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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11スレ目短編/766 - (2010/08/01 (日) 21:10:09) のソース

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(Aug.31_PM9:31) ~プロローグ~

「え、あ、なに?いや単に相手にされなかったのがムカついただけで、特にこれと言って用事がある訳じゃないんだけど。……ある訳じゃないんだけどさ」

「御免」

「なっ……ちょっと!アンタ本気で行っちゃう訳!?ねえってば!!」


◆         ◇         ◆         ◇         ◆


(Aug.31_PM10:22)

「ムカツクムカツクムカツク……なんだってあの馬鹿は、あぁも華麗にこの私のことをスルーできる訳?」

 完全下校時刻はおろか、学生寮の門限すらとっくに過ぎてすっかり人影もまばらになった夜の第七学区に、とある少年を探して彷徨い歩く、紫電を身に纏った少女の姿があった。

 その少女 -- 
 学園都市でも7人しかいない超能力者(レベル5)にして、学園都市の全学生の憧れ、能力開発の名門・常盤台中学のエースであり、品行方正なお嬢様である(はずの)電撃使いの少女、御坂美琴の機嫌はすこぶる悪かった。

(わ、私のためにニセ海原と闘ってくれてたみたいだったし、なんか、ビルの倒壊にも巻き込まれてたから、人がせっかく心配して、さんざんさんざんさんざんさんざん探し回って、やっと見つけたってゆーのに、アイツはまたまたまたまたまたまたまたまたまたまた私を放ったらかしにしやがって!私は道化(ピエロ)かっつーの!いくら何でもこの扱いはあんまりだと思わないのかあの馬鹿はーっ!?)

 あの馬鹿こと上条当麻が美琴を置いてきぼりにしてニセ海原と逃げ出してしまってから、つい先ほど夜の街を走り回っているところをとっ捕まえるまで、たっぷり8時間以上も探し回ったにも関わらず、なんか切羽詰まったというかヤケクソ気味な上条に無視された、というよりまったくもって相手にしてもらえなかった…
 8月31日 --
 夏休み最終日が終わるまであと2時間を切っていた。

(アイツを追いかけてるうちに夏休みになっちゃって、またアイツを追いかけてるうちに夏休みが終わっちゃうなんて、ホント何やってんだろ、私…)


◆         ◇         ◆         ◇


上条当麻とはじめて出逢ったのは6月の半ば頃、第七学区のハンバーガーショップ『NOS BURGER』の前だった。
不良に絡まれていた美琴を助けに入ってくれたのだ。

(レベル5の私にとっちゃ、あんな不良なんて何人束になろうがまったく問題外だから、ホント単なるお節介なんだけど、ま、まぁ、ちょっとは嬉しかったのも事実よ。なのに、あの馬鹿ときたら…)

 子供(ガキ)だの、ガサツだの、反抗期も抜けてないだのと、失礼な物言いを連発するツンツン頭にムカツいた美琴は、絡んできた不良諸共にその無礼な少年を焼き払ってやったはずだったのだが、何故かこの自称無能力者(レベル0)の少年は、超能力者(レベル5)である美琴の電撃を喰らっても無傷だったのだ。
 その時から、あのいつも不幸そうな顔をしているツンツン頭の少年は、美琴が超能力者(レベル5)のプライドに賭けて打ち負かさなければならない『敵』になった。
 後は、生ゴミになるまで完膚無きまでにボコりまくって彼を屈服させて、学園都市第三位のプライドを満足させれば、それでサヨナラ、オシマイのはずだった。友だちになろうなんてつもりすらなかった…たったそれだけの存在だったはずなのだが……

(結局、アイツには一度も勝てなかったな…それにしても、なんであの馬鹿には私の能力が効かないのよー?おまけに、自分からは決して殴らず、私に散々殴らせておいて全弾完璧にガードするなんて戦法、どこの少年マンガだっつうの。キザったらしくて、ホント、ムカツクのよね…)

 美琴の中学生として2回目の夏は、本当に様々なことがあった。
むしろ、あり過ぎたといっても過言ではないだろう。
 虚空爆破(グラビトン)事件に端を発し、怪獣映画さながらのバトルの主役を演じた幻想御手(レベルアッパー)事件、武装無能力者集団(スキルアウト)が起こした能力者狩り事件、ヴァイオリンの独奏を披露した学生寮の盛夏祭、友人達との絆の大切さを痛感した乱雑解放(ポルターガイスト)事件、美琴を精神的にも肉体的にも極限まで追い詰めた妹達(シスターズ)を巡る絶対能力進化実験。
 そして、今日、夏休み最終日に起こった様々な出来事…

 『退屈しなかった』と言えば聞こえはいいが、実際にはかなり危ない橋も渡っていたし、その結果、あの少年には一生掛かっても返しきれないくらいの借りを作ってしまった。

(あの馬鹿絡みだったのも、そうでなかったのも含めて、ホント色々あったわねぇ…アイツに関しては、ほとんど私の方から巻き込んでるような気がするんだけど…)

 いっそ見返りでも求められた方が気が楽だったのかもしれないが、あの少年はそれがさも当然のことであったかのように振る舞い、美琴に何の見返りも求めなかった。
 それどころか --

(アイツは、私が超能力者(レベル5)だって分かった後も、何も変わらなかったわね)

 良くも悪くもね、と付け加えて苦笑いを浮かべる。
 でも、そんな人間は、美琴の周りにはひとりもいなかった。
 いや、いるはずがなかった。
 なぜならここは学園都市だから。
 御坂美琴は学園都市第三位のレベル5で、上条当麻は最弱のレベル0。
 この街の価値観では、それがすべてであるはずだった。
 しかし、現実には美琴は彼に一度も勝つことができなかったし、それどころか美琴が絶望を憶えた学園都市最強の第一位でさえ、その拳ひとつで打ち倒してしまった。
 超能力者(レベル5)を拳ひとつでねじ伏せるだけの不思議な能力を持ちながら、“無能力者(レベル0)=つかえない”の烙印を押され、誰からも顧みられない少年。
 何時の頃からか、少女は少年のことを知りたいと願うようになっていた。

 彼はいったい何者なのか?
 あの右手の能力は何なのか?

 あの少年と頻繁に諍いを起こすようになった頃、実際に学園都市の書庫(バンク)に不正アクセスしたこともあった。
 結局何ひとつ有益な情報は得られずに今に至っているのだが、最近心境の変化があったのか、美琴の中で興味の対象が変わりつつあった。

(まぁ、あの能力のことも気にならない訳じゃないけど、私、そもそもアイツのこと何も知らないのよね)

 御坂美琴という少女は、上条当麻という少年のことをまだほとんど知らない。

携帯番号も、
 メールアドレスも、
 何処に住んでいるのかも。

『上条当麻』という名前ですら、一方通行と闘って負傷した彼を病院に見舞った時に、病室の名札を見てはじめて知ったくらいで、事実、美琴は彼のことを『アンタ』か『馬鹿』としか呼んだことがなかった。

しかし、その名前も知らなかった少年は、いつの間にか美琴のココロの一番大切な部分に棲みついてしまい、ここ最近では上条当麻のことを一度も考えない日など無いといっても過言ではなく、もはやその存在を打ち消すことなど、たとえあの少年の右手をもってしても不可能に違いなかった。
 ふたりが出逢ったのは6月半ばのことなので、まだたかだか2ヶ月とちょっとのつきあいなのだが、このわずかな期間に上条は何度も美琴のために、まさに文字どおり身体を張って、いや、生命すら懸けてくれたのだ。
 そして、夏休み最終日の今日も -- 

(思いっきり不本意なんだけど、これってもしかして運命の……!?…って、ありえないからっ!騎士(ナイト)とか王子とか、バッカじゃないのっ!!私とアイツはそんなんじゃ…)

『不本意』という部分を力一杯強調してはみたものの、既に顔だけでなく耳まで朱に染まり、幾重にも連ねた否定の言葉からも字面ほどの力強さは感じられなかった。

 私が一度も勝てないアイツ。
 本気にすらなってくれないアイツ。
 私を子供扱いするアイツ。
 私をテキトーにあしらうアイツ。
 私をいつもスルーするアイツ。
 頼みもしないのに駆けつけてくれるお節介なアイツ…
 私を守ってくれるアイツ……
 私に笑顔をくれるアイツ………
 気付いてくれないアイツ…………

 キライ!
 キライっ!!
 キライっっ!!!
 キライっっっ!!!!
 キライっっっっ!!!!!
 キライっっっっっ!!!!!!
 キライ!?
キライ…
 キライ?

 ホントに、キライ?


~ 御坂美琴と上条当麻が交差しなくても、物語は始まる!? ~


◆         ◇         ◆         ◇         ◆


(ここが最後のポイントだったんだけどな…)

 美琴はとある公園のとある自動販売機の前で肩を落として立ちつくしていた。
 しょっちゅう回し蹴りをブチ込んではジュースを拝借(せっとう)している常盤台中学内伝の故障自販機であり、とあるツンツン頭の少年と何度か出くわしたことがある遭遇ポイントであるのだが、今は辺りをぐるりと見渡しても、自分以外に人の気配は感じられない。
 AIM拡散力場を応用した電磁波レーダーにも何の反応もなかった。

(こんなところにいるわけないわよね、しかもこんな時間に。ホントにあの馬鹿、私をさんざんさんざんさんざんさんざんスルーしたあげくどこに消えたんだか…)

 8月20日、この自販機にお金を呑み込まれて途方にくれている上条当麻と出逢った。
 呑まれたというのがもはや絶滅したとさえ思っていた二千円札というところが笑いのツボにはまってしまい、これ以上ないくらいの勢いで上条を笑い飛ばしてやった美琴だったのだが、その実、本気で慌てている彼の姿に重ね合わせていたのは、かつての自分自身の姿(しゅうたい)だった。

(言えない…私も一年の時、このポンコツに万札呑まれたなんて……)

 常盤台中学に入学し第一三学区から第七学区に引っ越してきたばかりだったとある新入生の少女の一万円札を呑み込んだ金食い虫は、以来美琴の『宿敵』となり、呑まれた分は実力で取り返すと言わんばかりの復讐劇を繰り広げてもうすでに一年以上になる因縁の相手なのだ。
 そして、美琴にとって、今最も気になるもうひとりの因縁の相手といえば、ただ今絶賛捜索中のあの馬鹿こと上条当麻なのだが、彼の姿はここにも見当たらなかった。

初めて出逢ったハンバーガーショップ、コンビニ、ゲーセン、古本屋、銀行、安売りスーパー、通学路と上条の高校の周辺、コインパーキング、決闘をした河原、セブンスミスト、ファミレス、モノレールの駅前、そしてあの鉄橋…

 過去に上条と遭遇したポイントとその周辺はもうすべて探し尽くしていた。
 この公園が最後に残されたポイントだっただけに、美琴としては次の選択肢がなくなった状況なのだが、上条が既に帰宅してしまっているというカードだけは不思議と脳裏に浮かんでこなかった。
 確たる根拠はないのだが、あの少年はきっとまだこの街のどこかにいる、もっと言えば、また何らかのトラブルに巻き込まれている -- 美琴には何故かそんな確信があった。

(こうなると、さっきアイツを取り逃がしたのは、ホントにマズったわねー。まぁ、あんだけ走り回れるんなら、大怪我してるとかってことはないとは思うけど。どうする?もう一度街中からしらみつぶしに探してみる?)

 今日はやけに救急車のサイレンが多い一日だった。
 そして、あんなことがあった直後ということもあってか、そのたびに美琴の精神は落ち着きを失い、その漠然とした不安と葛藤していたのだ。
 こと安否確認という観点に限れば、先ほどの遭遇でほぼ目的は達したと言えなくもないのだが、それだけで納得できるほど美琴は大人ではなかったし、その神経も太くはなかった。
そこまでしてあの少年を追いかけて、仮にもう一度彼を捕捉できたとして、いったい何をしたいというのだろうか。
 上条に言ってやりたいことは山ほどあるはずなのだが、具体的にそれが何なのか、その答えは美琴自身にもわからなかった。

「ちぇいさーっ!!」

 もやもやするココロを晴らすように、『宿敵』に対して得意の上段回し蹴り一閃。
 ズドン!という轟音から、一瞬の静寂の後、苦しそうにモーターが唸り、ガタゴトと何かが落下する音が響いた。

「げっ!何コレ!?び、ビミョーね……」

 『宿敵』が断末魔の声と共に吐き出したのは、『ウィンナーソーセージ珈琲~国産豚使用の粗挽きウィンナーをそのまま入れときました~』だった。

 一日中歩き回った身体に、夜更けの珈琲は少しほろ苦かった。


◆         ◇         ◆         ◇         ◆


(これは、音楽?…、『うた』!?)

 激しく、しかしどこかせつなげな『うた』が、夜の公園を包んでいた静寂を打ち消した。
現在、美琴はあの自販機の前を離れ、公園の出口へと向かっているのだが、歩を進めるごとに、最初に気付いた時は途切れ途切れになりがちだったその『うた』が徐々にハッキリと聴き取れるようになってきていることから、『うた』の源は美琴の進行方向に存在し、彼我の距離がだんだん近づいてきていることが分かる。
 最初はどこかの商店が流している有線放送の類が風のイタズラで聴こえてきたのかとも思ったが、今がいったい何時なのかを考えると、それはありえない気がしてきた。
 となると、残された可能性はひとつしかない。
 それは、路上でのゲリラライヴだ。
 学生の街である学園都市では、音楽の道を志す学生たちが天下の往来を占拠し、その昴る魂の叫びのままに爆音を垂れ流して警備員(アンチスキル)のお世話になるという光景もさして珍しいものではないし、美琴も実際に街中でゲリラライヴに遭遇した経験くらいはあるのだが、この『うた』は何かそういった類のものとは気質が違うように感じられた。
 美琴が耳を澄ませていると、2曲目はガラリと曲調が変わった。

(ジャンルはポップ・ロックかな。爆音っていうよりも…そう、躍動感が特徴ね。ヴォーカルは女性。ハッキリ言って、巧いわね。それにしても…)

 最初は単に退屈を紛らわすためだったが、意識が自然と『うた』へ集中していくのがわかる。
それはもちろんヴォーカルの力量に負うところが大きいのだが、それ以上に美琴を惹きつけていたのはそのフレーズ、つまりは『詞』だった。
 そのインパクトの大きさは『言霊』という古風な言葉の存在を美琴に思い出させたほどだ。

(『他人はそれほど自分のことを想ってくれるわけない』なんて、なんだか淋しいわね…確かに普通はそうなのかもしれないけどさ…ところがいるのよねん。頼みもしないのに、他人の心配ばっかりして自分はボロボロになっちゃうような大馬鹿が♪この人もさ、ホントは信じたいんじゃないのかな?それにしても、『砂漠に放り出された仔犬』って、どういうセンスしてんのよ!?でも…、まるでついこの前までの私みたい……ね。ま、どっちかっていうと私は猫の方が好きなんだけど)

彼我の距離が近づくにつれて、歌声はどんどんクリアーになり、それと比例するように美琴のツッコミも加速度を上げていくのだが、まだその『うた』の源を視界に捕らえることはできなかった。

(……それにしても、よりにもよって『自分を消せる勇気』とはね…あの時は仕方なかったと思うけど、私、ひとりで全部抱えて死ぬつもりだったし、残される人のことなんて全然考えてなかった…私のことを心配してくれて、死んだら悲しんでくれる人がいるかもしれないなんて考える余裕もなかった…でも、せっかくアイツにもらった命だもん、もう絶対に死んでなんてやらないわよ!『自分を守れるように強くなる』ってのも…ひとりの強さなんてたかがしれてるし脆いモンだったわ…自分ひとりだけの力じゃどうにもできないことだってあったし、いまさら『ひとりきりでなんて生きられない』わよ。それに、強いから、能力(ちから)があるから守るんじゃない…きっと誰かを守りたいと想うから強くなれんのよね)

目指す上条がまったく捕まらず、退屈な一人歩きを続けていたこともあり、美琴はすっかりこの『うた』の世界に引き込まれていた。

(それにしても…どっから聞こえてくんのよ、この『うた』は?)

 美琴の灰色の頭脳がフル回転して瞬時に答えをはじき出す。
 もしこんな時間にパフォーマンスを行っているのなら、既にほとんど人影すらなくなっている公園内ということはありえない。
 この短い階段を下りて右に曲がれば、長い直線の園路の向こうに大通りに面した公園の出入り口とバスの停留所が見えるはずで、今聞こえている『うた』との距離感やパフォーマンスをするスペース諸々を考慮に入れれば、そのポイント以外はありえないはずだ。
 この程度の推理は、学園都市に7人しかいない超能力者(レベル5)である美琴にとって、毎週密室殺人事件のトリックを推理することよりはるかに簡単な作業だった。
自身の推理を裏付けるため、精神を集中して電磁波レーダーの精度を高めていくと、電気機器の使用反応がヒットした。
 間違いなくターゲットはこの方向にいる。
 強い確信を持って歩を進めていくと、程なくターゲットを視界に捉えることができた。
 そこには、まさに美琴の読みどおり、バス停の灯りをバックに躍動する人影があった。

 『うた』の源 --
 路上でゲリラライヴを演っていたのは、女性ヴォーカルと男性のギター・トリオ(ギタリスト・ベーシスト・ドラマー)からなるオーソドックスな4人編成のバンドだった。
美琴が少し歩く速度を落としながら公園の出入り口に近づいていくと、ちょうど演奏が一段落し、女性ヴォーカルがMCをはじめた。
そのまま立ち止まらずに通り過ぎるという選択肢もあったのだが、先ほど耳に入ってしまった『うた』にかなり興味を覚えていた美琴は、少し離れたところまで行ってから足を止めるという行動を選択した。
 女性ヴォーカルがMCでアピールしていた内容はかいつまんでいうとこんな感じだった。

 自分たちは『外部』からライヴツアーで学園都市にやって来たこと。
 近々この近くのライヴハウスでライヴをやること。
 今日はその宣伝のためのゲリラライヴなので、もし気に入ってくれたら是非ライヴハウスに遊びに来て欲しいこと云々。

 女性ヴォーカルは続けて、「遙か昔のこと(笑)なんで忘れてたんですが、今日は随分人通りが少ないなーと思ってたら、夏休み最終日だし、学生のみんなは今頃宿題のラストスパートなんですね」と、少し冗談めかして観客たちに語りかけていたが、美琴はこの発言を聴いて、この人たちは本当に学園都市の『外部』から来たんだなと確信していた。

今日は8月31日。住人の8割が学生である学園都市にとって今日一日は『家に引きこもって残った宿題と格闘する日』であるし、そもそも、大学生が中心で居酒屋などもある第五学区ならともかく、完全下校時刻があり、且つ寮の門限もある中高生が中心の第七学区では、こんな時間までうろついている学生は『不良』にカテゴライズされてしまう(一部、超能力者(レベル5)の少女を除く)し、それは夏休み最終日に限ったことではないのだ。
案の定、聴衆は少なく、足を止めているのは、ピンクの服を着た小学校高学年くらいの女の子を連れた緑色のジャージを着た馬鹿みたいな巨乳の女と眼鏡をかけた大人しそうな巨乳の女ほかちらほらといったところ。
少なくとも学生らしき姿は皆無だった。
 ライヴの集客が目的ならば、時間も場所もミスチョイスと言わざるを得ない。
そんなことを考えながら、人の輪から少し離れたところで美琴が足を止めていると、その姿をめざとく見つけたスタッフらしき男性が近寄ってきて、「よろしくお願いします♪是非聴いてあげてください」と頭を下げながら、チラシを手渡してきた。
 相手の態度が丁寧だったので、美琴も社交辞令上差し出されたチラシを受け取り、とりあえず制服のポケットに突っ込んで、再び視線を上げようとした、まさにその時 --

 あの女性ヴォーカルと偶然目が合ってしまった。
 ふたりの視線が交錯し、まるで能力戦(パワーバトル)のようにぶつかる。

「にょわっ!?」

そのまっすぐな瞳に射抜かれたかのように、美琴の前髪から『ぱちん☆』とほんの僅かな火花が輝き、瞬く間に夜の闇に吸い込まれていった。
 美琴にしては珍しい軽い能力の暴走だ。
思いがけない事態に驚きの表情(いろ)を隠せない美琴に、女性ヴォーカルはイタズラっぽくウィンクすると、まるで真夏の太陽(ピーカン)のような笑顔でこう宣った。

「それじゃぁ、もう夜も更けてきたので、ラスト2曲!この夏の想い出に、是非盛り上がっていってください!!1曲目は………」

 人々の想いが交錯するこの街の夜の帳に、
天上に浮かぶ月まで届きそうな澄み切った歌姫の声が朗々と響いていった。


◆         ◇         ◆         ◇


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#include(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11スレ目短編/791)
#include(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/11スレ目短編/901)
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