twnty_five_reverse_plus
前回投下したものが夢オチじゃなかったら?的なお話をお送りしたいと思います。
流れ的には『(??.??_AM08:01)』の前になります。
流れ的には『(??.??_AM08:01)』の前になります。
(Mar.25_PM03:17)
「……、」
美琴は漫画を読んで気を落ち着けようと努めていた。
先ほどチェックした本棚の中にあった一冊だ。
記憶にない3ヶ月の間に新刊が出ていたらしく、コレならばと思ったのだが……。
コレとは何ぞや?っていうと、ちょっと危険なくらい桃色だった雰囲気を払拭する物品を欲していたのだ。
ただし、役に立っているかというと……ペラペラとめくって見てはいるが、眼は紙面を追っているだけだ。
その証拠にどちらかというとギャグ漫画の部類を読んでいるのに、傍から見てもぽけーっと視線が定まっていないし時折勢いよく頭を振っている。
彼女が挙動不審な理由は明白すぎるくらい明白だ。
(言っちゃった。ついに言っちゃった)
先ほどの告白と、上条からの告白を受け入れるかのようなキス。続くその後の行動を思い返してのものである。
関係としては既に恋人になっている状態での告白なので受け入れられて当然といえば当然ではあるのだが、
そこはそれ。意識の上では初めてであり、受け入れて貰えたのはやはり嬉しいのだ。
(でも、その……。さ、さっきのは、あ、危なかったわね)
あの後、上条の攻撃は激しさを増していき、受け止める美琴は溺れていた。
若干反撃もしてみたものの、どう見ても耐久性とか熟練度が違う。あっという間に防戦一方に追いやられた。
美琴的には想いが届いた辺りで防壁はとっくに決壊してされるがままになっており
このまま所謂スゴイコトされるのかしらとかぼんやり思ったりもしたが、上条としても日の高いうちから事に及ぶのは如何なものかと思っているのか美琴の様子を見てある程度の所で引き返してくれた。
なんとなく大切にされている事を察して嬉しくなると同時に微妙に切なくなってみたりしたが
実情がどうであれ、気分的には何もかもが初めてな上に純情少女趣味な美琴としては色々と思う所があるらしく
(あれだけ迫ってきて何もしないってのは魅力ないのかしら……熱が篭ってた気がしたのは気のせい……?いや、でも、まだお昼だし……ちゃんと心の準備が整っている時に優しくして欲しかったし嬉しいかも…ってチガウチガウ!?ああ、もうっ今は考えるなぁぁぁぁ!!)
ぶんぶんぶんぶんっと頭の中の桃色の霧を振り払っては手にした本をペラペラめくり、そのうちまた回想を始めるというループに陥っていた。
――この時点でかれこれ30分以上ループしている事に美琴は気付いていない。
いつになれば落ち着くのかは想像もつかなかった。
ふと衣擦れのような音が聞こえたので、いい加減疲れた美琴がそちらに顔を向けると
……上条がシャツを脱いでいた。
「なななななななっ!?アアアアア、アンタな、なにをやってーーー!?」
先ほどまで考えていた内容が内容だけに思考が一瞬でアレな方向にかっ飛んで行く……が、
「何って……着替えてるだけだけど?」
「……はい?」
見当違いの言葉が返ってきたと思ったら、実際別の服を着込み始めた。
(……着替える?……何で?何のために?)
言葉にしなかったが、疑問は伝わったのか答えが返ってきた。
「いや、久々だしデートしたいなって思ったんだが、よく考えたら今日の美琴って私服だろ?釣り合いとれないなーって思ってな」
「えーっと……ちょーっと待って、落ち着いて考えさせて」
「……嫌だったか?」
「そんなわけないっ!……あ、えっと、その……デ、デートは勿論嬉しいの…そうじゃなくって、その…ごにょごにょ……」
(覚えている限りは完全スルーだったから服装とかそういった細かい気を使ってくれるのは凄く嬉しいけど、や、やっぱり魅力ない……のかしら?い、いやでも、こ、恋人だし、あっちからデートに誘ってくれるくらいだし。き、昨日はス、スススススゴイコトしたって言ってたからそういうわけじゃない……のよね?ううう……わかんない。こうなればいっそ、その、し、しししたくないの?って言えるかーーーーー!?)
真っ赤になってぶつぶつ言い出した美琴を見て上条はそっと溜息を付き、仕方ない奴だなっという風に近づくと優しく抱き締め少々強引にではあるが黙らせた。
「――――ッ。ふあっ。い、いきなりなにすん――」
「デート。いくのか?やめとくか?」
「―――う、行く……」
「よし」
「うーー、ずるい……」
「はいはい。悪かったな」
いい子いい子とばかりに優しく頭を撫ぜられ、じゃあ行こうぜっと言って上条は先に玄関に向かった。
美琴は何だか子供扱いされた気分で若干腹が立ったが、置いていかれてはかなわないので後を追った。
実の所、昼食後のスキンシップは予想外の打撃を受けた上条が、歯止めが利かなくなりかけて危険になったから離れたのであり、
服を脱いだのは、何時になく雰囲気が可愛らしく付き合いだした頃のような美琴が、思考の迷宮から戻って来ないので扱いに困った上条の
『いっそ怒らせて見てはどうか?』という苦肉の策だったりした訳だが、余裕の全くない美琴がそんな事まで気付く訳もなかった。
――貧乏な上条が美琴の私服に釣り合うほど物持ちであるはずが無く、美琴が冷静であれば着替え前後の服装の質にそこまで差がない事に突っ込んだかもしれないが、それは酷というものだった。
(Mar.25_PM03:30)
美琴が玄関を出て目に映ったのは学生寮が立ち並ぶ一角の様だった。
今過ごしていた空間の外が全く見知らぬ光景というのは不思議な感覚だ。
先に出た上条は少し先で誰かと話しているようだ。
ご近所さんかしら?と視線を向けると意外にも見知った人物だった。
「……土御門?」
「おー。みさかだー、元気かー?」
土御門舞夏だった。常盤台の寮内で活動しているときには普通に歩いている事もあるが、今は清掃用ロボの上に座っている。
「えっと。うん。元気だけど……アンタは何でこんなとこにいるの?」
「上条当麻の部屋の隣は兄貴の部屋だぞー。前に言わなかったかー?」
「……そうだっけ?」
もし聞いていたのだとしても覚えていないのでどうしようもない。
しかし、土御門は上条との共通の知人という事になる。世間は狭いものだ。
そういえば上条との関係激変で気にする余裕がなかったが、知人友人関係は一体どうなっているのだろうか?などと考えていると
「みさかみさかー、これから上条当麻とデートかー?」
「へ?あ、うん。そうだけど?」
(って、普通に喋っちゃったけど、誰がどこまで関係知ってんだろ?)
とはいえ、あれだけ頻繁に部屋に上がっていたと思しき状態で、お隣さんが知らないってことは流石にないだろうと判断する。
上条も別に慌てた風ではないし……いや、何だか微妙な顔をしているような……?
「そっかそっかー。なるほどなるほど、それは私も嬉しいなー。」
「……は?何でアンタが喜ぶわけ?」
実は上条とのキューピッド役を務めたとかだろうか?言っては悪いがそういった場面が全然想像できない。
いや、共通の知人なのだからそういう事があってもおかしくはないのか?
もしそうならば、くっ付けた相手が仲良くしてくれているのは確かに嬉しいかもしれない。美琴としても感謝すべき相手なわけだが……
美琴が舞夏の『嬉しい』発言に困惑していると
「ちょっと待て舞……どわっ」
何かを察したらしい上条にモップが叩き込まれる。
――舞夏がモップを床から放したと同時に清掃ロボが軽やかにターン、そのまま回転力を乗せて叩き込み、一回転してモップ下ろしロボの行動を制御する。傍で見ていても見事な挙動である。
「上条当麻は黙っているのだー。嬉しいというのはあれだー。『昨夜はお楽しみでしたね』というやつだ。一度言ってみたかったんだー」
「……はい?」
「それにしてもみさかってああいう声出すんだなー。これからデートなんだろー?私は嬉しい、今夜も期待しているのだー」
(ええと、ま、まってまって、それってつまり)
Q1.以下の計算結果を求めよ
『声』+『昨夜はお楽しみ』+『美琴を一杯可愛がってね』+『我慢が出来なくなってスゴイコトしてしまいました 』= ふにゃー
瞬時に真っ赤になった美琴は上条の元に突進、胸元に顔を押し付けるとそのまま舞夏から距離をとるように上条を押していく。
そして舞夏から距離をとった上で小さくなって上条の後ろに隠れてしまった。
穴があったら入りたいとはこういう状態を指すのだろう。
「おおー。上条当麻の前だとみさかはそんな感じなんだなー。これはいい物がみれたー」
「舞夏……お前な、なんて事してくれんだ。せっかく落ち着いたと思ったのに……」
「何だー?もしかしてさっきまでそういう状態だったのかー?それは惜しい事をしたなー」
「何を想像してるのか知らんが、違うと言っておこう」
「そうなのかー?でも昨夜はお楽しみだっただろー?私は感動の余り絶叫しそうになったぞー。という事で、今夜も期待しているのだー」
「うるせぇ。っていうかこれ以上はホントやめて下さい。美琴さんが危険です。そして上条さんも危険です」
「わかったー。いやぁ、いい反応してくれて満足なのだ。またなー、みさかー」
そう言って土御門の部屋に入って行く。
残された二人はというと……
「えーっと、美琴さん?」
「……こっち見んな!うーーー馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿……」
「見ねぇ。っつか、見れねぇよ。あんまり可愛らしいとこ出さないで下さいよ。上条さんの理性が心配です。」
「……そ、そもそも理性があったらこ、こういう事になってないんじゃないの?」
「お前が言うか……あのな。それはもう説得力がないのは承知で言わせて貰うが、上条さんとしては出来るだけ大切にしたいんです。ホントですよ?だけど時々凄く悲しそうな顔する時あって見てらんないし。かと思えば、凄く可愛らしく迫って来て寝かせてくれないし。ってチガウ、ええっと何が言いたいかというと、もう美琴さんにメロメロなので望むようにさせちゃうんですってホントに全く説得力がねぇーーー!?」
(……それって結局、私からアプローチしないとこいつ動かないってことじゃないの?根本的なところは同じなのね)
だが、御坂美琴が知っている上条当麻という少年は硬く決意した事については決して翻さないような人物だ。
根本的な所が変わらないのはむしろ当然なのかもしれない。そう考えると、美琴が強く望む事についてはちょっとは慣例を曲げても良いと考えてくれている訳で……それがつまり美琴だけの特権だと言う事だろう。
平等に他人を大事にしていた上条の意識の中で第一位に座れている事を嬉しく思い、今までの諸々の恥ずかしさと合わせて変になってしまう。
恐らく凄いことになっている顔を見られたくなかったので、目の前の上条の体に腕を回して背中に顔を押し付ける。
しかし、抱きついてしまったのは失敗だった。
昼食後のアレとか、出かける前にちらっと見た上条の体などがフラッシュバックし一層変になる。
しまったと思った時にはもう手遅れになっていた。
いきなり抱きつかれた上条はちょっと焦った声を掛けてくる
「ちょ、美琴?さっきの話聞いてたか?出来れば離れてくれ」
「だめ……み、見られたくない。恥ずかしすぎて死んじゃうから……」
「あー、わかった。とりあえず、その……部屋に戻るか?」
「う、うん」
出てから10分も経たないうちに部屋に戻る羽目になったという。
(Mar.25_PM04:37)
しばらくして、再び上条の部屋から出て二人で街を歩く。
「どこ行くの?」
「んー?特に決めてないんだが、何ならファンシーショップでも行くか?」
「……アンタからそんな言葉が出てくるなんて意外だわ」
「失礼な、成長したと言ってくれ」
(どちらかというと突然変異って感じなんだけどね)
あの後、二人して靴も脱がずに玄関口の板間に座り、美琴はひたすら上条の背中に甘える事でようやく少し落ち着きを取り戻した。
あくまで少しであり、恥ずかしいのが抜けきっていない為、今も視線は俯き加減でいつもに比べてゆっくり歩いている。
そもそも呼び方が『アンタ』に戻っているのは『当麻』とか呼んだらどうにかなってしまいそうだからだ。
上条は文句も言わずに美琴の歩調に合わせて隣を歩いてくれている。
――より正確には若干先に立って優しく手を引いてくれている。
昔からは考えられない細やかな気遣いに大事にされている事を再認識して心が躍るが、今の状況ではむしろ冷静さを奪われて逆効果だった。
そんな訳で美琴はさっぱり歩調があがらないし、頬はほんのり色づいていて傍からみていても艶っぽかった。
上条がファンシーショップなどと言ったのは、この状態ははっきり言って心臓に悪いので、落ち着かせる為にむしろゲコ太にでも縋りたい心境だったのだ。
なので特に決めていないというのは嘘で、むしろ出かける前から目的地は決めてあったというのが正解だ。
そんな上条の心境は露知らず、美琴が上条にエスコートされてふわふわした足取りで歩いていた所、横手から慣れ親しんだ声が聞こえた。
「あら?上条さんと……お姉様ではありませんの。もうお戻りになられましたの?」
「く、黒子?」
全く心の準備の出来ていない状態、それも上条と寄り添っている所を知り合いに見られた事が恥ずかしくて美琴は思わず上条の後ろに半分隠れる。
「ああ、白井か、パトロールか?」
「ええ、まぁ、そんな所ですの。」
「大変だな」
「これが私のお仕事ですから気にはなりませんわ。そちらは……まぁ、デートですわよね。お姉様は確か29日に帰寮というご予定だったと思いますけれど、聞くだけ無粋ですわね。」
「え?ええっと……その……ええっ!?いや、えっと……ぁぅ…」
美琴は、まず上条と白井の間が何やら和やかな事が信じられずに驚き、次いでデートという単語に反応。最後に自分の記憶にない29日に帰寮という情報を得た事で現状の情報と照合、今日と最終日を省いても丸3日間も上条の部屋に泊まる予定であった事を認識し真っ赤になって上条の背中に顔を隠した。
「……お姉様?何やら普段と雰囲気が……上条さん?お姉様に何をしたんですの?」
「いや、何をと言われても困るんだが、今日は朝からこんな調子でな」
「はぁ……、一体どんな心境の変化なのやら……。ッハ!?まさかお姉様はツンデレ、デレデレに続き更なる進化を遂げようというのですの!?何ですのその艶っぽさ、そんな小動物の様に脅えて恥ずかしげに頬を染めるだなんてー!?もしや強度と同じような段階だけ変化するとでも!?い、いけませんわ、お姉様!レ、レベル5はまだ早すぎますの!」
レベル0 『御坂美琴』(スッピン)
レベル1 『電撃使い』(ツンツン)
レベル2 『漏電使い』(ツンデレ)
レベル3 『妄想現出』(デレデレ)
レベル4 『純愛乙女』(テレテレ)
レベル5 『上条美琴』(オシドリ)
白井の中では何か愉快な強度表が出来てしまったようだ。
――思考が読めない美琴と上条には一体どんな状態になっているのか知る由もなかったが
若干あきれ気味に上条が言う
「あのな。何を考えてんのか知らないが、美琴の事はちゃんと大切にするぞ?」
「いえ、むしろだからこそ危険というか、そもそも既に過ちを犯している人の台詞とは思えませんわね?」
「っぐ!?それは返す言葉もございませんが、責任はしっかり取らせて頂く所存ですよ!?」
「だからレベル5はまだ早すぎるといっておりますのーーー!?」
「何を言ってんだか訳わかんねぇぞ白井ーーー!?」
二人してぎゃあぎゃあ言い合いだす。
ちなみに美琴は上条の台詞で更に赤く染まっていったが、二人は気付いていなかった。
「はぁはぁ……これ以上は、よ、よしましょう。無駄に疲れましたの」
「あ、ああ、そうだな。っていうかパトロール中じゃなかったのかお前は?」
「……そうでした。では、私はこれで。お姉様、週末に寮でお会いしましょう」
「あ……う、うん。じゃあね。黒子」
「気をつけて帰れよー」
上条の言葉に誰に向かって言ってますの?と返しつつ白井は離れていった。
「……ね、ねぇ?」
「ん?何だ美琴?」
「アンタと黒子って仲良かったんだっけ?」
「美琴絡み以外ではもともとそんなに仲悪くねーぞ?まぁ、12月26日は美琴の無断外泊で修羅場だったが…」
あの阿修羅のような様はもう思い出したくもねぇと上条が遠い目をする。
美琴は最後の記憶の翌日に自分が一体何をしたのかは分からなかったが、現状から考えてみても聞く気にはなれなかった。
(Mar.25_PM09:47)
美琴は上条のベッドの上に座って適当にTVを見ていた。
あの後、ファンシーショップに行って存分にゲコ太を堪能する事で、ようやく熱暴走気味だった思考が冷却された。
その後は二人で夕食の食材を買って帰り、夕食は美琴が作って今に至る。
とまぁ、要約するとそれだけなのだが、内面はそんな訳も無く……
ゲコ太を見ている間は確かにそっちに意識が行っていたが、嬉しそうな美琴の表情の変化を優しく見守る上条をふと意識して恥ずかしくなったりとか、
ある程度落ち着いたと判断したのか上条が繋いだ手の指を絡め合わせて来た為、その隙間のなさと心地よさに思考が溶けてその場で崩れそうになり、慌てて上条の腕に縋りついてしまっては更に赤くなったりとか、
美琴の作った夕食を美味しそうに食べる上条から目が離せなかったりとか。
それはもう盛り沢山で美琴は一杯一杯だった。
今もTVは見ているのではなく、風呂場にいる上条の水音が気になって気になって仕方がないので付けているようなものである。
ちなみに湯は美琴が先に使った、上条の後湯を使うなんて事をしたら風呂場で溺れかねない。
今朝は上条のYシャツを羽織っていたが、流石にそんな事が出来る訳もなく、美琴は上条のパジャマを着ている。
――これはこれで匂いとか暖かさとかそういうのを感じる気がして危険な事に変わりはなかったが。
さて、後はほぼ寝るだけな訳だが……
(ど、どうしよう……その、嫌な訳は全くなくて、今日一日、優しくされて嬉しかったし。今は夜だし、心の準備も割りとばっちりなんだけど……わ、私からアプローチしないといけないっていうのは……ぁぅ…や、やっぱり、む、無理無理!!そ、それに土御門を喜ばせるだけよね!で、でもでも、もしアイツが望んでくれるなら……)
といったかなり際どい思考状態になっていた。
……そこへガラッと上条が風呂から上がってきた音が響く
ビックゥ!!と肩が跳ね上がり美琴は思わず風呂場と逆の方向に向く、かなり動転しているのか何故か正座だ。
「……ふぅ、さっぱりって……あの?美琴さん?」
「ひゃい!?」
「なにしてんだ?」
「な、なななななななんでも!なんでもないわよ!?」
「いや、そんなガチガチになって何でもないってことはねーだろ?」
「ううううるさい、うるさい!これはべ、別に緊張してるとかそういのではなくてその、ええっと」
ごにょごにょごにょごにょ――っと、後半はもう支離滅裂な状態になっている。
上条は溜息を付き、美琴に近いて頭を撫ぜる
「あのな。何で今日はそんなにテンパってんだ?先は長いんだからゆっくり行こうぜ?」
「ふにゅ。あ、頭っ子供扱いしないでよ。それとその、さ、先は長いって?」
「あん?幾らなんでもちゃんと責任取る気でいるんですが?大体子供扱いしてたらこんな話にならねぇだろが」
「ぁぅ……えっとえっと、あわわわわ……」
「だーかーらー、何で今日はそんななんですかー!?美琴の事だから何か大事な記念日か?しかし何があった……」
ふと、とある可能性に思い至った上条の背中に嫌な汗が吹き出る。
不自然に止まった上条を見やって美琴は振り返って見上げた。色々あった性でとんでもなく可愛らしい状態になっている。
上条は今日一日の妙にテンパっていた美琴の様子、特にどうもアレな内容について過敏になっている事、今の態度、それに記念日という単語を混ぜてある回答を導きだしてしまった。
「……あの、もしや美琴さん?口に出しては言いにくい様な事をご所望でしょうか?」
「ふぇ!?えええええっと、それはその、アンタ、んっ。と、当麻が望むなら。私は……」
「いやいやいやいや!?そこまではまだ責任が持てません!!せめてもう数年後にお願いします!」
「どうして!?さっき責任取ってくれるって言ったじゃない!?とっても嬉しかったのに、私ってそんなに魅力ない!?」
「いや、それは関係ねぇ!?そうじゃなくて、あの、その、いくらなんでもまだ子供は早いと思んです」
「……は?こここ、子供おぉぉぉ!?」
「今日は3月25日。十字教では聖母マリアお告げの祝日。所謂、受胎告知の日……だけど、ダメです!そんなの早すぎます!」
「ち、ちがっ、バババババカァァァァーーー!!」
「うぉっ!?おまっ、室内で暴れるな!電撃はやめろぉぉぉーーー!?」
「当麻のばかばかばかばかばかーーーーー!!」
美琴的には単純に好きだから(気分的な)初めてを捧げても良いと決断していたのだが、
魔術サイドとインデックスに関わった性でいらん十字教知識を覚えてしまっていた上条の誤回答に美琴が暴発。
桃色な空気を振り払って壮絶な怒りの攻撃が始まった。
「どこ!?俺どこで選択肢間違ったの!?ああ、もう不幸だーーーーー!?」
「恋人といて不幸ってどういうことよーーーー!?」
――上条的に久方ぶりな鬼ごっこが始まる。