とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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 簡単に言えば、ちょっとした面白半分のちょっかいだったのだ。
 なぜ自分が好奇心にかられてあのような行為に及んだのか、まったくもって後悔しきりのツンツン頭な男子高校生が夜の街を走っていた。
 この街――日本であるが日本の法律やモラルが通用しない、独立した国ともいえる超能力者育成機関――学園都市のとある一角に彼は居た。
というよりそこに追い込まれているといっていいだろう。
 この男子高校生、上条当麻が蒸し暑い残暑の夜が全ての原因でない大量の汗を手で乱暴に拭っていると、
ピリっとした刺激が拭っていた左腕に生じる。
「もう追いかけっこは終わり? はっ、なっさけない。自分から売ってきた喧嘩じゃない」
 上条を追い詰めることに成功したからなのか、どこまででも油断した、それでいて咄嗟の動きが出来るように隙を見せない彼女が姿を現した。
 オシャレを気にしだしたのか最近髪留めを変えた彼女は、お嬢様学校として有名な常盤台中学の制服を乱すこと無く走っていたらしく、
汗だくな上条と違って涼し気な顔をしている。どうせ能力を使って上手いこと熱を逃がしてるんだろうと踏んだ上条だがそれを口にはしない。
「な、なぁ御坂。俺が悪かった。こんな糞熱い夜にまで追いかけっこやる必要なんて無いだろ。な?」
 年上の男子として最大限に情けない顔の上条の満足したのか美琴はふふんと鼻で笑う。
ようやくお許しが頂けるのですねと上条は笑顔になりかけ、そこで始めて美琴の額の辺りから青白い閃光がピリピリと漏れ出しているのに気付いた。
「あ……あのぅ御坂さん? その準備体操のストレッチ的な放電はナニかな?」
「私の電撃であんたの記憶を消すためよ」
「すっ、ストレートに危ねぇ事を言ってんじゃねぇええええ!!!」
「うっさい!! 大人しく私の電撃に灼かれてこの三十分前後の記憶を無くしたり失ったり、もしくは私に負けたという現実で上書きしちゃいなさい!」
 逃げ出そうと踵を返す上条を逃さないように美琴が放った電撃がアスファルトを焼いた。
ゆっくりと美琴を確認しながら、上条はどうしてこうなったのかと思い返していた。

 記憶を失う前の自分がいつから匿っていたのか知らないが、居候のくせに大食いな修道女――
インデックスを家に置いてきて上条は大きくため息を付いて歩いていた。
 学園都市での生活は親からの仕送りで何とかなるものの、それは両親が想定した『一人暮らしでは』という範囲内の話だ。
学園都市には能力者のレベルや能力に応じて研究協力費というものが出ているのだが、
そんなもの無能力者の上条はまったくもって関係が無い。
「ま、上条さんはそんな事ちっとも気にしてないのでございます。全然、ぜんっぜん悔しくないのでございますよ」
 以前運命が交差したローマ正教の修道女オルソラ=アクィナスみたいな口調になってしまったが、
そんな事は薄っぺらい財布の中身に比べれば気にするべきじゃない。
 インデックスに夕飯の支度を頼んだのが間違いだったのだ。と、後悔してみても、まったくの機械音痴というか科学に滅法弱いのを忘れていた自分が悪いのだから、
結局は自分が悪いという結論に達してしまう。まぁ、普段の彼女が見せないおどおどとした「……ごめんなさい」なんて言葉を聞けば
怒るに怒れないというより、逆にうろたえてしまってこっちが罪悪感まで感じてしまうのだ。
「とにかく。コンビニで一番安い弁当を買ってさっさと帰らないと、私くめの頭がインデックスさんにガブリと噛じられちゃいますのことよ」
 すっかり暗くなった辺り一面をビッカーと凄まじい光量でもって照らしている学園都市のコンビニエンスストアに上条は立ち、
薄い財布をズボンのポケットに確認しながら入ろうとして――中から飛び出してきた少女にタックルを食らった。
 それはタックルでも無く彼女が外を確認せずに飛び出してきただけなのだが、ふわっと甘い匂いが上条の鼻をくすぐる。
倒れないように踏ん張って自分と彼女の身を守り、腕の中にすっぽり収まった格好となった柔らかな物体からパッと離れた。
「あぁ、大丈夫? 財布の方に頭が行ってて確認してなかった」
「こちらこそすみません。漫画を読んでいたら時間経っちゃってて。急いでいて」
 互いに頭を下げているのか早口でまくし立てていて、そこでふと気になることが出てくる。この声を知っているぞ? と。
 恐る恐る頭を上げていくと、彼女の方も思うところがあったのかゆっくりと顔を上げているところだった。
 ここ一ヶ月で頻繁に見るようになった常盤台の制服。そして、頻繁に見るようになった顔があった。
「み、御坂か?」
「あんただったんだ」
 お嬢様学校に通うお嬢様を怪我させたとあってはとビビリまくってた上条だったが、相手が美琴と知っては途端にダレた。それも思いっきり。
 美琴の方はというと、条件反射で臨戦態勢に入ろうとしたのだが、偶然とはいえ上条に抱きしめられたような先程の体制やら、
思った以上に逞しかった上条の――男性の体の感触に顔を赤く染めていた。
「怪我……は、まぁ無いよな。んじゃ。俺は夕飯買わなきゃならないんで」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。無用心にしてるからぶつかっちゃったんじゃないの」
「あのなぁ。確かに俺も悪かったけど、お前も前を確認せずに寮の門限守ろうとダッシュしてきたんじゃないか。ここは互いに悪かったということで」
「それは、そうだけど」
「もう何もないだろ? じゃあ……な?」
 と、美琴の足元にはぶつかった際に手を離したのであろうビニール袋が落ちていた。
ビニール袋から飛び出して見えるのはティーン向けの女性誌である。その女性誌はめくれていて、とあるページが開かれてあった。

『今からが本番! 食欲の秋は女の敵じゃない!? ここで上手くダイエットと食欲の秋を組み合わせることで
バストサイズだけを増加させてみよう! 今時の女性は両方得をしなきゃダ・メ☆』

 残暑でまだまだ暑いはずの夜の風が急に涼しく感じたのは上条の錯覚では無いはずだ。現にダラダラと汗が止まらない。
 上条に気付かれまいと慌ててしゃがみこもうとした美琴の手は宙で止まり、そしてプルプルと小刻みに震えている。
「さ、さーて上条さんはお夕飯のお弁当を――」
「待って」
 大げさに体を動かしてコンビニの中に避難しようとしていた上条はそんな少女の一言で動きを止めた。
体が干からびかねない勢いで汗が噴射している上条は、何とか首だけ動かして美琴の方に視線をやる。
しんと静まり返った夜に自身の鼓動とコンビニの呑気なBGMだけが辺りを支配していた。
「な、なんでせう御坂さま」
「見たわよね?」
「何をでございましょう。わたくし上条当麻は何も見ておりませんし、そもそも御坂さんは何をそんな冷酷な表情をなされておいでで?」
 ふるふると小刻みに震える美琴は、普段ならビリビリっと電撃をぶちかましている展開でも不思議と何の行動も起こしていなかった。
それが恐ろしさを何十倍にも増幅させているのだが。
「自分に言い訳をしながら『これを買うのはただ単に秋のファッションの流行を知りたいだけなんです』だなんて店員さんに見えるように演技もして。
買おうか買うまいかずっと悩んでいたから寮の門限に間に合わなくなっちゃって、急いで出たらあんたとぶつかって……」
「み、御坂さん?」
「ねぇ! 何も見てないって言いなさいよ!」
 それで助かるのならと上条は思わず土下座をしそうになる自分に涙しながら、先程からコンビニの出入口の真ん前で立ち往生してるために
自動ドアが閉じたり開いたりするので店員さんからのキツい視線を受けながら、それでも泣かずに美琴と相対した。
「そ、それで良いなら……言うぜ!」
 唾を飲む美琴。そして、店員以外のコンビニ利用者も学生の痴話喧嘩がクライマックスにさしかかったと固唾を飲んでいる。
「俺は何も見てない! 御坂が、どこかの雑誌の企画者が売上アップの為に毎年毎季と
『おいおい、それって去年か一昨年に同じこと書いてなかったっけ?』的なバストアップ法を載せた雑誌を、
悩みに悩んだ末にようやく決心して買って逃げるようにして出てきた所を俺とぶつかって落として内容まで見られちゃったなんて、俺は知らない!!!」
 しんと静寂が訪れる。
 コンビニのBGMはちょうど自動ドアが閉まった事で二人の耳には入ってこない。
 コンビニの店員は耳をほじっていたり、コンビニ利用者は諦めたような顔を上条に突きつけていた。
 そして、みんなして同じようなことを考えているのがまるわかりな表情をしているのである。
 つまり――
『ご冥福をお祈りします』と。
「ねぇ。あの生意気な銀髪シスターにお祈りの仕方は習ってる?」
「ど、どうしてなんです?」
 恐る恐る尋ねる上条に、美琴は自分の通う常盤台中学の下級生に対して向けるような、百点満点のお嬢様スマイルを放ちながらこう答えた。



 足がガクガクと震えまともに立っていられない。
そんな上条の姿を見て満足したのか、追ってきた少女は軽く雷を放射させ路地を一瞬照らした。
彼女にとっては能力を使った簡単な現象に過ぎないのだろうが、上条にとっては右手以外に当たれば酷い事になること確定の攻撃だ。
 文武両道を地で行くお嬢様でも多少は息が上がっているのか、表情から余裕という文字が少しばかり崩れている。
「もう終わり? 残念ね。私はまだまだ余裕あるけど?」
 常盤台中学指定のローファーを鳴らしながら標的へと近づく。ゆっくりと時間をかけ、自分が勝者であると相手に認めさせる為に。
「なぁ御坂」
「何よ」
 一応、口を開くことくらいは許可したのか立ち止まる。
「俺の負けで良いからいい加減にだな……」
「勝ち負けの問題じゃない。私の目的は記憶の除去だから」
「だーかーらー、そんな電気ビリビリっとやって記憶を消すなんて、わたしくめは家電やパソコンじゃねーんですぞ!」
「じゃあどーすればいいのよっ」
「俺が口外しなきゃ良いだけの話だろっ。流石に家に帰らないとマズいっつーか、ヤバいんだよ!」
 そう、家では腹を空かせたインデックスがならばお前が餌になるのかと牙を磨いているに違いない。
上条の意外な剣幕に美琴はビクっと一瞬怯んで、それから自分が怯んだという事実にカァっと顔を赤らめた。
「うっさい! いっぺんクリーンヒットしたら帰るんだから、潔くバシっと当たっときなさいよ!」
「その一発が異様なレベルの攻撃だから俺は必死で逃げてるんじゃねぇか!」
「今の今まで私の攻撃を一度として受けたこと無いじゃない。どんな技か知らないけど私の電撃をまるで無かった事のように打ち消しちゃってさ」
 美琴はこれまでの追いかけっこを思い出しながら吐き捨てるように言った。上条は学園都市の噂にある
『どんな能力も効かない能力を持つ男』という都市伝説になった男だ。
どんな仕組みか分からないけれど、こいつは悪い男では無いとは美琴は考えた。
 だから――
「だからイラっとくるのかしらね。私に勝った事を誰かに言いふらすこともしないし、勝ち誇ることもしない。
この超能力者(レベル5)の私を普通の女みたいに扱っちゃってさ」
 美琴の投げかけに上条は落ち着いたのかアスファルトの上に寝転んだ。
「だって、お前も普通の女の子だろ?」
「はぁ?」
「能力があるとか無いとかじゃなくてさ。そりゃあお前がその能力で悪さをしてたりするってんなら……知り合いになった以上は止めるけどな」
 そうすることが当たり前のように、まるで呼吸をするように告げる。
 始めを何を言われてるのか理解出来なかった。美琴は自分に向けて言われてる事なのかすら分からなかった。
無能力者が超能力者に対する言葉ではないのだから仕方がないし、守ってもらうのは無能力者であるお前だろうというツッコミすら面倒くさい。
 けれど、美琴はじんわりと全身が火照っていくが分かった。ぎゅっと胸の前で両手を合わせてもじもじとなる。
息苦しくなって、思わず短い息を吐いた。
「な、なんでトキメいちゃってるのよ私のハート!」
 わわわっとあたふたしてしまう美琴をよそに、疲れがとれたのか上条は立ち上がって帰ろうとする。
お前もさっさと帰れよーっと手をプラプラと振りながら去っていく上条の後ろ姿を見送りながら美琴ははっと気がついた。
「あっあの! さっき見たことは絶対忘れなさいよっ!」
「誰にも言わねぇよー」
 まるで信用ないくらいの軽い返事だったが、なんだかもうそれで良いような気がしてくる。
去っていく上条としては、家にいるインデックスにどう言い訳をしたものかと脳内シミュレーションに必死だ。
「本当に、絶対によ!」
 もう結構遠くからの声になったが美琴の声が聞こえてくる。聞こえてはいるが上条にはそれに応える余裕が無い。
「本当に本当だからねーっ」
 聞こえてはいるが応える余裕が無い。
「ねぇ聞こえてんのーっ?」
 聞こえてはいるが――
「ねぇってばー」
「あーもう、うるさいなぁ! ビリビリが体型保ちつつバストアップしたがってるだなんて、誰にも言わねぇよ!!!」
 全部口に出してから上条はハッとした。
 美琴とのやりとりをしている間に、人がまばらながらも居るようになった所まで来てしまっていたのだ。
周りは美琴に向けて常盤台中学のお嬢様でもそういうの気にするんだといった女性からの同情の視線やら、男性からの好奇の視線が集まっている。
ゴクリと唾を飲み込んだ上条は、先程から夜中なのにやけに明るい発光をしている後方にいるであろう雷神に向けておそるおそる顔を向けていった。



 鬼がいる。とは、こげ臭い体で家に戻った上条が言い残した言葉だった。
インデックスといえば腹が減ってイライラしていたのだけれども、ボロボロの姿でヘトヘトになって帰ってきた上条の介抱が先だったし、
もしかしたら自分の知らない所で魔術サイドとのバトルがあったのかと心配にもなって、上条を責められずにいる。
 うなされるように上条が唱える『リョウホウ トクスル ヒケツハ、ケッキョク ヒゴロノ ドリョク』という言葉に
十万三千冊の知識を持つインデックスが頭を悩ませるのはまた別の話。

 END


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