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 今宵は三日月。
 美琴は、車が一台ぎりぎり通れるくらいの細い道を一人歩いていた。人気がなく道の隣には質素な公園があり、手入れのされていない木々が青っぽく光っている。
(……、)
 あの馬鹿が、他の誰かと頬を染めて笑っていた事が苦しかった。多分、あの大学生くらいの女を遠ざけたかったのかもしれない。
 そんな事思う権利や資格なんて自分にはないのに。当然の事ながら、上条にだって誰かと笑って、誰かを選ぶ権利がある。
 そもそも、あの馬鹿が本当に記憶喪失なら、こんな事を考えている事自体がお門違いだと美琴は思う。
 優先順位が間違っているのだ。『それ』は二番目で、一番に考えなければならないのは彼の記憶をどうするかという事。
 ―――しかし。
 美琴にとってはどちらも同じくらい大切な事だった。ゆえに理性では間違っていると理解していても、心の根っこの部分ではどうしてもそれを割り切れない。理屈が通用しないこの気持ちに美琴はどうしていいのか分からなっていた。
 足を止めて、歩いてきた道を振り返る。
 そこにはやっぱり誰もいなくて、むかついて、思わず膝を抱えて泣きそうになった。
 自分勝手に振り回せば嫌な顔をされ、かといって大人しく黙り込んでいれば他の女に頬を染める始末。
(せめて、私といる時は私だけを見ててよ……)
 『それ』が素直な気持ちだった。
 そして『それ』は、誰にも相談できない事柄だと美琴は思った。
 『それ』を言ってしまえば御坂美琴がどんな人間で、どんな事を思って、上条当麻をどんな風におもっているかバレてしまいそうで。
 出会い方はお世辞にも良いものではなかった。
 ガキ呼ばわりされるし、ひょろひょろとしていけ好かない。あっちはこちらの事を出会い頭電撃をしてくる変な女とでも思っていただろう。
 そのうち絶対進化計画という実験を知って―――、無駄だったけど色々な事をした。
 あの頃は本当に、何もかもが怖かった。
 味方がいなくて、理解者がいなくて。ルームメイトである白井黒子ですら、完全なる味方ではなかった。

『それがこの街の治安を脅かすなら、たとえお姉さまがお相手でも黒子のやることは変わりませんの』

 白井は実験の事について何も知らない。そう、美琴を信頼しきっているからこそ出てくる台詞。当然、そんな事は分かっていた。
 でも暴露してしまえば、そこは嘘でも『付いていく』と言って欲しかった。けれど、本音は押し殺した。一万人も殺しておいて自分だけ助けを求めるのは卑怯だと思ったから。そして何より、巻き込みたくなかったから。美琴は一人で決着をつける事を決意した。

 そして、上条は現れた。
『―――それでも嫌なんだよ! 何でお前が死ななきゃいけないんだよ、どうして誰かが殺されなくっちゃならないんだよ! そんなの納得できるはずねえだろ!』

 嬉しかった。
 あの時言ってくれた言葉の一つ一つが、今の美琴を支えている。
 実験は最弱であるあの少年が最強の被験者を倒すという形で幕を下ろした。
 それから。少しずつ思い出を作っていって、僅かながら上条に近づけていったと思う。
 努力したとは思わない。そもそも、何を成功させるための努力なのか分からないのだから。
 それでも上条の事を考えていると、自然に顔の筋肉が緩んでいく。
 人前では決してできない表情だったと思うけれど、内心とても心地よかった。
 安心。安堵。まるで大木の下。
 あの馬鹿は木のように固定されたものではないけれど、そんな表現が適切なのだろう。
 それが記憶喪失という事実で汚されたような、リセットされてしまったような、全て嘘だったような虚しさ。
 そこに自分の知らない、上条の日常。
(……って、何悲劇のヒロインぶってんだろ私。アイツが記憶喪失ならこんな事考えちゃダメなのに……こんなの馬鹿げてる)
 美琴は己の考えを打ち消す。
 客観的に今の自分を見てみると、勝手に上条を心配し始めて、勝手に上条のことで悩んで、肝心の上条は会ってみたらいつも通りで、誰かと楽しそうにしゃべっていて、その事実に勝手にうじうじして。
 何だか物凄く惨めで、自分勝手で、幼稚だ。
 こんなのはダメだ。
 でも、こういう事に限ってどうにもならないもので。
(……アンタは私の事どう思ってんのよ。あの時、私を守るって言ったのも、忘れた記憶のうちなの?)
 ついつい考えてしまう。分かっているつもりなのに。
(……、)
 ……記憶喪失は本当なのか。何かの間違いではないのか。
 果たして今の上条はどちらの上条当麻なのか。
 いや、どちらではなく。『どんな』と言った方が正確なのかもしれない。
 美琴はあの少年の名前を知っている。
 能力を打ち消す正体不明の力を持っているのも知っている。運がない事も知っている。どこの高校に通っているかだって知っているし、携帯の番号とアドレスだって先日知る事ができた。
 けれど、『上条当麻』を知らない。
 その事実に心が大きく揺らぐ。
(本当の事、言ってよ……)
 やっぱりダメだ。こんなのは性に合ってない。いっその事、あの時点で電撃の一つでもしておけば良かった。
 でも、それもやっぱりダメで。
 それにどちらの選択肢をとっても、自分はこんな風になっていただろうと美琴は思う。
 何が気分転換だクソッたれ。
 こんな気持ちになるくらいなら普通に黒子から芯を貰っておけばよかった、と美琴は地面を蹴った。課題もゲコ太もあの馬鹿の事も、何もかもがうまくいかない。
(やば……なんか泣きそう)
 過ぎた事を悔いても仕方ない……のは分かっている。
 『これ』が押し付けになる事も、何となく分かった。上条を思うなら、彼自身に負担をかけてはいけない。これが第一。こんな事で悩んでいてはいけない。
 だから、『これ』は殺しておくべき感情。
「……なんでよ」
 無意識のうちに、そんな言葉が口から出ていた。
 こんなに弱い御坂美琴は、美琴の思い描いている御坂美琴ではなかった。その、たった一歩も踏み出せない、弱い存在。
 美琴の知り合いに、固法美偉という女性がいる。
 彼女は街の治安を守る風紀委員であるのにも拘らず、犯罪者である黒妻綿流という男を何かと庇っていた。それどころか彼のためなら風紀委員である己を捨てようとしていた。
 『それ』が分からなかった。
 何故そこまでして犯罪者の肩を持っていたのかが、美琴にはどうしても理解できなかった。それは今も変わらない。
 しかしそれは何となく、自分にも言える事なのだと美琴は思う。
 ただ、固法は自分の思いをきちんと理解し、その上でそれを彼にぶつけているようだった。
 美琴の場合は自分の思いを理解できていない。気持ちの整理が出来ていないまま、『とりあえずの手綱』を握っておこうとあれだこれだとやってしまう。
 そこが決定的に違う。
 たったそれだけの違いで、年上の彼女がとても強く思えた。
(……、)
 ―――相談してみようか。答えを知っているだろう固法に。
 当然、不可能だ。
 そういう意見は論外だと、美琴は瞬時に思った。確かに『それ』を誰かに相談したい、言ってみたいと思っている自分がいるのは事実だが、そんな事をしたら、と考えただけで顔が赤くなりそうになる。
 だから、どうしようもない。一人でどうにかして、一人で解決するしかない。
 それはきっと、辛い事だ。
(……ばか)
 こうなると、割と止まらないもので。
 水っぽい音。
 それが自分の鼻を啜る音だと気付いた時には、美琴は唇を噛み下を向いていた。
 二つの事実に胸が締め付けられる。
 美琴は搾り出すように、
「……ちょっとくらい……、好きでいてよ。私は……、アンタの事が……」
 口が固まる。紡ぐ言葉が見つからない。

 ―――やがて、美琴の口は、彼女自身でも知らず知らずのうちにこう動く。

「す―――」

 とそこに言い終わるよりも早く、

「お、いたいた」

「ぎなンだァッッッ!?!?!?!?!?」
 どごわーっ!? と見た目ガチガチ、内面ドッカーン!! の美琴が、後ろからかけられた声にギギギギと古びたカラクリのような硬い動きで振り返ってみると。
 ツンツン頭の少年がすぐ後ろに。
 突然の出来事ににゃんでコイツがここにいるにょよどうしようどうしようというか私今にゃんて言ったあわわわ……と美琴が固まっていると、何顔赤くしてんだ? とツンツン頭の少年・上条当麻は、
「さっきは悪い。論文大変なのに、駄弁り長引かせちまって。この侘びはいつかする」
 と、美琴的においしいかもしれない切り出し方をしているのだが、美琴は美琴で彼の言葉は一切耳に入っておらず、今の自分の心の状態を冷静に感じ取ってみて『あれ?』と首をかしげていた。
 ……あんまり苦しくない。
 さっきまでのモヤモヤが消えていて、少しホッと安堵している自分がいる。
(ど、どどどうなってんのよ私のこころぉぉぉ……さっきは変に苦しくなったり今はふわふわし始めたり……)
 やーもーっ、と全身に熱を感じた美琴は自身の顔を両手で押さえて歩き出した。何となく、今自分の顔を上条に見られたら、とんでもなく恥ずかしい思いをするような気がする。
 美琴に無視された上条は『え、無視? ちょっと待ってくれよ』とか言っていたらしく、少し後ろを追いかけるように歩いていた。
 『す、少しだけ待って!!』と美琴は叫んで自分の顔を念入りにコネコネし、冷たい空気を十分に晒した後上条の顔をチラッと見て、
「……あ、あの女の人と働くんじゃなかったの? ど、どうしてこっちに来たのよ」
「え、あ、いや、どうしてっつーとあそこから一時間働くのは正直無理っぽかったからですかね。それとホレ、これ」
「え? あ」
 上条がビニール袋をガサッと押

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