小ネタ とびっきりの
この世にサンタクロースなど存在しない。
薄暗い工場跡地で、
伊豆山亜科 (いずやま あか)はそう思った。
年は13前後だろう。
三つ編みにした銀髪を腰に巻きつけるという奇抜ないでたちをしている。
服装は巫女装束。とある人物が自分のアイデンティティーに危機を感じるかもしれない。
さらに首にはいくつもの勾玉が光っている。
その奇抜な服装は彼女だけにとどまらない。
「あなたが悪いのよ亜科、姉とともに組織を裏切ろうとするなんて」
彼女に話しかけたのは全く同じ服装をした女だった。
大海水千(おおうみ みずち)
同じ魔術結社の 元 同僚である。
魔術結社「ヤマタノオロチ」。
少数ながらも、古くから日本で活動する組織だ。
しかし、
「あなたたちがおかしいのよ、日本を、学園都市を、十字教を滅ぼしたところで、組織の再興なんてできるわけないわ!!」
「だからといって、組織を裏切っていいわけないでしょう? そんなことより、姉に会いたくなーい?」
「ふん、今頃は学園都市に「いないわよ」……え?」
「その前に追手が殺してるわ、そんなこと、気づいていて泳がせたにきまってるじゃない!! 二人よりも一人ずつやったほうが楽でしょ?」
この世にサンタクロースなどいない。
去年もこの日に両親が、姉と私を残して他界した。
そして、両親から組織を引き継いだ今のリーダーは、組織の再興に躍起になり、ついに暴走を始めた。
「覚悟はできた?」
サンタクロースというやつは、家族を奪い、私に不幸しか与えないようだ。
そうして、すべてをあきらめた時、
工場の壁が吹き飛んだ。
「何!!?」
そこから現れたのは
「ちょっと!! マイラブりーみこったん!!
やりすぎではないでしょうか!!!!」
黒髪ツンツン頭のサンタクロースだった。
そしてその後ろには
「な、なにがマイラブリーよ!! うれしすぎるじゃない!!
あと、たんいうな!!」
でれっでれで帯電しているミニスカ(短パン装備)のサンタも来た。
「そうじゃなくて、聞いてます? 弁償とかになったらどうすんの?」
「?? すればいいじゃない、これくらいなら20万くらいでしょってなんで頭抱えてるのよ?」
「「……で、誰??」」
敵とハモるのは不本意だが仕方ないだろう。
なでなでしてあげようか?
とかいってじゃれてるバカップルサンタが乱入したら、
だれでもそんなリアクションになると思う。
「えーっと、私とコイツは幼稚園に行ってサンタ役をすることになってたのよ」
「だけどこの格好で到着する寸前にインフルエンザで休園ってことを知ってさ」
「「知らねーよ」」
「まあまあ、そのあとにこのまま家でいちゃいちゃしようって流れになったの」
「不良に絡まれて、道に迷って、白井に襲われて、マッドサイエンティストと戦って、同級生に追われて、やっとの思いで家についたわけさ」
「「だから知らねーよ」」
「そこで、女の人が誰かに襲われてるじゃない」
「助けるだろ?」
「美人で巨乳でしょ」
「そうそう」
「そのあとでラッキースケベ発動でしょ」
「すっげーやわらかかった」
「死ぬかこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
「すみませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええんんん!!!」
それは、ほれぼれするほどきれいな土下座だった。
「で、でもさ」
「なによ、死に方の選択肢くらいくれてやるけど?」
「美琴のほうが美人だぞ」
「そんなことで許されるとでも?」
「うーん……じゃあ、美琴に包まれて死にたい」
「は、はぁ!!? 何言って……って!!」
ツンツンサンタがビリビリサンタを抱きしめる。
「やきもち焼く美琴もかわいいな」
「しょ、しょんにゃことでろうりゃくしゃれにゃいんだかふにゃーーーーー」
なんなんだ、いったい。
「ふざけてんの??」
水千がついに切れた。仕方ないと思う。
地面に亀裂が入り、地下水が凶器となり二人を襲う。
私が声を発する前に、ダイヤすら切り裂く水流の刃が二人の生命を断つ。
はずだった。
「おい、美琴が怪我したらどうすんだよ?」
黒髪の男が右手をかざしただけで、水千の魔術が消え去る。
さらに、
「水なら私と相性最悪よ? 当麻に刃を向けたこと、後悔しなさい!!」
見てわかるほど強力な雷撃が水千を貫いた。
「ま、手加減はしてあげたわ」
「えげつねぇ」
「と、当麻にはもっとすごい威力のやつををあててるからね」//////
「いや、デレるポイントおかしい、オレうれしくないよそれ」
「え、えーっと」
わたしはなにが起こったのか全然わかんないんだけど?
「ん? ああ、お前の姉に頼まれたのさ」
「アンタを助けてってね」
わたしを……?
「な、にしてるのよ、それじゃあ、なんのために、わたしが、囮になったか……」
これでは、意味がない。
姉を逃がしたと思ったのに、これじゃあ……
「なに!!?……はぁ?」
「何やってんのよ、あんたたち」
「へ?」
「お前の姉も、囮になったって言ってたぞ」
「どっちも目立つ行動すれば、ばれるに決まってんじゃない」
そん、な
「でも、そうでもしなければ、組織から、姉を守ることなんて……」
「……なぁ、もうやめよう」
「そうよ、何のために、私たちが来たのよ?」
「え?」
「よーし、お義父さんの言葉、借りるか」
「あー、あれね」
今年、私のところに来たのは、
「「お前(アンタ)とお前(アンタ)の姉の世界に足りないものはなーんだ!!」」
とびっきりバカップルでとびっきりの幸せを届ける二人のサンタだった。