if.御坂美琴と上条当麻の会合[前編] 1
6月某日
「よぉ~、君。かわいいね~、俺たちと遊ばなーい、ぎゃははは」
(はぁ。この手のはホント絶滅しないわね)
不良にかわいいと言われた少女、御坂美琴は軽く嘆息をついた。
いつも絡んできてそして結局はいつも自分にやられる、そんなやりとりにそろそろ疲れてきたなと美琴は感じていた。
こいつらは私を学園都市第3位の超電磁砲《レールガン》だとなぜ気づかないのだろうか、そう考えたりもした。
「いやぁ、連れがお世話になりました~」
「へ?」「ああん?」
周りの人達は白状ではないのよね、などと考えているところに
ツンツン頭の目立つ、美琴より年上であろう少年が割って入ってきた。
しかも美琴を連れなどと抜かして。
「ということで、失礼しましたー!」
「ちょ、ちょっと!」
「おいこらぁ!」
そのツンツン頭の少年は不良になるべく関わらないよう、そそくさと美琴の手を引っ張ってその場をあとにした。
美琴は意味がわからなかった。どうして自分を助けようとしたか、おとなしく周りの人と同じようにしていればいいものを。
「はぁはぁ、ここまでくれば見つからないだろ、はぁはぁ」
意味がわからないままでは自分が面白くないので、
一応、聞いてみることにした。
「ねぇ、アンタ。どうして私を助けようなんて考えたわけ?
周りの人みたいに見て見ぬふりをしとけばいいのに」
「はぁ? 困っている人が目の前にいたら助けるのは当たり前だろ?
他の人もひでぇよな、目すら合わせようとしないんだもんな」
そうか、こいつはそういう奴なんだ、と美琴は思った。
困っている人がいたら何が何でも手を差し伸べるそういう奴なんだと。
「そう、ありがとね。アンタ、名前は?」
「俺か? 俺は上条、上条当麻。お前は?」
そのツンツン頭の少年は上条当麻と名乗った。
美琴はそのとき違和感を感じていた。なぜ名前なんかを尋ねているのだろうと。
しかし、そんなこといつまで考えていてもわからないと感じたので、美琴は相手の質問にも答えることにした。
「上条、ね。私は御坂美琴」
「御坂か、これも何かの縁かもしれねぇから、覚えておくよ」
「そう。じゃあこの辺で、また縁があったら会いましょう、上条」
「年下でしかも初対面なのにいきなり呼び捨てかよ……。じゃあな、御坂」
「じゃあね」
こうして二人の初の会合は終了した
if.御坂美琴と上条当麻の会合[中編] 2
8月20日
場所は自販機近く。
ここ3週間ほどの出来事が原因で美琴はかなり疲労が溜まっていた。
まず虚空爆破(グラビトン)事件に始まり、木山春生による幻想御手(レベルアッパー)事件と色々あった。虚空爆破事件ではあのツンツン頭、上条が変な能力を使い助けに入り、そのうえ助けたと名乗り出なかった。少しいけ好かないと感じた。
そして、今、絶対能力進化(レベル6シフト)実験というものに直面していた。
自分が人の役に立つならと思い提供したDNAマップ。それが自分のクローンを作り、そして殺して、学園都市第1位をレベル6にするために悪用されるようになっていた。
美琴はそれを止めるために、研究所をいくつも潰して周った。途中わけのわからない連中とも戦った。
そして最後の研究所が手を引いていたため実験は終わったと思い今に至る。
(もうあの子達は死ななくても大丈夫よね?できることならもうあの子達とは会いたくない)
美琴は今、自分のクローンに会うと実験をやってるんじゃないかと心配になってくる。そして、こんな実験のためにDNAマップを提供した自分は会う資格ないとも感じていた。
(はぁ、最近黒子達とまともに会話できてないなぁ。上条とも会ってないなぁ。会いたいなぁ、って何言ってんのよ私はぁぁあああああ!?あんないけ好かない奴と会いたいなんてぇぇええええ!!ってあれ?)
自己嫌悪している途中で美琴は自販機の前で何かやっている人物に気がついた。
その人物はツンツン頭が目立つ高校生だった。
「あっれー?おかしいな、金は入れたぞ?なんで出ないんだ、ちくしょう不幸だー!」
美琴はちょうどのどが渇いていたので、その知り合いであろう少年に声をかけることにした。
「ちょろっとー?私も飲み物飲みたいから、上条そこどけてよー」
美琴はその少年をどかすと小銭を財布から出し、自販機に入れようとした。
そこで少年はおかしなことを口走った。
「ああ、すいません……って誰だ?常盤台のお嬢様?」
「……はぁ?アンタこの暑さで頭おかしくなっちゃったんじゃないでしょうね?御坂よ。御坂美琴。アンタ、上条でしょ?上条当麻」
「あ、ああ、すまん、そうだったな」
美琴の知り合いであるその少年は変だった。
美琴から見た目でも少年、上条当麻は変だった。
だが今はいろいろなことがあったのであまり深く考えないようにするのだった。
「……たくっ、ちゃんと覚えておきなさいよね。後、この自販機、お札は飲み込むわよ」
「な、なんだってー!?俺の財布の全財産がぁ……」
「ぜ、全財産!?いくら自販機に入れたのよ?」
「……うっ!」
上条は明らかに動揺した声を出した。
美琴はさらに問い詰めることにした。
「いくら入れたの?笑わないから、言ってみて」
「……2千円」
「は?」
「2千円だー、ちくしょう!」
「……く……あっははははははは!やめてよ、笑い死んじゃいそう!」
美琴は笑わないといったが、上条の発言に耐えられなかった。
「笑わねぇっていたのに……どうせ上条さんは不幸ですよー!」
「ご、ごめん、ごめん。そんなに自暴自棄にならないでよ。2千円くらいなら貸してあげるわよ。なんなら飲み物も奢るわよ」
「え?ホントですか御坂さん!」
「う、うん。本当だからそんなに迫らないで」
「あ、悪ぃ」
上条に近づかれた美琴だったが、そんなに悪くは思わなかった。
どうして悪く思わなかったかも、気にならなかった。
それが上条へ対するある感情だと美琴はまだ気づいていない。
――――――――――――――――――――――――――――――――
自販機で飲み物を買った二人は近くのベンチまで行き座っていた。
このとき自然と美琴は上条に近寄っていた。
だが二人ともそんなことには気づかない。
「2千円札なんてよくあったわねー。すっかり絶滅してるかと」
「うるせぇ、これでも上条さんの全財産なんだぞ。絶滅したとか言うんじゃねぇ」
「あーはいはい。2千円借りる相手にそいう態度なのね。もう要らないって事か」
「すいませんでした、御坂さん!」
上条はすぐさま土下座モードに移行した。
そんな上条を、美琴はジュースを飲みながら楽しげに見ていた。
「お姉様?」
そこに美琴には聞きなれた、上条には聞いたこと無い声がかかった。
美琴はその声の主に気づき、瞬時に固まった。
「ん?誰だ?」
上条は声の主のほうに向き当然である疑問をその人物に投げかけた。
「あらあら、お姉様じゃありませんの。まぁ、こんなところで」
「……無視か。ん?お姉様?お前、妹がいたのか!?」
上条が驚いて美琴に聞くが、いまだに美琴は固まったままだった。
「私は白井黒子と申します。お姉様の露払いをしていますの。どうぞ以後、お見知りおきを」
白井と名乗った少女はいかにもお嬢様らしく、スカートの端をつまんで上条に一礼した。
上条は、「なんだ妹じゃないのか」、などと呟き自分も名前を名乗った。
「それにしても……まぁまぁ、最近帰りが遅いと思ったら、お姉様はこんなところで殿方と密会なさってるなんて。この方は彼氏なんでしょうか?」
上条が彼氏というのを否定しようとしたら、いきなり美琴が目を見開き、顔を真っ赤にさせ、叫びだした。
「あ、アンタは、こ、こいつが私のかかかかか彼氏に見えんのかァァあああああ!!」
美琴は慌ててビリビリしながら否定をした。
上条は電撃を見て驚いていたが、違うことが上条の気にかかり、「叫び声を上げて否定することは無いだろう」、と呟いていた。
「おっほっほ。そうでしたか。ですがお姉様。密会はほどほどにしてくださいまし」
「密会でもないわよ!!黒子ぉ!!」
美琴は赤い顔で電撃を飛ばすが、白井は、「では」、と言い残し空間移動でその場からいなくなった。
美琴はその赤い顔のまま、「か、彼氏……」、と呟いていた。
もちろん、上条には聞こえていなかった。
「お姉様?」
そうこうしているところへ、また美琴をお姉様と呼ぶ声が美琴の後ろから入ってきた。
上条は、「新手か!?」、とよくわからないことを言い、美琴のほうを見てみた。
そこには美琴がいた。
美琴が〝二人″いた。
「ほ、本当に妹!?しかもそっくり双子さん!?」
上条は現状が理解できていないようだった。
「アンタ……なんでここにいるわけ?」
美琴は極めて冷静にその〝妹"に質問した。
だが上条に見えない美琴の顔には汗が流れていた。
「ミサカは今、研修中です、とミサカは現在の自分の状況を説明します」
上条は、「変なしゃべり方だな。しかも一人称が御坂って」、と一人何も理解できないままゴチていた。
しかし、美琴はまったくそんなことはなかった。
「そう。じゃあ、ちょろっと私に付き合ってもらおうかしら?ということで上条とはここでお別れね。さようなら」
美琴の声は据わっていた。
上条は美琴の様子がおかしいことはわかっていたが、なにも答えれなかった。
「じゃあ、行くわよ。付いてきなさい」
「いえ、ミサカにもスケジュールが……」
「いいから」
「来なさい」
美琴はさっきとは違い明らかに怒気の混じった声で妹を黙らし、手を引っ張って、早足で上条から見えなくなるまで遠ざかった。
「……なんだったんだ……?」
結局、上条はなにもわからなかった。
だが、上条はこの後、美琴の〝妹″がどんな存在かを知ることになる。
if.御坂美琴と上条当麻の会合[後編] 3
8月21日深夜
御坂美琴は第7学区の大きい鉄橋の欄干に体を預けていた。
先日、上条当麻と分かれた後、自分のクローンを連れて“実験”について問いただした。
その結果、得られた情報は実験はまだ終わってないということだった。
「……」
その際、美琴はショックで一切言葉が出なかった。
泣くこともできなかった。
そして、美琴は決意した。
(あの子達を助けるためには、自分が死ぬしかない)
美琴自身が死ぬ。それによって『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の演算結果を狂わせてしまうことによって、実験を止めるのだ。
自分が死ぬことによって妹達が助かるのなら本望だ、と美琴は考えていた。
だが、
「……誰か……助けてよ」
泣いていた。そして助けを求めていた。
そんなことを願っても助けは来ない。涙は止まらないし、嗚咽も漏れる。
十分わかっていたが、美琴は願った。
そして、最初に頭に映った顔はあのツンツン頭の少年だった。
(そっか、私……でも、もう……)
そして美琴が何かを悟ったときだった。
「……助けてやる、助けてやるよ」
ありえないはずの声が聞こえた。
美琴はそちらに向くと、何も知らないはずの先ほど頭に浮かんだ少年が目の前にいた。
「……どう、して?」
美琴はあまりの驚きにそれしか口に出せなかった。
少年、上条当麻はその問いに答える。
「どうして、じゃねぇ。お前が救いを求めている。それを俺は成し遂げたいだけだ。だから俺は助けてやる。お前も御坂妹も、それが一方通行(アクセラレータ)であっても助けてやる」
「どう、して……」
疑問が口から出たがすぐに美琴にはわかった。
そうだった、こいつはこういう奴だった、と。
泣き崩れそうだった。いや、泣き崩れていた。
「あいつの場所を教えてくれ」
何もできないまま、上条に場所を教えた後、しばらくそこを動けなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
8月22日昼過ぎ
とある名医のいる病院のとある病室の前。
美琴は考え事をしていた。
結果だけを述べると上条は学園都市第1位、一方通行(アクセラレータ)に勝利し、実験を中止させた。
なぜ、上条が戦ったというと、無能力者である上条が一方通行(アクセラレータ)に勝つことで演算結果が誤りだということにし、実験を中止させることになるというものだった。(上条の考えである)
だが、上条は体がぼろぼろになるまで戦い、妹達や美琴の協力があり、やっと倒せたのであった。
そして美琴はそのぼろぼろになり入院した上条の病室の前にいるのだ。
(伝えたいこと、聞きたいことがある)
そう美琴には上条に対して言いたいことがある。
まず、昨日気づいた気持ち。
そしてなにより気になるのは一昨日の上条の自分に対する反応だった。
(よし!)
上条の病室前でわりと長い時間(長くなってしまったのは気づいた気持ちを告げるかどうか悶えていたため)考えていた美琴だが決意をすると病室のドアをノックした。
中からどうぞ、と聞こえたので開けて入りながら第一声を発した。
「ど、どう? 元気にしてる?お見舞い持ってきたけど」
そう言う美琴は若干顔が赤かった。
「ああ、御坂か。まぁ、元気ちゃ元気だ。麻酔切れて少し痛むけど」
「ありがとう、妹達のこと」
「気にすんなって。俺がやりたくてやったことなんだし」
「そう……」
実験を止めたことのお礼を言うと美琴は早速切り出した。
「あのさ……聞いてほしいことがあるんだけど」
「ん? なんだ? 上条さんは何でも聞きますよ」
上条はあまり心構えなどはしていない様子だった。
それを見ながら美琴は、
「……わ、私、アンタが、上条当麻が好きなの……」
「へ? それはどういう――――」
「もうちょっと続きがあるから黙っててくれる?」
「……」
赤い顔で告白をした美琴。上条は間抜けた声を出した。
だが、美琴の次の言葉に真剣身を帯びていることに気づき黙る。
「こんなのを言い訳にするのも自分でどうかと思ってるんだけどさ。やっぱりアンタのこと好きだからアンタの事を知りたいの」
「……」
「……アンタ、もしかして記憶喪失じゃない?」
「――――ッ!?」
そこで、上条は美琴が今まで見たこと無い顔をした。
やはり、と美琴は思った。上条当麻は記憶喪失なのだ。
「……やっぱり。自販機の前で久しぶりに会ったときの上条は何かおかしかった」
「ああ、……俺は今、記憶喪失、正確には記憶破壊って言うらしい。もう記憶が戻ることは無いかもしれない。だから俺は“前”の自分を演じてる。」
上条の言葉は何か悲しさを帯びていた。
美琴は黙って聞いていた。
「お前と初めて出会ったときは少し気が抜けてたかなぁ。すぐに知り合いと分かれば隠し通していたんだけど……」
そう一人で語る上条は後ろめたさがある感じだった。
まだ美琴は何もリアクションを起こさない。
「それで、さっきの話だ。いいのか? 俺はお前の知る“前の上条当麻”じゃないんだ。それでも俺のことを――――んぐっ!?」
話続けていた上条の口が止まった。
美琴がリアクションを起こした。上条の唇を美琴自身の唇で塞いだからだ。
「ばか!そんなこと言わないでよ!私の好きな上条当麻は目の前にいる上条当麻。それだけでいいのよ!前とか今とか言わないでよ!アンタは……アンタなんだから……」
「……」
泣いていた。美琴は泣いていた。
それを見ている上条はすごく申し訳ない気持ちで一杯になっていた。
「ごめん。お前の気持ちも考えてやれてなくて。そして、ありがとな」
「……ばか……ごめんは余計でしょう」
二人は見つめあう。
「そうか。じゃあ……ありがとな、“美琴”」
「どういたしまして、“当麻”」
そして、お互いの唇を重ね合わせた。
その瞬間の美琴の顔は涙で濡れていたが、実験が続いてた時では信じられないような、とても幸せそうな表情だった。
☆おまけ☆
「ところでさ……」
美琴は見舞いに持ってきたりんごを切りながら上条に話しかけた。
「なんだ?」
「私たちってこ、恋人になったんだよね?」
顔を赤くしながら言う美琴。
「そうだな。俺は拒否しないぞ?」
「よかった……。でさ当麻は実験を知ってたってことは私の部屋に入ったわけよね?」
「え?な、なんのことでせう?」
上条はあきらかに動揺しきった声を出した。
「ほうほう。この彼氏は彼女に嘘をつくんだー。じゃあ、私も嘘付いて引っ張りまわそうかなぁ?」
「すいませんでしたー!」
上条は怪我の痛さも感じさせないほど、綺麗な土下座をベットの上でして見せた。
「まぁ、いいんだけどさ。そ、そのかわりさ、今度デート連れてってよ。アンタが内容考えてさ」
「ん?それでいいのか?それならこの上条さんに任せなさい?」
(や、やったー!)
さりげないデートの取り付けに奥手の美琴さんは喜んでいたとか。