とある二人の暗部生活
行間
大覇星祭最終日、学園都市第七学区にある窓のないビル
核兵器を以ってしても傷がつかないとされ唯一内部に入る手段は空間移動系能力者によるテレポートだけと言わているビルの内部で、
中年の男性二人…上条刀夜と御坂旅掛はとある人物と対面していた。
二人が対面している人物、男にも女にも、子供にも大人にも、聖人にも囚人にも見える人間…アレイスター=クロウリーは
ビーカーの中で逆さまになって浮かびながら刀夜と旅掛を眺めている。
その表情からは彼が何を考えているかは分からない。
そしてその場には異様ともいえる緊張感が漂っている。
「よく来てくれた、御坂旅掛、上条刀夜。
今日は折り入って頼みがあってね」
「どの口が頼みなどと言っている!?
美琴ちゃんを巻き込むような真似をして俺が貴様の頼みなど聞くと思っているのか!?」
「残念ながら君に拒否権は存在しない。
君の何より大事な超電磁砲のことを想うならな」
「くっ」
こう言うからには目の前の男には美琴に危害を加える決定的な手段があるということだ。
それが何か分からぬ以上、旅掛にはアレイスターに対抗する手段がないことを示していた。
「それで頼みとは何のことかな?
出来ればこんな辛気臭い所からは早く出たいんだけど…」
「御坂旅掛と違って、上条刀夜…君は冷静だな。
君の息子も人質であることには違いないのだが」
「本当にそうかな?」
「何?」
「美琴さんから聞いた話だと、当麻が仕事に就いたのと妹達さんの治療への資金援助が決まったのは同時期だそうだ。
それは恐らく当麻があなたと取引したからなんじゃないか?」
「…」
「逆に言えば当麻にはあなたと取引出来るだけの価値がある。
となれば、簡単にあなたが当麻に危害を加えるとは考えられないんだけどな」
「…素晴らしい、この親にしてこの子ありといった所か。
君の言う通り上条当麻…幻想殺しに直接的な危害を加える気は私にはない。
良かったな御坂旅掛、君の娘が幻想殺しと親しい人間で。
そうでなければ、既に用済みとなった超電磁砲は破棄しているところだった」
「な、何を言っている!?」
「幻想殺しと私との間で取引したことは三つ。
私が幻想殺しに課したのは幻想殺しとの二つの約束を守る限り、私が不要または邪魔になると判断したものを排除すること。
すでに幻想殺しは私のために働き始めている。
少々甘いやり方だが私も幻想殺しの働きには感謝しているよ。
そして幻想殺しが私に約束させたのは妹達の人権と治療に関して学園都市がしっかりと責任を負うこと。
人権に関しては簡単にはいかないが、治療に関しては上条刀夜が言った通り既に手配している。
そして幻想殺しが私にもう一つ約束させたのは、処分するはずだった超電磁砲に手出しをしないことだ」
「美琴ちゃんを処分するはずだっただと!?」
「既に完成している超電磁砲と同スペックの妹を何かと問題行動が多い超電磁砲と掏りかえる予定だったのを、
幻想殺しが自分の権限を使って中止させたんだよ」
「どこまで命を愚弄すれば気が済むんだ、貴様は!!」
旅掛がアレイスターの浮かぶビーカーに向かって突き進む旅掛を刀夜が押し留めた。
「落ち着いて、旅掛さん。
今ここで私達が下手な動きをしても事態は好転しない!!」
刀夜の言葉に旅掛は我に返ったのか振り上げていた拳を元に戻す。
しかしその顔にはアレイスターへの憎しみが渦巻いていた。
「…当麻も重いものを背負ったもんだ。
だが一つあなたに言っておく、当麻を見くびらないほうがいい。
いつか当麻に寝首を掻かれることになるかもしれないぞ」
「寧ろそこまで幻想殺しが成長してくれることを祈っているんだがね」
「…」
「さて本題に入ろうか?
君達に頼みたいのはある組織の動向について探ることだ」
「ある組織だと?」
「御坂旅掛に知識があるのは知っているのが、上条刀夜は魔術について知っているかね?」
「各文化圏内における伝承や神話に基づいて超能力のような力を使うことか?」
「刀夜さん、魔術についてもご存知だったんですか!?」
「…普通の人間は気付いていないけど、数週間前に私は取り返しのつかない過ちを犯してしまっていてね。
自分の罪を詳しく知るために、最低限の知識は身につけたんですよ」
「二人とも知識をがあるなら話は早い。
その魔術を操る人間が集まる組織の一つに学園都市に対して大規模な戦争を仕掛けようとしている物があることが分かってね」
「そしてその組織とは?」
「ローマ正教」
「ローマ正教って十字教で最大の信者を持っている!?」
流石にそれには刀夜も旅掛も驚きを隠せない。
もし本当にローマ正教と学園都市が戦争ということになったら、
国同士を巻き込むだけでなく科学と魔術が対立する第三次世界大戦になりかねなかった。
そして世界大戦ともなれば前の大戦と違って広範囲における戦術兵器が完成している今、
国…あるいは世界そのものが滅びる可能性だって考えられる。
「君達の考えている通り、私としても最悪の事態だけは避けたい。
そしてその為にも君達の協力が必要不可欠なのだよ」
「しかしローマ正教の信者全体の動きを把握するなんて不可能だぞ」
「それは分かっている。
私が知りたいのはローマ正教の中でも深淵に位置する組織…神の右席という組織についてだけだ」
「神の右席?」
「学園都市精鋭のスパイを以ってしても名前を突き止めることしか出来なかった。
かなり危険な仕事になることには間違いないだろう。
先ほど拒否権はないと言ったが、断ってくれても構わない。
ただしそれなりに不自由な生活を送ってもらうことになるが…」
「…最終的にはその神の右席も当麻に処分させるのかな?」
「恐らくそうなるだろう」
「だとしたら私が断るわけにはいかないだろう。
息子の身の安全を少しでも確保するためにも私は引き受けさせてもらうよ」
「子を想う愛というものか…
私には理解できないが、それが人間にとって大きな原動力になることは知っているよ。
さて、御坂旅掛はどうするかね?」
「娘の恩人が命を懸けているんだ、俺にも断るという選択肢はないだろう」
「ふむ、では君達二人に神の右席に関する調査を依頼する。
必要な経費・人材については全てこちらで用意させてもらう、他にも必要なものがあったら何でも言ってくれたまえ」
こうしてヒーローとヒロインの父親達も物語の根幹に深く関わることになる。
そして場面は移ろい、物語の舞台は主役達の下へと戻る。