とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

012

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The back alley of winter




 とある冬の日の夜。
 真っ暗になった学園都市の町を、数多くの電灯が照らす中、 
 
「はぁ…どうしてこうなったのかねぇ…」
 
 と、薄暗い路地裏で一人の少年がつぶやいた。
 少年の名前は上条当麻、どこにでもいるような高校生だが、世界の危機を救ったことがあるヒーローだ。
 そんな彼は学ランにコートを羽織り、斜め上を向いた状態で、ため息をつく。
 余程気温が低いのか、ため息は白い息となり、宙へ消えていった。

 また、上条が今いる路地裏は大きな建物と建物の間にあり、かなり狭く幅1メートルあるかどうかさえ怪しい。
 それだけ狭く暗い路地だが、上を向いていると三日月が光っているのが見られた。
 月の光はちょうど上条のいる路地の一部を照らし、照らされている場所には茶髪の少女が立っていた。

「全く……まさかこんなことになるとはね…。」 

 上条のすぐ隣でそう言うのは、学園都市に7人しかいないレベル5の一人、御坂美琴だ。
 彼女もまた、制服の上にコートを羽織り、上条と同じように白い息を吐く。
 薄暗く狭い路地裏に2人きりでたたずむ、こんな状況になったのには、30分前の出来事が原因だった―――――


 ♢ ♦ ♢ ♦ ♢


 2人が路地裏にたたずむことになった時から30分前、上条は街頭で照らされた夜の街中を走っていた。
 この時の時刻は夜の6時、空はすっかり暗くなり、気温もかなり下がっていた。

「やっべー…こんな遅くなるとは…インデックスのやつ餓死してないだろうな…」

 とにかく急がなくては。
 上条は自分の寮へ向けて必死で走る。
 こんなに帰りが遅くなった理由は、補習が終わった後に土御門や青ピとなんとなく校内で遊んでいたからである。
 すぐに帰ればよかった、と思ってももう遅い。
 完全下校時刻を過ぎているため、巡回する警備員に捕まりませんように、と祈り走るしかない。

「ん…あれは…」

 そんな上条の目に、ある光景が映った。
 8人のガラの悪そうな男達、そしてよく見えないものの女の子が囲まれているようだ。

「……スキルアウトがナンパでもしてんのか?」

 誰がどう見ても友達同士、という関係ではなさそうだ。
 これを黙って見逃す上条ではない。

(やれやれ…どうして無理矢理ナンパなんてすんのかね。)

 いつもと同じく友人のふりをして連れ出す作戦を決行する。
 上条はスキルアウトの集団に近づき、『あぁ?なんだお前?』とか言ってくる男をスルーし、女の子の前にたどり着いた。

「おー、こんなとこにいたのか!探したん…だぞ……?」

 そこまで言って、上条は眉をしかめる。
 目に映ったのは一人の少女、上条は彼女を知っている。
 その少女とは
 
「あ、アンタ……さ、探してたって、私のこと探してたの…?ほ、ほんとに?」
「み、御坂…?」

 スキルアウトたちに囲まれていた少女、それは御坂美琴だった。
 美琴はこの状況にもかかわらず、なんだか嬉しそうだ。

「あ、いや、お前を捜してたっていうか……って、それよりなんなんだよこの状況は!」
「何って言われても……ねぇ…?」

 8人ものスキルアウトに囲まれた状態で、何事も無いかのように普通に会話をする2人。
 そんな上条と美琴を見た彼らが黙っているわけがない。

「おいおいおいおい…俺ら無視して何いちゃいちゃしてんだよ!ぶっ殺されてーか!!」

 8人の中のリーダーであろう、1番いかつい男はそう叫び、2人へ近づいて来た。

「いや、別にいちゃいちゃしてたわけじゃないんですよ?ただ友達だったから…まあそういうわけで失礼しまーす。」

 明らかに怒っているスキルアウトたち8人を相手にするのは、どう考えても得策ではない。
 上条は美琴と共にこの場から脱出しようと試みたのだが、

「失礼しますじゃねぇよ!!誰が通すか!!」


 逆上したそのスキルアウトは、上条の前に立ちふさがったかと思うと、彼目がけて拳を振るった。
 ヤバい、当たる、避けなければ。
 一瞬のうちに頭でそう判断した上条は、回避しようとしたのだが、

「がっ…」

 上条は右腕でガードしていた。
 間合いは十分あり、避けることは可能だったが、万が一、すぐ後ろにいる美琴に当たってしまっては大変だ、と本能的に体が反応したらしい。

「いってー…」

 とは言うものの、数々の戦場をくぐり抜けてきた上条には、とるに足らない痛みだ。
 まあ普通に痛いけど。
 ガードした右腕を左手で押さえ、どうやってこの局面から脱出しようか考えていると

「あ、ん、た、ら、ねぇ……」
「へ?え?み、御坂?」

 バッチンバッチンと電気を鳴らし、なぜか怒り震える美琴。
 スキルアウトたちが『まさか高位の能力者か?』と、口々に言い始めた時、美琴から大きな電撃が飛んだ。

「コイツに、何してくれちゃてんのよ!!!!!!!」

 美琴の叫び声とともに聞こえるのは、大きな電撃音。
 バリバリと音をたて、何十万、何百万ボルトかはわからないが、紫電が彼らを襲った。
 と同時に、痺れ、悲鳴を上げ、地面に倒れるスキルアウト。
 上条は慌てて美琴を制止する。

「ちょおおおおおおおおおおおお!!御坂さん落ち着いてー!!スキルアウトの皆さんが死んじゃうってー!!!」

 かなり電撃が強いっぽかったので、上条は大慌てで美琴の腕を右手で掴み、「幻想殺し』の効果で電気を打ち消した。
 だが、美琴の怒りは治まっていない。

「な…!離しなさいよ!!コイツら真っ黒こげにしてやるんだから!!」
「だ、ダメだってー!これ以上やったら犯罪者になっちゃうから!上条さんが傷つけられたことに怒ってくれたのはありがたいけど、これ以上はマジでヤバいから!!」

 ピタリ、と美琴が大人しくなった。
 あまりに急に動かなくなったので、上条は『あれ?何か怒らせた?』と、思ったところで、美琴が上条をほうを振り返った。
 なんだか顔が紅い。

「べ、別にアンタのために怒ったわけじゃないわよ!?わ、わわ私はただ、その、暴力を奮うコイツらが許せなかっただけなんだから!!」
「え?違うの?『コイツに何してくれちゃってんのよ』って、言ってたから俺のために怒ってるのかと思ってたんだけど…」
「な、な……じ、自意識過剰もいいとこよ!!私は、絶対にそんなことはないから!!」

 そこまで否定されるとさすがに傷つく。
 俺って自意識過剰だったのか、と上条は落ち込んだ。
 
「ちょ、ちょっと…そんなに落ち込まなくても…ほら、もう問題は解決したんだし、早く帰ろ?」
「お、おう…解決って……強引だな…」

 地面に、無惨に転がる8人のスキルアウトを見た上条は、これを解決と言っていいのだろうか、と思った。
 だが美琴にちょっかいを出したのは、間違いなく彼らだ。
 だから上条は『まあほっといてもいいか』と思ったのだが、それは間違いだった。


「おい、先ほど通報があったのだが、お前達が暴れていたというスキルアウトか?」
「「え?」」

 立ち去ろうとしていた2人がふと後ろを振り返ると、そこには10人ほどの警備員(アンチスキル)が立っていた。
 怖い顔をしてこちらを睨みつけてくる警備員に、上条は少しひるむ。

(誤解されてるのか…まあ事実を話せば……あ、完全下校時校過ぎてるんだっけ…補導とかされるのか?)
 
 多少怒られるだけで済むといいんだけど、そんなことを考えた時だった。

「あ、あいつらです!あいつらが俺らを…」
「「え」」

 美琴の電撃により、完膚なきまでに叩きのめされていたスキルアウトの一人が、倒れたままの状態でこちらを指差していた。
 復習とかではなく、本気で警備員に助けを求めているように見える。
 上条は慌てて状況を説明しようとしたが、それより早く美琴が否定する。

「ち、違います!私たちは、別に何も…」
「いや待て…お前、俺たちに容赦なく電撃浴びせただろ……っ!!」

 倒れている別のスキルアウトの一人が叫んだ。
 その言葉を聞いた警備員は、

「ちょっと一緒に来てもらうおうか。いろいろと聞きたいことがあるからね。」

 この言葉より連想できること。
 それは補導よりももっとヤバい『逮捕』。間違いなく逮捕される、そう思った。

「御坂!」
「え?」
「逃げるぞ!!」

 上条は美琴の手を掴み、その場から脱兎のごとく逃げ出した。
 とにかく早く、少しでも遠くへ。後ろで警備員の声が聞こえるが、気にしている場合ではない。
 夜の街を、上条は美琴と一緒に走り回った――-


 ♢ ♦ ♢ ♦ ♢


「改めて思い出してみたけど……あいつらむかつくわね。」
「ああ、あいつらのせいでこんなことになってんだしな。」

 場面は路地裏へ戻る。
 上条と美琴は後ろの壁にもたれかかり、大きなため息をついた。

 つまり上条と美琴がなぜこんなところにいるのかというと、警備員に追いかけられ、隠れるために逃げこんだからだった。
 当初は路地を抜けて警備員から逃げ切る作戦だったのだが、運悪く奥は行き止まり。
 周囲には、まだ多くの警備員がいるらしく、ここから出るに出られない状態なのだ。 

「はぁ…不幸だなー…」
「そうね…不幸………不幸、かな?」
「え?これは不幸だろ?だってスキルアウトに絡まれるわ、警備員に追いかけられるは、帰れなくなるは。不幸以外の何物でもないと思うんだけど。」
「そ、そうなんだけどさ。私としては…その……アンタと2人きりになれたし…」
「え?なんだって?『その』の後が聞こえなかったんだけど?」
「~~~~~ッ!!!う、うっさい!うっさい!!」

 美琴はふいっ、とそっぽを向いてしまった。

(ええ~……今の俺が悪いの…?御坂は機嫌悪くなるし…これも全部あのスキルアウトのせいだ…)

 ていうかスキルアウトが警備員に助けを求めるってどうなんだよ、と上条は呟くが、彼らはレベル5の電撃をモロに食らったのだ。
 仕方ない気がしないでもない。

「つーかさ、お前なんであいつらにからまれてたんだ?」
「え?なんで、って言われてもねー。特に理由なんてないわよ。私がただ町を歩いてたら、『俺らと遊ばない?』なんて言って囲まれただけよ。」
「…不良狩りとかしてたわけじゃないんだな?」
「ち、違うわよ!!そんなことするわけないじゃない!!」
「冗談だよ。で、なんでこんな遅くにあんなとこにいたんだよ。何か用事だったのか?」
「………」

 美琴は黙ってしまった。
 今まで上条の顔を見て話していたのだが、俯き何もしゃべらない。
 上条は『何かまずいこと言ったか、俺?』と、美琴が黙った原因を考えるも、特に思い浮かばない。
 ちなみに美琴としては『上条に会いたくて、町を彷徨っていた』というのが理由のため、口が裂けても言えないのだ。
 そのまま沈黙が続くこと約1分、

「あ!そうだ!」

 それまで黙っていた美琴は、急に何かを思い出したようでパンッ!と、両手を合わせた。


「なんだ?ここから脱出する良い方法でも思いついたのか?」
「い、いや、そういうんじゃなくて…」
「違うのかよ…」

 上条は少しがっかりした。
 それを気にせず、美琴は目を輝かせて言う。

「さっきスキルアウトの輪に入ってきた時、『こんなことにいたのか。探したんだぞ。』って言ってたけど、わ、私のこと探してたんでしょ?何の用だったわけ?」

 まるで何かを期待しているような言い方だった。
 両手をもじもじさせながら、こちらをジーッと見てくる美琴に、上条はサラリと言う。

「ああ、別に御坂を探してたわけじゃなくてだな、囲まれてる女の子を助ける口実だよ。土御門から聞いたんだけどさ、俺って記憶喪失前からずっとこの方法で助けてたらしいからな。……あれ?御坂?」

 美琴の様子がおかしい。
 またしても俯き、今度は肩が少し震えているようだ。
 そんな彼女を見た上条は

「なんだよ寒いのか?」
「違うわよ…このバカ…」
「バカって言われても……御坂震えてるし、寒いならこれでも着とけ。」

 そう言って、上条は自分の上着を脱ぎ、美琴の肩へかけてやった。
 正直少し寒い。
 だがすぐ隣で寒さに震えている女の子がいるのだ。
 それを見逃すほど、優しくない上条ではない。
 で、上着をかけられた美琴は

「え、ちょ、こ、こ…?」

 上手く日本が話せていなかった。

「大丈夫か御坂?うまく話せないくらい寒いのか?参ったな…さすがに学ランまで貸すと俺が寒いし、まだ警備員の声は聞こえるからここから出るわけにはいけないし…」

 そこは鈍感な上条、美琴が怒って震えていたことも、嬉しくて呂律が回らなくなっていることにも、一切気がつかない。
 すぐ隣で顔を真っ赤にした美琴は、自分の肩にかけられた上条の上着の端をギュッと握り、

「あ、あの、アンタは寒くないの?」
「大丈夫だよ、これくらい。ていうか、お前はまだ寒そうだけど……あ、こういう時って寄り添い合えば温かくなるんじゃ…」
「よ、よよよよよよ寄り添い合う!!?」
「じょ、冗談だよ…そんなに嫌がらなくても……」

 『寄り添う』という言葉を聞いた瞬間に、自分から少し距離を置かれ、地味に気分が沈んだ。
 実際のところ、美琴は全く嫌がっていないのだが…
 そして再び生まれる沈黙、遠くから聞こえる警備員たちの声。
 上条は静かに呟く。

「それにしても、いつになったら帰れるんだろうな…」

 寒いし、いい加減帰りたい。
 警備員のしつこさにうんざりしてきた上条は、疲れもありその場にしゃがみ込んだ。
 わざと見つかって事情を説明するか、とも考えたが、美琴がスキルアウトに電撃を浴びせたのは事実だ。
 もし、そのことを責め立てられ、万が一彼女が退学にでもなったら大変だ。
 また、もめ事があった付近に防犯カメラがあったかもしれないが、あったとしても美琴の電撃で多分壊れてしまっているだろう。
 結局は手詰まりなのだ。
 ここからどうやって逃げるか、悩む上条はなんとなく、隣に立つ美琴を見上げる。

「お……」

 思わず声が出た。
 月夜に照らされ、白い息を吐き、片手で髪をかきあげる彼女。
 そんな彼女の姿、仕草、全てを美しいと思った。

 上条は美琴に恋愛感情を持ち合わせていない。
 それどころか、中学生なんて恋愛対象外だとすら思っている。

 そんな上条だが、今の美琴にはなんだか神秘的な美しさがあると感じていた。
 あまりにキレいだと感じたため、美琴をしばらく見つめていると

「な、何よ…私のほう、ジーっと見つめて…変なとこでもある?」
「いや……月に照らされた御坂って、すっげぇキレイだなー、と思って。」
「はぁ!?」
「あ…」

 うっかり本音が出た。
 言うつもりはなかったのだが、言ってしまったのは、美琴に見惚れていた影響かだろうか。
 上条は立ち上がり、明らかに動揺している美琴に言う。

「さ、そろそろ大丈夫なんじゃないか?警備員の声も聞こえなくなったし、もう帰ろうぜ。」

 何事もなかったかのように、路地から出るために、入ってきた方向へ足を進める。
 だが本当のところ、平常心を装っているだけであって上条も動揺していた。

(や、ヤベェ…俺何言っちゃってんだよ…御坂、怒ってるんじゃねぇか?)

 それになんだか暑い。
 冬だというのに、気温はかなり低いはずなのに、彼の体は熱かった。
 もし、後ろから怒号が飛んだらすぐ土下座しよう、そんなことも考えながら、上条は薄暗い路地裏から明るい町へと戻った。
 と、上条を街灯が照らした時、彼の制服が何かに引っかかった。


(ん?廃材にでも引っかかったか?)

 何に引っかかったのか、確認するために上条が路地裏を振り返ると 

「あ、あの…」

 暗闇から伸びる手、そして聞こえる小さな声。
 制服は引っかかったのではない。
 美琴が上条の制服の裾を掴んでいたのだ。

「なんだ?早く帰ろうぜ?」
「えと………もうちょっと……一緒にいよ…?」

 美琴はほんのりと頬を紅く染め、泣きそうな目でこちらを見ていた。
 掴まれている学ランの裾から、美琴の震えが伝わってくるようにも感じた。
 美琴の言う『一緒にいよ?』とは、どういうことなのか。
 そこで上条がとった行動は

「え―――」

 と、かすかに聞こえた彼女の声。
 そしてはっきりと見えた信じられないという表情。同時に美琴の手は、上条の制服から離れていった。
 上条は、美琴の肩を、思い切り突き飛ばしていた。 

 路地裏の奥へと倒れていく美琴。
 この状況を気まずいと感じている上条は、これ以上美琴と一緒にいたくなかった。
 
 ……わけではない。

「いたぞー!!こっちだー!!」

 街に出た上条が見ていたもの、それは少し休憩をしていたらしい警備員の集団だった。
 つまり上条は、美琴が警備員に見つからないようにするために、路地裏へ押し込んだのだ。

「御坂!お前はそこに隠れとけ!」

 それだけ言って、上条は再び夜の街中を走り出す。
 そんな不幸な少年の後を追いかけるのは、大勢の警備員たち、どう見ても先ほどより増えている。 

「そこのスキルアウト!止まりなさい!!」
「男子学生への暴力行為の疑いがある!逃げないで止まりなさい!!」

 とか言う声が、スピーカーから上条へ浴びせられる。
 だが上条は止まらない。

「あーもう!!不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!」

 少年は叫びながら走る。
 だがこの後、1時間近く逃げ回った挙げ句、上条は捕まるはめとなる。
 そして結局美琴も合流して、屈強な警備員の方々から事情聴取を受けることになったとか。
 その際、黄泉川の助けと、通行人の目撃証言が奇跡的にあり、無実だとわかってもらえたのだが、全てが解決したのは不幸にも朝だった。

 朝までかかった、ということは『朝帰り』ということ。
 上条はインデックスに、美琴は黒子に、事情を激しく追求されたのは言うまでもない――-






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