とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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Shall We Kamikoto?




「ちょ、ちょちょ、ちょろ~っとア、ア、アンタに頼みがその…あるんだけど、い、い、いいかしら!!?」
「……ごめんなさい」

目の前の少女の頼みを、少年は開口一番断った。
不幸慣れしているこの少年は、このまま彼女の頼みとやらを聞いたならば、
何か大きな不幸に巻き込まれるであろう事を察知したからだ。
しかしその直後、光と共に「バリバリバリィッ!!!」という響き渡る。
少年が咄嗟に右手をかざすと、『それ』は一瞬のうちに消え去った。

「ちょろ~っとアンタに頼みがあるんだけど、いいかしら?」

少女はニッコリ笑顔でテイク2である。ただし、頭の上の帯電音は継続中だ。
これに対し、少年はというと、

「カっっっ、じィ、KO、まっ、ィり、まぁあ、SHI、ぃだっっっ!!!」

と『快く』承諾した。
どっちみち不幸になるならば、とりあえず問題を先送りしようという、ダメな人の考え方である。



「…で? その頼みとやらは、一体何なのでせうかね?」

改めて、この少年こと上条は、彼女がどんな厄介事【たのみ】があるのか聞きだす。

「はえっ!!? あ、えと……じ、実は今度、ま、学舎の園内の五校共同で企画される、
 パ、パパ、パーティーがあるんだけど、そ、そそ、それにアンタも来てくれないかな~って……」
「……パーティー?」

学舎の園。
レベル5二名を有する常盤台中学を筆頭に、五校ものお嬢様学校が共同運営している地帯である。
そんな所が開催するパーティーだ。さぞや絢爛豪華で煌びやかな催しである事だろう。
庶民代表の上条からすれば、パーティーなんてクリスマスか誕生日などの、
子供騙し【こじんまり】サイズのヤツしか想像できない。
そんな事を考えていたら、ふとある疑問が浮かび上がってきた。

「……あれ? 学舎の園って男子禁制だろ? 俺なんか誘って平気なのか?」
「ああ、それなら問題ないわよ。パーティーが行われるのは、学舎の園の中じゃないから。
 男性でも入れるように、わざわざ第3学区(外部からの客を多く招く学区。基本的に建物は豪華)
 の高級ホテルを貸し切ったみたいだし。
 それに強制じゃないしね。あくまで希望者だけが参加するパーティーなのよ」
「そんな七面倒くさい事してまで、男を招き入れる必要あんのか?」
「ああ…『その事』も説明しなくちゃなんないわね……」

そう言うと、美琴は上条をジロッと睨んだ。
何というか、嫌な予感しかしない。

「な~んかこの前さぁ……枝垂桜学園の女子更衣室に忍び込んだ、
   馬  鹿  な男がいたらしいのよねー!!!」

ギクッ!として、上条は背筋をピーンとさせる。
ちなみに美琴は、その馬鹿な男【はんにん】の顔も名前も知っているのだが、『あえて』伏せている。



美琴が言うにはこうだ。
意外な事に、あれだけ大騒ぎだった痴漢騒動は、そこまで問題にならなかったようだ。
(おそらく精神操作に長けたどこかのレベル5が、何かしらの裏工作をして騒ぎを鎮火させたのだろう)
しかしむしろ、あれだけのパニックが起こってしまった事自体は問題になったらしい。
勿論、学舎の園に侵入した男を許す事はできないし、セキュリティも更に厳重になった。
だがもし、仮に、万が一。今後、同じような事があった時、それも、今回よりも悪質な犯人が侵入した時、
またパニックになってしまっては元も子もない。
なので運営側は、世間知らずの箱入りお嬢様達に、『対男性用特別談笑訓練』をさせる事にしたのだ。
簡単に言えば、「お前らそのままだと社会に出た時苦労すっから、ちったぁ男に慣れとけ」という事だ。
それが先程美琴が言っていた、パーティーの全容である。
ちなみに招待される男性客は、運営側が厳選した、問題無し【コイツはあんぜん】と認可された者と、
パーティー参加者が任意で連れて来る者だけだと言う。

と、美琴から一頻りの説明を受けた上条は、

「な…な~るほ~どねぇ~……」

と呟きながら汗をダラダラ掻いている。そして何故か目も激しく泳いでいる。

「そんな訳だからぁ…アンタに断る『権利は無い』わよねぇ…?」
「はい!」

それはもう、とても綺麗な返事だった。何か後ろ暗い事でもあるのだろうか。
と、ここで上条は再び疑問に思う。

「…あれ? でも、だとしたら何で美琴まで参加するんだ?
 お前は相手が男だからって物怖じような性格【タイプ】じゃないだろ?」

今度は美琴がギクッ!とする。
この男は、いつも肝心な所で鈍感なくせに、たまにこういう鋭いツッコミをする時があるのだ。
ただし本人は無自覚で。

「えっ!!? あ、あーほら!! せ、せせ、先生方に頼まれちゃったのよー!!
 い、一応私、常盤台の代表みたいにされちゃっててさー!! こ、断るのも悪いし!?
 そそ、それにアレよ!! もし問題が起こっても、
 私なら能力【ちからずく】で男なんで黙らせられるし!?
 つ、つつ、つまりボディガードとか用心棒とかSPみたいなものよ!!!」
「いや、前半の理由はともかく、後半のは完全に風紀委員とか警備員の仕事だろ。
 美琴がレベル5で強いのは分かってるけど、そこまでする必要ないんじゃないか?」
「ううううっさいわね!!! べ、べべ、別に何でだっていいでしょ!!!?」
「え~…? 何故にわたくしが怒鳴られなければならないのでせう…?」

理不尽(?)に怒られる上条。
美琴ととしても、本当の理由を言える訳がない。
「えっ!? パ、パーティー!? し、しかも好きな相手を選んで連れて来ていいなんて……
 も、もも、もし!! もしもよ!!? あ、あああ、あの馬鹿を誘ったら、
 一緒に社交ダンスとか!!? しちゃったり!!?
 って、ててて事は、一緒に手とかも繋いで、一緒に抱き合ったりして、
 『美琴のドレス姿…とても綺麗だよ……あ、あれ? 何で俺、今日こんなにドキドキしてるんだ…?』
 とかなんとか言われちゃったりなんかしちゃったりして!!!?
 ………ふにゃー」
などと想像していた事など、言える訳がないのだ。



そんなこんながあった訳で、その日パーティーが開始される。



パーティー当日。
レンタルの礼服を着込んだ上条は、会場から少し離れた所で美琴を待っていた。
運営側が選んだ男性は顔パスで入場できるのだが、
そうじゃない者は、パーティーに参加する女性と同伴でなければ入れないのだ。
故に、上条は美琴が来なければ会場に足を踏み入れる事ができないのである。
もっとも、そうじゃなくてもこんな格式高い【ばちがいな】所に一人で入るなど、
上条にはできなかったとは思うが。

腕時計にチラリと目をやり、「美琴遅いなぁ…」などと考えていると、
ある人物が話しかけてきた。

「おや? あなたもパーティーに参加を?」
「か…垣根!?」

垣根帝督…の一人、とでも言うべきか。
未元物質から生まれ、自我を持った、元・カブトムシ05。
さすがに端整な顔立ち【イケメン】なだけあって、タキシード姿も中々様になっている。
……このタキシードも、自分の能力で具現化した【つくりだした】のだろうか。
それにしても、彼がこんな格好でここにいる、という事は……

「えっ!? お前も参加者なのか!?」
「ええ、私は運営に呼ばれたクチでして。おそらく理由は、レベル5という集客力【ブランド】でしょうね。
 その証拠に、第一位の彼にもお声がかかったらしいですから。
 もっとも、彼は蹴った【ことわった】みたいですけど」
「ああ、まぁ……一方通行【あいつ】は呼ばれても来ないだろ…キャラ的に……」

最近は丸くなったとはいえ、人格破綻者で有名なお二方【レベル5】に招待状を送るとは。
本当に運営側は、ちゃんと厳選したのかと疑いたくなってくる。
ちなみに、同じレベル5でも、『あの』ナンバーセブンは呼ばれなかったようだ。
彼は少々型破り【はてんこう】すぎて、お嬢様方には刺激が強すぎる、という見解らしい。
まぁ、分からんでもない。

「では私はこれで」と言い残し、垣根は会場へと入っていった。
再び一人となり、待ちぼうけを食らっていると、

「お…お待たせ……」

待ち人がやって来た。

「あー、やっと来たか。遅かっ…た……な…?」

思わず見とれた。
パーティードレスに身を包んだ美琴は、
古くさい言い方かも知れないが、まるで絵本に出てくる姫のようだ。と、上条は思っていた。

「ど……どう…かな…?」
「…えっ!? あ、あぁ…その……き、綺麗…だ、と思う………」
「!!! あ、あああありがと……」
「……………」
「……………」

お互い顔が真っ赤に染まり、気恥ずかしい沈黙が流れる。
しかし、いつまでもここで時を止めている訳にはいかないので、

「じゃ、じゃじゃじゃあ、そろそろ会場に入るか!!」

と上条が美琴の手を取る。
偶然かつ無自覚だが、上条がエスコートする形となった。
美琴の頬に、ますます赤みが差したのは言うまでもない。



会場に入ってまず目に飛び込んできたのは、
おいくら億円なのかも分からない、どでかいシャンデリア。
インデックスがいたら目をキラキラさせるであろう、一皿ウン十万の料理の数々。
お金持ちオーラが溢れ出ている、紳士淑女の皆々様。

上条は思った。「俺、完っ全に浮いとるがな!」と。

だが辺りをキョロキョロ見回すと、中には見覚えのある顔もチラホラ。
入り口付近には先程の垣根。巡回しながら周囲を監視しているのは警備員で体育教師の黄泉川。
奥で女性に囲まれているのは常盤台中学理事長の孫、海原(多分『本物』)。
料理を忙しなく運ぶのは、繚乱家政女学校も生徒だ。土御門舞夏や雲川鞠亜の姿もある。

上条は思った。「良かった~、知り合いがいて~」、と。

と、ここで美琴が俯いたまま黙っている事に気づく。

「どうした? 美琴」
「………手…」
「手?」

視線を下にずらす。美琴の手を握る自分の手。

「…? ……あっ!! あ、あー…スマン。…嫌だった、か…?」
「べ、別に嫌じゃ!! 嫌じゃ…ない…けど……」
「えっ…あ……そ、そうか…?」
「……………」
「……………」

再びピンク色の沈黙が流れる。
だがここで、この二人だけの空間に割って入る、ちょっと空気の読めない子が美琴に話しかけてきた。

「あら? 御坂さんじゃありませんこと?」
「…ふぁえっ!!? あ、ああ! 婚后さんも来てたのね!」
「当然ですわ! このような催しには、わたくしの様な華が必要ですもの!
 け、決して『もしかしたら今日、運命の殿方にお会いするかも知れませんわ!』
 などと期待した訳ではありませんわよ!?」
「そ、そう…?」

ちなみに、さすがに一人で来るのは怖いからって、湾内や泡浮も誘った事はここだけの秘密である。
その二人は水泳部の都合で少し遅れているらしく、まだ来てはいないのだが。

それにしても、と婚后は美琴の隣の男性に目をやる。

「それで…その……こ、こちらの御方が御坂さんの…と、殿方ですのね…?」
「えっ!!? あ、ちち、違―――」

美琴が否定する前に、婚后は上条と握手する。

「わたくし、御坂さんのお友達をさせてもらっています、婚后光子と申しますわ。
 よろしくお願いいたしますわね」
「ああ、こちらこそヨロシクな」
「……その…御坂さんを大切にしてあげてくださいね。
 もし彼女を傷つける事があったら…わたくしが許しませんわよ」

婚后の真剣な眼差しに、上条も真剣に答える。

「ああ、約束するよ。美琴とその周りの世界を守るって誓ってるからな」

それは海原【エツァリ】との約束の言葉だった。
が、その言葉を初めて聞いた婚后は、

(い、いいい今! この方さらりとプロポーズの言葉を仰いませんでした!!!?)

と勘違いし、瞬時に顔を真っ赤に染める。
そして美琴も真っ赤に染める。

「お、おほほほほ! し、しし、心配はご無用のようですわね!
 でででは、わたくしはこの辺りでお暇させていただきますの!」

何か急ぐように、婚后はこの場を去って行った。

「…急に慌ててたな……どうしたんだ? あの子」
「ささささぁ!!? どどどどうしたんでしょうね!!?」

ポカーンとする上条とは対称的に、ひたすらテンパる美琴であった。



上条は今現在、初めて食べる原価5桁以上のお食事に、感動しながら舌鼓を打っている。

「うおっ!? 美味すぎるだろこれ!! この…えーっと……名前も知らないけど、この魚料理!!」
「そ、そそ、そうね!!!」

と一応返事する美琴だが、正直、味なんて分からない状態になっていた。
度重なる上条からの攻撃に、もはやノックアウト【ふにゃー】寸前だったりするのだ。

「もぐもぐ……そういや、飯食った後はダンスして終わりなんだよな? 確か。
 何か…意外とシンプルっつーか、あっけないな。
 学舎の園主催のパーティーって言うから、もっとド派手でとんでもない事すんのかと思ってたよ」
「ま、まぁ、パーティーって言っても、あくまで男性に慣れる為の訓練だからね。
 初めての試みだし、軽めのプログラムにしてあるんじゃない?」

この、2時間程で終了する短いパーティーのプログラムは、
立食及び談笑。終了間際に行われる社交ダンス。その2点のみという、非常に簡素なものだった。
美琴の言う通り、徐々に慣らせる為なのだが、
世間知らずなお嬢様方にはそれでもかなり刺激的だったらしく、
美琴の「軽め」という感想とは裏腹に、割とテンパっている者も多い。主に婚后さんとか。

「けど、俺ダンスなんてやった事ないぞ? どうすんだ?」
「べ、別に無理してやんなくてもいいわよ……」

基本的に、上条に対して素直になれない美琴は、
「私に合わせて動くだけで大丈夫よ」とは、言いたくても中々言えない。先日は、
「も、もも、もし!! もしもよ!!? あ、あああ、あの馬鹿を誘ったら、
 一緒に社交ダンスとか!!? しちゃったり!!?
 って、ててて事は、一緒に手とかも繋いで、一緒に抱き合ったりして―――」
などと妄想していたくせに。

と、ここで突然、誰かが上条の右腕に抱きついた。

「あらぁ~。それなら、私と一緒に踊ってくれないかしらぁ?」
「おわっ!?」
「……ゲッ!」
「もう御坂さんってばぁ、人の顔見るなり『ゲッ!』だなんて、ちょっと失礼力が高いんじゃなぁい?」

誰かが、というか、食蜂が、である。

「…まさかアンタまで参加してるとは思わなかったわ……
 っていうか、いつまでくっついてんのよ!! とっとと離れなさいよ!!」
「そんなの私の自由力でしょぉ? それにぃ、上条さんだってこうされてる方がいいわよねぇ?」
「い、いや…それは、その……な、何と言いますか……」
「アンタもアンタで!! 何デレデレしてんのよ馬鹿っ!!!」

右腕から伝わってくる、とてもやわらか~い感触に、
思春期真っ只中の上条さんが何も感じない方がおかしい。

「ちょうど退屈力が過ぎるんで帰ろうとしてた所だったんだけどぉ、
 上条さんがいるなら話は別なのよねぇ。
 しかも御坂さんはダンスに誘わないみたいだしぃ、私と踊ってもいいでしょぉ?」

美琴と違ってグイグイ来る食蜂である。
こういった経験に慣れていな上条は、ただただ赤面しながらワタワタしている。
だが、そんな上条の様子を見て「イラァッ!」としたのと、食蜂への対抗心から、
美琴は勢いに任せてこんな事を言い出した。

「駄目に決まってんでしょ!!? こいつは私が連れてきた、私のパートナーなんだから!!!
 ダンスだって私とやるんだから!!! だから絶対に駄目なのっ!!!!!」
「うえっ!? さっき無理ならいいって言ってたじゃんか!? 急にどうした―――」
「何か文句ある!!?」
「―――いえっ! 何にもないッス!!」

反論しようとするも美琴にギロリと睨まれ、即座にイエスマンと化す上条である。

「ほらっ! もう行くわよ!!」
「あっ、いやでも、俺まだこれ食ってる途中―――」
「い・い・か・ら・!!!」
「―――はいっ! かしこまりました!!」

反論しようとするも美琴にギロリと睨まれ、即座にイエスマンと化す上条である。

先程とは逆に、今度は美琴が上条の手を取る形で歩き出す。
あっけにとられていて、そのまま二人を呆然と見送ってしまった食蜂は、
その後ハッ!と我に返ったのだが、その時には既に二人が人混みに紛れてしまっており、
運痴な彼女には追いつく事ができなかったのだった。



ズンズンと歩く。

「おい、美琴?」

美琴は上条の右手をしっかり握り、ズンズンと歩く。

「美琴ってば! 聞いてんのか!?」
「うっさいわね聞いてるわよ!! 何なのよ!!」
「いや、何なのよはこっちのセリフではないでせうか!? 何で急に怒ってんだよ!」
「怒ってなんかないわよ馬鹿っ!!!」
「…怒ってんじゃねーか」
「怒ってないって言ってんでしょ!!?」

確実に怒っているように見える。
しかし上条には、美琴が不機嫌になった理由が皆目見当もつかない。

「いい加減、機嫌直せって。えーっと…ほら! か、可愛いお顔が台無しですぞ~…? なんて……」

とりあえず冗談を言ってみる。これで機嫌が直ってくれたら御の字だ。
美琴も「可愛い」の一言で一気に嬉しさがこみ上げてきたが、
今自分はお怒りモードなのだという事を思い出し、あくまでツンツンした態度を貫き通す。

「きゅ、急にそんな事言ったって、べ、別に嬉しくとも何ともないんだから……
 アンタに…か、かか、可愛いとか言わりぇても…じぇんじぇん…平気…なんらかりゃ……」

ツンツンした態度をとろうと頑張ってはいるのだが、完全にデレッデレである。
顔なんかもう、緩みきっているし。
完全無敵の電撃姫も、上条さんが相手だと、
良く言えば恋する乙女、悪く言えばちょろインと化すのである。
しかしそこは鈍感王上条。こんなに分かりやすくデレている美琴を目の前にして、

(う~ん…やっぱそううまくはいかないか……どうすりゃ機嫌直すんだ?)

などと、とりあえず一発ぶん殴りたくなるような事を考えている。

と、ここでどこからともなく、クラシック調にアレンジされた「ムーン・リバー」が流れてくる。
きっと社交ダンスの時間が始まったのだろう。
たかだか十数分の社交ダンス為に、わざわざオーケストラ楽団を呼ぶあたりは、
さすが学舎の園主催と言わざるを得ない。

だがこういった雰囲気に全く縁のない上条は、

(この曲…ローマの休日でオードリーが歌ったヤツだっけか?)

などと、どうでもいい事を考えている。
ちなみに、オードリー・ヘップバーンが「ムーン・リバー」を歌った映画は、
「ローマの休日」ではなく、「ティファニーで朝食を」だ。

しかし今はそんな事を考えている場合ではない。
とりあえず今は、美琴の機嫌をどうにかしなければ、後々怖い事になり兼ねない。
(美琴的には、実はもうご機嫌だったりするのだが、上条はその事に気づいていない)
なので上条は、こんな提案をしてきた。

「あ、あのさ! やっぱせっかくだし、踊らないか!?
 ほ、ほら。周りでダンスってないのって、俺たちだけだしさ。このままだと逆に恥ずかしいし」

そう言って、美琴の目の前で手を差し伸べる上条。
上条としては、「美琴ってもしかして、ダンスがしたかったんじゃねぇのかな?」
と思ったからそう提案した訳だが、鈍感な上条にしては珍しく『半分』も当っている。
もう半分は、『上条と』ダンスがしたかった、という所なのだが、さすがにそこまでは気づかない。

美琴としても、勿論嬉しい申し出ではあるのだが、
あまり乗り気じゃなかった上条からのまさかのお誘いに、一瞬、頭の働きが止まる。

そんな美琴を知ってか知らずか、上条はとどめの一言を放ってくる。

「えっと…あれだ。シャ…シャル・ウィ・ダンス?」
「は……はい…………」

何だか頭がポーっとしたまま、美琴はその手を取るのだった。



ぎこちなくステップを踏む男女が一組。
上条は元から慣れていないから仕方ないとして、社交ダンスの心得がある美琴までワタワタとしている。

「お、おい、次はどうすんだ!?」
「え、えと…オーバーターンからターニングロックを―――」
「分かんねーよ!! ターンってどっち!? 俺!? それとも美琴!?」

てんやわんやである。正直、優雅さの欠片もない。
だが周りからは、そんな二人がなぜかお似合いに見えていた。

「……ありがとね。無理してついて来てもらって」

リードしながら、美琴は今日の事に感謝する。

「あーまぁ、気にすんなよ。俺も美味いモン食えたし、こうして貴重な体験もできた訳だしさ」
「アンタは…その……た、楽しめた…?」
「そうだな。わりと楽しかったと思うぞ?」
「なら…良かった」

ふっと優しく表情を緩める美琴に、上条は思わず「ドキッ」とする。
『それ』の正体が一体何なのか、一瞬上条の頭の中を過ぎったが、
頭をブンブンと揺らし、それを振り払う。
だがそんな事をしていたせいで、

「も、もう少しゆっくり……きゃっ!!?」
「おわっ、危ね!!!」

上条が美琴のドレスの裾を踏んでしまった。
二人はバランスを崩し、そのまま壁にぶつかる。

「いってて…わ、悪い美琴! どっか怪我と…か…?」
「いったぁ~! もう、ちゃんとしてよ…ね…?」

目を開けると、二人の顔は間近に迫っていた。
二人はお互いに見つめ合い、ありえないほど心臓をバクンバクンさせていた。
この体制から、次に想定される行動は勿論―――

(い、いやいやいや!!! 待て待て待て上条当麻!!!
 俺のせいで壁に押し付けたあげく、『今考えてるような事』を無理やりしちまったら!!!
 それはもう、確実にアウトだろっ!!!!!)

ふう~~~っと深く息を吐き、理性を取り戻そうとする上条。
ゆっくりと美琴から離れようとする。
が、

「み、美琴っ!!?」
「……………」

美琴は上条の首に手を回し、何かを決意したかのように、上条の顔を見上げたままギュッと目を瞑る。
さすがの上条でも、それが何を意味するかは分かる。
ドクン!と上条の中で何かが弾け、そのまま唇を重ねるように―――





















しようと顔を近づけた瞬間、実は会場に来ていた白井
(常盤台生だがパーティーの参加者ではなく、風紀委員として警備にあたっていた)
のドロップキックが上条の当頭部に炸裂した。

この日、二人のパーティーを締めくくったのは、
顔面がめり込む程に激しい、上条と会場床の熱い口付けだったという。



ちなみに翌日。

「うぅ~…まーだ頭がズキズキするよ…白井のヤツ、思いっきり蹴飛ばしやがって……
 そう言や、あの後どうなったんだ? 頭打ったせいか、ダンスからの記憶が曖昧でさ。
 美琴なら覚えてるだろ?」
「しゃしゃしゃしゃあ!!!? わわ、わらひもじぇんじぇんおびょえてにゃいきゃら!!!!!」
「そっかー……な~んか大事な事があったと思ったんだけどなー……」

幸か不幸か、『あの時』の記憶をなくした上条はひたすら首を捻り、
逆にしっかり覚えている美琴は、暫くまともに会話する事もできなくなってしまったのだった。








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