とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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鼻歌の秘密


「はぁ…不幸だ…」
七月、初旬。
夏休み目前という事もあって、通常の生徒であれば午前中の授業のみで帰宅できる。
が、上条は定期試験直後だというのに、担任の小萌先生からの呼び出しにより午後まで補習を受けていた。
ようやく補習が終わってみれば、すでに夕刻で完全下校時刻も近い。
こんな日は、素直に帰って家で大人しくしているに限る。
何も用事が無いのに外をフラついて、不幸を増やす必要は無いのだ。
さて、いつものスーパーで食料でも買って帰るか、と気持ちを切り替え鼻歌交じりに歩き出した。

フフフン♪フフフン♪フンフンフ~ン♪

「あっ、いたいた! アンタよアンタ!! 止まりなさいってば!」
どだだだっと、勢いよく誰かが近づいて来る音がする。
「あれ?今日はもうこれ以上不幸になりたくないというのに、何か幻聴がする…明日は耳鼻科にでも行かないとダメかな?」
少し涙目になって、遠くを見つめてみた。
「人を幻聴扱いするな!! ってか、私に会うとアンタは不幸になるってのか!!」
ぎゃぁぁ!と騒ぐ美琴。仕方ないので、声をかけてやる事にする。
「あ~…やっぱりビリビリ中学生…」
「ビリビリ中学生言うな!! アタシには御坂美琴ってちゃんとした名前があんのよ! 何回言ったら覚えるのかしら!」
という彼女は御坂美琴。学園都市でも5本の指に入る名門、常盤台中学の学生かつ7人しか居ないレベル5の第3位である。
「名前の事はまあいいわ、あとでじっくりとその脳に刻みつけてあげる。 とりあえず―――」
「とりあえず今日は勝負無しで。 完全下校時刻も近いし、上条さんはこれから食料の買出しに行かないといけないのですことよ」
んなっ!?と、言い終わる前に見事に牽制されて固まっている美琴に対し
「それに、常盤台のお嬢様には分からないかもしれないが、普通の学生は食料は自分で調達しないと行けないんだぞ?」
「そんなの分かってるわよ!」
「それじゃこのまま帰るのに異論は無いよな? それじゃ…」
「待ちなさい! アンタがウソ言って逃げないか確かめてあげる」
「別に止めはしないが…ただ買い物に付き合うだけになると思うぞ? それでも良いなら止めはしないけど」
とりあえず、今日は勝負はしなくて良さそうだ。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

もちろん美琴は上条に付いて行く事にした。
(途中、コイツがアクシデントにでも巻き込まれて能力でも出してくれれば万々歳だわ…)
と能力を観察する機会を狙いつつ、上条の少し後ろを歩く。
が、狙っている時に限って何も起きないのが世の常。結局、そのままスーパーに辿り着いてしまった。
上条は入り口でカゴを1つ取り、すぐ近くにある野菜のコーナーへと進み食材を選び始める。
先程から、自分の存在をスルーされている気がする。
スルーされているのは気に入らないが、それとは別に
(へ~…食材の今の値段って、こんな感じなのね~)
と、来る機会の少ない売り場に新鮮さを感じた。
食材を選ぶ上条の姿も意外で、注意深く観察を続ける。

フフフン♪フフフン♪フンフンフ~ン♪

献立でも考えているのだろうか、上条が鼻歌を歌いだした。
(この鼻歌、さっき私が声をかけた際も歌ってたわよね? 何か気に入ってる曲なのかしら…)
観察も必要だが、一度気になってしまうと答えが出てこない事がスッキリしない。
「お~い、もう必要なのは選び終わって残りは会計だけだから、先に出入り口辺りで待っててくれ」
「えっ!? あ、うん。分かったわ」
素直な反応に上条はビックリしていたのだが、考え事に没頭している美琴は気がつかなかった。
出入り口辺りに移動し、ん~…と悩み続けた美琴は一つのラブリーミトンと以前流行ったとある曲を思い出す。
(にょわっ!ひょっとしてあの歌って、『ケロヨンとピョン子のお風呂数え歌』!?)
(ひょっ、ひょっとして、アイツもケロヨン愛好家(マニア)の仲間なのかしら…以外な所で同志に出会えたかも!?)
(でも待って! これはひょっとして、ケロヨンで油断させようとするアイツの罠なんじゃ…)
普通に考えればそんな事は無いのだが、以外な所で出てきたケロヨンに冷静でいられない。
う~んと唸ったと思ったら、愛しのケロヨンを思い出してニヤニヤ、かと思ったら少し青ざめた表情。
と、スーパーの出入り口なのに人目もはばからずに表情をコロコロと変える美琴がそこにいた。

「お、お待たせ~。 用事は済んだんで、帰りますよ~?」
「えっ? あ、うん…」
そんな美琴の様子に声を掛けた上条が若干引いていた、のだが美琴自身はそこまで気が付かなかった。
あとは帰るだけなのだが、特に話す事は無く微妙な空気に包まれる。
耐え切れなくなった美琴は途中で声を掛けてみた。
「ねぇ? アンタがさっき歌ってた鼻歌って、少し前に流行った歌よね?」
「ん~…そうだっけか?」
「ひょっとして、アンタはそういうのが好きなの?」
「いや、特別好きって訳じゃね~よ? 嫌いって訳でもね~けど。」
「他のヤツは知らないが、鼻歌ってふと歌うからどんな曲を~とかは意識してないけどな」
改めて考えてみれば鼻歌なんてそんなものか、と思い直した所で
「俺、こっちだから。 んじゃな~」
「待ちなさいよ!」
と止めるも、上条は逃げるように去っていってしまった。
追いかけようかとも思ったが、今ひとつそんな気になれない。
どうも今日は、いつも以上に終始タイミングをそらされている気がする。
勝負する気を反らされてしまい、美琴も素直に帰る事にした。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

その日の夜―――
常盤台中学学生寮、208号室。

フフフン♪フフフン♪フンフンフ~ン♪

夕飯と風呂も済ませた美琴が、明日の準備などを進めていると同居人の後輩、白井黒子が話しかけてきた。
「お姉さま…実は今日、風紀委員の仕事で防犯カメラを確認する機会があったのですけれど」
「ん? 何かあったの?」
「防犯カメラに、お姉さまと殿方が一緒に出歩いている映像が少々映っていたのですが…まさか、殿方とデートなどされてませんわよね?」
突然の質問に、美琴がブハァァ!!と凄まじい息を噴出す。
「まあ…お姉さまは最近、何か勝負事に夢中なようですのでそんな事はないのでしょうけども…」
「そっ、そうよ。そんな事する訳無いじゃない!!」
夕方、上条と一緒にスーパーを回ったのは他人からみればお買い物デートに見える。
しかし美琴自身は気が付いて居ない。
それより…と黒子が続ける。
「お姉さまって、以前からそんな鼻歌でしたっけ?」
「ん~…そうだっけ? 鼻歌ってふと歌うからどんな曲を~とかは意識してないけど…?」
「ま、気のせい…ですわよね。 それよりも、歌うのであれば私との愛の旋律(メロディ)を~!」
「黒子。もうそろそろ消灯の時間だし、いつまでもバカ言ってないで寝なさいよ~。 どうしても眠れない、って言うなら私が寝かせてあげても良いけど…」
「なっ、何でもありませんの!」
指先からバチバチッと軽く放電を始めた美琴に、黒子は顔を引きつらせつつ急いでベッドへと潜り込む。
黒子が大人しく寝始めたのを確認し、美琴もベッドへと移動し眠りにつく。
(…見てなさいよ。次こそは、負かせてやるんだから!)
そんな事を考えていると、美琴は心地よい眠気に襲われた。


彼女はまだ知らない、上条との対決を夢に見ている時の自分が笑顔になってきている事を―――
彼女はまだ知らない、段々と上条に影響され始めている事を―――
彼女はまだ知らない、これから始まる激動的な日々の事を―――


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