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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある異世界の上琴事情/Part03-2 - (2011/05/22 (日) 09:32:24) の編集履歴(バックアップ)


とある異世界の上琴事情 新約編 3



 私の疑問などそっち除けで、マスターは手際よくコーヒーを入れ始める。
 アッコさんのはどうも豆の種類が違うようだ。
 私と雲川さんのは同じガラスポットから出したので同じ豆みたい。
 でも……良く見ると、並んでいるモノが違う?
 形は同じだけど、何か違う……。
 全然興味がなかったのに、惹き込まれる。
 何が起こるの?

「アッコのは違う豆だが、嬢ちゃんと芹亜のは同じ豆だ。後で飲み比べて貰うために少し多めに入れる」
「あ、ハイ……」
「で、コイツ。ドリッパーって言うんだが、形が違うだろ?」
「はい」
「これは形が違うだけじゃなく、片一方はもうメッシュのフィルターが入ってんだよ。で、コッチはペーパーフィルターをセットする」
「あ……ハイ」
「んで、これに同量の挽いた豆を入れてっと……」
「へェ……」
「で、お湯を注ぐんだが……、ココで大事なのが『蒸らし』だ」
「え……蒸らし?」
「まあ、見てりゃ分かるよ」

 そう言ってマスターはコーヒー豆にお湯を注ぐ。
 すると……

「ああッ、お饅頭みたいに膨れてきた」
「イイ表現だな。そうだ。こうやって膨れてくる豆が新鮮な豆の証拠なんだよ」
「えっ!? コーヒーに新鮮とか有るんですか?」
「みんなそう言うんだよな……。それだけ身近な飲み物過ぎるのが悪いんだろうけどなぁ……。米にだって新米や古米があるのと同じように、コーヒー豆にもそう言うのがあるんだよ」
「へェ……」
「但し、もっと大事なのは焙煎してからの期間だな」
「焙煎って?」
「コーヒー豆を煎るコトさ。そうしないとこの香りと味は出せない」
「ああ、そうか」

 と話しながらもマスターは手を休めない。
 一方、アッコさんと雲川さんはゲッソリした様子だ。
 多分、何度も聞かされてるんだろう。
 でも、初めて聞く私としては結構面白かったりする。

「で、その焙煎してからの時間が出来る限り短い方が良いんだが、短すぎてもこれまたダメだったりするんだよな」
「へェ……」
「焙煎したてはコゲ臭って言って、焦げ臭い臭いがどうしても残ってる。1~2日経つと消えるんだけど、焙煎したての方がイイって言う奴も居たりしてな」
「へェ……」
「もっとも俺は好みじゃねえし、契約している焙煎屋からの納入がそれくらい掛かるから、そっちの心配はしなくて済む」
「ふんふん……」
「で、さっきお饅頭みたいに膨れたって言ってたが、ああやって膨らませてやることで、コーヒーはその味を出せる準備が整うんだよ。それが『蒸らし』だ」
「えっ!? それってどういう……」
「インスタントじゃねえんだ。ちゃんとした手順を踏んでやらなきゃ素材の良さは引き出せねえよ。料理が全部そうなように、コーヒーも同じだ」
「ああ……なるほど……」
「コーヒーは嗜好品だ。だからどんな飲み方をしようとその人の勝手かも知れない。だがな、コーヒー豆にしてみりゃ、自分の実力を出せないまま『不味い』とは言われたくねえだろう?」
「アハハ、確かにそうですね」
「その奥深さにハマっちまったのさ。でも、コーヒーの専門店じゃあココでは食えない。だからこんな店をやってるって訳だ」
「でも、お料理も美味しかったです」
「あくまでも素人料理さ。本来なら金の取れるようなもんじゃねえよ。ただまあ、量で誤魔化してるっていうのもあるから何とか保ってるんだ」
「そんなコト無いと思いますけど……」
「そう言って貰えるだけで有り難いね。ってコトで、嬢ちゃんと芹亜のが出来上がりだ」
「待ってました!!」
「相変わらずキャッシュな性格してるよな、芹亜は」
「マスターの長~~~~~~~~~~~~~~~い蘊蓄を黙って聞いてたんですけど」
「強調するなよ……」
「さて、カフェ・オ・レの仕上げと行くか」
「ねえ、アンタ。アレ……するの?」
「無い方が良いのか?」
「美琴ちゃんが居るからって、カッコ付けちゃってさ……」
「そんなんじゃねえよ、アレは空気を含ませる重要な工程なんだ」
「え!?」
「見てりゃ分かるよ」

 そう言うとマスターはコーヒーを入れたポットとホットミルクを入れたポットを両手に持ち、マグカップに注いだかと思うとそのポットを徐々に持ち上げ始める。
 そして一気にその高さを上げて、見事に注ぎきる。
 滴はちょっと飛んでたけど、溢れているという訳ではない。

「うわぁ……すごい……」
「フランスのカフェなんかでバーテンがカッコ付けてやってるって思われてるけど、そうじゃないんだ。これは高く上げてカップの中で攪拌させることで空気を含ませながら味を柔らかくさせているんだよ」
「へェ……」
「単なるパフォーマンスじゃねえんだよ。っと……ホイ、出来上がりだ」
「ハイハイ、この講釈さえなけりゃねぇ……」
「文句言うのは飲んでからにしろ」
「フン。味に関しては文句はないわよ」
「ウルセえなぁ……で、どうだい。嬢ちゃん?」
「あ、あの……お砂糖を……」
「騙されたと思って一口だけそのまま飲んでみな?」
「あ……ハイ……フウ、フウ、……ズズッ……あ、飲み易い。そんなに苦くないし、けど香りはイイ」
「だろ? で、コッチが芹亜のヤツだ」
「え? 違うんですか?」
「飲めば分かるよ」
「ハイ……フウフウ、コクッ。えッ!? あ……ちょっと、苦い?」
「コッチのメッシュの方がコーヒー本来の味に近いんだよ」
「コーヒー本来の味?」
「コーヒーのテイスティングってのは、カップに挽いた豆を入れて、そこにお湯を注ぐだけなんだ。その上澄みだけをスプーンですくって飲むのさ」
「ええッ!?」
「その味だけで、コーヒーのランキングを決めるんだ。コーヒーの良さも悪さも全部出る。その分誤魔化しも効かないんだよ」
「へェ……」
「私もこの蘊蓄に惹き込まれてさ……今じゃ、あれこれウルサくなっちゃったんだけど」
「ええッ? 雲川さんもなんですか?」
「そうよォ~。それまではコーヒーなんて全然興味なかったんだから……。それが変に教育されちゃって……今に至る訳だけど」
「ホント、美琴ちゃんも気をつけた方がイイよ。この宿六にかかると他の店のコーヒーが飲めなくなるから」
「ええッ!? それは、ちょっと困るかも……」
「そういう意味では商売上手なのかも知れないけど」
「アハハ、そうかも知れないわね」
「「「アハハハハハ」」」
「オイオイ、そんなに褒めるなよ……」
「「「褒めてません!!!」」」
「嬢ちゃんにまで突っ込まれるとは……不幸だ……」

 そう言って、ガックリと項垂れるマスター。
 何か、やっぱりココは楽しいな。
 自分を飾らずに居られる……気がする。

「あ~、美味しかった。美琴ちゃんのお陰でイイもの食べられたわ」
「私なんか、たまたま来ただけで得しちゃったけど」
「そんな、私こそお世話になりっぱなしで……」
「いや、ホント美味かったよ」
「そんな、マスターのコーヒーも美味しかったです」
「そう言って貰えるだけで、満足だよ。ありがとうな」
「いえ、そんな……」

 そんな会話を続けていたのだが……。
 急に雲川さんが切り出した。

「……ねえ、御坂さん……」
「あ、はい」
「折り入って話したいことがあるんだけど……イイかな?」
「は、ハイ……」
「あなた……、アイツの事、上条のことをどう思ってるの?」
「えっ!? どっ、どうって?」
「誤魔化さないで欲しいんだけど」
「うッ!?」
「好きなんでしょ? あのバカのこと」
「そっ、それは……そのッ! ……ぅ、あ……そんなことは……、その……」

 チラッとマスター達を見ると、マスターは奥に、アッコさんは外の掃除に行ってしまった。
 さすがだ。

「どうなの?」

 雲川さんが詰め寄ってくる。
 逃げられない。
 そう思った。
 それと同時に
 逃げちゃいけない。
 とも思えた。
 そしてアッコさんの言葉が浮かんできた。

『……多分、芹亜ちゃんは本気だよ。口では軽そうなコト言ってるけど、あの子の想いはアナタに負けないくらい強いよ』

 この人は本気だ。
 それが理解出来た。
 だから、雲川さんの目を見てハッキリと言った。

「私はアイツの事が好きです。上条当麻のことが好きなんです。アイツの横に立てることを夢見ています。アイツと一生一緒に歩きたいと思っています」
「そう。それだけ私の目を見てハッキリ言ったってコトは、相当の覚悟があるってコトだと思うけど」
「はい。例え雲川さんが相手でも……。いえ、世界中の誰が相手でも、私は負けるつもりはありません」
「そう。じゃ、私もハッキリ言うわ。この前フラレたような感じになったけど、私はまだアイツの事を諦める気はないわ」
「う……」
「私にとって、アイツは世界でただ一人の男なのよ。私という存在を受け止めてくれる。そう思えるたった一人の存在なの」
「えッ!?」
「多分、それはあなたも同じだと思うけど」
「……はいッ。さっきも言いましたけど、世界中の誰が相手でも私は負けるつもりはありません。だってアイツは私が私で居られる居場所をくれる唯一の存在ですから」
「そうね。……だったら、ちゃんとした勝負をしましょう。正々堂々とした勝負をね。レベル5の第3位に私が挑むなんて、無茶だとは思うけど」
「そんなことありません。それに、この勝負に『能力』は関係ないと思いますから」
「そうね。それに、アイツにはその『能力』が効かないものね」
「そうですね。そこが一番癪に障るところだったりもするんです……けど……」
「あらッ!? 私の口癖を奪われちゃったんだけど……」
「えッ!? そっ、そうなんですか?」
「アハハ、気付いてなかったんだ。語尾に『~けど』を付けるのが私の口癖なんだけど」
「あ……ホントだ」
「御坂さん、ハッキリ言うわ。私は明日、アイツに上条にもう一度自分の気持ちを告白するわ。もしかしたらキスまでしちゃうかも知れないけど」
「えッ!? ええッ!?」
「それだけの覚悟があるって意味だけど」
「ううッ……」
「あなたに挑むのだから、それ相応の覚悟があるってコトだけど。それだけは分かって欲しかったの」
「うッ……うう……」
「今からあなたがどんな行動を取ろうと私は構わない。私は今宣言したように明日、アイツに会ったら告白する。言いたかったのはそれだけ」
「くッ、雲川さん……」
「待たないよ。待ったら負ける。そう思ってるから、それに待つつもりなんて絶対にない。私の中にあるのはアイツをアナタに渡さないってことだけど」
「そっ、そんな……わっ、私だって……私だって、負けるつもりはありませんからッ!!!」
「それじゃあ、この勝負。受けて貰えると思って間違いないのね。そう理解するけど」
「はい。それで結構です!!!」
「じゃあ、今からスタートよ。同じ学校に居るというハンデがあるから、今日の残り分だけあなたにハンデをあげるわ」
「えッ!? う……ううッ……はっ、はい!!!」
「じゃあね、御坂さん。また会いましょう。色んな意味で会うことになると思うけど。それじゃあね、ケーキご馳走様。マスター、お金置いとくね~」
「アイよ~」

『カランカランカラ~ン』

 言うことだけ言って雲川さんは出て行った。
 出口でアッコさんと一言二言話すと、笑いながら歩いて行ってしまった。
 そのアッコさんが入ってきた。

「やられちゃったわね。美琴ちゃん」
「う……」
「先に言っておくけど、もうアタシを頼っても無駄だからね」
「えっ!?」
「確かにアドバイスは出来るだろうけど……。でも、全てを決めるのはアナタ自身。もうアナタはそう言うステージに立ってしまったのよ」
「あ……う……」
「芹亜ちゃんの覚悟も相当なものね。……さすが影の第6位ね」
「えッ!?」
「あッ……しまった……」
「どっ、どういうコトなんですか!? 影の第6位って……まさか……」
「あ、アンタァ~……どうしよう……」
「ッたく……、相変わらず口が軽いんだから、お前はよォ……。まぁ、俺も人のコトは言えねえけどな……」
「マスター!? どういうコト? 教えて下さい! お願いします!!!」
「……ハァ、しょうがねえな。まあ、芹亜は嬢ちゃんの能力を知ってるんだし、嬢ちゃんが芹亜の能力を知らないってのはフェアじゃない。とも言えるが……」
「あ、あの……」
「先に聞いておく。聞いて後悔しねえって約束出来るかい?」
「えっ!? そっ、それってどういう……」
「アイツの能力は、今の嬢ちゃんに取っちゃかなりショックな内容になる。それでも聞くのかってコトさ」
「ショックな内容って……」
「アイツがなぜ、今まで表に出て来なかったのか。その理由も含めて言わなきゃ、嬢ちゃんは納得しねえだろう。だが、それを聞くってコトは相当にショックなことになるんだ。それでも聞くのかい?」
「う……。……でッ、でも、教えて戴かなければ、どうやって闘えばいいのかが分かりません。お願いします。教えて下さい!!!」
「もう一度聞く。本気だな?」
「ハイッ!」
「……分かった」
「あ、ありがとうございます」
「アッコが言った、影の第6位とは……嬢ちゃんが思ってる通りさ。この学園都市に7人しかいない、レベル5の第6位は……アイツ、雲川芹亜だ」
「やっぱり……」
「能力は嬢ちゃんの学校に居る第5位と同じ、精神感応系。能力名は『精神解錠(マスターキー)』だ」
「あの女、食蜂と……『心理掌握(メンタルアウト)』と同じ能力……」
「詳細を言えば、第5位の『心理掌握』はその応用性の高さで第5位に認定されている。精神感応系で十徳ナイフ的なコトが第5位には可能だ」
「はい、それは間違いありません」
「さすがにその辺りは詳しそうだな」
「あ……、ええ、まあ……」
「だが……、同じ精神感応系でもアイツは違う。アイツの『精神解錠』の前ではヘタをすれば『心理掌握』すらその精神を乗っ取られ、崩壊させられる可能性があるんだ」
「そっ、そんなバカなッ!? 順位は雲川さんの方が下なんでしょ!?」
「芹亜の能力は特化してるのさ。テレパスにな。『心理掌握』がその『能力の多様性』で相手を操れるのに対して、『精神解錠』はその『能力の攻撃力』で相手の弱点を突くことが可能なんだ。つまり、相手を内部から完全崩壊に導けるんだ」
「内部から完全崩壊させる……って? それってどういうコトなんですか?」
「第5位の『心理掌握』の能力はある意味で『広く』『浅く』だ。だが、レベル5になっているので、潜れる精神深度がかなり深い。その上で範囲も広いからやれることも多くパワーもあるように見える。だから第5位に認定されている」
「あ……はい……」
「だが芹亜の『精神解錠』は違う。アイツの能力は完全に特化しちまってるんだ。人の心を読み、その弱点を突く。その一点にな。つまり攻撃範囲は『狭い』が、届く範囲が『深い』んだよ。つまり傷は小さくても致命傷になっちまうんだ」
「ええッ!?」
「精神操作なんて表面的なもんじゃない。精神攻撃というよりも深層心理攻撃と言った方がイイだろう。例え相手がテレパス系能力者であっても、他人にはそう簡単に踏み込ませない領域である深層心理をアイツはこじ開けられるんだ。だから『精神解錠(マスターキー)』なのさ」
「そ、そんな……」
「相手の中心を、人格その物すら崩壊させることがアイツには可能なんだ。『心理掌握』ですら乗っ取られ崩壊させられる可能性がある。と言ったのにはそういう意味も含まれてる。かなりのリスクはあるだろうがな……」
「ぅ、ウソ……でしょ?」
「もし万が一、二人が闘ったとしてだ。基本的には『心理掌握』の方が『精神解錠』の攻撃を防御に回りつつ、外堀を埋めながらジワジワと追い込んでいくだろう」
「でしょうね。あの女ならそう言う戦法を使うと思います」
「だが、もし、その『心理掌握』の張り巡らしたダムに『蟻の穴』が開いたら……勝負は一気に『精神解錠』に傾くんだ」
「どっ、どうしてです?」
「『心理掌握』に取っちゃ、自分自身に対しても潜ったことがない精神深度に一気に突入されちまうんだからな。パニックになるだけじゃ済まないだろうさ」
「そ、それって……どういうコトなんですか?」
「一番分かりやすくいえば……人間の心の『闇』の部分を注視し続けることが出来るかってコトなんだ」
「人の心の『闇』……」
「そう、それを見続けても冷静に対処出来る精神力がどうしても必要になる。言っちゃ何だが、常盤台のお嬢様にそんなコトが出来るとは思えねえな」
「あ……うう……で、でも……」
「自分の中にある、ドロドロとした触れるどころか見ることすら嫌悪感を覚えるその領域で、自らの精神を保ちつつ、相手の弱点となる箇所を正確に見つけ、そしてそれを突く」
「う……あ……(ガタガタ)」
「とんでもない能力だぜ。お前さん達の能力に対峙した場合、ケガだけで済む可能性はまだある。お前さん達が本気でなければな」
「……ああ……」
「だが……アイツの能力に対峙した時、人はそれを防ぐ術を持っていないに等しいんだ。内側を自分自身すら見たことのない領域を破壊されちまう訳だからな。対処のしようがねえ」
「うう……そんな……」
「但し、上条に関して言えば、芹亜の能力も通用しない。アイツの右手、『幻想殺し(イマジンブレーカー)』が芹亜の能力を文字通り殺しているからな」
「どうして、そこまで詳しい事をお二人はご存知なんですかっ!?」
「アイツを開発したヤツと知り合いなんだよ。それだけだ」
「あ……それで……」
「どうだい? こんな能力を持った奴が居るなんて世間が知ったら……どうなると思う?」
「そ、そんな……それこそ……」
「ああ、世界の要人であろうと簡単に暗殺出来ちまう。いや、殺す必要すらないんだ。生きたまま廃人に出来ちまうんだからな」
「そんなのって……そんなのって……」
「ああ、許される訳がないよな。それこそ、世界中が大騒ぎだ。ヘタをすりゃあ、この前の第3次世界大戦以上のことが起こりかねないんだよ。だから……」
「だから……」
「そう、だから『影の第6位』なのさ。外に出せないから、影に押し込めておくってコトだ」
「うう……」
「それに、芹亜自身も自分の『能力』の危険さを良く分かっている。だから、『影』であることに対しての不満は持っていないし、逆にその事を楽しんでいる節もある」
「そ、そんなコト……」
「どうだ?」
「えっ!? どっ、どうって……?」
「後悔はしねえ。そう言ったはずだが……」
「あっ……、ああッ!?」
「聞く前と、聞いた後じゃあ……違うだろ?」
「う……うう……」
「話を元に戻すのなら、嬢ちゃんにとってもそうなように、芹亜にとっても上条当麻ってヤツは特別な存在なんだよ。アイツの右手に宿るあの摩訶不思議な力『幻想殺し』がとてつもなく大きな意味を持つのさ」
「あ……うう……」
「それにそれだけじゃない。アイツは誰にだって分け隔て無く関わる。まぁ、上条は芹亜がレベル5の第6位だってコトは知らないだろうけどな。例え知っていたとしても変わらないだろう。それは嬢ちゃんが一番知ってることだと思うぞ」
「……それは、そうです……」
「何よりアイツが上条に惹かれてるのは、その心が読めない存在でありながら、読む必要がない存在だからだと俺は考えてる。まぁ、俺の勝手な思い込みかも知れんがね」
「でッ、でも……だったら、どうしてあんなに普通に接することが出来るんですかっ!? 普通なら……心を読まれてるって思ったら……」
「まあ、その芹亜を開発したってヤツとの付き合いがあったからな。そいつにかかっちゃ、『心理掌握』も芹亜も赤子同然だろうし」
「ええッ!?」
「それに芹亜も俺達のことを知っていて、俺達も芹亜のことを知っているから、ココはアイツにとって数少ない、肩肘張らずに済む場所なのさ」
「……そ、そうなんですか……」
「美琴ちゃんにこの前言ったでしょ? この宿六が最初に引っ付いた女がその開発を担当した女なの」
「オイ、温子!!」
「あッ……」
「ッたくよォ……。アイツの事になると、頭に血が上って冷静になれねえのは分かるけど……。喋りすぎだぞ」
「ご、ゴメン……」
「どっちにしても、こっからは俺達が手出し出来ない領域になっちまったってコトだ。後は嬢ちゃん自身が決めなきゃならねえんだぞ」
「あ……う……」
「気持ちは分からなくもねえが……、もう時間はねえぞ。芹亜は多分、そこの賭けに出たんだと思うぜ」
「え……賭け?」
「そうさ。嬢ちゃんが自分の想いを上条にぶつけられるかどうかの賭けさ」
「あッ……」
「五分五分と見てるんだろうな。嬢ちゃんがそう出来るかどうかを……」
「美琴ちゃん、私言ったよね。芹亜ちゃんは本気だって……」
「あ……はい……」
「さすがにこんなに早く、これだけの行動を起こしてくるとは思ってなかったんだけどな……。一昨日の上条君の一言がきっかけかも……」
「それに、その後の嬢ちゃんの行動……だろうな」
「えッ!? 私の行動って?」
「意識を失ったまま、抱きついて離れなかったでしょ? さすがに目の前でアレをやられたら……スイッチ入っちゃうわよ……」
「あぅあぅ……」
「しかし、今日、ココで偶然に出会った嬢ちゃんに宣戦布告を仕掛けた手際の良さはさすがだよな」
「うん、頭の良い子だからね……色んな意味でね……」
「でも、でも……そんな人相手に……相手の心が手に取るように分かる人を相手に……私がどうやって闘ったら……」
「芹亜ちゃんでも上条君の心は読めないよ。彼には『幻想殺し』があるから……。でも……美琴ちゃんの想いは読める……」
「うッ……うあっ……」
「そういう意味では、芹亜の言うように『正々堂々』の勝負だぜ。相手はあの上条当麻なんだからな」
「え……あっ……」
「やっと気が付いたみたいね。そういうコトよ、美琴ちゃん」
「そうだぜ、嬢ちゃんが闘う相手は雲川芹亜じゃないんだよ。上条当麻なんだよ」
「つまり……後は美琴ちゃんの上条君に対する気持ち次第。それをどうやって彼に伝えるかってコトだけなの」
「うッ……」
「俺達が出来るのはココまでだ。後は嬢ちゃん自身が決めることだ」
「分かったよね、美琴ちゃん。もう時間は無いわよ」
「は、はい……」
「色々とプレッシャーになるようなことばかり言って悪かったな」
「い、いえ……ありがとうございました……」

 大変なコトになってしまった。
 その場の勢いだけで勝負を受けてしまったような感じだけれど、それでは済まなくなってしまった。
 今、本当に自分の気持ちと向き合って、自分の想いをアイツに伝えなければ……。
 そうしなければ、明日……雲川さんはアイツに自分の想いを伝えてしまう……。
 この前のようなそれではなく、真剣に、真っ正面から、自分の全ての想いを乗せて……。
 あの人なら、それが出来るだろうし、やりきるだろう。
 自分への一切の誤魔化しを捨てて、本当の気持ちを告白する。
 悔しいけれど、そんな確信がある。

 では、私は……?
 私はあの人と同じように、アイツに私の想いの全てをぶつけることが出来るのだろうか?
 アイツの答えが『 Yes 』なら言えて、『 NO 』だったら言わない。などという甘えは許される訳がない。
 アイツの答えが『 Yes 』であろうと『 NO 』であろうと怖れることなく……。
 そして素直に、自分を偽ることなく、アイツに伝えることが出来るのだろうか?

 そう考えた時……。
 昨日見た夢の、あのシーンがフラッシュバックしてしまった。

 アイツの声が聞こえない。
 何を言っているのか分からない。
 そして、アイツは去って行ってしまう……。

『ドクンッ!』

「うああッ!?」
「えっ!? みっ、美琴ちゃんッ!?」
「怖い……怖いよォ……。ヤダ……行っちゃヤダよォ……。当麻ぁ……。イヤ……いやぁあああああああああああああああああッ!!!!!(バリバリバリバリバリッ!!!!!)……あ…『ドサッ……』…」

 自分自身が見たことのない自分の内面を見られてしまう。
 『心理掌握』すら凌駕しかねない『力』を持った能力者。雲川芹亜。
 その恐るべき能力に恐怖を感じない人は居ないだろう。
 そんな人と、真っ正面から対峙し勝負しなければならない。
 この世で一番大切な『アイツ』を賭けて。
 今まででも、素直になんてなれなかったのに……、この状況下で今まで以上に、自分の気持ちに正直になんて……。
 雲川さんの未知の能力に対する恐怖と、アイツへの想いが綯い交ぜになる。
 そのプレッシャーに私の崩壊しかけていた『自分だけの現実』は耐えられなかった。
 『能力』の暴走と共に、私は意識を失ってしまった……。


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