とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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雨と傘と猫




「なにしてるんだか」

呆れて、不機嫌になる。

本日は金曜日。
大学の研究を根性で一段落まで落ち着けた御坂美琴は、真夜中に外出していた。
駅までの道中、どしゃ降りの雨が傘を叩く。
ゲコ太傘のおかげで上半身は濡れていないが、
膝からしたはぐちょぐちょである。
雨天に外出したいと思うほど、
彼女は自分を詩人とは思っていないのだが。

「ねえ!! そんなところでなにしてんのー?」

彼女は視線の先、交差点の向こうに座る、目的の人物に声をかけた。
ヤツは道端のしげみに傘をさしたまましゃがみこんでいた。
声は届いていないらしく、返事はない。
コウモリ傘で顔もほとんど隠れている。
だが、あれはアイツに違いない。

ため息を吐き、信号が変わったので近づこうとした瞬間、
なにかを察したのか、ようやくこっちに気づいたアイツは手を振ってきた。

(まったく、こっちの気も知らないで)

週末は、海外で働いているヤツと過ごせる短い幸せな一時である。
今日もご馳走を用意して、ウキウキと待っていたのだ。
しかし、到着予定時刻から2時間が過ぎ、荒れ模様の天気に我慢できなくなり外に出た。
てっきり何かの不幸で傘を手にできなかったのだと、もしくは誰かを助けているのだと思っていたのだが。

「悪いな、携帯の電池が切れててさ」

下から見上げる愛しの彼、
上条当麻は傘も装備し、周りに不幸中の美女もいない。
なんでまっすぐ帰ってこなかったのか。

「あっ!!」

すぐに原因を見つけた。

「フー……フシャー!!」

黒猫である。
上条の傘のなかで威嚇している。
恐らく電磁波のせいだ、と気づくより前に、
しょぼーん、となる前に、

「よっと」

と言いながら、彼が右手で美琴の手を掴む。
上条の傘は放置され、
持ち主は立ち上がって、彼女と相合い傘になる。
美琴さん、電磁波消えるし彼氏と近いしで大歓喜。
どーよ!! 気が利くうえにやさしい彼氏!!うらやましいでしょ、いいでしょ!!
と、思うが、上条の前では絶対言えない美琴さん。
キャラじゃないのである。
あと、なんかこう、あれらしい。


「美琴?」

「ふにゃっ!!…………な、なによ?」

「いや、せっかく触れてるんですから、じっくり見てはいかが?」

すすめられて一緒にしゃがむ。
実は上条との距離が近く、
ドキドキが止まらないのだが、
上条には絶対に言えない。
キャラじゃないのである。

「あ、2匹いたんだ」

黒猫の後ろには、茶毛の猫がいた。
黒猫が、庇うように前に出る。

「後ろのやつが妊娠してるみたいでさ」

「じゃ、この子は旦那さんだ」

「オレが帰る頃は雨降りだしたばかりだったんだけど」

「この子たちがいたんだ」

「そうなんだよ。旦那くんが右往左往しててさ、ほっとけなかった」

てことは、コイツは2時間も座り込んでいたことになる。
彼女をほっといてなにしてるんだ。

(相変わらず、呆れるほどのお人好しね)

美琴はため息を吐くが、
顔に浮かぶのは笑みである。

「じゃ、どっかで猫缶と、タオルでも買ってきますか」

「そうすっか」

傘を放置して立ちあがり、
歩き始める上条と美琴。
後ろからでは緑の傘が邪魔でよく見えないが、
自然と2人の腕がからまったようだった。

「あの2匹幸せそうだったわね」

「あぁ」

ボケーっとなにか考えながら歩く上条。
美琴はどうしたのか尋ねながら、下から覗き込んだ。
ここでようやく上条の意識は戻る。

後方からは傘で見えないが、
上条の顔が美琴に急接近したのがわかった。
傘の向こうから、美琴の戸惑う声が聞こえる。

「な、なに? どうしたの? 死ぬの?」

「なんで死なんとならんのじゃい」

「なんか、表情がいつもと違うから」

「惚れ直した?」

「馬鹿いってないで」

「あー泣きそう…………なぁ、美琴」

少し、言葉に間があった。
ゆっくりと、一言も聞き逃すまいと美琴が近づく。

「数年後の今頃、ウェディングドレス着るか?」

「へ?」

「ジューンブライドっていうんだろ?」

「え? 本気?」

「正式な申し込みはまた今度な」

「…………ふーん」

「なんだよ?」

いつの間上条の腕に美琴が抱きついていた。

「しょうがない、そこまでいうならやさしい美琴さんも待ってあげませう」

「おーい、オレの真似すんなー。著作権侵害だー」

「きっとすんごく格好いいプロポーズなんだろーなー」

「や、やめて、ハードルあげないで!!」

「だーめ」

「オニか!!」

「違うの」

一瞬立ち止まる美琴に、
上条も合わせて立ち止まる。
後ろからでは傘で見えないが、
美琴の顔が上条に急接近したのがわかった。
傘の向こうから、美琴が噛み締めるように紡ぐ言葉が聞こえた。

「どんなプロポーズだって、きっといま想像できないほど幸せを感じるんだから」

数年後、とあるチャペルにて、
とある夫婦の門出が祝われた。

眺めるは、2匹の野良猫とそのこどもたち。
黒い雄猫に、茶毛の雌猫はぴったりと寄り添うのだった。










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