とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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不治の病を治す薬は




上条当麻は最近、謎の体調不良に悩んでいた。
ある特定の条件下においてのみ発症するその病気は、
動悸、息切れ、発汗、体温の上昇、喉の渇きなどの肉体的な症状から、
挙動不審になったり、やたらと物思いにふけるなどの精神的な症状までさまざまだ。
そしてこれらの症状が現れる時、必ず一つの共通点がある。

御坂美琴である。

上条は、美琴の事を考えている時、あるいは美琴と一緒にいる時にこの発作が起こるのだ。
ちなみに右手で自分の体をあちこち触っても何も起きなかったので、
どうやら異能の力が働いている訳ではなさそうだ。

上条はカエル顔の医者のいる【いきつけ】の病院に行ってみたのだが、
医者からは怪訝な顔をされながら、「冷やかしなら帰ってくれるかな?」と一蹴された。
次は科学にも魔術にも精通している土御門に話を聞いてみたのだが、
一発思いっきりぶん殴られた後、「リア充は滅べばいいぜい」と言いながら道に唾を吐かれた。
不幸である。
結局この謎の病気の事は何一つ解らないまま、今に至る。

思えばこの症状、この前道で美琴を見かけた時に初めて現れた気がする。
上条は先日、偶然にも美琴がペットショップの外から中にいる動物たちを見ているのを目撃した。
おそらく電磁波で動物を怖がらせないようにする為の配慮だろう、
ガラス越しにネコにおいでおいでしながら、彼女は優しく笑っていたのだ。

上条はその笑顔を、単純に「可愛いな」、と思った。

それだけだった。それだけの事だった。しかしそれからなのだ。例の病気が発症したのは。
気がつけば一日中美琴の事を考えている日も珍しくなく、
そのおかげで家事にも勉強にも身が入らない毎日なのだ。
それなのにどこか心地良く、不思議と嫌にならないのが、この病気の厄介さに輪をかけていた。



そんな訳で、彼は今日もどこか足に地が着かない様子で、フワフワしたまま寮へと帰る。

(美琴…今何してるんだろうな……)

と、やはり彼女の事を考えながら。
だがその時だ。

「ちょろっと~?」

という声がした。上条は反射的にビクッとする。
何しろその声の主は、

「み、みみ美琴!?」

そう。病気の元凶と思われる、御坂美琴本人だからだ。

「? なにキョドってんのよ」
「いい、いや別に何でもありませんのことよ!? 上条さんは平常運転でありんす!」
「そ、そう…? ならいいけど……」

明らかにどこかおかしい様子だったが、
よく考えたら上条は元々おかしい言動が多かったので気にするのをやめた。
上条は上条で、やたらと心臓がバックンバックンしているが、必死に平静を装う。

「で…その、な、何か用か?」

上条はいつも通りの自分を演じる。

「えっ!? あ、いや…別に用がある訳じゃないんだけど……
 ただアンタが歩いてたから何となく………」
「へ? それだけ…か?」
「なっ何よ! 用がなきゃ話しかけちゃいけない訳!?
 わ…私に話しかけられたら……め…迷惑なの!?」
「あ! そ、その、そういう訳じゃないんだけどさ!」

お互いにギクシャクしている会話である。
いや、それよりも問題は美琴が詰め寄ってきたせいで、

「あ、ああああの美琴さん!? 顔っ! 顔が近いのですが!?」

『何か』事故でも起きれば、キスできる距離となっていた。
美琴は瞬時に顔を赤く染め上げる。

「おわああああ!!! ごご、ごめん……」
「い、いや、別に謝るほどの事じゃないけど……」

非常に気まずい…と言うより甘酸っぱい空気が二人の周りを包み込む。
そのまま爆発してしまえ、と思うのは、
その様子が嫌でも目に入ってしまう周りの通行人たちだけではないはずだ。

「あ…じゃ、じゃあ俺もう行くから。用がないならこれで……」

この空気に耐えられなくなったのか、上条が逃げるように急ぎだした。
このままこの空間にいると、色々と変になってしまいそうだ。
しかしそんな上条を引き止めるかのように袖を引っ張り、俯きながら美琴は言う。

「い……一緒に帰っちゃ…ダメ…?」

上条の頭に、「断る」という選択肢は何故か浮かばなかった。



微妙に距離を空けながら、二人は無言のまま歩いている。
ただし、美琴は上条の袖を引っ張ったままだ。どうにもやり辛い。
気まずいのは会話がないから…だけではない気がする。

「あ…あー、あのさ、美琴って普段何してんの?」

とりあえず上条が話しかける。
相変わらず謎の発作は治まっておらず、美琴が隣にいるだけで胸は苦しいのだが。

「え…? ふ、普段? 別に普通だけど…特別何かしてるって訳でもないし……それが何か?」
「いや…別に……」

会話が続かない。
おかしい。以前は普通に喋れていたはずなのだが、何故か今はうまくいかない。
何かもう、本格的にヤバイのではないか、と上条は思った。
このままの状態でいるのは何だか嫌だ。
ずっと美琴とギクシャクした関係でいるのは、絶対に嫌だ、と思ったのだ。
だがこの病気の正体が一向に分からない。

なので彼は、その事を美琴に打ち明けた。

「な…なぁ、美琴……」
「何?」
「じ…実は……さ…そのー…何だ……えっと………」
「…? 何よ、はっきりしないわね」
「う……悪い……」

何故だろう。これを美琴に相談するのは何か違う気がする。
うまく言葉が出てこない。

「あー………じ…実は友達に相談されたんだけどさ!」

なので第三者【ともだち】のせいにして、事実をでっち上げた。

「み…誰かの事をずっと考えちまうらしいんだよ。朝も昼も夜もずっと。夜中も眠れないくらいにな。
 んで、その誰かと一緒にいると胸が苦しくなつっつーか、すごいドキドキするらしいんだ。
 これって…何だと思う…?」

上条は破裂しそうなほどにドクンドクン鳴っている自分の心音を聞きながら、美琴の答えを待つ。
だが美琴は意外すぎるほどにあっけらかんと答えた。

「何言ってんのよ。そんなの、その人の事が好きだからに決まってるじゃない」

ただし、その答えは上条にとって衝撃的だった。

「好……き……?」
「そうよ。当然じゃない。ったく、その友達もアンタに相談して今頃後悔してるんじゃない?
 アンタ、その手の話には鈍いもんね。おかげで私も散々……って、ななな何でもないや!!!」

上条はその場で立ち止まり、美琴の言葉を頭の中で繰り返す。
そしてこの病気…いや、感情が何なのかを理解した。

(そうか……俺は……)

振り返り、美琴の顔を真っ直ぐ見つめる上条。
この気持ちを、今すぐにでも伝えたくなった。
「失敗するかも知れない」という考えすら、何故か頭をよぎらなかった。

「……美琴」
「な、何よ。急に真面目な顔しちゃって……」
「先に誤っとく。急にこんな事言ってごめんな」
「だ、だから何なのよ。言いたい事があるなら言いなさいよ」

上条はゆっくり深呼吸をして、そして―――

「俺、美琴の事が……… 好









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