「上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素敵な恋のかなえかた/Part02」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素敵な恋のかなえかた/Part02 - (2011/02/06 (日) 10:16:08) のソース

----
#navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素敵な恋のかなえかた)

笑顔のもと


 オープンカフェを出た四人は次の予定を話し合っていた。
「それでは、次はみんなでゲームセンターで何かして遊びませんか?」
「賛成!」
「わたくしもそれで構いませんわ。お姉様はどうですの?」
 初春の提案に佐天と白井が賛同の意を表した。二人の様子を見た美琴は、さも当然のようにうなずいた。
「もちろん私もいいわよ。じゃあ行きましょうか!」
 言うが早いか、元気のない自分を吹っ切るようにたたっと走り出した美琴だったが、あわてて走り出したためか前方不注意だったようで、誰かにぶつかってしまった。
「キャ!」
「ああ、すいません」
 ぶつかった衝撃で倒れかけた美琴だったが、ぶつかった相手が間一髪手を掴んでくれたことで美琴の体が地面に倒れることはなかった。

 美琴は恥ずかしそうに目の前の相手に頭を下げた。
「すいません、ぼうっとしちゃって。それに助けていただいて、ありがとうございます……ん?」
「いや、俺の方こそぼうっとしてて。でも怪我がなくて何より……ん?」
「あ――!」
 次の瞬間、美琴の声と相手の声が見事に重なった。
 美琴はお約束のように目の前に立っているツンツン頭の高校生、上条当麻を指差した。
「あ、アンタ! こんなとこで何やってんのよ!?」
「何って、ただの買い物。この先にあるでっかい文具屋で特価セールやっててさ。まあ新学期になったことだし、上条さんもノートやらシャーペンやらを新調して気合入れようかと思って。それで、御坂こそこんなとこで何やってるんだ?」
「わ、私は友達と遊んでるだけよ。ほら、あそこに黒子達がいるでしょ」
 美琴は自分からやや離れた場所にいた白井達を指差した。
「ふーん」
 上条はさして興味もない風な態度で美琴の話にうなずくと、美琴の指先が指し示す方向に視線を向けた。そこに白井達の姿を確認した上条は美琴に向かって軽く手を挙げて、そのままその場を立ち去ろうとした。
「まあいいや、んじゃな御坂。今度は人にぶつかるなよ」
「え、ええ! ち、ちょっと待ちなさいよ!」
 自分に背を向けた上条の首根っこを美琴は慌てて掴んだ。
「はあ? いったいなんだよ、これでも上条さんは結構忙しいんですよ。お前の遊びに付き合ってる暇なんかないんだぜ」
「そうじゃないわよ。えっと、だから、その……」
 上条から手を離した美琴は両の人差し指を付き合わせ、上条を上目遣いでにらんだ。
「ん? 本当に俺に何か用なのか? だったら話くらい聞いてやるぞ」
「う、うん、だからね、その……」
 美琴はそっと自分の胸に手を当てた。
 その行動に首を傾げる上条。
「?」
「……あのね、その、痛く、なくなったのよ、なぜか……」
「痛いって、何言ってるんだお前? ん? もしかして、どっか具合悪いのか?」
「へ? あ、ああ、そうじゃないの。そうじゃ!」
 心配そうに自分を見る上条に、美琴は手をぱたぱたと振って否定の意味を表現した。
 美琴は目を閉じるとゆっくりと何度か深呼吸をした。

――やっぱり痛くない。

 間違いなかった。
 ついさっきまで感じていた胸の痛み、気持ち悪さが幾分マシになっているのだ。
 いや、正確にはドンドン良くなっていると言った方がいい。おそらく後もう少しすれば痛みも気持ち悪さもすっかりなくなってしまう、そんな風に美琴には思えた。
 しかし、それと同時に。

――何、これ。意味わかんない。

 美琴は先程までとは別の意味で戸惑うことになっていた。

 確かに胸の中から痛みは消え始めている。けれどそれと同時に胸の中にはなんとも言えない、別の感情が産まれてきたのだ。
 それがいったいなんなのかはわからない、あまりにも不確定でぼんやりとしたものだから。
 しかしぼんやりとしているくせに、その感情は美琴に命令する程強いのだ。
 もっと上条と話をしろ、と。
 もっと上条を見ろ、と。
 もっと上条といっしょにいろ、と。

 今産まれたばかりの感情がなぜこんなにも強く美琴を突き動かせるのかは美琴自身にもわからない。
 だが美琴はその言葉に従おうと思った。
 なぜならそんなぽっと出の感情に命令されるまでもなく、今の美琴自身が上条といっしょにいたかったからだ。
 だから美琴はそのためにちょうど良いとばかりに、今までため込んでいた疑問をぶつけることにした。

「そ、そうだ、思いついた! あ、アンタさ、今日は一人なのよね?」
「そうだけど。悪かったな、お前みたいに仲良く遊ぶ友達がいなくて。そもそも今日はノート買いに来てるんだ。友達なんて連れてるわけないだろう」
「嘘ね!」
「嘘じゃねえって」
「だってアンタ、この間の地下街の時だって女の子連れてたじゃない。シスターとか巨乳の女子高生とか」
「あのときは買い物じゃなくて、インデックスや風斬と遊んでたんだ。今日みたいな買い物に付き合わせてたわけじゃない」
「そ、そう……。じ、じゃあ昨日! 昨日だってアンタ、すっごい美人といっしょに買い物してたでしょ。ほら、友達連れで買い物してるじゃない。それとも友達じゃないって言うんなら誰なのよ、あの女?」
「昨日? 美人? ……ああ、姫神のことか。あれはたまたまだ。いっつも行くスーパーで偶然会ったから途中までいっしょに帰ってただけ。そもそもアイツは友達とかそういう以前にクラスメートだしな。いっしょにいても、そこまでおかしいことはないんじゃないか?」
「そ、そう。昨日の女はクラスメートなんだ。たまたま会っただけなんだ……。じ、じゃあ、あのシスターはいったいなんなのよ、地下街でアンタといっしょにいた!? アイツってやたらアンタと仲良かったと思うけど、あんなちびっちゃいのがクラスメートなわけないわよね?」
「インデックスか? アイツはその、なんて言うか、その……」
 今まですらすらと答えていた上条だったがここで急に言葉を濁した。
「どうしたの、答えられないの? まさかアンタ……」
 美琴はすっと目を細めて上条をにらみつけた。
「あの娘、アンタの、こ、ここ恋人、とか言うんじゃないでしょうね?」
「そ、それは違う! 断じて違うぞ!」
 上条は顔を真っ赤にして否定した。
「違うの?」
「絶対違うぞ。だからなんつーか、インデックスは家族というか、妹というか、と、とにかくアイツは恋人じゃない。そもそも、俺はアイツにそういう感情を持ったことがないからな。てか、なんでこんなこと御坂に答えなきゃいけないんだよ」
「えと、そ、それはその、ちょっと、気になった、のよ……」
「じ、じゃあもういいだろ、これで。ちゃんと答えたぞ」
「え? あ、ああそうね、答えた……わ、ね……」
 美琴はぼそぼそと呟いた。
「なあ、それよりも御坂」
 上条は急に心配そうに美琴の顔を見た。
「な、何?」
「なんか知らんが、お前大丈夫か? 少し顔も朱いみたいだし、本当にどっか具合悪いんじゃないのか? もしそうならさっさと帰って寝た方がいいぞ」
「え? 私の顔、朱い?」
 美琴はぺたぺたと自分の頬に手を当てた。
 上条はこくりとうなずいた。
「少しだけ、だけどな。でもさっきからずっと朱いぞ。ほんと、大丈夫か?」
「そんなこと、ないと思うんだけど……」
 美琴は相変わらず不思議そうにぺたぺたと頬を触り続けていた。
 上条はそんな美琴を見ながら軽くため息をついた。
「それじゃあな。とりあえずさっさと帰って寝ろ、な」
 そう言うと上条は美琴の横を通り過ぎようとした。
「へ?」
「またな」
 上条は美琴に手を振りながら一歩ずつ雑踏の中に歩いていこうとした。
「だ、ダメ……ダメよ……」
「ん?」
「ダメ――――!!」
 美琴が大声で叫んだため、上条は耳を押さえて思わず立ち止まった。
「お前、なんてデカい声だよ。ああもう、キーンと響いてる。えっと、今ダメって言ったのか? なあ、何がダメなんだ? 話はもう終わったんだし、別にいいだろう?」
「ダメ」
「だから何が?」
「その、だから……とにかくダメなの、まだ行っちゃ!」
「は? わけわかんねーな。いったいなんなんだ? 俺の方はもう話すことなんてないぞ」
 必死で自分を引き留めようとする美琴の態度に若干の罪悪感を覚えながらも、自分とインデックスの関係についてあまりあれこれと聞かれたくない上条は、なんとかこの場から立ち去ろうとしていた。
 しかし美琴にはそんな上条の事情などわかるはずもない。
 ただとにかくまだ上条といっしょにいたい、その思いだけで美琴は上条を引き留めようとしていた。
「だ、だからね、その、えっと……」
 両手をぎゅっと握りしめ必死で言葉を繋ごうとする美琴。合理的、かつスマートに上条をこの場に留まらせるために。
 けれど肝心なところをぼかしながらであっても上条が質問に答えてしまった今となっては、どれだけ考えてもこれ以上上条を引き留める理由が美琴には思いつかない。

――なんでこんなときに限って全然働かないのよ、私の頭! ほんとに情けない!

 美琴はふがいない自分の頭脳に悪態をついた。
 しかし美琴がどれだけ心の中で悪態をついても、レベル5である美琴の自慢の頭脳が彼女の期待通りに働く様子はまったく見られなかった。

――どうしよう、どうしよう……。

 自分の頭脳のあまりのふがいなさや、このままでは上条といっしょにいられなくなるという恐怖に美琴は焦りだし、自分で自分の感情を制御できない状態になっていった。
 やがて焦りは感情を高ぶらせ、その高ぶった感情によって美琴の瞳には徐々に涙が溜まりだした。
「ひくっ、ぐすっ……」
「え? ど、どうしたんだ御坂! なんで泣くんだよ!」
「だって、だって……」
 とうとう美琴の瞳から涙がこぼれ始めてしまった。
「え? ち、ちょっと、なんで? どうして?」
 そして今まで見たことのない美琴の様子に、上条の方もパニック状態になっていった。
 しかもそれに加え、

――なんだよこれ、こんなのありかよ!?

 頬を朱く染め瞳を潤ませる美琴の様子に、上条は今まで美琴に対して感じたことのない妙な気持ちまで感じ始めてしまっていた。
 だから上条は今の気持ちを消すために必死で美琴に話しかけた。
「な、なぜ泣く!? とにかく落ち着け! 泣きやめ、な!」
「だって……その、わけ、わかんなく、て……なくて……だから」
 しかし、一向に美琴は泣きやむ様子を見せない。
 繁華街で女の子を泣かせるという未経験の事態にとうとう上条の精神も我慢の限界を迎えようとしていた。
「お、俺、ど、どうしよ……」
 そのとき、空気を引き裂いて上条の足下に数本の金属の矢が突き刺さった。

「うわ! な、なんだ? なんだこれ! うわ、うわ!」
 上条はどこから飛んでくるかわからない矢を必死で避け続けた。
 上条がしばらく矢を避け続けていると、やがて人混みの中から全身に暗いオーラを纏った女子中学生が現れた。
 長い髪をツインテールに垂らし、常盤台中学の制服を身に纏ったその中学生はもちろん白井黒子である。
 全身を怒りと嫉妬のどす黒いオーラで包んだ白井は両手で掴んだ金属矢を光らせると、それを上条に投げつけた。
「うわわわわわ!」
 上条は地面を転がることで間一髪、再びその矢を避けた。
「ちっ」
 白井は小さく舌打ちをすると、冷たい目で上条をにらみつけた。
「あれだけの数の矢を避けきるとは、さすがに生存本能だけは大したものですわね、この腐れ類人……いえ、この場合、腐れ原生生物とでも呼んだ方がお似合いですわね……もはや脊椎動物に分類するのも汚らわしい」
「白井。てめー、いきなり何しやがる!」
「何、しやがる? それは……こっちのセリフですわ!」
「どわ!」
 三度白井から放たれた金属矢を上条は必死の形相で地面を転がりながら避けた。
 白井は地面に転がる上条の側に立ち、上条を見下ろした。
「貴方もしかして……ご自分がなさったことを理解されてませんの?」
 上条は肩で息をしながら白井を見上げた。
「理解も何も、俺が何したってんだ?」
 不思議そうな表情をする上条を見て、白井は大きくため息をついた。
「……本当にわからないようですわね、さすが思考能力のない原生生物といったところでしょうか。仕方ありません、特別に教えて差し上げますわ、貴方の罪を。まず第一に!」
 白井は上条の足下に金属矢を一本突き刺した。
「貴方のせいでせっかくのわたくしとお姉様の幸せな時間が、台無しにされました」
「く、黒子!」
「お姉様は黙っていて下さいまし」
「…………!」
 ようやく泣き止んで事態を把握し始めた美琴が白井に注意しようとしたが、いつになく真剣な白井の様子に美琴は思わず口をつぐんでしまった。
「そして第二に!」
 白井はさらに上条の足下に金属矢を一本突き刺した。
「頬を朱く染めた嬉しそうな表情のお姉様、あんなまさしく恋する乙女のような、かわいらしいお姉様の姿を間近で目撃したこと。わたくしだってあんな表情のお姉様、貴方ほどの距離で見たことはありませんのに。なんて……なんて羨ましい!」
 白井は血の涙を流しながら上条をにらみつけた。
「そして最後! 貴方はお姉様を泣かせた! これだけでもう三十回は死ななければならないほどの大罪! これが貴方が犯した罪の数々ですわ!」
 説明に夢中になっていた白井の隙を突いて立ち上がった上条は、負けじと白井をにらみ返した。
「無茶苦茶言うな! どれもこれも不可抗力のこじつけじゃねえか!」
「こじつけではありません! どう考えても全て立派な罪でしょう!」
「それはお前の視点からだけだろうが! お前の基準を俺にまで当てはめるな!」
「問答無用! 覚悟なさい!」
「うわ――!」
 これ以上の議論は無駄、と言わんばかりに強引に会話を断ち切って上条への攻撃を再開した白井から、上条は必死で逃げ出した。



「ねえ、初春」
「なんでしょうか」
「あたし達、完全に無視されてるわよね」
「ですね」
「やっぱりこれが主役と脇役の差なのかしら」
「かもしれませんね」
「もう帰ろっか」
「ですね。ところで佐天さん」
「何?」
「私達が主役になれる日って、来るんでしょうか?」
「……悲しくなること言わないで」
「ごめんなさい」
「くそ、白井の奴。どんだけしつこいんだよ」
 白井から必死で逃げ回った上条は例の自動販売機がある公園に逃げ込んでいた。
 きょろきょろと辺りを見回した上条は意を決したように草むらに飛び込むと、身をかがめ息を殺して公園の様子を観察した。

 やがて血走った目をした白井が公園にやってきた。
「あの腐れが。どこへ行ったんですの?」
 上条はその様子を見ながら小さくため息をついた。
「いったいなんだって言うんだ、アイツ? めちゃくちゃな理屈で人を追いかけ回しやがって。俺を追いかけ回すのは御坂だけで十分だっての」
「ふうん、じゃあ私ならアンタを追いかけてもいいってこと?」
「まあ勝手知ったる何とやらって感じだな。もちろん命懸けの電撃はマジで勘弁してもらいたいけど、どうせ追いかけられるならお前の方が……って、なんでお前がここに!」
 いつの間にか自分の側で同じように身をかがめていた美琴の姿に、上条は思わず大声を出しそうになった。
 しかし間一髪、自らの唇に人差し指を当てた美琴の仕草によって、上条はなんとか自分の大声を押さえ込んだ。
「静かに。黒子にばれるわよ」
 上条はこくりとうなずいた。

 突然の美琴の出現に多少動揺した上条だったがなんとかその動揺を収めると、小声で美琴に話しかけた。
「御坂、お前なんでこんなところにいるんだ?」
「ご挨拶ね。助けに来てあげたんじゃない」
 美琴は上条の言葉に不思議そうな表情をした。
「お前が? 俺を? なんで?」
「黒子がああなったのはいくらかは私のせいだしね。アンタにはある意味とばっちりな面もあるかな、と思って」
「ある意味というか、完全にとばっちりじゃねえか」
「…………」
 上条の言葉に何か思うところがあるのか、美琴はフンと鼻を鳴らした。
 そのまま上条をジロリとにらむ美琴。
「結局アンタ、助けてほしいの、ほしくないの?」
「そりゃ助けてほしいさ。いつまでもこんなことやってるわけにもいかないし」
 上条は未だ自分を探し続ける白井の姿を、うんざりした表情で見ていた。
「そう。じゃあ助けてあげる」
「ホントか?」
「うん。その代わり、何かお礼してよ」
「え? タダじゃないのか?」
「世の中そんなに甘いわけないでしょ。安心しなさい、そんな無茶なこと要求しないわよ」
「うーん……」
 上条は再び白井の様子を観察した。
 消えたと思ったら再び出現し、また消えたと思ったら再度出現するといった行動を繰り返していた。どうやら上条がこの公園に隠れていると目星を付け、揺さぶりをかけているようだった。どう見ても諦めるつもりはないらしい。
 上条は小さいが、長い長いため息をついた。
「わかった、頼む。けどホントに上条さんは金欠なんだから無茶な要求はしないでくれよ」
「交渉成立ね。それじゃ、いきますか」
 美琴はにっこり微笑むと、白井に気づかれないように移動し始めた。
 上条はその様子を、固唾を呑んで見守った。
 白井に気づかれないよう公園の入り口に移動した美琴は、今初めて公園へ到着した様子を装って白井の側へやって来た。

 白井に近づいた美琴は腰に手を当て、やや強い口調で話しかけた。
「やっと見つけた。黒子、アンタ何やってんのよ。街中で大暴れなんかして。それに私が止めようとしたのに、聞きもしなかったでしょ」
「あれはお姉様に悪影響を及ぼす類人猿を退治するために行った致し方のない行動。必要悪という奴ですわ」
「…………」
 上条のことを平然と「類人猿」呼ばわりする白井の態度に、美琴は心の中がざわめくのを感じていた。
 その心のざわめきをかき消すように小さく首を振った美琴は強い口調のまま話を続けた。
「黒子、アンタどうしてアイツのことをそんなに毛嫌いするの? 相性ってのがあるから仲良くしろとまでは言わないけど、せめてあの矢で攻撃するのは止めれば? 今日だってアイツ、アンタに何もしてないでしょ」
 白井は美琴をじっと見つめると、深くため息をついた。
「無理ですわね」
「どうしてよ」
「なんと言われようと、無理なものは無理なのですわ。それに元々わたくし、あの殿方のことはあまり好きではありませんでしたし。ただあくまでもあまり好きではない状態だったのですが、今日はっきりと認識いたしました。あの殿方、上条当麻はこの白井黒子にとって、不倶戴天の敵であると!」
 ぐっと拳を握って力説する白井に、美琴は不思議そうな表情を浮かべた。
「敵って、どうしてそんなことになるわけよ」
 白井は美琴が気づかないほどの小さなため息をついた。
「……ご自分で考えて下さいまし。まあおそらくその様子だと、まだしばらくはお気づきになれないでしょうが」
「よくわかんないんだけど、とにかく、あいつにケンカを売るのは止めないって、そういうわけね?」
「当然ですわ」
「そう、いくら言ってもムダってこと。じゃあいっそのこと、とことんまでやってもらいましょうか。ほら、出てきな、さい!」
 美琴は上条が隠れている草むらをキッと見ると、雷撃の槍を投げつけた。
 その途端、バチィッという音と共に草むらから上条が転がってきた。
「何しやがる、危ねえだろ御坂!」
「…………」
 白井は美琴によって草むらからはじき出された上条を呆然と見つめていた。
 そんな白井に美琴は得意げに声をかけた。
「ほら黒子、いたわよ」
「……どうして、あの殿方があそこにいるってわかったんですの?」
「さあね。でもとにかく会いたかったんでしょ。ほら、ちゃっちゃと始めなさいよ、私が立ち会ってあげるから」
 会話を続ける美琴に、上条は必死で叫び声を上げた。
「おい御坂、お前どういうつもりだ!」
 しかし美琴は上条の叫びをあっさりと受け流す。
「アンタがジタバタ逃げるから話がややこしくなるのよ。いっそのこときっちりケリを付けた方がお互いすっきりするわよ。そうでしょ、黒子」
「…………」
 けれど白井は何も答えない。上条へ向けていた視線を美琴に向けると、黙って彼女をじっと見つめていた。
「黒子、どうしたのよ。あんなに会いたかった『敵』がいるのよ。ほら」
「御坂、てめー!」
「アンタは黙ってて」
「…………!」
 なおも美琴に文句を言おうとした上条だったが、彼女の気迫に押され黙ってしまった。
 やがて白井はぽつりと口を開いた。
「……わかりましたわ。ここは黙って、黒子は引き下がることにしましょう」
「いいの?」
「ええ。非常に悔しいですが、レベル5のお姉様を相手にできる殿方、そして超電磁砲のお姉様、この二人を相手に立ち回るほど黒子は馬鹿ではありませんの」
「二人って、相手は――」
「どうせお姉様のことです、わたくしがあの殿方に飛びかかろうとした刹那、わたくしを電撃で昏倒させる気だったんでしょ? しかもほんの数分気を失う程度に。そしてわたくしが目を覚ましたときには、二人は既にどこかへ消え去った後、と」
「……さあ、それはどうかしら? でも、よくそこまで推理したわね」
「わたくしとて、伊達に毎日お姉様の電撃を浴びているわけではありませんの。それにお姉様との付き合いも結構長くなってまいりましたし、わたくしも多少はお姉様の考えが読めるようになってきたんですのよ。そもそもあの殿方があそこにいたこと、お姉様はご存じだったんでしょ?」
「…………」
 白井の疑問に美琴は何も答えなかった。けれど白井は気にした風もなく話を続けた。
「ですからここは潔く引き下がりますわ。それに……」
 白井は目を閉じ、ぎゅっと唇を噛みしめた。
 そのとき白井の脳裏に浮かんだのはオープンカフェでの辛そうな美琴の表情と、上条と軽口を叩いていたときのどこか吹っ切れたかのような美琴の表情だった。

――悔しいですが貴方相手でなければ、今のお姉様は笑顔を見せてくれそうにありませんもの。わたくしが何よりも見たい物は、輝かんばかりのお姉様の笑顔。

 白井は静かに上条の側に近づくと、上条をにらみつつ腹立たしげに口を開いた。
「今回ばかりは貴方に勝ちを譲って差し上げます。ですが覚えておいて下さいまし。わたくし、最後には絶対に勝利いたしますので。お姉様の純血はこの黒子のものですわ」
「へ?」
 上条が返すまぬけな返事などまったく聞く気もない様子で上条から離れた白井は、再び美琴の側に近づきその耳元でささやいた。
「それでは失礼いたします。ですがお姉様、くれぐれも早まった行為などはなさらぬように。綺麗な体でのお帰りを黒子はお待ちしております。では」
 その言葉と同時に白井はテレポートを使い公園から姿を消した。
「へ? ……く、黒子、あん、アンタ何言ってんの! そんな馬鹿なことあるわけないでしょう!」
 大声で叫ぶ美琴だが、既に白井の気配は辺りから完全に消え去っていた。
「えっと、とりあえず俺は助かったのか?」
 白井の姿がなくなったのを確認した上条はポソッと呟いた。
「そうみたいね。今日のところは黒子も諦めたみたい」
 美琴の言葉を聞いた途端、上条ははあっと盛大にため息をついて地面に座り込んだ。
「そっか、いやいややっと助かったわけか。ほんっとしつこかったな、白井の奴」
「よかったわね。ま、私に感謝することね」
「そっか? なんかあれってお前に関係なく白井が一人で諦めていったような気がするんだが」
「何言ってんのよ。私がそうなるように話を持っていったんでしょ。黒子はそこまで物わかりの悪い娘じゃないからね、ちゃんと話せばわかってくれるっていう期待があったのよ。それにどうしようもないときは、あの娘の言う通りこれで気絶させようと思ってたし」
 美琴はパリパリッと右手から電流を出した。
「そ、そうか……」
 上条は乾いた笑いを浮かべて立ち上がるとすっと右手を挙げ、歩き出そうとした。
「まあとにかく助かったぜ。じゃあまたな」
「待ちなさい、そこのスケコマシ」
 しかし上条の首根っこを掴んだ美琴によって上条の歩みは止められた。
「おい御坂、いったいなんだその呼び方――」
 美琴に抗議しようとした上条だったが、彼女の冷たい視線に思わず言い返すのを止めてしまった。
「あらあらー? 女の子と約束しておきながらあっさりとそれを破ろうとする男なんて、どんな呼ばれ方されたって文句は言えないんじゃないかしら?」
「……や、約束って、やっぱり覚えてたのか?」
「当たり前でしょう。さ、行くわよ」
 冷たい視線のまま美琴は上条の手首を掴むと、ずんずんと歩き出した。

「あの、御坂さん。先程も申し上げました通り、上条さんは今日は大変忙しいので、できましたら約束はまた今度ということになりませんでしょうか?」
「却下。次アンタに会えるのなんていつになるかわからないのよ、今した約束は今すぐ果たしてもらう。当然でしょ。それとも何? アンタ、私が会いたいと思ったときにいつでも会ってくれるの?」
「そ、それは確約できないと言うか、何と言うか……」
「でしょうね。だから今すぐ果たしてもらうのよ。でも大丈夫よ、私は優しいからアンタのこともちゃんと考えてあげる」
「へ?」
「文具店のセールでしょ。先にそこ行って、それから付き合ってもらうから。それなら何の心配もないでしょ」
「えっと、それはありがたいんだけど、そもそもいったいどんな礼を俺は求められてるんだ?」
「だから私に付き合いなさいって言ってるでしょ」
「付き合うって、何かするのか?」
「この間の続きよ」
「この間? この間って?」
「デートよ、夏休みの終わりにしたでしょ。あのときは途中で終わっちゃったじゃない。だから、あの続きよ」
「でも……あれって、確か偽のデートだろ。また誰かにつきまとわれたりしてるのか?」
「違うわよ」
「じゃあ、もうそんなことする必要はないんじゃないのか? なら――」
「そうね、だったら……」
 突然、美琴はぴたりと立ち止まり上条の手を離した。そして、くるりと上条の方を向いた。
 その様子に惚けた表情になる上条。
「『ホント』のデートでいいじゃない!」
 心からの、輝くような満面の笑みを浮かべてそう言った美琴は上条を引っ張って、再び歩き出した。
 その笑顔にごくりとつばを飲み込んだ上条は、なぜか急に顔がほてってくるのを感じていた。
 歩きながら美琴はそっと胸に手を当てた。

――やっぱり、もう全然痛くない。

 何度確認しても、美琴が最近ずっと感じていた胸の痛みも気持ち悪さも完全に治っていた。先程のような忘れていた、ではなく、今度こそ本当に治っているのだ。
 なぜ治ったのかはわからない。
 しかし美琴はそのことがあまり気にならなかった。
 なぜなら、

――どうせ、こっちの方はわけわかんないんだし。

 先程から痛みの代わりに胸の中に訪れている、ぼんやりとした感情の正体が結局わからないからだ。
 あれもわからない、これもわからないでは悩むだけ損である、そんなのは自分のキャラではない、そう美琴は考えたのだ。
 それに、

――別にいいよね、だって、今、こんなに楽しいもん。

 わからないことだらけ。けれど上条といっしょにいる今このときは、とにかく楽しいのだ。楽しくて楽しくてしょうがない。それこそ、自然と笑みが浮かんでくるくらいに。
 だから美琴はそれでいいと思った。
 今はわからなくても、きっと痛みの理由も、よくわからない感情の正体も、いつかわかるときが来るはずだと。
 だから今は上条といっしょにいて純粋に楽しいとだけ思えるこの日々を、楽しいという想いを、美琴は大切にしたいと思った。
 そう遠くない日に来るであろう、自分の気持ちがわかったときに、すべてがはっきりしたときに、決して後悔しないように。

「さあ、こないだ中止になった分やらなんやら全部まとめて、今日はとことんまで付き合ってもらうわよ! いいわね!」
「なんで、こんなに顔が熱いんだろう、俺……これって……不幸?」



おしまい

----
#navi(上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/素敵な恋のかなえかた)
目安箱バナー