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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/5スレ目短編/753 - (2010/03/07 (日) 15:36:40) の編集履歴(バックアップ)




「うし!!」
 バレンタインデーを明日に控えた学園都市。他地域に比べ20~30年進んでいると言われる科学技術に触れながら過ごすここの若人たちもバレンタインデーの奇跡を夢み、妄想を描くことには変わり無いようである。
 今、小さくこぶしを握り冒頭のセリフを述べた御坂美琴もその一人であった。彼-上条当麻-への恋心に気づいて久しいものの照れと恥ずかしさと・・・彼からはなんとも思われてないのではという恐怖から前へ進めずにいた彼女であったが、やっと電話にて明日会う約束を取り付けたのだ。
(ふぅ、何とか明日会うところまでは予定できたわ。このチョコを渡して告白・・・できるかしら?)想像するだけで顔が火照る。(が、がんばるのよ私!)
用意したチョコを見つめ一人気合を入れる美琴。
 赤い色に金色のストライプが入った包装紙に包まれ、箱の大きさとはちょっと不釣合いとも思われるほどの豪華なリボンがかけられたそれ。手作りも考えたが人目に触れずに作ることは困難と判断した美琴が結局デパ地下にて買い求めたものだった。バレンタインチョコを作る姿を人に見られるわけにはいかないと考えるあたり、やはりまだ踏ん切れていない表れでもあるのかもしれないが・・・。

 ある程度の自己満足感に浸りながら寮の部屋に戻ると、ルームメイトである黒子もすでに帰宅していた。
「おぅ黒子~、今日は早いのね。ジャッジメントの仕事もなし?それのが平和ってことでいいことよね~」
 明日への期待に胸を膨らませているせいで、自然、テンションの高いしゃべり方になっている。
「お姉様」
 うって変わって何か思いつめたような表情で語りかける黒子。
「な、何よ。なんかあったの?」
「明日はバレンタインデーですが、お姉様はどなたか殿方にチョコをお渡しになる予定はございますの?」
「な・・・な、なに言ってんのよ~。そんなのこの私にあるわけないでしょ!ないない、ないわよ!」
 慌てて全否定の美琴。
 じーっと美琴を見つめること数秒。
「・・・・・・・わかりましたわ。そのお言葉信じてよろしいのですね。」
「う、うん」
「お姉様には現在想いを寄せる殿方はいない・・という理解をいたしますが、よろしいのですね?」
 念を押すような繰り返しの言葉。強い意志がこめられたように感じるが顔は無表情に近い。
 話の内容からすれば普段と変わりないように思える。しかし、いつもとは明らかに違う雰囲気で話す黒子。
 美琴は違和感を感じながらも、
「そうよ。あたり前じゃない。私に釣り合う男なんてそうそう見つかるもんでもないわ。」
 いつもと同じ調子で返したのだった。
「シャワー浴びてくるわね」
 完全に嘘をついている居心地の悪さからとりあえず退散を試みる。
「どうぞ、ごゆっくり」最後まで少し変な黒子だった。

(どうしたのかしら黒子・・・。ま、それより明日のこと考えないと。)
 ルームメイトのいつもと違う雰囲気を気にしつつも自分の事でいっぱいの美琴。無理もない、もしかしたら明日は運命の日になるかもしれないのだから。
(えっと、チョコ渡して・・そうよね、それだけってのももったいないからどっか一緒に遊びに行きたいわ。デ、デートってことで。どこがいいかしらね~。自然に誘う方法も考えとかなくっちゃ。帰るまでにはこ、こ、告白しないとね。)
 シャワーの熱い湯のせいか、激しく燃える妄想のせいか、頬を紅く染めながらクネクネする美琴であった。

 翌日、かなりハイテンションの美琴は待ち合わせの場所で上条当麻を待っていた。(う~、まずいまずい。こんな精神状態じゃダメだわ。落ち着け私!セルフコントロール、セルフコントロール・・。しかし、おっそいわねアイツ!まったくいつもいつも!!!人の気も知らないで!)
 上条当麻が現れるであろう方向を見つめ、雑踏の中に当麻をさがす。凝らしていた目が疲れは始めた頃、彼の姿が目に入った。

 美琴とは対照的にノホホンとした表情で近づいてくる上条当麻。
彼の脚が一歩進むごとに鼓動の高鳴りが増す美琴。
「よっ!御坂。用って何だ?」
 美琴の目の前まで来た当麻はのんきに聞いてきた。
「あ、あの、えっとね、えっと・・・」
 対して、結局セルフコントロールに失敗している美琴。いつ漏電が始まってもおかしくない状態である。
「きょ、今日が何の日か知ってるわよね?どうせアンタなんか一個もチョコ貰えないだろうから、私があげようと思ったってわけよ。か、感謝しなさいよね!」
(ちょっとっ!全然シミュレーションと違うじゃない!こんな偉そうな女の子じゃ好かれるわけない・・・)
 自分の口から飛び出た言葉に自己嫌悪に陥りそうになりつつ、なにがなんだかわからずほとんどパニック状態の美琴。
「ん~、この上条さんを見くびらないでほしいのであるのですよ。」
 おもむろにジャケットのポケットからなにやら包みを出す当麻。少し細長い、淡いピンク色をした長方形のそれは・・・
 美琴もすぐ理解した。チョコであろうと。
「ここに来る途中でな。もらったのですよ。」
 うれしそうに鼻の下を伸ばした表情で話す当麻にパニックの美琴はさらに予想外の展開にますます頭に血が上る。
「まぁ、義理なんだろうけどな・・ははっ」
 もはや後半の言葉は美琴の耳に届かなくなっていた。周りの音は消え、ただ自分の鼓動しか感じられない。しかし搾り出す言葉。
「そ、そう、よかったわね。私も用意したんだけどそれじゃあ私のは必要なかったわね」
「え?そんなことないぞ、せっかく貰えるもんなら貰うぞ。ビリビリの電撃もらうよりは義理でもチョコの方がいいしな。」
(・・・)
 当麻のデリカシーのない言葉に追い討ちをかけられ,その場にいることに耐えられなくなった御琴は渡そうとしていたチョコを思わず当麻に投げつけ走り出した。
「おい!待てよ御坂!」
 当麻も美琴を追うが、なりふり構わず走る美琴に対し、行きかう人たちにぶつからないよう気を使いながらの当麻には分が悪かった。すでに遠くで小さくなった背中が角を曲がったとき、さすがに当麻も追うのをあきらめるのだった。

「はぁはぁ・・」
 どれだけの時間駆け抜けただろう。平均的な中学生の体力は遥かに超える美琴もついに立ち止まった。肺は多量の酸素を欲し、脚の筋肉はもはや震えている。
「アイツの・・・バカ。ううん、バカなのは私ね・・・」
 急転直下、どん底まで落ち込んだ気持ちはなかなか浮揚してきそうにない。
「確かにアイツのことだから、チョコ渡そうとする女の子がいてもおかしくないわ。 なんで思いつかなかったんだろう・・。せめて心構えがあればあんなこと・・・」冷静に考えればそうなのだ。旗男、上条当麻は複数のチョコを貰ってもおかしくはない。
 後悔の念が溢れ出す。
「チョコ・・ちゃんと渡したかった。心をこめて渡したかった。デートしたかった。ご飯一緒に食べたかった。手をつないで街を歩きたかった。ウィンドウショッピングで冗談でもおねだりとかして甘えたかった。楽しく笑いながらおしゃべりしたかった。・・・・・・告白・・したかった・・。」
 今となっては全て霧散した描いていた夢。
失われてしまう二人で過ごすはずだった時間を考えると、涙が出そうになる。
零れそうになる涙を止めるために顔を上げると街を行き交う幸せそうなたくさんのカップルが眼に映る。
 美琴はそこから逃れるように先ほどとは違いふらふらとした足取りで歩き始めた。
無意識に上条当麻の寮に向かって。


 一方、上条当麻は見失った美琴を見つけるため、さんざん街を歩き回ったが結局見つけられることが出来ずにいた。
(暗くなってきちまったし、一度帰るか。携帯忘れてきたのは失敗だった。家についたら御坂に電話してみよう。)
 そうと決めた当麻は幾分早足にて帰宅の途につく。

 上条当麻の寮前で立ちつくす美琴。何をするために来たのか自分でもわからない。
何をしようとしているのかわからない。まだ気持ちの整理も出来ていない。
 と、上条当麻が見えた。寮に向かって歩いてくる。とっさに美琴は建物の陰に隠れる。
 すでに日は落ち廻りが暗かったせいで当麻は気づかない。
(ど、どうするの私?)
 逡巡する美琴。会いたい。でも勇気がでない。(あんな態度とって、嫌われたわよね。眼が合った瞬間いやな顔されたらどうしよう・・)
 当麻はすぐそこに迫ってきていた。もう10m程もない。
(やっぱり、ダメ!)どうしても姿を現す勇気が出ない美琴はそこから立ち去ろうとする。

 その時、
「上条当麻さま。」
 御坂のよく知る人物が忽然と現れ、当麻を呼び止めた。

(え?黒子?・・・・)
 立ち去ることを忘れ、思わず二人に見入る美琴。

「ん?白井さんだよな、珍しいな、何か用ですか?ちょっと急いでるんだが・・」
「それは申し訳ありませんが、少しだけ時間を頂きたいんですの。」
 街灯に照らされる黒子の頬は心持ち赤いように見える。
(何するつもりなの?黒子)

「ん、まあ、ちょっとならいいが、なんだ?」
「・・・これを受け取って下さいませ。」

(!!黒子がチョコを!アイツに!?)
そう、両手に持ち当麻の前に差し出されたのは、やはりかわいいラッピングの施された小箱。
「お!チョコか?果てしなく意外ですが。あ、ありがとうな」
 確かに意外である。意外な展開である。
「勘違いしないで頂きたいのですが、義理とか、そんな軽いものではございませんの。これはわたくしの気持ちです。上条さまをお慕いもうしております。」
 意外な展開どころか、あり得ないことが起きている。
「は?????」
「わたくしとお付き合いしていただけるでしょうか?」
 なんと積極的な。
「え、いや、ちょっと待ってくれ、突然すぎて・・・・」
「現在お付き合いされている方はいらっしゃいまして?」
「いや、いない。」
「では好意を持たれている方などは?」
「・・・・・い、いや・・・・いないが・・・。しかし・・」
 黒子の眼が一瞬細くなったような気がした。
「確かに躊躇われるお気持ちはわかりますわ。上条さまにとってはわたくしのことはあまりご存じないと思いますし、いきなり好意をもって欲しいと言われても難しいですわよね。でも付き合い始めとはそういうケースもございますのではないでしょうか。まずは度々デートなどをして頂き、わたくしを知って頂ければと思いますの。」
「し、しかし・・・」
 焦る上条。積極的に女性に迫られると弱い。
「今、好いている女性はいないとおっしゃいましたわよね?それならばよろしいのではありませんか?」
「でも、そんな・・・・。デートしたって俺がお前のこと好きになるかは・・・・」
「それはわかっておりますわ。ただこのまま終わってしまうのと、一歩可能性のある方に踏み出すこと。わたくしは後者がいいと判断いたしますの。ええ、もちろん今すぐお答えをくださいとは申しません。少し考えてくださいまし。お待ち申し上げておりますわ。チョコと一緒にわたくしの携帯番号が入っておりますので連絡してくださいね。」

「では・・」
 呆然とした当麻を残し、黒子は歩き去る。
 当麻が我に返った時、いつの間にか受け取っていた小箱は当麻の手汗で包装紙がゆがんでいた。

 一部始終を目撃した美琴は脚が固まり動けずにいた。
 当麻は真剣な表情でチョコを見つめている。妹達の件の時、橋の上で見せた当麻の表情を思い出す。
(そうよね。アイツは優しいから。あんなに真正面から告白されたら真剣に考えて考えて考えて・・・正直な結論を出すわ、きっと。)

 恐ろしい考えが脳裏をよぎる。(アイツが黒子を選んだらっ!)
美琴は不意に走り出した。当麻に見つかることも考えずに。

(すごい、すごいわ、黒子。ほんとにアンタはすごい。私がしたかったこと、全部先こされちゃった・・・)
 溢れ出す涙は堰を切り、もう止められない。
(なんで私は黒子のように出来なかったんだろう。何度でもチャンスはあったのに、なんで!!)
 ポケットの中でさっきから携帯が震えている。当麻からであろうか、しかし出る気力はない美琴だった。

 ひとしきり泣いた後、寮に帰らないわけにもいかず、美琴は帰宅した。
しかし、なかなか部屋のドアを開けられない。深呼吸をひとつ、思い切ってドアノブを捻って部屋に入る。
「おかえりなさいませ、お姉様」
 いつもと変わらない口調の黒子がいた。
「う、うん。ただいま・・・・」
 眼を合わせられない。
「あ、あのさ、何か今日疲れちゃったから。すぐにシャワー浴びて寝るわね」
「あらまあ、いけませんねえ。お身体の具合でも?」
「そんなことないから、大丈夫。ちょっと疲れてるだけ」
「わかりました。それでは早々にお休みになられることをおすすめしますわ」
 眼を合わせられない・・・・いや、向こうからも眼を合わせてきていない・・。
 最初の会話以来、黒子は机に向かい、何事かしているのか美琴には背を向けたままだ。
 この先どうなるの・・・・?その答えはいかにレベル5の美琴にもわかり得るものではなかった。

 場面は残された上条当麻に戻る。
 物音がしたと思ったら、走り去る御坂美琴の背中が見えた。
 あ、なんかデジャブ・・・とかぼんやり思いながら我に返る。
 頭の中に様々な思いが廻る上条当麻は美琴を追うことができなかった。

 しかたなく上条は部屋に戻ると、まずは美琴への電話を試みる。
・・・呼び出し音は鳴るが出ない、留守電サービスに切り替わる。
 3度試みるが、やはり美琴からの応答はない。
あきらめ、留守電に向かいメッセージをふき込んだ。
「あ、俺だ。上条だ。突然走り出してどうしたんだ?問題抱えてるなら相談しろよ?
前にも言ったじゃないか。連絡待ってるからな。」

 電話を切り、ため息をつく。
 美琴の方もほっとくわけにもいかないが、黒子のことを考えなくては。
(まったく、予想外だったぜ。どうすりゃいいんだ?)
(好きな女がいないんだったらか・・・)
 まぁ一理あるかもと思いながら自分でも気づかない釈然としない気持ちに首をひねる。
(えーと、俺にはつきあってる彼女も、好きな女もいない・・・)
(白井黒子・・御坂の後輩だったよな。!ってことは中学1年だろあいつ!おいおい犯罪者まっしぐらかよ俺は。中学2年相手にも躊躇ってんのに更に年下とは・・・)

(・・・・? 躊躇ってる?躊躇うって何に?・・・・中学2年生に?か?それは誰だ?御坂のことか?・・・なぁ俺、なに考えてる?)
 先ほどの自分の気持ちの違和感に手が届きそうになる。
 沈思・・・・・上条は黙り込んだ。
 これまでの御坂美琴との記憶を掘り起こす。確かに鞄で殴られたり、電撃浴びせてきたり、年上とも思っていないあの言葉と態度・・・・
 しかし、御坂美琴と過ごした日々は上条当麻にとって楽しいものであったことに気づく。
 もし、御坂が他に彼氏を作ったら?こっちにつっかかてこなくなって万々歳だよな。だよな?・・・・違う、その想像に苛立ちをおぼえる。じゃあ・・・・・。
 ふっ・・・と、当麻の表情が和らいだ。
(そっか・・・・俺、御坂とこれからもど突き合いながらも一緒にいたいみたいだ。御坂のあの笑顔を俺に向けて欲しいんだ。これって、好きってことなんだろうな。そうなん・・・だな。)
 上条当麻は鈍感である。自分では気づかないうちにフラグを立てまくりながらも、生来の不幸体質のせいか、自分が彼女をつくるなど考えることはなくなり、また自分が女の子を好きになるなど不幸を呼ぶだけだと、いつのまにか自己暗示にかけているようなものだった。
 その暗示を解いたのは・・白井黒子。
(なんてこった。白井、ありがとうな。俺はお前に正直に伝えるよ。)

 3人にとって長い夜が明けた。
 なかなか寝付けなかった美琴が眼をさますと、黒子はもういない。
(・・・おいてかれたか・・。もう前みたいな関係には戻れないのかしら・・・。)
 学校をさぼりたかったが、なんとか重い身体をベッドから引き剥がし、着替え始める。美琴は準備が整うと、とぼとぼと学校へ向かった。

 昼休み、常盤台中学の食堂にて美琴が一人昼食を取っていると、黒子が前に座った。
 ギクッとした美琴だがなんとか冷静を取り繕う。
「お姉様。大丈夫ですか?今朝は申し訳ありませんでした。起こすに忍びないご様子でしたので・・」
「ん、大丈夫よ・・・・」
「それならよろしいのですが・・・。」
 黒子は本気で心配しているようである。それ以外の思惑は無いように感じられた。

 ブルルゥブルルゥ・・
「!」「ちょっと、失礼いたしますの。」
 黒子はポケットから呼び出しのかかっている電話を取り出す。

「はい、白井です。ええ、本日ですか?予想より早かったですわ。今日の5時ですね。うかがいます。え?こちらに?わたくしはかまいませんが・・わかりましたそれではお待ち申し上げております。」
(アイツだ。)直感的に気づく美琴。
(返事をするつもりなのね・・・。どんな返事を・・・知りたい、怖い・・けど・・・)

「お姉様。」
「な、なに?」
 思わず眼が合う。黒子の眼は恐ろしいまでに真剣だ。表情もこわばっているように見える。
「あの・・・・いえ、なんでもありませんわ。」
 結局、その後の二人はどちらからも話かけることなく無言で食事を終えた。

 放課後、用があるといってまっすぐ帰る黒子。
(用ね・・わかってるわよ・・・。)
(どうしよう?あの電話の会話からするとアイツがこっちに来るみたいね。時間をつぶしてから帰った方がいいかしらね・・・)


 夕方5時。
 寮の門前に白井黒子は立っていた。そしてその前には上条当麻。
「少し、場所変えるか。」
「そうですわね、さすがにここでは人目に付く可能性が高すぎますわ。」
 少し歩いて、近くの小さな公園を目指す二人。いや三人であった。
 先頭を歩き案内する黒子。そのすぐ後ろに上条。少し離れて身を隠しながら後をつける美琴である。
(はあ・・・なんて悪趣味。のぞき見なんて・・私って最低。だからアイツも私を見てくれないのよ・・)
 自分の行動を否定しながらも、どうしても気になる美琴は結局5時前に寮に戻っていたのだった。

「ここならよろしいんでなくて?」
 小さな公園だ。まだ完全に日が暮れたわけではないがもう誰もいない。
 電灯は既に灯され、黒子の表情をはっきりと照らしている。
「ああ、そうだな」
 美琴も公園の低木の茂みに身を潜める。

「では、お聞かせ願えますかしら?」
「ん、じゃあ言わせてもらう。俺の答えを。」
 美琴は心臓が縮む思いだった。この先彼から紡がれる言葉に絶望することになるかもしれない。今更ながらにそれに気づくと耳を塞ぎたくなる。

「まず、ありがとう。俺を好きになってくれて。うれしかったよ。不幸な俺でも好きになってくれる女の子がいるなんて、びっくりした。」
「・・・・」黒子は次の言葉を待っている。
 それを確認し上条は続ける。
「だが、答えはNoだ。お前とは付き合えない。」
 眼をそらしてはいけないという信念があるのか、黒子をはっきりと見つめ、答えた。黒子の眉が一瞬ピクッと動いたようだったが、表情に変化は無いように見える。
「・・・ですから、それは何度かお会いしてからでもと・・・」
「違うんだ。すまん、俺はあの時嘘をついていたんだ。」
 沈黙をもって先を促す黒子。
「あの時、俺はお前に聞かれて、今好きな女はいないと言った。それが間違いだったんだ。まあ、後から気づいたと言っていいが・・・・。」
「そのお方のことを好いてらっしゃるから、わたくしとはお付き合いできないというわけですのね。」
「そうだ、本当にすまん。あの時言えれば良かったんだが・・・ごめんなさい。」
伝えるべきこと伝え、聞くべきこと聞いた二人の緊張が少しゆるむ。
「ふぅ、わかりましたわ。上条さま、あなた良い方ですわね。真剣に考えて頂いたようですわ。真摯なお答えありがとうございました。」
「ん、ああ。いや・・・そんな礼なんて。」
 美琴はの心はジェットコースター状態である。上条当麻は黒子を選ばなかった。しかし他に好きな子がいると・・・・。
 黒子の気持ちを想い、胸を痛める。
(黒子・・・かわいそう。しかも好きな子がいるって・・・私もああなるのかな。いえ、もう既にそんな状態ね・・・。)
 今の黒子に自分を重ねる美琴。

「その好きな方というのは?」
「え??言わなきゃダメか?」
「無理にとは申しませんが、差し支えなければ・・・。」
しばらく考え込む上条。おもむろに口を開く。
「そうだな、話しておくよ。実はその人はお前にもかなり近しい人でな。いろいろ問題もあるだろうが、今のうちに言ってしまった方がいい気がする。でも・・・ほんとにいいのか?大丈夫か?」
「ええ、わたくしなら大丈夫ですのでどうぞ。」

「御坂美琴」

 しばらくの沈黙。たまに明滅する公園の明かりだけが何かを語っているようだった。

 それまであまり表情を変えずにいた黒子が、上条当麻をにらみつける。
(あ、あれ?やっぱ言っちゃまずかった?)焦る上条。思わず一歩あとずさる。

「やっと、白状しましたわね。わかっておりましたわ。」
「へ?は?」

 予想と違う言葉にたじろぐ。

「お姉様。いらっしゃるんでしょう?どうぞ出てきてくださいませ。」
「え!?」
 さらなる予想外の展開。つくづく黒子に振り回される上条だった。

 ガサ・・・と、音のする方を見ると御坂美琴が立っていた。なにか信じられないものをみたような眼をしている。

「では、わたくしはこれで失礼させていただきます。」
 そう言うと黒子はテレポート能力を使って一瞬で姿を消した。

「あ、あの・・・・」
「え、あ、そ、その、御坂いたんだ~。これはびっくり。は、はは。」
 場を和まそうと無理におちゃらけるが、効き目はなさそうだ。

「今言ったこと、ほんとぅ?」
 震える声で聞いてくる美琴。

「ああ、ホントだぜ。俺は嘘は言わない上条さんですからして。びっくりしたか?したよな?
まぁ、そのなんだ。いきなりこういう展開になるとは思わなかったんが、もしよかったら俺とつきあってくれないか。そ、その・・・おまえのこと、そばで守っていたいんだ。」

ドンッ。上条当麻は自分の胸に何かが当たる衝撃に一瞬なにが起きたかわからなかった。
 っとと・・。「お、おい御坂・・」
 美琴は上条を抱きしめ、胸に顔を埋めていた。
「答えはイエスよ。」
「えっ!ホントか。」
「私もアンタのこと、好きなんだもん。」
「ッ!」
 上条、絶句。上条はここに至って美琴から想いを寄せられているとは気づいていなかった。振られたらこれまでのような関係も壊れるのか・・内心ビクビクしていたのである。
 お互いの気持ちをうち明け合い、上条当麻も美琴の背に腕を廻す。
「ありがとう、御坂。」
「・・・美琴、でいいんじゃない?当麻?」
「あ、ははは・・・照れるな。」
「私だって」
「ふふっ。」
「はははっ。」
 さっきまでの緊張が嘘のように二人は笑い合った。


 美琴は寮の自室のドアの前に立っている。上条当麻との逢瀬をもっと楽しんでいたかったが、黒子が心配になり早くに戻って来たのだ。
(大丈夫かな、黒子・・・)

 ドアを開けると黒子は昨日と同じように机に向かっていた。
「く、黒子・・・?」
「お帰りなさいませ。早かったですわね。キスくらいしてらっしゃたのですか?」
「な、な、なに言ってんのよ!・・・それより黒子、その・・・ごめんなさい。」
「お姉様、わたくしの演技力なかなかのものでしたでしょう?」
「は?」頭の回りにハテナマークをとばす美琴。
「お二人が相思相愛なのは誰が見ても明白でしたわ。それなのにあなた方はもう・・・。わたくしはお姉様が殿方とつき合うなんて許せないと思っておりましたが、時折苦しそうな表情をなさるお姉様を見ていられなくなりまして・・・・・お姉様の幸せを願って一肌脱いだというわけですのよ。」
「黒子!!」
「余計でしたかしら?」
「う・・・ううん。ありがとう。ありがとう黒子・・・・」
涙があふれる。振り向いた黒子も泣いていた。
「お姉様、わたくしのお姉様への気持ちもかわりませんのよ・・・・」
「うん、うん・・・・」
どちらとも無く抱き合い、涙を流した。


後日。
 晴れて恋人同士となった二人の初デートである。
「うっす」
「あ、うん・・へへ。」
 なんとも初々しい。

 顔を赤くしながら手をつなぎ歩き出す。

 これからの二人には様々な困難もあるだろう。
 喧嘩したときはかなり壮絶なものになるのは想像に難くない。
 しかし、手をとって歩き出したこの二人を祝福するように雲ひとつない空から惜しみない太陽の光が降り注いでいた。

「にしても、白井さんには悪いことしたな・・・。大丈夫だったか、あの子?しかし、俺を好きになるなんて、なんてもの好きな・・」
「アンタ、私ももの好きな変人って言いたいわけ?」
「いや!断じてそうじゃない!違います!!」

 黒子の壮大な芝居の真相を上条当麻が知るのはもう少し先のこと。
 最後まで黒子の手のひらの上で踊らされていた当麻であった・・・・・。 



end


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