とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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はじまりのバレンタイン



 『ピロリロリンピロリロリンピロリロリン』

 いつも『ゲコゲコ』としか鳴かないはずのカエル型携帯から、カワイイ電子音が鳴った。
 御坂美琴は慌てて携帯を取りだし、その内容を確認する。
 その電子音は美琴が上条から連絡が入った際の呼び出し音に設定していたモノだった。

 to 御坂  from 上条
 件名 話がある
 内容 いつもの公園で待つ。

 その内容を見た美琴は、その素っ気ない文面を『アイツらしいな』と思った。

 実は美琴は今までずっと上条を探し続けていた。
 今日こそ自分の想いを告げようとしていたのだが、上条を見つけられずにいた。
 カバンの中には、美琴お手製のトリュフチョコが入っている。
 舞夏からレシピを借り、美琴が丹精込めて作った、そのまま売りに出されても恥ずかしくない出来映えの逸品だ。
 呼び出された場所である自販機の前にも行ってみたが、その時その場に上条は居なかった。

(アイツからの呼び出し……何だろ?……ま、まさか……告白……イヤイヤ、それは……、……ない……よね……。だって、あんなに毎日会ってるのに、会う度にビリビリやってたんじゃ……嫌われても……当然……)

 そう思った美琴だったが、上条からの呼び出しを無視することは出来ず、そのまま呼び出されたいつもの自販機を目指した。

 一方、上条も災誤先生に背中を押され、美琴を呼び出してはみたモノの……やはり踏ん切りが付かないといった様子だ。

(『前に進む』って決めたモノの、やっぱり『断られたら』って思っちまうんだよなぁ……ハァ……)

 先程からずっと葛藤が続いている。
 だが、“前に進む”と決めたのだ。その想いだけが彼を支えていた。

「い、いきなり呼び出して……何の用なのよ?」

 葛藤を続け、周りに目が行っていなかった上条は、美琴が来ていることに気付いていなかった。
 美琴に声をかけられ、現実に引き戻される。

「わっわわっ……あ、御坂か……」

「『御坂か』じゃないわよ。アンタが呼び出したんでしょ?一体何の用なのよ!?」

「ああ、スマン。……まさかホントに来てくれるとは……、思ってなかったから……」

「ハァ?何言ってんのアンタ?」

「わ、悪ィ……あ、あのさ……話って言うか、……ちょっと聞きたいことがあったっていうか……」

「……聞きたいこと?」

「……ああ、……この前、男の人と一緒に歩いてたろ?……アレ、誰なのかなって……」

「この前って……ああ、もしかして1週間くらい前のこと?」

「そ、それくらいに……なるかな?」

「アレは、今年の春、入学予定の子の父兄よ。寮の見学をしたいって言うから、案内してた……んだけど……」

「えっ!?ふ、父兄の人?(えっ!?じゃあ、もしかして……オレの勘違い……?)」

「そうよ、でも、何でそんなことをアンタが気にする訳?(コイツ一体何を気にしてるのよ?……えっ!?……まさかッ……でも……だったら……)」

「い、いや、……こっこの前、街で偶然見かけたから……チョット気になって……(ホントに、勘違い……だったんだ)」

「そ、そう……(き……気になって……って……もしかして……ホントにそう!?)」

「……」

「……」

「……」

「……」

「「あっ、あのさっ!!」」

「「あっ!?」」

「……」

「……」

「……(前に進むって決めたんじゃなかったのかよ!?何やってんだよ、オレ!!)……」

「……(コイツ、まさか……でも……だったら……イイな。聞きたい……。でも怖い……。怖い……。でも……聞きたい……)……」

「「あっ、あのさっ!」」

「「聞いて欲しいことがあるんだけどッ!!!」」

「「えっ!?」」

「な、何かさっきから、メチャクチャタイミングが……」

「良いんだか、悪いんだか……分からないね……私たち」

「そうだな……だったらさ……」

「そうね……一緒に……」

「「一緒に言おうか!?」」

「「じゃあ、せーの……」」

「「オレ(私)、上条当麻(御坂美琴)は御坂美琴(上条当麻)さんのことが好きですッ!!!」」

「「だからっ、恋人としてつき合って下さいッ!!!!!」」

「「ええっ!?」」

「み、御坂……お前……今ッ……」

「あ、アンタこそ……今ッ……」

「……」

「……」

「「ホントに、私(オレ)なんかでイイの(か)?」」

「……」

「……」

「「プッ……」」

「か、確認するのまで……一緒だなんて……」

「た、確かに……普通はそこまで……一緒にはならないよな……」

「「クッ……プッ……アハハハハハ……」」

「……ねぇ……“ギュッ”てして……」

「……ん……ああ……」

「こうして貰うのが、ずっと夢だった……」

「そっか……」

「ホントにかなっちゃうなんて……夢みたい……」

「オレの右手が触れてんだぞ。【幻想(ゆめ)】な訳は無いな」

「じゃあ、ホントなんだね……」

「ああ、ホントだ……」

「……」

「……」

(ザワザワ……)

「……」

「……」

(ザワザワ……ザワザワ……)

「……(何だ?ちょっと騒がしい気が……)……」

「……(せっかく良いムードなのに……何よ……)……」

「「えっ!?」」

 人通りが少ないとは言え、さすがにそれでも通る人は居る。
 往来のど真ん中で抱き合ってたら、それは目立ちますって、お二人さん。
 確かに、バレンタインデーですからね。そういう“今告白して出来ちゃいましたカップル”は、あちこちに見受けられますが……。
 そういうカップルは大体が初々しいものですよ。
 お二人のように、周囲の目を憚ることなく抱き合ったまま動かないってのは、ちょっと居ませんって。
 しかも美琴の制服は、学園都市でも5本の指に入る超有名な“お嬢様学校”【常盤台中学】の冬服。目立たないはずがないでしょ?

 という、筆者からの問い掛けをするまでもなく……。
 二人はいつの間にか自分たちの周りに出来た人集りを目にし、恥ずかしさのあまり、慌ててその場を立ち去るのだった。



 うん、既に“バカップル”してますね。(天の声)

「「してない!!!!!」」

 いや、その抗議は却下。(天の声)

「「~~~~~~~~~~~~~~~」」

 大丈夫、大丈夫。もうちょっと、イチャイチャさせたげるから。(天の声)

「「そ、それは……嬉しい……な……」」

 言ってろ。(天の声)



 ……と言うことで、二人を弄りすぎるのもアレなので、もう少し話を続けます。
 ん?……どなたです?「もっとやれ!!」なんて言ってる方は?

「あ~、もう……ビックリしたぁ~……」

「い、いつの間に……あんなに人が……」

「さ、さあ……?」

「恥ずかしかった……けど、……」

「けど……?」

「もうちょっと……(していたかったって言うか……)」

「お……オレも……もうちょっと……」

「「えっ!?」」

「「……あ、アハハハ……」」

「……」

「……」

「ね、ねぇ……コレからどうする?」

「……」

「ねぇ……」

「じ、実は……告白することに精一杯で……その後のコトなんて……何にも考えてませんでした……」

「こっこ、こういう時は男の方がエスコートするもんだと思うけど……」

「いっ……い、今の私めにそのような要求をされましても……そのような引き出しを持ち合わせてはいない上に、例え引き出しがあったとしても中味は完璧に空っぽな訳で……」

「……もう……でも、アンタらしい」

「無理難題を言ってくるのは、やっぱり御坂らしいぞ」

「え~~~~。む~~~~~~~~~~~」

「な、何でそんなにカワイイ顔で怒れるのですか?……というか、怒った顔も可愛いと思ってしまう私めは、どうなってしまったのでせう?」

「そ、そ、そう言うことは……言わない……で……(恥ずかしいから……ゴニョゴニョ)」

 ああ、もう……また勝手に二人だけの世界を作っちゃって……。

 しっかり二人だけの現実(バカップル・リアリティ)に入り込んでる上琴ですが、暦の上は春とは言え、やはりまだ2月。
 外に居るのは寒いわけで……。
 そこで、近くのファミレスでお茶を……と相成りました。
 それにしても……美琴はもう、しっかりと上条の右腕を掴んで離さないご様子で……。
 上条は右腕に感じる“柔らかいモノ”にドギマギ……。
 そんな二人が離れて向かい合う訳がない。
 二人並んで寄り添って、“バカップル・リアリティ”全開です。

「あ……あの、……お願いがあるんだけど……」

「お願い?」

「うん……あのね……」

「うん」

「名前……で、呼んで欲しいなって……」

「名前?」

「うん……それも、夢だったし……絶対にそうなりたいって思ってたから……」

「そっか……。じゃあ……み、美琴?」

「ひゃっ……ひゃいっ!……(い、今、全身に電気が走ったような……何コレ!?)」

「?」

「……もう一回……」

「……ヘッ!?」

「……もう一回」

「……美琴……」

「(ズキューンッ!)……もう一回」

「美琴」

「(ズキューンッ!バキューン!!)……もう一回!」

「美琴」

「(ズキューンッ!バキューン!!ドキューンッ!!!)……ふにゃぁ~~~」

「あ、……アレ?……オイ、美琴?美琴?」

「ふにゃぁ~~~……とーま……エヘヘ」

「ん?」

「とーま……ふにゅぅ……」

「なぁ、美琴?」

「えっ!?……あっ……えっ!?なになに?」

「何か俺の名前、違うっぽいんだけど……」

「えっ!?……アレ?……そう?」

「呼んでみろよ」

「う、うん……と、と……とーま」

「ん~……何か……違う?」

「えっ?」

「何か違う」

「えっ?……違う?……じゃあ、とうま……」

「ウーン、もうちょっと……」

「??」

「何か……足りないよーな気がするんだよな」

「……変な当麻?」

「あっ、それ。今の!!!」

「えっ!?」

「今のだよ、今の呼び方」

「……当麻?」

「そうそれ!」

「当麻」

「美琴」

「当麻!」

「美琴!」

「「~~~~~~~~~~~~~~~」」

 ……もう、好きにして……。

 いつものバトルモードはドコへやら。
 完全に甘々のお二人である。
 筆者は濃い目のブラックコーヒーがお好みなのだが、この二人が一緒に居るとお好みのブラックも、アンジェレネ好みの“チョコラータ・コン・パンナ”並に甘くなりそうだ。
 せめて、カフェ・モカ辺りで止めといて貰えると、有り難いのだが……。

「ねえ、当麻?」

「ん?何だ、美琴」

「さっき、私が当麻の知らない男の人と一緒に歩いてたのが気になったって言ってくれたでしょ?」

「ん……ああ……」

「何でそんなに気になったのかな?……って思って……」

「あ……アレは……その、美琴が……美琴がオレの見たことの無いような笑顔で、……笑ってたから……」

「ン~……?もしかして……それってヤキモチ?」

「ばっ、バカ言ってんじゃ……な……、いや……多分、そう……」

「キャ~ッ、当麻ってカワイイ!!!」

「うっ、うるせえ」

「フフフ、心配しなくたっていいわよ。アレは営業スマイルなんだから」

「え゛……営業スマイル?」

「そっ。アレは外から来た人向けの笑顔。……ホントの笑顔は……当麻にだけ……見・せ・た・げ・る」

「(バボンッ!!!)」

(コレは、かなりからかい甲斐がありそうね。エヘヘ~、ヤッタァ~当麻で遊べる日が来るなんて……キャ~、嬉しい)

「な、なんか今、スンゴイ悪寒が……」

「逃げようったって、そう簡単には逃がさないわよ。せっかく掴まえたんだから」

「美琴って結構独占欲強いのな?」

「アレ?今頃気付いたの?」

「……ま、まあな……。でも、ホントの笑顔はオレだけって……約束だからな!!」

「……当麻も意外と独占欲が強いんだ……でも、イイよ。当麻なら」

「キライになったか?」

「バカ……なる訳ないでしょ。それともそうなって欲しいの?」

「イヤだ。でももしそうなったら、今までの美琴以上に毎日付きまとってやるよ」

「あ、それ、イイかも?」

「え゛……?」

「フフッ……うそよ。……大好き」

「ああ、オレもだ」

 そう言うと上条は、美琴を静かに、そして優しく抱き締めた。


 そんな二人の楽しい時間はあっという間に過ぎ、美琴の門限時間が近づいてきた。
 上条が「寮まで送ろうか?」と聞いたのだが、さすがに誰に見られるか分からない。
 特に、美琴のルームメイトに見られたら……と思うと……美琴としてはそれだけは避けたかった。
 それにやはり恥ずかしさもある。そういうトコロは初々しいのな。お二人さん?

 という訳で、最初に待ち合わせをしたいつもの自販機の前に戻ってきた二人であった。
 さすがにこの時間帯になると、人通りはほとんど……というより全くと言って良い程無い。

「ホントにココでイイのか?美琴」

「う……うん、まだ誰かに見られるのも恥ずかしいし、それに万が一、黒子に見られでもしたら……」

「白井か……確かに……」

 上条が想像した黒子は、ツインテールが角になっていた。

「あ……そうだ……」

「ん?何だ?」

「ハイ……これ……今日はバレンタインだから……」

「あ、ありがとうな……」

「ど、どうしたの?」

「い、いや。オレ……何も用意してなかったから……」

「そんなの……バレンタインなんだから……」

「そうなんだけどさ……やっぱり……」

「……その気持ちだけで、充分よ」

「うん……でもさ……」

 そういうと上条は、美琴のほっぺに優しくキスをした。

「オレの初めてをプレゼント……って、カッコ付けすぎだよな。……アレ?……美琴?」

「~~~~~~~~~~~~~~~(ポンッ!!!)」

「美琴?どした?」

「~~~~~~~~~~~~~~~バカ」

「え゛……」

「こっこっここういう時は、くっくくっ唇にするもんでしょう……」

「あ、いや、それだと美琴の初めても奪っちゃうことになる……と思ったから……」

「……ホント、当麻は当麻なんだ」

「ヘッ!?」

「そんな気障なセリフが言えるなんて、ホントに当麻は当麻なんだから」

「な、何か……同じようなことを、他の誰かにも……言われたような気が……」

「でしょうね……」

「……うう」

「ねぇ、当麻。今度は私の初めてを奪って……」

「みっみっみ、美琴さん……いっ、いきなり何を……」

「当麻……」

「……美琴……」

 街灯に映し出された二人のシルエットがゆっくりと重なり、一つになる。
 いつもの自販機が、いつもとは違う衝撃を受けていた。
 そのお陰で、中に入っている“イチゴおでん”が一層甘くなり、一部の隠れファン達のブームになったとか、ならなかったとか。

「それじゃあ、今日はありがとう……。当麻、好きだよ」

「ああ、オレの方こそな。好きだぞ、美琴」

「「(テレテレ)」」

「あ、そうだ。当麻、明日の予定は?」

「ん~。確かコレといって予定はなかったと思うけど……」

「じゃあ、明日また、ココで待ち合わせしましょ?」

「ああ、いいぜ」

「もし、遅れたりしたら……分かってるでしょうね?」

「なっ、何でいきなりポケットに手を突っ込んでジャラジャラ言わせて居られるんでせうか?美琴さんっ!!」

「決まってるじゃない。お仕置きよ、お・仕・置・き」

「分かった、分かった、分かったから……そのジャラジャラを仕舞って下さい~~~」

「ん、分かればヨロしい」

「……じゃあな、もし何かあったら、メールするな」

「何かって……何?……まさか、またフラグとか……(ビリビリ)」

「何でそうなるっ!?……いや、その……追試とか。補習とかが……」

「ダメよ!!そんなので遅れたら、一緒に居られる時間が減っちゃうもん」

「そ、そそ、そっそんなこと言われましてでもですね、上条さんはおバカな訳で……」

「努力すれば済むことでしょう?何なら、私が勉強も見てあげようか?」

「えっ!?イイのか?」

「もちろん!……その代わり……」

「ヘッ!?……その代わり……?」

「当麻は私の完全管理下に入って貰うからね」

「え゛……そ、それは、一体……」

「学校に行ってる時と、夜寝る時以外は、私が当麻を管理するってコトよ。ビシビシ鍛えたげるから、覚悟しときなさい。もしイヤだって言ったりしたら……(ジャラジャラ)……」

「(ひっ、ひぇぇぇええええ……これって“不幸”……なのか?でも、美琴とは一緒に居られる訳で……それは“不幸”じゃないよな……)」

「今、『不幸だ~』って言いそうになったでしょう?」

「(ギクゥッ!!!)」

「私が一緒に居るんだから、もう『不幸だ~』なんて言ったら許さないんだからねっ!!!」

「なっ、何で急にそんなに厳しくなっておられるんでせう?」

「だって、私たちは今日がはじまりじゃない?だったら『はじめが肝心』ってコトよね。最初に締めるところを締めとかないと……ね、当麻」

「ふっ、不幸……じゃないけど……不幸じゃないけど……、……何かちょっぴり……不幸だぁ~~!!!」

「あっ、当麻。今『不幸だ~』って言ったわね。待ちなさい!!お仕置きよぉ~!!!!!」

 と、バレンタインの甘々モードから一転、いつものバトル追っかけモードに戻った二人。
 やはりいつものパターンってのは、そう簡単に崩れないんですなぁ……。

 何にしても、そんな二人の物語はココから始まった訳です。

~はじまりのバレンタイン Fin~


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