術なんて    ものはよく分からないから間違っているかもしれないけどな。必死でかき集めた情報を統合するとこうな    る。『世界を破滅の危機にさらした』、『発端は上条刀夜であるが、それは奇跡と呼べるくらいの偶然に    よって成された』。ははは。これを聞いた時ゾッとしたよ、世界中の人間はもはやあのガキの能力から逃    げられないんじゃないかってな。……まあ、詳細は知らないからそこはいい。さて、この事件から凄い事    が判る。お前と位置的に遠く離れた父親の行動を、お前の能力が操ったんだよ。ははは。考えてみたら今    のこれだってそうだ。昔の事象が今に引き継がれている。全ては『上条当麻を不幸にするために』」  上条の脳は考えるのを止める。これ以上は考えてはいけないとブレーキを掛ける。それは生物としての本能な のかもしれない。  体を打ち付ける雨粒が、誰かからの批難に思えてくる。 知誠「さてここで問題だ。第一問、お前はこれまで御坂美琴にあった不幸の中で、結果的にお前にとばっちりが    及んだ事件が、お前の能力のせいで起こったものではないと言い切れるか? 第二問、御坂美琴がどうな    ればお前が最も不幸になるでしょう。想像してみろ。賭けてもいい、それは必ず降りかかる」  知誠は億劫そうに自分の体を持ち上げると、傘を持ちその場を立ち去る準備を整える。  地面に倒れている上条を見下したまま、語調を弱めて優しげに語りかける。 知誠「正直言うとな、今でも俺はお前を恨んでいる。殺したいほど憎いとも思っている。だが、同時に同情もし    ている。お前の事は一冊本が書けるほど調べたからな。辛さも一応分かっている。だからこそ、命令では    なく忠告をする。俺は大切な人を守れなかったが、お前はそうじゃないだろう? 返事は要らん。勇気が    あるなら、明後日までに彼女に別れを告げてやってくれ。それが二人のためだ。断言する。そうしない限    りお前は彼女にとっての枷になるだろう。この状況がそもそも彼女を不幸にしているという事実にどうか    気付いてくれ。頼む」 当麻「…………一つだけ、教えてくれ」 知誠「何だ?」 当麻「アイツが、ちゃんと逃げられるという証拠はあんのか?」 知誠「安心しろ。俺の事は信じなくていい。だが旅掛氏は学園都市に対抗しうる数少ない超人の内の一人だ。証    人保護プログラムなんてかすむくらいの完璧な逃亡プランが既に用意されている。それに、あの方は俺と    違って、家族を大切にする人だからな」 当麻「……………………そうか」  ◆  雨の中、砂利の上に一人の少年が横たわっている。  その少年の携帯電話が鳴った。まったく、学園都市製の携帯はホントに頑丈だな、と少年は少し可笑しくなる。  雨で冷えてガチガチになった筋肉をどうにか動かして携帯を取りだし、耳に当てると、電話の向こうで少女の 声が響く。可愛らしくも真が強そうな声だ。少年はこの声が好きだった。  だから少年は明るい調子で応える。 少年「はい…………ん、全然何もなかったけど? ……ウソ言ってどうするんだよ…………ああ。うん、そう、    今家に向かってるところ。お前ってやっぱり心配性…………ん? あっはは、違う違う、声が震えてるの    はあれだ、傘が速攻壊れたから………え、まあそうだけど…………何だそれ。はいはい了解しましたよー。    『不幸だー!』って、これで良いのか? ……何怒ってんだよ、相変わらず意味わかんねぇヤツ。つうか    お前の方は? ………って、まだ合流できてねえのか。俺の方が先に付いちまうぞ? ………うん、うん、    へ? ……うーん、『麻美』の方じゃねーか? 『麻琴』って男っぽいし。って、そもそも何これ。何の    話でせう? 親戚に子供でも生ま………………うわ、切りやがった」  少年が携帯を静かにしまう。  後には痛いほどの雨音だけが残った。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)
---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族) 第9章 帰省1日目 忠告 麻琴「ママぁー!! パパぁー!!」  両親を見つけた麻琴は美琴の手を離し、全速力で駆け出す。 母親「まこちゃん!!」 父親「まこと!!」  まだ20代に見える二人は我が子に気付くと、同じく駆け寄り、カッパに付いた水滴で濡れるのも厭わず抱き しめる。感動の親子再会というヤツだ。  母親は最初は勝手に離れた娘を叱ったが、直ぐに「良かった。ホントに良かった」と呟きながら、目に涙を浮 かべつつ麻琴の頭をなで続けた。父親はホッとした表情でその二人を温かく見守っている。麻琴はと言えば、大 量の涙を流し、顔がまた酷い事になっていた。が、まあ嬉し涙ならそれも良いだろう。ひょっとしたら、かなり 長い間はぐれていたのかもしれない。冬の雨の中、この人混みならば、確かに不安になるのも容易に想像できる。  親子三人は、気持ちが落ち着くのにひとしきり時間を掛けた後、ようやく美琴の存在に気がついた。  美琴としてはそのまま静かに立ち去っても良かったのだが、またしてもボーッとその親子の様子を見つめてし まっていた。だから声をかけられた時は、必要以上に驚いてしまった。 父親「本当に、ありがとうござました」  往来で両親に深々と頭を下げられ、何度もお礼を述べられてしまう。  美琴はどうにもくすぐったくなって、いえいえあはは、などと返答し適当に手を振った。  二人には名乗られたが、美琴とは全く関係なさそうな苗字であり、やはりというか何というか、タイムトラベ ルが出てきそうな展開にはどう転んでもならなさそうである。  美琴は、マンガの読みすぎだ私、と少しだけ凹んでしまった。 父親「後日改めてお礼したいのですが、お名前を伺ってもよろしいですか?」 美琴「へ? あ、あー。あはは。えーっと、その、私はアレなんで」 麻琴「ピョン子お姉ちゃん!!」 美琴「……じゃなくて、」 母親「そう言えばまこちゃん、そのお面どうしたの?」 麻琴「…………お姉ちゃんに、もらった」  麻琴はばつが悪そうにおずおずと言った。一応褒められるような行為ではないという自覚はあるのだろう。  美琴は面倒な流れになるのを察して間髪入れずにフォローしてやる。 美琴「あ、余ったからあげたのよ。ほら、あと2枚もあるし。まこちゃんもピョン子大好きだもんねー」 麻琴「うん!」  麻琴は素直に助け船に飛びつく。  両親もどうしようか困ったような顔をしていたが、とりあえず母親が麻琴にお礼をきちんと言わせて、それは 丸く収まった。しかし、逆に「お礼がしたい」という両親の主張の方は更に強まる。 美琴「学園都市在住で、帰省してるだけなんで……」  結局白状してしまう。  学園都市在住だから『後日お礼する』というのはほぼ不可能なのだ。  美琴は、ばれませんように、と祈りながらおずおずと言ったのだが、その甲斐虚しく、母親の方が何かに気付 いたようにパアッと表情を明るくした。  反比例するかのように美琴の表情は引きつる。 母親「もしかして、…………(あの、御坂美琴さんですか?)」 父親「え、ああ!!」 母親「馬鹿! 声がデカイ!」  母親の方は周りに気を使って小声で語りかけてくれたらしい。 美琴「あ、あはは……何のことでしょう」  だからといって素直に名乗り出るわけにもいかない。  先刻のような事は心の底からごめんだ。 母親「あ、いえ、ごめんなさいね。さっきの質問は無かったことにして下さい……ただ、一つだけ聞いてもらえ    ますか?」  はい、と美琴は頷き安堵する。どうやら比較的まともな人らしい。 母親「この子の、まことって名前、『麻《あさ》』に楽器の『琴』って書くんですけど。『琴』は美琴さんから    一字頂いたんです」 美琴「へ? ………………………………………………ええっ!!??」 麻琴「??」  美琴は驚いて思わず大声を上げてしまい、自分の手で口を押さえる。 美琴(まこちゃんが本当に麻琴…………じゃなくて、私から一字って、ええっ!? 普通そう言うのって親とか    偉人とか有名なスポーツ選手から取ったりするもんじゃ!? ってか、『麻』はどこから来たのよ!?)  激しく混乱する美琴に、麻琴の両親は照れたように微笑む。  当の麻琴だけ「ねーママなーにー?」と、母親の着物を揺さぶっていた。 父親「当時、4年くらい前。丁度世間一般にも注目されてきた頃、二人で随分はまりまして……」 母親「テレビとか、月刊学園都市っていう本なんか見て、思わず感動しちゃって、美琴さんみたいに強くて元気    で努力を惜しまない子に育って欲しくて」 美琴「えーっと、そ、それは何と言いますか……こ、光栄? というか」  美琴はどうリアクション取って良いのか分らない。  自分が周りより色んな面において優秀であるのは理解していたが、まさかこの年(というか当時は10歳頃?) で他人の娘さんの名前に影響してしまうだなんて夢にも思っていなかった。こそばゆいというか、むず痒いとい うか、よく分らない初めての感覚で満たされる。  もうこの時点においては自分の事を隠していないのだが、何だかどうでも良かった。  結局、その両親は美琴にどうお礼して良いか困り果てていたが、麻琴と居て楽しかったと告げるとそれでどう にか納得したようだった。納得ついでに、麻琴の父親がサインをねだってきた(母親はそれを叱っていた)が、 美琴は快諾して、麻琴がしているピョン子の裏に『御坂美琴』と普通に書いてやった。英語で書くことも出来る が、それだと麻琴が読めないだろう。とは言っても麻琴はよく解っていないようで、むしろ一番喜んでいたのが 母親で可笑しかった。 美琴「まこちゃん、またね。また迷子になったりしちゃ駄目よ?」  そう言って頭を触ると、うん! と元気に返事をしていた。が、別れ際になると何かを察したのか悲しげな表 情で美琴を見つめた。美琴も少しだけ寂しい気がしたが、表情には出さず笑顔で手を振ることにした。  麻琴を真ん中にして、親子三人が手を繋いで並んで行く。  美琴はその情景を飽きるまで見守った。  その内の一人に、自分を重ねて。 美琴「さて、私も行きますかー。っと、先に電話した方かいいかしらね」  美琴は麻琴に逢う前よりはスッキリした面持ちで携帯を取り出すと、画面も見ずに慣れた手つきでボタンを押 し、耳に当てた。  ◆  むかしむかし。ある学園都市運営の外にある銀行に、クソ真面目な男性係長と女性社員が居た。  二人は約2歳離れていて、同じ行内の同じ部署で働いていた。  男の方は、文武両道とまではいかないが武道に長け、頭もそこそこ平均以上。ただし、クソ真面目なつまらな い野郎で、浮いた話も全く無い堅物だった。  女の方は、絵に描いたような薄幸少女だった。物心付く前に一度チャイルドエラーに成りかけ、その末に学園 都市の息の掛かった外の施設に放り込まれたらしい。幼い頃に怪しげな実験をされたのが影響したせいか、酷く 病弱な体であり、複数の持病があった。就職も障害者枠で何とか入った。  それでも女は周囲に対して明るく振る舞い、人一倍努力する娘だった。  男はそんな女に、いつの間にか惚れていた。  女の方も、何かと気に掛けてくれる男には良い印象を抱いていた。  詳細は省くが、二人の関係は数年掛かったものの上手くいった。  男はプロポーズする際、女に誓った。『もう不幸にはさせない。お前とその周りの幸せは絶対俺が守る』と。  腕っ節には自信があったし、正義感も人一倍あった。研修の一環で学園都市へ行き、武器の扱いにも慣れた。 ルール無しの闘いなら大概のヤツには負ける気がしなかった。  女の体調もその頃はたまたま良好で、子供も産むことができた。医者にはもう産めない体になったと言われた が、二人はそれでも喜んだ。  しかし、女が病気と子育てを理由に退社する、最後の日。  あの日、銀行は、4人のテロリストに襲われた。  金を奪って、人質を取って逃げていく強盗ではない。そこで多くの人と、銀行そのものを道連れに死のうとす るテロリストだ。  学園都市を恨み。やり口に抵抗し。命を投げ打ってでも学園都市を弱らせたいとする馬鹿なヤツらだ。  まだ超能力者すらほとんど居なかった10年程度前。日本と学園都市の抗争も水面下ではまだ続いていた時代 だ。日本政府も、一部の日本人も、まだ狂った噂が耐えない学園都市の手綱をどうにか握れると勘違いしていた。 だから、世間も確かにヤツらの行動を理解できないわけでもなかった。明らかに日本より金利が高く、預金が集 中する学園都市の主要銀行が狙われるのも納得が出来た。  だが、男は理解しようとはしなかった。  『何故よりによって今日』『何故大きくもないうちの銀行』『何故強盗じゃなくテロリスト』『何故……』  死者は出なかったが、女は瀕死の怪我を負った。  男は女を守れなかった。  理由は簡単だ。その時男は女の近くにいなかった。女は発作を起こし、逃げ遅れた。そしてテロリストがやる ことなんて、起爆のスイッチを押すだけだ。守るも何も、時間の猶予や駆け引きすら無い。  結局、男が守ったのは、同じく不幸にも逃げ遅れていた小さなガキ一人だった。  男は自分を責めた。責めて責めて責めて責めて…………。自殺しなかったのは、娘が居たからと、女がまだ辛 うじて生きていたからだ。  しかし、女はそれから1年も持たなかった。  何でもない日に、何の言葉も残さず、あっけなく死んだ。  男は荒れた。が、まあそんな話はどうでもいい。  問題はその後、男は偶然にもクソ馬鹿げた情報を手に入れた。  テロリストの1人が忌々しい事に重症を負い、寝たきりになりながらも生きていやがった。公には死んだこと になっていたが、何故か学園都市の刑務所病院に隠されるように入院していた。  男は、仕事で得たコネや人脈を最大限利用し、そいつの所へ面会に行った。  残念ながら防弾ガラス越しで、ブチ殺す事は出来なかったが。ヤツは、そんなことがどうでも良くなるような、 最悪なジョークを言い放った。  『俺達は強盗のつもりだった。テロリストの格好や爆弾はブラフのはずだった。銀行員は強盗に対して対策を 打っているが、テロ対策は遅れている。あの時世間で話題になっていたテロ集団と同じ格好をしていれば、皆逃 げるから、その後ゆっくり盗めばいいと、そう持ちかけられた。だが、花火程度の威力しかない予定だった爆弾 の火薬が、聞いていたのと全然違っていた。本物のテロリストが使っていたような、建物ごと破壊できる規模で はなかったが、俺達の体をバラバラにするくらいの威力は余裕であった。俺達は騙されただけだ。殺すつもりな んて本当に無かった。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。……』  包帯に巻かれながら嗚咽を漏らしたそいつは、男よりずっと年下で、まだ成人もしていないように見えた。  男は愕然とした。  普通なら、そんな戯言無視しただろう。  だが、男の脳内で点と点が線に繋がってしまった。  あのテロに似た事件は何件かあり、結果的に世論を味方に付けた学園都市は、正々堂々とその大規模テログル ープを壊滅させたのだ。  ただし、最後の半分程度は、前半のと手口が違っていた。学園都市に属する重要人物の死傷者が減り、一般人 の死傷者が増え、何より建物やインフラはほとんど無傷だった。  もちろん一部の学園都市に良い印象を持たない者達は自作自演を主張したが、マスコミの報道は揃ってテロリ ストを批難した。  もし、仮に、あれが本当に学園都市側の策略だとしたら……  男は銀行を辞め、独りで情報屋稼業を始めた。いや、稼業なんて言えない。ただの無職野郎だ。それでも、ど うしても真実が知りたかった。妻が死んだ理由を知りたかった。  元々行員だったときの人脈も手伝い、情報は意外と簡単に集った。  やはり統括理事会の一部が裏で手を引いたいたらしい。  その日から裏で手を引いたヤツらは男の敵《かたき》になった。まあ、それもどうでもいい話だが。  男は全てが解明したと思った。が、まだどうしても理解しがたい事があった。  何故、あの見計らったような最悪なタイミングだったのか。  長い時間を掛けて調べ上げるほど首を傾げてしまう。どう考えてもおかしかった。  始めにヤツらは隣の地区にある二回り程でかい銀行を、事件当日の5日後に狙う計画だった。だが、その地区 の警戒レベルがたまたま上がった。そしてターゲットは男の居た地区に移った。  犯人達は焦った。ターゲットの地区で、また警戒レベルが上がっては困る。だから予定を早めた。  だが、その地区は有り得ないことに、止まるはずのない、止まってはいけないシステムが、バグにバグが重な った事で完全に止まって、店を閉めていた。男が居た銀行を除いて。  知誠はそこで話すのと止め、一息付くと、ゆっくりと瞬きをする。 当麻「……」  上条は全身が石のように冷えていくのと、鼓動が痛いくらいに大きくなるのを感じていた。できれば耳を塞ぎ たかったが、してはいけないように思えた。 知誠「男は認めざるを得なかった。その頃、ワイドショーを賑わせていた一人の少年。確かにそのガキだった。    男はあの時、そいつを助けたはずだった。そいつは、周囲に厄災を及ぼす、『疫病神』と呼ばれていた。    もう、そいつが原因としか思えなかった」 当麻「…………」  『馬鹿げている』『八つ当たりだ』『何が人殺しだふざけるな』、そんな言葉が上条の頭の中をこだまする。  反面、心のどこかで認めている自分もいる。  大小含め、『不幸な事件』なら上条の周りで不自然なほど起きている。今でこそ周囲で起こった事件を手当た り次第に解決している上条だが、もし、何の力も持たない小さな子供の頃から似たような事が起こっていたのな ら、それは一体どうなっていたのだろう。誰が解決していたのだろう。  知誠は目の前に横たわる上条を、冬の雨より冷たい目で見下ろしながら、うっすらと笑った。 知誠「男はそのガキについて調べ始めた。馬鹿だと思うだろう? 八つ当たりどころじゃない。単に現場に居た    だけで恨もうなんて狂ってると考えるのが普通だ。まあ、否定する気もない。だが、調べれば調べるほど、    似たような事件がゴロゴロ出てきた。もはや偶然では片付けられなかった。結局、男はガキを殺してしま    おうと思った。いや、殺さなければならない存在だと思った。当時そのガキの周りで何人が傷つき、何人    が死んだか。正義感と復讐心が男を突き動かした。……だが、遅かった。ガキは統括理事長に招かれ、学    園都市へ行っちまった。それで、男はガキを追うのを諦めた。統括理事会内のゴミを潰すのが先だったか    らな。ははは、めでたしめでたしってヤツだ」  知誠はやる気無さそうに手を叩くと、座り直し、今度は鋭く上条を睨み付けた。 知誠「どうだ、少しは業の深さを思いだしたか?」 当麻「…………俺に、どうしろって言うんだ」  上条は地面で天を仰ぎながら誰に問うでもなく呟いた。 知誠「んな事自分で考えろよ。話はまだある。その不幸能力についてだ。そもそもお前のその能力。まあその原    因はお前の方が詳しいかもしれないが、そいつが及ぼす影響は二種類ある。一つは単純に極小さな事でお    前を不幸にする。とは言っても、まあ気の持ちようでどうにかなる程度の微々たるものだ。もう一つは、    お前を事件に遭わせる。これが問題だが、これの本質はさらに二つの可能性を持つ。『事件を見つける性    質』か、『事件を発生させる性質』だ。前者なら実際お前は完全な被害者になるわけだが、後者は完全な    加害者だ。そして、前者では説明しきれない事象が何回か起きている。分かってるだろ?」 当麻「…………」  上条は答えない。ただ、自分を責め続ける言葉が機械的に耳へと入る。 知誠「端的なのは、エンゼルフォールと呼ばれる事件だ。正直情報屋なんて言っても科学側偏重で、魔術なんて    ものはよく分からないから間違っているかもしれないけどな。必死でかき集めた情報を統合するとこうな    る。『世界を破滅の危機にさらした』、『発端は上条刀夜であるが、それは奇跡と呼べるくらいの偶然に    よって成された』。ははは。これを聞いた時ゾッとしたよ、世界中の人間はもはやあのガキの能力から逃    げられないんじゃないかってな。……まあ、詳細は知らないからそこはいい。さて、この事件から凄い事    が判る。お前と位置的に遠く離れた父親の行動を、お前の能力が操ったんだよ。ははは。考えてみたら今    のこれだってそうだ。昔の事象が今に引き継がれている。全ては『上条当麻を不幸にするために』」  上条の脳は考えるのを止める。これ以上は考えてはいけないとブレーキを掛ける。それは生物としての本能な のかもしれない。  体を打ち付ける雨粒が、誰かからの批難に思えてくる。 知誠「さてここで問題だ。第一問、お前はこれまで御坂美琴にあった不幸の中で、結果的にお前にとばっちりが    及んだ事件が、お前の能力のせいで起こったものではないと言い切れるか? 第二問、御坂美琴がどうな    ればお前が最も不幸になるでしょう。想像してみろ。賭けてもいい、それは必ず降りかかる」  知誠は億劫そうに自分の体を持ち上げると、傘を持ちその場を立ち去る準備を整える。  地面に倒れている上条を見下したまま、語調を弱めて優しげに語りかける。 知誠「正直言うとな、今でも俺はお前を恨んでいる。殺したいほど憎いとも思っている。だが、同時に同情もし    ている。お前の事は一冊本が書けるほど調べたからな。辛さも一応分かっている。だからこそ、命令では    なく忠告をする。俺は大切な人を守れなかったが、お前はそうじゃないだろう? 返事は要らん。勇気が    あるなら、明後日までに彼女に別れを告げてやってくれ。それが二人のためだ。断言する。そうしない限    りお前は彼女にとっての枷になるだろう。この状況がそもそも彼女を不幸にしているという事実にどうか    気付いてくれ。頼む」 当麻「…………一つだけ、教えてくれ」 知誠「何だ?」 当麻「アイツが、ちゃんと逃げられるという証拠はあんのか?」 知誠「安心しろ。俺の事は信じなくていい。だが旅掛氏は学園都市に対抗しうる数少ない超人の内の一人だ。証    人保護プログラムなんてかすむくらいの完璧な逃亡プランが既に用意されている。それに、あの方は俺と    違って、家族を大切にする人だからな」 当麻「……………………そうか」  ◆  雨の中、砂利の上に一人の少年が横たわっている。  その少年の携帯電話が鳴った。まったく、学園都市製の携帯はホントに頑丈だな、と少年は少し可笑しくなる。  雨で冷えてガチガチになった筋肉をどうにか動かして携帯を取りだし、耳に当てると、電話の向こうで少女の 声が響く。可愛らしくも真が強そうな声だ。少年はこの声が好きだった。  だから少年は明るい調子で応える。 少年「はい…………ん、全然何もなかったけど? ……ウソ言ってどうするんだよ…………ああ。うん、そう、    今家に向かってるところ。お前ってやっぱり心配性…………ん? あっはは、違う違う、声が震えてるの    はあれだ、傘が速攻壊れたから………え、まあそうだけど…………何だそれ。はいはい了解しましたよー。    『不幸だー!』って、これで良いのか? ……何怒ってんだよ、相変わらず意味わかんねぇヤツ。つうか    お前の方は? ………って、まだ合流できてねえのか。俺の方が先に付いちまうぞ? ………うん、うん、    へ? ……うーん、『麻美』の方じゃねーか? 『麻琴』って男っぽいし。って、そもそも何これ。何の    話でせう? 親戚に子供でも生ま………………うわ、切りやがった」  少年が携帯を静かにしまう。  後には痛いほどの雨音だけが残った。 ---- #navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/当麻と美琴の恋愛サイド/帰省/家族)

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