いつもと違う朝
「「ふぁ……あ」」
目覚めると美琴は大きく背伸びをした。
何気ないいつも通りの朝。
「「ん?」」
しかしそこでふと違和感を感じた。
何だか自分の声が重なって聞こえたような不思議な感覚。
気になって横を向いてみると
「「……。」」
自分がいた。
「「えぇぇぇぇぇ!!!???」」
寮に響き渡る声と小鳥たちの声。
いつもとはちょっと、いやもの凄く違う朝。
嫌な予感がする1日が始まった。
「どうしたのですのお姉さm……」
しまった。一番厄介な奴に見られてしまった。
美琴の同居人で後輩である白井黒子。
((まずはコイツをどうにかしないといけない…))
頭が真っ白な状況で真っ先に美琴がとった行動とは…
「お姉さまぁあああばばばばばば」バチバチ
「「あ。」」
気付いた頃にはもう遅かった。
変態行動をされた時のように電撃を放ったはずがいつもより二倍の威力で同居人である黒子を真っ黒にしてしまったのである。
黒子だったもの「」チーン
((あれ!?そんなに強く撃ったつもりじゃなかったのに…はっ!))
「「ちょっとアンタ!やり過ぎちゃったじゃない!」」
「「……。」」
「「真似してんじゃないわよ!!」」
「「……。」」
全く同じ顔。
全く同じ声。
そして、全く同じ感情。
まるで自分のクローンである妹とケンカしているような錯覚。
けれど違う。
妹とは違う感覚。
((もしかして何かの能力?でもこんな能力聞いたことないし…
こんな時に役に立つ奴と言ったら…と、当麻しかいないわよね…))
美琴は最近想いを告げ、晴れて彼氏となった上条当麻の元へと向かう決意をした。
「ふぁ……あ」
その頃上条当麻はいつもと変わらない寂しい朝を迎えた。
「朝飯つくるか…」
インデックスがイギリスに帰り、若干寂しさのある部屋。
「やっぱインデックスがいないと少しだけ寂しいよなー…」
記憶を無くしてからずっと一緒にいたインデックスがいない日々にまだ少し慣れていない上条は彼女がいるのにも関わらず、二人の友人に「家に帰ると寂しいんだよなー」と話してしまい、友人二人に本気で殴られたエピソードがある。
「いや、俺には美琴がいる!」
朝からおノロケ全開な上条は朝食を作りにキッチンへと向かった。
すると、いきなり家のドアを乱暴に『ガンガンガン』と叩く音が聞こえ、そして
「「とうまぁー!!起きてる!?」」
と、大好きな彼女の声が聞こえた。
上条は何だか焦っているような美琴の声に違和感と不幸な予感を抱き、恐る恐るカギを開けた。
するといきなり美琴と御坂妹らしき人が飛び込んできた。
何かに焦っている表情。
急いで走ってきたのだろうか制服も所々乱れていた。
「一体どうしたんだ美琴!?
まさか、魔術側の攻撃っ!?御坂妹まで…!!」
と盛大な勘違いをしてしまった。
そんな上条に二人の美琴は
「「何だかわかんないけど、増えちゃった!!」」
「…はい?」
「「だ・か・ら!増えちゃったの!!」」
「……。」
あまりの急展開に上条は思考が追い付かなくなってしまい、言葉を失った。
・五分後・
上条は冷静さを取り戻し、とりあえず美琴とその分身(?)に落ち着くよう説得し、話を聞くことにした。
「で、朝起きたらいつの間にか二人になってしまっていた、と」
「「うん」」
「うーん…」ジー
「「あ、あんまり、み、見つめないでよっ///」」テレテレ
(あーもう二人ともクソかわいいなーコノヤロー)
全く同じ顔。全く同じ声。これだけだと御坂妹と変わらない。
しかし、違和感を感じるのは雰囲気と話すタイミング。まるで双子の姉妹のようだ。
間違いなくこれは美琴の雰囲気だ。
しかも話し方とタイミングまで揃っている。
(こんな能力聞いたことねぇな…ということは…魔術師の仕業なのか?でも一体何が目的なんだろう??)
「うーん…」
考えれば考える程わからなくなってしまう。
「「とりあえず当麻の右手で触ってみたら?」」
「……そう、だな…」
「「どうしたの?」」
(愛しの美琴たんが二人…
こ、これは、新しい扉が開けるんじゃないのでせうか…)ゴクリ
「「?」」
上条の何かを考える視線に小さく小首を傾げる美琴。
(ぐはっ!!何だよ!何です!何なんですかこのかわい過ぎる生き物はっ!!!!
上条さんの鉄壁の理性が音を立てて崩れさってゆくぅぅぅぅぅ!!!!)ハァハァ
((当麻…もしかして具合悪かったのかな?何か赤くなってハァハァ言ってるし…))
上条の(自称)鉄壁の理性が崩されていく中、美琴は健気な勘違いをしていた。
「……mこと…」ウツムイテハァハァ
「「ど、どうしたの当麻?具合悪いの?大丈夫?」」
「みことぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」ガバァ
「「キャ!ちょ、ちょっと当麻!!」」オシタオサレル
「上条さんは辛坊堪りません!いただきまーす!!!」オオカミジョウサン
「「朝から発情すんなよコルァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」」バチバチ
「あばばばばばばばばbbbb」バチバチ
「「はっ!!またやり過ぎた!!!!」」シマッタ
上条さんだったもの「」チーン
「「と、ととととうまぁー!!!!」 」
こうしてハチャメチャな1日が始まった。
「うぅ……ん」
目覚めるといつもの朝と変わらない天井だった。
目が覚めているようないないような半覚醒の状態で上条はさっきの出来事を思い出す。
「…アレ、さっきのは夢だったのか…?でも何だか体がズキズキするような……ん?」ナニカニキヅク
「「んふふふ……とうまぁー」」ギュッテシテクル
「」ユメジャナカッタ
一気に目が覚めた。
そして気付いた。
二人の美琴に両サイドから抱きつかれているということに。
つまりあの愛しの美琴たんにサンドイッチされているという、とある青髪でピアスをした友人が見たら発狂しそうな程羨ましい状況に置かれていたのだ。
「な、何でせうかこの夢のような状況は…」ハァハァ
またもや発情していた上条はあることに気付いた。
「と…ぅまぁ…zzz」ミギウデニシガミツイテル
(幻想殺しが触れても消えていない…一体どういうことなんだ?)
魔術でも能力でもない。
一体この現象は何なのか。
謎は一向に解決の兆しを見せない。
一人上条があれやこれやと考え、右側の美琴を幻想殺しでぺたぺたと触っていた。
「ぅう……ん…あ、とうまぁおはよー」スリスリ
「あ、ああ、おはよう美琴」ナデナデ
人を殺しかねない電撃を放った者とは思えない程甘えてくる美琴に上条はまたもやハァハァモードへと突入しかけていた。
しかしそこで上条は片方の美琴がまだ起きていないことに気付く。
(どういうことだ??さっきまで全く同じタイミングで同じこと話してたのに……感覚は共有していないのか?)
そう、全く同じタイミングで同じことを話すが、感覚は別々。
まさに双子の姉妹のように。
マОカナミタイナ
(あーもう、何が何だか全っ然わっかんねぇ)
「とうみゃ……」スリスリ
(もう、何だよマジメに考えてんのにさっきからこのかわい過ぎる生き物は!!)ナデナデ
と上条はとりあえずこの状況を存分に楽しむのであった。
その後、五分もたたない内に片方の美琴も起き、二人の美琴としばらくいちゃいちゃしたのち、片っ端から魔術や科学の両方に心当たりがないか調べたのだが、結局は手懸かりは見つからず、気が付けば日が沈みかけていた。
「美琴ー、そろそろ寮に帰らなくていいのか?」ナデナデシナガラ
「「えー、このまま帰れって言うの?
今の状況で帰ったら寮中パニックよ?」」ナデナデサレナガラ
「えっ!?お前寮に言ってないのか!?
ならどうやってここまで来たんだよ」リョウウデヲツカマレタママ
「「窓からコッソリ出た」」テヘペロ
「美琴たんは悪い子ですなー」サンドイッチサレナガラ
「ちょっと、早く前替わりなさいよ!!次アンタが背中行きなさいよ!!」ブーブー
「後ちょっとくらい良いじゃない!!夜はこれからなんだから少しくらい我慢しなさいよ!!」ウルサイナァ
(…美琴と美琴がケンカしてる
何でせうかこの状況は??)ドウスリャエエノ?
「っていうかやっぱり泊まるのは決定なの!?」
「「……だめ?」」ウルウルウワメヅカイ
「だめじゃない」ソクトウ!
即答で答える期待しまくりの上条だった。
お風呂では上条が一人で入っていると途中でタオルを巻いた美琴たちが乱入し、キャッキャウフフの素敵イベント発生、ラッキースケベで危うくまた気絶してしまいそうになったり、夕飯の時間には美琴たちの手料理と食べさせ合いっこ。
こんな幸せあっていいのだろうかという程の最高な一時だった。
そして待ちに待った夜のお楽しみの時間。
「……あー、不幸だ…」トオイメ
あんなに幸せな体験しといて「不幸だ」とは一回死んだ方がいいと思う。例の青い髪にピアスの友人に聞かれるときっと殺されることだろう。
たが上条が「不幸だ」と言うのには訳があった。
「「zzz……とうまぁ……んふふふ……」」ムニャムニャ
「」ナキソウナカオ
上条が風呂場で気合いを入れ期待しまくりでベットへと向かうと既に美琴たちは眠っていたのだ。
「……チクショー!!!!何でだよ!!これはあんまりじゃないでせうか!!!神様のバカヤロー!!!!上条さんは…上条さんは……」ホントニナキソウ
そんなこんなで今日一日が終わろうとしていた。
上条はベットで美琴たちに挟まれながら悔しさと今日の幸せを噛み締め、美琴たちのこれからについて考えていた。
「「とうまぁー…だいすき………zzz」」シアワセー
「ったく幸せそうに寝やがって
上条さんの気持ちも少しは考えて欲しいものですよ」ジトー
美琴が今どうなっているのか。
一体誰の仕業なのか。
そして、芽生えつつある気持ち。
(でも、)
自分の欲望に逆らわずに、自分の欲望に飲み込まれて行った。
「……このままでも、いっか」
end