失ってしまった幸せ
序章 限りない幸せ~familiar~
上条と美琴が付き合いだしてから1ヶ月。
最近では美琴は上条の部屋まで夕飯を作りに来て切れる。
そのおかげで美琴とインデックスも今では仲良しだ。
これは上条としても嬉しい限りだ。
この日も上条と美琴は一緒に帰っている。
今日は帰り道を変え、今は階段を登っている
「美琴、今日の夕飯は何なんだ?」
「今日は肉じゃがよ」
「お、肉じゃがか楽しみだな」
美琴が走って階段を上る
「そんなにはしゃぐと転ぶぞ」
「だい、じょう、ぶ!っ!」
「っ!美琴!!」
2人の意識はそこで途切れた
失ってしまった幸せ
第1章 その手から零れた掛け替えがないもの~sacrifice~
美琴が目を覚ましたらそこは病院だった。
(あれ?私、たしか、階段から落ちて・・・・・・それで)
「そうだ、当麻、当麻は!?」
「みこと、起きたの?」
病室のドアを開けて入ってきたのは白い修道服を着た少女、インデックスだ。
「ねえ、インデックス。当麻は!?」
「・・・・・・」
インデックスは何も答えない。
「答えなさい、インデックス!」
「・・・・・・ついて来て、美琴」
美琴はインデックスと共に隣の病室へ向かう。
そこには体中に包帯を巻き、ベッドに眠る上条の姿があった。
「とう・・・・・・ま?」
「お医者さんの話だとしょくぶつじょうたいっていうらしいんだけど」
「そんな、あ・・・・・・ぁぁぁ」
「とうま、治る・・・・・・よね?」
これ以上美琴はなにも言えなかった。
ただ泣くことしかできなかった。
病室に戻った美琴はインデックスと別れた。
今日はこもえという人の家に泊まるそうだ。
「どうやら起きたみたいだね?」
入ってきたのは白衣を着たカエル顔の医者、冥土返しだ。
生気の無い美琴の顔を見て冥土返しは話す。
「彼に、会ってきたのかい?」
「はい」
「救急車を呼んだ人の話だと彼、君を庇うように倒れていたんだよ?」
「え?」
「彼が庇ってくれたから君はその程度で済んだんだよ?彼に感謝することだね?」
「立ち直るまで、ここにいていいからね?」
そう言うと冥土返しは部屋から出て行った。
失ってしまった幸せ
第2章 失くした心~despair~
それから美琴はたくさんの人に会った。
後輩の白井黒子、友達の初春、佐天、上条の知り合い達だ。
しかし、誰も美琴を責めようとしない。
誰もがこう言うのだ。
あまり自分を責めるな。
上条当麻も彼女を守れたのだ。悔いはないはずだと。
しかし彼女は救われない。
自分の所為で上条が上条は傷ついた。
あの時帰り道を変えようと言わなければ、あの時階段ではしゃがなければ。
どうして自分は軽傷で、彼は重体なんだ。
自分だけ落ちてればよかったのに。
そんな思いだけが彼女を覆う。
ある日、美琴の病室に入ってきたのは白井黒子だ。
「お姉さま、ご様態はどうですの?」
「だいぶ、落ち着いたかな」
「そうですの。では退院の方は」
白井は本気で自分を心配している。
これ以上心配をかけるわけにはいかないが、今の美琴には無理だ。
「ごめん黒子。それはまだ待って欲しい。まだ何もしたくないの」
「ではお姉さま。黒子は何時までもお待ちしていますので」
白井は病室から出ていく。
(ごめん。黒子。私、最低だ!)
彼女の心にあるものは後悔だけだ。
失ってしまった幸せ
行間
天草式十字凄教元教皇代理、建宮斉字は上条のお見舞いに来ていた。
五和は上条が意識不明ということにショックを受けていて、お見舞いも落ち着いてからにさせるつもりだ。
上条の病室へ向かう途中、ある病室から1人の少女が出てきた。
その少女はとても悲しそうだ。
その病室はたしか上条当麻の彼女の病室ではなかったか。
「どうしたのよな?」
建宮は少女に話しかけてみる。
「あなたは?」
「上条当麻の知り合いだ。そこは上条当麻の彼女の病室のはずだが何があった?」
「私では、お姉さまを救えません。このままではお姉さまは後悔の念で潰されてしまいますの」
少女は今にも泣きそうな顔をしている。
このままでは彼女も救われない。
「俺に任せろのよな」
「え?」
ならば救ってみせよう。
我らが女教皇の教えに従って。
失ってしまった幸せ
第3章 絶望の底に差した光~salvare000~
「失礼するのよな」
白井の次に病室に入ってきたのはクワガタ頭の男、建宮斉字だ。
「あなたは?」
「建宮斉字。上条当麻の知り合いだ」
建宮は美琴を見る。
「何ですか」
美琴の顔は無気力で、ひたすら自身を責めているように見える。
「いや、上条当麻が命をかけて守った奴が、どんな女かと思ったが」
建宮は心底呆れたように言う。
「こりゃぁ犬死だな。正真正銘の犬死だ。これじゃ、馬鹿が馬鹿を助けて馬鹿やったって話だ」
「何ですってえぇー!!」
美琴が怒りで顔を歪め、前髪からも電撃がバチバチと出ている。
「あんたに何が分かるの!?私の気持ちが分かるの!!?」
「分かるのよな」
建宮はあっさりと答える。
「大切な人が傷ついているのに何も出来ない奴の気持ちは俺にも分かるのよな」
「証明してみせろ」
「え?」
突然の建宮の言葉に美琴は困惑する。
「お前を助けてよかったって思えるような最高の女になってみせろ」
「でも・・・・・・わたし・・・・・・どうしたら」
「なーに俺に任せとけ」
建宮はいつものような軽い調子で言う。
「お前を救える最適な人を俺は知っている」
そういうと建宮は帰っていった。
次の日、建宮は身長2mほどの女性と共にやってきた。
「貴女が御坂美琴ですね?私は天草式十字凄教女教皇神裂火織です。事情は建宮斉字から聞きました」
「え~っと、何をすればいいんですか?」
何も知らない美琴は2人に尋ねる。
「男を掴む時はまず胃袋からって言うのよな。過ぎてしまったのもはしょうがない。
お前さんにできることは、上条当麻が起きた時に最高の料理を振舞うことなのよな
な~に、うちの女教皇の和食は世界一なのよな」
「それでは御坂美琴。退院ししだい、料理の練習を始めましょう」
「え、あ・・・・・・はい」
突然のことに美琴はただ従うことしかできなかった。
失ってしまった幸せ
第4章 取り戻した笑顔~friend~
神裂火織と会ったその日の内に美琴は退院した。
美琴は決めたのだ。
もう悔やんでるだけではいけない。
過ぎたことはどうしようもない。
ならば自分の出来る精一杯の事をしようと。
退院した美琴は寮に帰ってきた。
そして向かえてくれたのは自分の1番の親友、白井黒子だ。
「お帰りなさいませ、お姉さま」
「ただいま。心配かけてごめんね、黒子」
あの事故以来、悔やむことしか出来なかった美琴に笑顔が戻った。
美琴は神裂と共に上条の部屋へと向かう。料理の練習をするためだ。
上条の部屋にはインデックスがいた。
「みこと!それにかおりも!」
「神裂さんは、インデックスの知り合いなんですか?」
「ええ、はい。仕事の同僚で、私の友達です」
どこか悲しそうに話す神裂をこれ以上追求する気にはなれなかった。
「みこと、入院してたときは悲しそうな顔をしてたけど、今は大丈夫そうかも」
「ごめんね、でも私、もう悩まない。今自分が出来る精一杯のことをしようと思うの」
「うん!美琴はやっぱりそうでなくちゃ!当麻だって美琴には笑っていて欲しいはずだから」
(本当は、インデックスだって当麻が怪我して悲しいはずなのに、苦しいはずなのに私のために、もう、大丈夫だから)
「それでは御坂美琴、練習を始めましょう」
美琴はもう迷わない。
自分を助けてくれた彼のために。
彼の望むように、笑顔でいようと。
失ってしまった幸せ
最終章 この手に戻った幸せ~familiar~
あの事故から1月たった。
以前、上条当麻は目を覚まさない。
「ねえ、当麻。あれからもう一ヶ月だよ?私、神裂さんに和食も教えてもらって、
インデックスだって、自分で家事できるようになったんだよ?」
それでも上条当麻は目を覚まさない。
「とう、ま。起きてよ。私、もう、耐えられない!」
少女の涙が、少年の頬にとき、
「ひっ、ぐす、おきてよぉ、とうまぁ」
「なにそんなに泣いてんだよ、美琴」
少女の涙が、奇跡を起こす。
「とう、ま。当麻ぁー!!」
嬉しさの余り美琴は上条に抱きつく。
「うわ!、み、美琴!?」
「だって、だってー!!」
「俺はお前を助けて良かったと思ってる。お前には笑っていて欲しいんだ。」
上条は優しく、美琴を抱き返す。
「だから、泣くなよ」
「でもっ、でもー!」
相変わらず美琴は泣いたままだ。
上条は呆れたように言う。
「はあー、全く美琴さんは」
彼女の涙はこれ以上彼には耐えられない。
「あーあ、上条さん、お腹すいちゃったなー」
2人の幸せを取り戻す時が来た。
「肉じゃが、作ってくれよ。」