学園都市統括理事会
第01話 上条美琴(1)
おはようごさいます。上席
おはようございます。上席
おはようございます。上席
・・・・・・・・・・・
周囲を睥睨する超高層ビル。
学園都市で一番の高さを誇る超高層ビルの最上階。
私の執務室の朝は、廊下に2列に分かれて並んだ
黒のダークスーツで身を包んだ秘書軍団の挨拶で始まる。
主人公は、濃紺のジャケットと白のブラウスとタイトミニスカートを履き
それが170cm弱のスリムで引き締まったアスリート体型を包む。
カツカツと7㎝のヒールが床をならし、秘書軍団の間を執務室へ進む。
すこしのスキもない引き締まった顔、意思の強そうな瞳、
ドラマの大統領登場のようなワンシーン。
彼女の1日はいかにも権力者らしい風景で始まる。
口元は引き締めているが、正直な話馬鹿馬鹿しいとも思っている。
たかが30の若造を、上席とか統括理事とか、神様のように扱う滑稽さ
に政治というのものの不条理さを感じてしまう。
だけれども、230万人の市民、科学の世界の教皇庁とされる
学園都市統括理事会及び統括理事会事務局の頂点を構成する自分
がそれを否定するわけにはいかない。
・・・・・・・・・
親船最中統括理事長が3年前に、外遊中に急性心筋梗塞で死亡し、その遺言により
私上条美琴と、夫の当麻、鈴科百合夫の3名が後任とされ、3人の共同で運営する
ように託された。
単純に言えばとある事件で死亡した垣根氏を除く、学園都市の3トップで学園都市を共同統治
せよ。という身も蓋もない話ではある。が
すでに3名とも統括理事であり、かつ学園都市を代表する能力者であり、識見・能力・経験
とも申し分ない存在であり、年齢ではなく能力が尺度の学園都市では比較的受け入れやすい
人事でもあり、大きな反対もなく統括理事会で承認された。
3人は役割分担は以下のように決められた。
鈴科氏は統括理事長として学園都市を代表し、当麻は外交全般具体的には魔術対応、
私は、広報・財務・教育・治安・行政それと日本政府の窓口となった。
とはいえ、鈴科氏も当麻も私の職掌には一切口出ししないので、
実際には上条美琴は学園都市の首相と周囲はみなした。
3人は本来は同格なはずだ。だがどんな組織でも財政を握るものが実権を握るもの。
有事には外務や軍事がもてはやされるが、いざ平和になれば財務担当者が中心に
座る。2年も立つとしだいに私が学園都市の実際の指導者とみなされるようになった。
私が、毎日16時に定例記者会見を開き学園都市の顔でもあったので、特に違和感もなく
デファクト最高指導者とされ、そのうち外部のマスコミは私を学園都市の真の
最高指導者とか女帝とかもてはやした。
・・・・・・
「上席閣下おはようございます」
「今日はどんな予定だったかしら?」
「9時に、治安当局者会議、10時に、日本国総務大臣が面会、
11時にはスタンフォード大学学長
12時は学園都市大学学長会メンバーと会食、14時から
中国中央電視台(CCTV)のインタビュー、16時に定例記者会見です」
秘書の白井黒子は、よどみなく日程をつげる。
「今日は夕食は当麻と一緒にできそうね。」
「はい、外務委員長閣下も、
上席との会食の予定であることは確認済です。」
「ありがとう。いつも助かるわ。」
「黒子 今日の決裁書類のポイントは?」
「決裁番号 2020-70020号が関係部署間の根回しが
十分ではなく実行に移すのは
問題ありです。却下すべきです。」
分かったわ、では10時まで書類決裁するので
いつもどおりの対応でOKよ。
美琴はPC端末を開け、目にも見えない速度で、
情報を読み取り、意思決定を
始める。数百件以上の決裁案件のA4にして1万枚以上の情報を読み取り、
瞬時に判断を下す。
案件は、決裁、保留、却下にたちまち分類され、決裁案件は統括理事会議案書と
なり、確定情報となる。保留案件はすぐに、担当者へ差し戻しになり、追加調査
が命じる。
その作業を数分間行った後、今度はPL、BS、CFの財務3表と、総勘定元帳を読み、
不明事項がないか確認する。
都合20分で定例の日常業務を終え、昨日の会合の議事録、決定事項を確認、
修正事項を脳から直接指示する。
上条美琴はPCと自分の能力を生かした、直接データ交換を駆使し、常人では
到底なしえない、膨大な業務をこなす。
ルーティン決裁業務をこなした後、学園都市の顔として、定められた、
あわただしいが、予定表どおりのスケジュールをこなした後、ハプニングは起った。
・・・・・・定例記者会見・・・・
「では、学園都市からの報告は終わりましたので、私個人から報告がございます」
上条美琴は、突然予定稿にはないことを喋り始める。
記者会見場は騒然とし、学園都市の実質的な女王が、何を語り始めるか
注視する。
「先日、日本国国会で、夫婦別姓法案が可決され、5ケ月後から施行されます。
男女の本質的な平等に立脚し、男女共同参画社会をつくる日本政府の活動
に賛意を占めす一貫として、私は、法律の施行日の10月1日から
性を御坂へ復姓致します。
なお、マスコミ各社に置かれましては、1週間後の5月1日より私の呼称を
変更していただきたくお願いします。」
「ではご質問を受け付けますのでどうぞ。」
「NHKの有働です。上席が復姓をご決断された理由は、
法律の施行以外に何かございますか?」
「私は、日本社会に根深く残る、男女の差別意識を見える形で解消したいと考えて
おりました。今回法律が改正されたこともあり、まず学園都市の顔である私
が復姓し、範を示すという理由で決断しました。」
記者からの質問は絶えることがない。
なぜなら、上条当麻・美琴は、よく知られたオシドリ夫婦であり、そのオシドリ夫婦から
夫婦別姓の話がでる意外性が記者の好奇心を掻き立てるからである。
質問の中には、「夫婦関係はどうなっていますとか?」
どうでもいい質問もあったが、
「夫も賛意を示していること」「統括理事長には報告済であること」
を何度も繰り返し黙らせた。
最後には、あらかじめ用意した、日本国の国会議員や社長・管理職の
女性比率が欧州諸国や、最近では東アジアの諸国より少ない事実を
3D映像で説明し、自分の主張を独演会のように説明した。
「黒子、明日は社会面にのるかしらね?」
「日経以外は1面かもしれませんね
CNNやロイター、BBCが速報してますから」
「はあ・・たかが復姓するだけなのにね、死去したわけでも、離婚したわけでもない
それに私は国家元首じゃないのよ、1地方自治体の副市長よ本質は?」
「上席?、あんまり思ってもいないご謙遜をされると、かえって嫌味ですよ?
上条美琴は科学世界のローマ教皇庁である学園都市統括理事会の実際の
最高権力者と呼ばれていることをご存じないわけじゃありませんでしょ?
いい加減、なられたらどうです。統括理事長に?」
「そう簡単にはいかないのよ。黒子ハンモックナンバーて知っている?
士官学校の序列が、参謀本部での出世につきまとうて話よ
私には序列3位ていう地位がいつまでもついて回るのよ。
私は、本質は統括理事会の雑用係よ」
「だからトップにはなれないと?」
「そうゆうことよ。鈴科統括理事長が退任しない限り順番はこないわね」
「さあ・・無駄な会話は終わり、当麻と食事よ」
・・・・・・・・・
私は、19時にちょうどに、あらかじめ白井黒子が予約した
少しこじゃれた創作和食レストランの個室へ入った。
完全防弾仕様でかつ完全盗聴防止装置のあるこの店は、統括理事会事務局
関係者に人気があり、秘匿が必要な会議などここでなされる。
昔から当麻と話しがしたいときはここを利用する。
「当麻 早いわね」
「はは、一番ご多忙な上席統括理事閣下を待たせるわけ
にはいきませんのよ」
「何よ・・からかってんの」
「ハイ 拗ねてもかわいくないぞ 御坂美琴殿」
「気が早いのね 9月30日までは上条美琴よ」
「まあいいさ、で反応は?」
「離婚会見かと思われたわよ」
「そりゃそうだろうな、あのオシドリ夫婦が、学園都市広報紙の
11月22日特集にでるほどの
な、それがいきなり結婚14年後に、夫婦別姓会見だろう?夫婦に
何が起こったかと思うだろうな」
「私がうかつだったわね。夫婦別姓があんなに驚かれるなんてさ」
「まあ、世間の注目は浴びた、それでいいんじゃないの
で・・世間話はともかくとして今日のご用件は?」
「理事長の件よ」
「そうか・・ついにね。」
「ええ・・そろそろ」
「で。。俺に何をしろと?」
「市場調査てとこかな。欧州情勢を探ってほしいのよ」
「特段変わった動きはないぞ。俺の感知する限り」
「それがあるから、お願いするのよ。これをデータで
脳に送るから読んで」
当麻は驚いていた。
そこには、当麻の知らない驚愕の事実が記載されていた。
なんでこんな事を俺が知らないで、美琴が知っているんだ?
そう・・か あの花飾りか・・
美琴が大手検索エンジン企業からヘッドハンティング
した敏腕SE 初春飾利。破格の高給で採用したとかいう。
確か年俸30億円だったか。
なるほど・・美琴もやることはやってるわけね。
「でいつから?」
「5月7日からね、名目は十字教と学園都市の交流を図るための
欧州訪問でいいわ
これが日程表ね ローマ、ロンドン、パリ、ブリッセル、
モスクワで計21日間ね」
「ふーん、詳細は このチップを見ろと?」
「ええ・・ごめんなさい、こんなことは当麻しか頼めないわ」
「ああ・・わかった。今までさんざん美琴には世話になった。
そろそろ、借りを返す時かもな」
「当麻、本当にありがとう、困った時はいつも助けてくれるのね」
美琴は腕を絡ませ、甘えてくる。
「オイ 美琴さん、ここは外だぞ」
「いいじゃないの、どうせ個室だしさ・・」
「それも・・いやうちへ帰ろう・・」
美琴は拗ねた顔で、配偶者の顔を上目で見上げる。
「うち?今日は麻琴ちゃんいるのよ?忘れた?」
「あ・・」
「もう・・まだボケるには早いわよ」
「でもさ・・ここじゃ・・」
「大丈夫よ、鍵かけたから それにここは完全防音よ。」
「はあでもさ・・週刊誌とかうるさいじゃない」
「馬鹿ね、離婚の危機なんて話もあるかいいのよこのくらい
それとも・・もうこんなオバサンなんかいや?」
美琴は少し拗ねた顔で、ちょっと涙を浮かべ、スカートを弄る
「美琴さんの魅力が、そんじょそこらの小娘にあるわけないだろう?
上条さんは16年前から美琴さんにメロメロなんです」
「ばーか。でもうれしいわね。ありがとう
昔が懐かしいわね。世界中を駆けずり回った日々がさ」
「ああ・・そうだな。
美琴もしよければ3人目作るか?」
「今は無理よ、もう少しね」
・・・・・・
2人の睦言は尽きることはない。
これから始まるであろう、久々の闘争が2人に妙な感覚を与え、
ブレーキが利かなくなる。
二人はこれから始まるであろう、激烈な日々を
前に、「日常」を満喫していた。
続く・・