とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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いつまでも貴方の側に




1.

私の名前は御坂美琴、

学園都市の第3位『超電磁砲』の異名を持っている。

そんな私は今年の8月、ある実験を知りそれを止める為に1度死を決意した。
だけど、そんな時ヒーローが現れてボロボロになりながらも私を救ってくれた。

実験が止まって、これからどうして生きていけばいいか分からなかった私に、
『笑って良いんだよ』と小さく笑いかけて言ってくれた。

それから2ヶ月がたったが、あの時を最後にアイツの笑顔を見ていない。


2.

「お姉様、そのお顔どうなされたのです!」
ルームメイトの白井黒子は声を高らかに叫んだ。
見れば美琴の頬が真っ赤になっている。

「……ちょっとね」
誰かに叩かれたのは明白だった。

「あの殿方ですの?」
「……私が悪いのよ」
小さく呟いた、悲しみのどん底で立ちすくんでいるようだ。

「わたくし……、もう我慢出来ません!」
怒りが激しい波のように全身に広がっている。
「待ちなさい黒子!」

美琴が止めるのも聞かず、白井はテレポートで上条の元へと向かった。

上条はすぐに見つかった、どうやら買い物をしていたようである。

「上条さん!」
「ああ白井か、俺に何の用だ?」
「あなた……一体どういうつもりですの?」
「お姉様のお顔に……、お姉様は何も言わなかったけど手を出すなんて最低ですの!」

「最低で結構だ……」


3.

わたくしこと上条当麻は不幸な人間である。

そんな俺の人生が始まったのが今年の夏休みに入ってからだ。
俺にはそれ以前の記憶が無い。

インデックスという少女を救うために俺は記憶を失ったと思っている。

記憶を失ったことがバレたらインデックスを束縛してしまう。
だから俺はずっと以前の上条当麻を演じてきた。

だけど8月、御坂美琴という女の子を助けたときに、
俺の人生は更に変わってしまった。

学園都市の第1位との戦い、
勝つことは出来た、それにより実験も止まった……。
だが―――

そのときのダメージが原因で、俺の下半身は動かなくなってしまった。

あのカエル顔の医者でも治せなかった。

それからいろいろあった、結果だけ言うとインデックスはイギリスに帰した。
インデックスは「とうまのお世話をするんだよ」と言ってくれたが、
この身体じゃインデックスを守る事は出来ない。

ステイルに事情を話し、半ば無理やり彼女を連れて帰ってもらった。

インデックスには悪いと思っているが、
正直俺はインデックスにこれ以上の重荷を背負わせることが無くなってほっとしてる。
インデックスのことはステイルが命を掛けて守ると約束してくれた。


もうひとつ俺には問題があった。

御坂美琴のことだ

俺が助けたかったから、御坂を助けた。御坂を助けたことに後悔は無い。

だけど、御坂は―――



4.

上条は車椅子に乗りながらスーパーへと出かけていた。
基本的に生活に必要な物は全て美琴が揃えてくれているが、今日は少し事情があった。

「たまには自分で動かないとな……」

季節は秋だというのに、上条当麻は汗だくになりながら買い物をしていた。

2ヶ月もたてば車椅子の操作にも慣れている。
ある程度のことは自分で出来るようになっている。

あの時から全てが変わった。
自分からの目線、全ての物が大きく見える。
そして周りからの視線、『同情』『哀れみ』など……

自分の思い込みなのかも知れないが、周りの視線がイヤだった。

両親からは学園都市を出て実家で一緒に暮らさないかと何度も言われたが、
今はまだ学園都市を出て行くことは出来なかった。


「2ヶ月か……」

そう呟くと同時に、突然背後から声を掛けられた。

「上条さん!」
振り向くとそこには白井黒子がいた。

「ああ白井か、俺に何の用だ?」
「あなた……、一体どういうつもりですの?」
声が怒りに震えるのを抑えきれない、歯を食いしばって睨みつけている。
「お姉様のお顔に……、お姉様は何も言わなかったけど手を出すなんて最低ですの!」

「最低で結構だ……」
その言葉に白井の体は小刻みに揺れている。
怒りで暴走するのを抑えているようだ。

「こうして、人と向き合うたびに思うんだ。人の顔はどうしてこんなに高い位置にあるんだろうってな……」

人と話すたびに相手を見上げなければならない。
そして、自分は相手に見下されている気分になる。

「それに買い物に行くだけで汗をかくなんて、自分の無力さを痛感する」
車椅子生活には慣れたが、やはり昔とは違う。
「今はお姉様のことを話してるんですの!」
関係の無い上条の話に、白井はついに叫んでしまった。




「ああ、だから? お前に何の関係があるんだ? かわいそうとか? 正義の味方のジャッジメントとして許しておけない?」
白井の真剣な顔を見て、上条はあざ笑った。
「お姉様はわたくしにとって大切な人ですの! そんな人を傷つけられたら誰だって怒りますの!」
「じゃあどうするんだ? 俺を車椅子ごと押し倒す? 
 それはそれで見上げた態度だよ、なまじっかな同情がない分な。さあどうする?」

どうしていいのか分からなかった、怒りに身を任せて上条を車椅子ごと押し倒すのは簡単だが……。
白井が困っているのを見て上条は続けて語る。

「分かったよ、それじゃ言ってやるよ。
 お前は俺のような立場になったことがないから分からないだろうけど、御坂は本当にうっとうしい。
 まったく……、命の恩人だとか言われても、俺は見返りなんて一切考えていなかったんだよ。
 なのにアイツは一方的に近づいてきた、今の俺と御坂の関係は一方的な感謝と、一方的な奉仕だ。
 御坂に介護されるたびに俺は感謝を強いられる。常に弱者である自分を意識させられるわけだ。
 分かってるよ、俺が前に御坂を助けた行動は同じような一方的な奉仕だったってことはな……
 それが原因でこうなっちまったが、御坂には気にせずに普通に接して欲しかった。
 御坂が一生懸命なのは認める、けれど御坂に尽くされれば尽くされるほど俺の心は死んでいく」

白井は上条の話に言葉を失った。
以前に出会ったときの上条と違いすぎる。
少し考えた後、白井は自分なりの解決策を出した。

「分かりました、わたくしはあなたのことを特別扱い致しませんの。
 車椅子なんて言い訳になりません、ですからわたくしと決闘してください」

白井は自分の言葉に少し残酷な気分になっていた。
決闘なんてしても結果は見えている、上条は文字通り手も足も出ずに負けるしかない。
上条は悔しげに唇を噛みしめ、白井を睨みつけた。

「やめなさい!」

声がかかった、白井が視線を変えるとそこには美琴が息を切らせて立っている。
常盤台の寮から走って来たようだ。

「とめないでくださいお姉様、この殿方がお姉様を悲しませるから―――」
「それでもやめて……、それ以上言うと、私……黒子のこと嫌いになる」
美琴は今にも泣き出しそうな顔になっている。
美琴に懇願されて、白井は下を向いた。
(どうして? この殿方さえいなければお姉様はいつもの面倒見が良くて優しいお姉様に戻ってくれるのに―――)

「今私が生きているのは当麻が助けてくれたおかげなの……。だからこれ以上、当麻を構うのはやめて……」
白井は立場を失って立ち尽くした。
そんなにもこの殿方のことを……、白井は怒りの矛先を失って押し黙った。


「……それじゃ俺は帰るから」
2人のやり取りを黙ってみていた上条もいたたまれなくなり、逃げるように帰って行った。



5.

それから2ヶ月の月日が流れた。
街はクリスマスのイルミネーションに彩られているが、
上条と美琴の関係は今も変わらない。
美琴は上条に何と言われようとも、上条の介護は止めなかった。

「当麻、膝掛け持ってきたよ……」
上条が顔を上げると、そこには悲しい笑顔をした美琴が立っていた。

「顔が赤いぞ、風邪でも引いたのか?」
「心配してくれるの?」
「そんなんじゃねーよ、うつされたら困ると思っただけだ」

そう言って上条は車椅子を操作して、美琴に背を向けた。

「当麻、そのままでいいから聞いて。当麻が私のことを嫌っているのは分かってる。
 哀れみや同情を押し付ける嫌な女だってことも知ってる。
 私がつきまとえばつきまとうほど、当麻は辛いんだよね……」

「……黙れ」

「けど、違うの。哀れみなんかじゃない、助けてくれた感謝の気持ちでも無い。
 私は当麻がいてくれないと困る。当麻は私に介護されるのが嫌かもしれないけど、
 私は嬉しいんだよ、だってずっと当麻の側にいられるんだもの」

「馬鹿なやつだ……」

「そうだよね、馬鹿だよ……」
美琴は後ろから上条のことを抱きしめた。
その瞬間、上条の首筋に温かい滴が落ちたのが分かった。
上条は美琴の腕を振り解こうとしたが、何故か腕が動かなかった。

現実というやつは残酷だ。
もしこの身体が自由に動けば、俺は御坂にどんなにだって優しくしてやれるのに。
このまま御坂はずっと俺に縛られて生きていく……

御坂には誰よりも幸せになって欲しかった。
あの実験によって生まれた妹達もそれを願っているはず。

「自分で立つことも出来ない……、こんな俺と一緒にいて幸せになれると思ってるのか?」

俺と一緒にいたら御坂は幸せになれない。

「なれるよ……、好きな人と一緒にいられるなら……、どんなことがあっても幸せだよ……」

美琴の言葉に上条は胸を鋭いもので貫かれるような衝撃を感じた。
結局、一方的な感情を押し付けていたのは自分だった。
美琴の気持ちも一切考えずに、美琴の幸せと言い訳ばかりして。

「そっか……、そうだったんだな……。悪い御坂、俺が馬鹿だった」
上条はいつにない優しい口調で、美琴に謝った。

「ずっと、御坂の幸せを願ってた。
 俺に縛られること無く、自分の道を……、自分の夢を叶えるために歩いて欲しかった。
 だけど俺は、お前の気持ちに気付いていなかった……
 お前が俺の介護をしてくれるのは、ずっと義務感だと思ってた。
 義務感なんかでお前を縛っちまうことが何より嫌だったんだ。
 だから少しでもお前に離れてもらおうとあんな態度をとっちまって……」

両親の申し出を断り続けたのも、このまま上条が学園都市を出て行けば、
美琴は一生重荷を背負ったまま生きていくことになると思ったからだ。

この4ヶ月、上条は美琴を自分から引き離すために何でもやった。

何度も美琴に暴言を吐いた。
美琴の周りの人間にも冷たく当たった。
1度だけ『やっぱりあのまま私が死んだ方がよかった』と言われた時は、思わず叩いてしまった。

それでも美琴はずっと上条の側にいることを選んだ。

「まさか、こんな俺を好きになってくれる物好きがいるとは思わなかったから……」

「私、物好きだもん……、すごく物好きだもん……」

美琴は首を左右に振りながら今にも消えそうなほど小さな声で答えた。
上条は美琴の腕を振り解き、車椅子を操作して美琴と向き合う。

「足が動かなくなった俺が言うのも変だけどさ……」

上条は一呼吸おいて、美琴の顔を見つめた。
顔がどんどんと真っ赤になっていくのが分かる。

「俺と一緒に歩いてくれないか? 未来へ向かってさ」

ほとんどプロポーズに近い言葉だった、その言葉を聞いた瞬間今までとは違う喜びの涙が流れた。

「……うん」

美琴の笑顔を見たとき、上条は幸せって言葉の意味を理解したような気がした。
これから幾度となく美琴や周りの人々に迷惑をかけるだろう。
それだけのハンデを背負っている。

だけど、美琴が側にいてくれたら俺はきっと大丈夫だ。


聖なる夜に結ばれた2人は、周りの人に祝福されながら幸せな人生を歩んでいった。

いつまでも貴方の側に―――

FIN








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