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上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/17スレ目短編/672 - (2011/07/24 (日) 08:48:41) のソース

*ローンソ×ラヴリーミトンフェア 2
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今年も夏がやってきた。
梅雨の時期はその名を返上すべきではと思うほど雨が少なく、いつから梅雨でいつから夏だと思っている間に天気予報は梅雨明けを知らせ、煌々と輝く太陽が髪を焼き服を蒸らし肌を焦がす季節になった。

道行く人は帽子をかぶったり日傘をさしたりして陽射しから身を隠したり、また団扇や扇子、学生ならではの下敷きなどで風を起こし少しでも熱を逃がそうとしている。
中には冷たい飲み物やアイスなどで身体を冷やしているものもいるだろうか。

時刻は夕方に差し掛かってはいるものの、まだまだ太陽の勢力は強く夜になってその姿を隠してからも蒸し暑くなることが容易に予想される。


御坂美琴はそんな中汗をかきつつも日傘をさしたり何かで扇いだりはせずに、時間が経つにつれ色濃くなる太陽を一人背にしていた。

普段から美琴は授業が終わった後まっすぐ寮に帰ることは少ないのだが、今日も例に洩れず街を当て所なくさまよっていた。
今は河原沿いの道をぼんやりと歩いている。河川敷が広く公園やスポーツコートなども設けられているこの辺りは、河原沿いということで見晴らしがきく事に加え芝生が養生されていてなんとも景観が良い。

芝生用のスプリンクラーがくるくると散水し、また川の水もさらさらと流れ、それらの気化熱のおかげで夏真っ盛りの日中でも体感温度はやや低く、街中と比べると快適であった。

しかしそんな比較的過ごしやすい環境の中でも、美琴の気分は少しよろしくない。それは気候のせいではなく、具体的に言うならがっかりという言葉が当てはまるような雰囲気だった。

理由は、数ヶ月前にとあるコンビニチェーンで行われたフェア。
それはその名を聞けば一も二もなく飛びつく、美琴の大好きなキャラクターシリーズ『ラヴリーミトン』のフェアで賞品がひとつも当たらなかったことに起因する。

フェアというのは販売店(店舗の多さからコンビニが主である)と食品メーカー、版権企業とのコラボ企画で、商品の販促などの目的で人気のマスコットキャラクターを用いて行われるものである。
今回は対象商品を買うとポイントが貰えて、そのポイントを使ってキャラクターグッズを当てるという方法が取られた。

抽選ではあるがそのキャラクターが好きな人はグッズ欲しさに商品を購入するし、賞品によっては応募に必要なポイントが高いこともある。そうなると売り上げも上がるという、よくある企画だった。

美琴は開催当日から意気込んでポイントを集めまくったり、フェアに応募しない人からもポイントを貰ったりして挑戦したのだが、結果としては1ポイントから応募できるストラップすら当たらなかったのだった。

それだけならクジ運がない、またの機会に頑張ろうと思えたのだが、ここにくる前に知り合いの少女に会った時、その少女が持っているものが更に美琴の精神的ダメージに追い討ちをかけた。

彼女は小学生低学年程度で、とある事情で一時的に風紀委員として活動した時に知り合った。今でも街中で見かけると挨拶をしに声をかけるくらいには仲が良い。
そうして今日も服飾店をぶらついていた時に声をかけられたのだった。

美琴は愛らしい笑顔の少女が自分を慕って駆け寄ってくるのが嬉しくなると同時に、その小さな腕で抱えているものを見て固まってしまった。

それは、美琴が渇望してやまないゲコ太のビッグぬいぐるみ。フェアの特賞賞品だった。

会話の中でさりげなく触らせてもらおうかとも思ったが、美琴の年齢でゲコ太が好きと言うと周りの友人たちにはいつもひやかされることから、何となく遠慮してしまいそのまま言い出せずに少女と別れた。

そして若干後悔しつつ河川敷をとぼとぼと歩いている、という訳だ。

「はー、そのぬいぐるみどうしたの?とか言えたのになあ……」

沈んだ声が蒸せた空気に溶けていく。
時折吹く風は水辺の冷気を纏って身体を撫でていき、ため息ごと熱気を飛ばしてくれるものの、まだ気分は晴れない。

「でもなあ、触ったら触ったで絶対欲しくなってもっとモヤモヤするんだろうしなあ……」

ちなみに、美琴は割と本気でヘコんでいる。
自分に当たらないということは当然他に応募した誰かに当たったという事だ。それがどこか知らない誰かの話なら知らぬが仏で良かったのだが。

「なんか、知ってる人が持ってるとわかるとちょっと羨ましいなーって思っちゃうのよねー。こういうのって」

サミシイ独り言は続く。
そのうち土手から河川敷に続く階段を下り、その途中でスプリンクラーが作動していない芝生の乾いた場所を選んで腰を下ろす。
そこは土手の中ほどで斜めになっていて座りやすく、ふかふかと心地よい感触が太ももに当たる。

気持ちよくなって仰向けにごろんと寝転んでみた。
太陽はすでに傾き始めてしばらく経つので太陽の方を向かなければそれほど眩しくはない。

青く広がる空は綿雲をいくつか浮かばせて、ゆっくりと流れていく。
美琴は歩き続けた足を休ませるために、しばらくここにいることにした。

「かと言って、オークションとかで買うのもちょっと違う気がするのよね。しかもだいたい高いしさー」

惰性でぼやいているような気もするが、意味はなくても声に出せば気は紛れるものだ。
けれどぼやくネタもなくなってきて、ふと顔を土手の方へ向けると、スプリンクラーがしぱしぱと小気味よい音を立てて放水しているのが見えた。

水滴のついた芝生がなんとも瑞々しく美しい。飛沫となった水も陽の光を反射してきらきらと輝きまるで宝石のようだ。
しかし、雨が少なかったせいだろうか。以前この辺を通ったときはスプリンクラーなどなかったような気がする。
学園都市の園芸用水、と考えると何だか発育が良さそうな気もしてくる。

ただ植物にとって恵みの水は何も自然のものでなくても良い。人工的であってもこうして青々と生い茂る芝生は目に優しく、また河川敷で遊ぶ子供達が転んでも小石や砂利などから皮膚を守り怪我をしにくくもしてくれる。

視界の端でサッカーボールを追いかけている子供が転んだのが見えた。友達が心配して駆け寄るも、転んだ子供はすぐに立ち上がって友達の間をすり抜け、またボールを蹴り始めた。

美琴はこうして地面に近い視点で意識をしないと気付けない小さな自然に思わずぽつりと呟く。

「綺麗だな……」

人というのは美しい自然に接すると言葉を失うことがある。
山頂からの日の出や、海で遠く見やる水平線の日没。北極のオーロラやどこまでも続く草原などの大自然でなくともそういうことがあるのだな、と美琴は思う。
今までの沈んだ気分がだいぶ軽くなって、身体もなんだか余計な力が抜けた気がする。

それでも景品だ賞品だなんてちっぽけな悩み……とはやはり言い切れないけれど、気持ち良い芝生のクッションに包まれながら、少しだけ憂鬱な気分を忘れることができた。

スプリンクラーが作る水飛沫。放物線を描いて撒き散らされる水滴は地面や空気に、時には水滴同士がぶつかりやがて細かい粒子となって空中に舞う。それに太陽の光が吸われて七色の軌跡を描いて……

「虹だ……」

寝転がっているとどうしてもウトウトと意識が浮ついて、声も出ずに吐息だけで小さく言葉を紡ぐ。
久しく虹なんて見ていなかった。空の上に嫌いなものがあったから。
今はもうない。だからもう空を睨みつけることもなくなった。

なんだっけ、よくある、言い伝え……
そう、虹のふもとには…………

考えながらぼんやりと虹の輪郭を目で辿る。それは美琴の頭上、土手に沿っている道にかかっていて……
そこまできて美琴は視線を止める。誰かが歩いているのが見えたからだ。
少しずつ焦点が定まってくる。誰かは立ち止まったようだった。

あの学生鞄を怠そうに肩にひっかけている、ツンツン頭の少年は……

「おー、御坂。なんつーカッコしてんだ。顔逆さまだぞ」

名前を呼ばれ思考が現実に追いついた瞬間、美琴は顔を真っ赤にしてがばっと起き上がった。
少年は上条当麻だった。上条は年頃の女の子があられもない格好をしていたので少々呆れたような顔をしている。

考えてみればこちらからも逆さまに見えているのだから当然といえば当然なのだが、そんなに喉を反らしていたとは美琴自身思っていなかったので何とも恥ずかしい。
急いで髪を整え、風でめくれたスカートを戻し何事もないような顔で芝生に座り直す。

上条は土手で寝転んでいるのが美琴だとは知らず、誰か寝てるな、くらいに思っていたのだが、近づくにつれその人がこちらを見ていることに気が付いた。
そうして目を凝らしつつ近づいていくと、その人は短めな亜麻色の髪とブレザーの制服にルーズソックスという見慣れた格好の少女、御坂美琴だったのだ。

上条は例のごとく補習の帰りで、特に美琴を探して歩いていたという訳ではないのだが、出会った時にしておきたい用事もあったのでこれ幸いと声をかけた、という経緯だ。

「そりゃあこの辺は涼しいし寝っ転ぶと気持ち良さそうだけどな、あんまりおおっぴろげになるなよ」

上条は階段をとてとてと降りて美琴と同じように途中で芝生へと足を踏み入れた。
わしわしと音を立てながら美琴の元へと歩いていくが、美琴がうっさい!と反論しようとした瞬間濡れてもいない芝生で足を滑らせて倒れたかと思うと、ごろごろと土手を転がり落ちて行った。

「う、へえっ!?ぎゃあああああぁぁぁぁぁ……」

それはいっそ清々しいほどの見事な転がりようで、ローリング上条は平坦な河川敷に到着してようやくその回転を止めた。

極めつけにそこはスプリンクラーの作動している場所だったらしく、また時間によって放水の時間が変わるようで、うつ伏せに倒れている上条の隣で止まっていたスプリンクラーがしぱしぱと水を撒き散らし始めた。
それはびたびたと遠慮なく上条の背中を濡らしていく。

美琴はその淀みない不幸の連続を目で追うことしかできずにあんぐりと口を開けていた。

しばらくはぴくりとも動かなかった上条だが、ワイシャツ全体がたっぷり水を吸った頃に何やらふるふると震えながら起き上がり、平然とした様子ですたすたと美琴の方へとやってきた。
ちょっぴり涙目な気がするのは見ていないふりをしてあげた方が良いのだろうか。

「……何やってんの、アンタ」

「そんな呆れた目で見るなよ。涼しくなって何よりだぞ」

「それはポジティブシンキング、と呼んでいいのかしら……」

しかしこれ以上突っつくのも可哀想な気がして、隣にどしっと座る上条に別の話題をもちかけた。

「ところで、わざわざここまでやってくるってことはなんか用?」

「ああ、そうだった。これやるよ」

上条はポケットから財布を取り出すと、カードらしきものを美琴に渡した。
美琴への用事というのはこれだ。わざわざ呼び出すほどのことでも無いので出会った時に渡そうと思っていたものだった。

美琴は突然の申し出に不思議そうな顔をしていたが、カードを見るなり目を大きく見開いた。

「こっ、これゲコ太フェアの賞品じゃない!なんでアンタが持ってんのよ!?」

美琴が手にしているのはプリペイドカードで、ラヴリーミトンのキャラクターがファンシーかつキュートに描かれている。
それは先日のフェアに応募して外れてしまった人の中からさらに抽選されて当たるというもので、当選確率で言うと、ポイントで応募できる賞品よりはこちらの方が低いのだ。
また、その場で当落がわかるものでは無いので当たると嬉しさも倍増する。

ちなみに先程一人でぼやいていた美琴は、このカードの発送時期を過ぎても手元には何も届かなかったことから、更に落胆の色を強くしていたのだった。
そんな美琴の事情などつゆ知らず、上条は少しムッとしながら答えた。

「なんでって、当たったからに決まってんだろ。フェア中に飲み物買ったら1ポイントついてきたから、せっかくだしと思ってストラップに応募してみたけどダメだった。でもなんかWチャンスに当選しましたとかいってこないだ送られてきたのがコレ。もしかして、要らなかったか?」

美琴のまさかアンタが当たる訳ないと言わんばかりの態度に、上条さんだってたまにはラッキーなことくらいあるんですよ、と若干拗ね気味に口を尖らせカードを取り上げようとする。

「う、ううん!欲しい!すっごく欲しい!ありがとう!」

慌てた美琴はカードを上条の手ごと両手でがしっと掴み、輝くという表現がぴったりな満面の笑みを浮かべた。
あまりにも嬉しそうに笑う美琴に、なんだか照れ臭くなった上条は少し顔を赤らめてふいとそっぽを向いた。

「まあ、喜んでくれたならいいよ。これについては食の面でだいぶ世話になったしな」

言いながら逸らした視線を掴まれた手に持っていく。
上条の右手はカードをつまんだまま美琴の両手にしっかりと握られていて、自分の殴りダコのある骨ばった手と比べて随分と白くて華奢だな、なんて思った。

しかしあまり女の子と手をつなぐ(この場合だと掴まれているという状態だが、どちらにしろ手と手が触れるような)機会がほとんどない上条は、その柔らかな感触と人肌特有のぬくもりがあまり慣れないものでかちこちと背筋をこわばらせてしまう。
がっちりとホールドされているものだから、何気なく離すということもできそうにない。

「あっ!」

そうして上条が一人でどぎまぎしていると、ふいに美琴が声をあげた。
特にやましいことをしたり考えたりなどしていないのだが、なぜだかびくっと体が震えた。

「このカード、使ってないじゃない!」

美琴はプリペイドカードが一度も使われていないことに気付く。
こういったカードは端の方に小さく目安の額面がいくつか印字されていて、一度でも使用すると残額に応じてパンチ穴が開くようになっている。
使い切ると0と印字されたところに穴が開き、使用済みとなる。要らなくなったカードはその場で店に回収してもらえるが、カードの柄が気に入っていて廃棄したくない時は持ち帰ることもできる。

傷一つないまっさらなカードを目の前にして、些細な金額とはいえ万年金欠な上条にとっては家計の足しになるのではないかと思う美琴は、少し申し訳ない気持ちになる。

「い、いいの?もらっちゃって」

上条は眉を下げて伺うように顔を覗き込んでくる美琴に、どぎまぎしてた事はバレてないのか、とかコイツのこんな顔って珍しいな、とか上目遣いでちょっとしおらしげに見えるな、とか考えてしまって、またどきどきしてしまう。
カードについてはもちろん今更あげません、なんて言うつもりはない。

「あー、いや、うん。使おうかと思ったんだけど、確かそういうのって穴とか開けたくないんじゃないのか。コレクター精神ってやつ?」

言いながら首を傾げる上条。
よくわからないが、青ピがそんなことを言っていた気がする。
好きなもの、中でもレアなものは喉から手が出るほど欲しいし、また手に入れたら品物だけでなく外箱や付属の説明書などもできるだけ綺麗なままで保存しておきたい、という心理があるのだとか。

ならば普段からゲコ太ゲコ太と言っている美琴にもそれは当てはまって、できれば傷が付いていない方が喜ぶのではないかと思ったのだった。

「とにかく気にすんなよ。そ、そんくらいじゃあ上条さんの財布は痛まない……ですの事よ?」

「ちょっとどもったり詰まったりしてんじゃないの」

「そこは聞いてないふりしてくれよ!」

痛いところを突かれてちょっとしょげる上条。
情けない顔でぶつぶつと愚痴る横顔がなんだかとても可愛らしく見えて、美琴はかすかに微笑む。

普段は子供っぽい趣味だとか良さがわからないとか批判めいた事を言っているのに、人がより喜ぶなら躊躇わずに自分の事よりそちらを選んでしまうところが

「たまんないのよね……」

「……ん、何か言ったか?」

「えっ?うっ、ううん、なんでもない!」

今度は美琴がうろたえる番だった。
まさか声に出ていたとは思っておらず、ぶんぶんと音がなりそうなほど首と両手を降って否定する。

上条はその拍子に離された右手とつまみ上げられたままのカードを見て何やら考えている様子だったが、美琴はそれに気付かずにどうやら先程の言葉は聞かれていなさそうで良かったーと安堵のため息をついた。

「ま、いいわ。お礼にご飯でも奢ったげる。もちろん、額面以上は出すわ」

「え……ああ、うん。って、ええ!?」

「当然これはいただきよ!ああゲコ太、綺麗に飾ったげるからね!」

「おい、ちょっ……」

美琴は上条の手から素早くカードを奪い取って立ち上がると、それを天に掲げてくるくると回って、愛おしそうに頬ずりをした後とても大事そうに財布にしまった。

上条は話半分で適当に返事をしていたが、美琴の言葉に驚いて我に帰った。
そもそもこれはフェアのポイントを貯める目的とはいえ山のように食品をもらった事に対するお礼なのだから、お礼のお礼など必要はない。

けれど美琴は話を聞こうともせず、座ったままの上条の手をとって歩き出そうとする。

「さ、どこ行く?懐石?ファミレス?フランス料理?どこでもいいわよー」

「どわっ、引っ張るな!ってか御坂さん、真ん中以外予算とジャンルがおかしいです!」

「何でもいいでしょ!つべこべ言わずについてくる!」

「俺まだ服濡れてんだけど!ねえ聞いてる!?」

「そのうち乾くわよ!涼しくて何より!」

「これっぽっちも止まる気ねえ!ああもう、ふこうだあーっ!」


よく晴れた日の夕暮れ時、一組の男女がばたばたと街を駆けていく。

少女の見た虹のふもとには何があって、今日の少年は幸か不幸か。
それは夏空に光る太陽だけが知っているのかもしれない。

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