学園都市統括理事会
第02話 上条美琴(2)
2020年4月25日(土)
いや・・あんなに激しいのは久々だった。
昨晩は、料亭の個室で1回戦を行った後、自宅へ戻り麻琴ちゃんを
寝かした後、2回も延長戦をする羽目になり、驚異の身体を持つはずの両者
相打ちでドローになった。
朝起きれば、両者あられもない姿で、バカでかいダブルベッドで
ほとんど生まれたままの姿で横たわっていた。
約100平米ある無駄に広い寝室はなまめかしい、雄と雌のニオイに満ち溢れ
化け物級の体力を有する2人の激戦の跡に化していた。
ああ・・やっちまったな・・私は嘆息し昨日の儀式を思い出し、また赤面
する。
(はは・・この姿は娘には絶対に見せられないわ・・)
私はまだ死んだように眠っている旦那を片目でちらっとみつつ、
正気を取り戻し、ベットのそばのビジネスホテルによくあるような小型
冷蔵庫を開け、エビアン500ccを取り出し、その約半分を飲み、軽くを背伸び
をした後でベットルームそばの浴室で急ぎシャワーを浴びる。
眠気は雲散し、たちまち腹が減ってくる。
それにしてもアイツ以外に体力ないわね。いや。。一般人よりはあるけどさ・・
まあただ睡眠が深いだけか?
思い返すと、私のほうが戦場でもたいてい回復は早かった。
規格外の高出力の電気を使いこなす関係か、私の体のスペックは能力抜きでも
一般の女性とは比較にならない。
結果夜の儀式でも、旦那のほうが大概は根を上げる。
でも昨日は以外に粘ったわね・・なんでだろうね?
当麻て・・・あんなに激しかった?
まあ当麻はよく自虐で、なぞの右手以外は美琴を愛するただの馬鹿な
男です。とあたりかまわず言いまくる男だけどさ・・
アイツはいまだに愛すべき「馬鹿」なんだから。さ・・
でも・・まあ10代のころはお互いに背中を預けた中・・なんだかんだ言って
ただのオスとメスになることは私も嫌いじゃない。
アイツのニオイ、意外にたくましい肉体。超電磁砲さえ打ち返しそうな驚異の
金属バット状のアレ、全部がダイスキな私にとって、当麻との3回戦は、溜まりに
たまったストレスを全部蕩かしてくれた。
(ああ気持ちよかったわ・・)
夫婦がお互いに、多くの部下と組織を抱える権力者になり、普段は取り澄ました顔を
しているのに臥所の中では単なる性欲に取りつかれた獣になる、そのギャップで
自分の部下たちの慇懃な顔を思い出すと笑いが止まらなくなる。
だけど。。な
目が覚めればいやでも現実が覆いかぶさる。
230万人市民の将来と75億人類社会で現代のローマ教皇庁とさえ呼ばれる
学園都市を切り盛りする権力者としての重責が覆いかぶさる。
以前よりはましになったが、
学園都市はいまだアレイスタの負の遺産の後遺症がある。
まず学園都市が基盤を置く日本で少子化が進み、新規の優秀な学生を集めることが
困難になり、学園都市は存続の危機に直面した。
また、金融危機後の先進諸国の長期の不況は、就職適齢期を迎えた学生たちの就職を困難
にし、深刻な失業問題を生んだ。
そしてアレイスタのアンダーラインと暗部による恐怖支配も、アレイスタの洗脳が
解け窓のないビルが崩壊した今は維持不能な現実に直面した。
そんな、最悪の環境の中、前親船理事長は木原一族の無言の抵抗やサボタージュを排し、アレイスタの負の遺産という困難な課題に果敢に取り組み、少しづつ、成果を上げた。
具体的には前親船体制は以下の対策を実施した。
・まず、日本人に偏っていたリクルート体制を全世界へ広げ、学生数を確保した。
・受入時に素養格付けを公開しレベル3になる可能性がない人物の
受け入れを原則拒否した。
・教育体制をグローバル化に対応し、小学生1年から英語を必修にした。
・高校以上の授業を原則すべて英語へ切り替えた。
・統括理事会の公用語を英語へ転換した。
・学園都市の技術を公開し、特許料を稼ぐ戦術へ移行した。具体例として
Googleやトヨタと提携し、自動走行車の開発で主導権を握った。
・軍事に偏った技術を全面的に民生へ転換した。
・実質的に法人税・所得税・相続税を廃止し、多国籍企業及びの富裕層の
誘致に舵を切った。
財源はVAT(付加価値税)と特許収入と国家規模の再開発による不動産賃貸収入
及びその権利化証券いわゆるREIT(REAL ESTATE INVESTMENT TRUSTs)の上場公開
で賄った。
・通貨は円を廃止し、アメリカドルと連動させた学園都市円へ移行した。
・治安対策のためにアンチスキルとジャジメントを廃止し、公安部を設置し、
専従職員で対応するようにした。
・その一方でスキルアウトとしてぐれていた不良層を、適正検査を実施し、
就職先の確保と就職不能者への福祉政策を実施した。
・また暗部を解体し、公安部へ吸収した。
・教員への生徒の評価システム制度を開始し、生徒に人気のない職員へ
再教育を実施し改善しない場合には降格させた。
以上の政策の多くは、以上の極限まで新自由主義的な政策は小国でありながら
1990年代以降成功していたシンガポールを模範にした。
それらの多くは、上条美琴統括理事の発案で実施され、彼女は抵抗する
既得権益層を、会議室では理念で、学校は人事で、治安面は公安部で
それでも言うことを聞かない場合には、ハッキングで追い落とした。
当初はリーマンショックの影響で若干もたもたしたが、日本銀行及び
ECBのマイナス金利政策で有効な投資先を失った日本や欧州の投資家は
治安のよくなった学園都市へ投資を行うようになり、学園都市の景気は
東京オリンピックが決まった2013年以降回復し始め、2014年には
宇部内閣のいわゆるウベノミックスが日本が消費増税で低迷するのを
尻目に急速に成長を初め、親船理事長が死去したころには、沸騰都市と
呼ばれ、世界から人・物・金が集中するようになった。
結果的に上条美琴の政策はおおむね成功し、彼女自体は敏腕政治家と呼ばれる
ようになったが、拡大する資産格差と不動産価格の高騰によるバブル化
は、彼女には悩ましい問題になりつつあった。
また、多少強引な政治手法は、既得権益層から反発を呼び、彼女は
何度も暗殺されかかっている。
が、14歳のころよりはるかに精度を増した電磁レーダと、
ハッキングやアンダーラインによる監視によりすべて未然に阻止
はしている。しかし新生学園都市の象徴である彼女は決して
安泰ではない。
実質、政策責任者として学園都市のかじ取りを行う美琴は格差解消と、バブル
のソフトランディングに頭を悩ませつつ、
幸せそうに眠りこけている旦那の呆けた顔を見る。
はあ・・旦那にこんなことを話してもな・・
美琴は嘆息する。
上条当麻は、落第生だった高校時代とは異なり
最高学府の長点上機大学を卒業し、まず知識面では問題ないレベルになった。
美琴の渾身の家庭教師としての努力は報われたと言えよう。
だが、アレイスタから莫大な知識を相続した美琴から見ると、世界観と
価値観が、公人としては単純過ぎて物足らない。それでも惚れてしまった
弱み、文句は言わない。
だけど彼はいまだに10代のころのように「そんな幻想はぶち殺す」といえば
すべて解決すると信じているような節がある。
15歳のころから拳と拳を交わせば理解できるという彼の価値観は
本質的に変わっていない。
だけど組織やしがらみがある公僕や軍人や政治家は殴られたくらいで、意見を変える
わけはない。むしろ喜んで公務執行妨害とか言って通報するだろう。
好き勝手に生きている魔術師や学生とはわけが違う。
扶養家族や生活が懸かっている彼らはしぶといのだ。
現実は残酷だ。ライトノベルのように「そんな幻想をぶち殺す」で済むほど世の中は
甘くない。外交交渉やビジネス、政治は妥協の積み重ねだ。
美琴は強引な政治手法で知られるが、常に妥協点や落としどころは考えて交渉
はする。常に冷静に相手と自分の落としどころを探る。
だけど・・まあいい、そんな欠点を有する彼を愛した以上足らないものは
私が補うのだと美琴は思いなおす。
・・・・・・・・・
さあ そろそろ時間か・・そろそろ旦那を起こすか・・
「当麻起きて」
む・・おきないわね。
私は、彼の耳を甘がみし、大きな声で告げる。
「お・き・て と・う・ま」
彼は少しもぞもぞと動きはじめ、顔が少し赤くなる。
「当麻、起きなさい。」
でもなかなかおきないわね・・じゃ最終手段よ。
私は当麻の口を自分の口でふさぎ、口に舌を入れる。
さすがに彼の顔が真っ赤になり、目を覚ます。
「オイ美琴、俺を萌え殺す気か?」
「ふふん・・昨日あれだけ私の全身をなめましたのは誰よ?」
「まあ・・こんな可愛い奥様をもって私は幸せです」
「よかった・・当麻は優しわね・・ところで当麻今日は悪いけど、
朝は簡単にサラダとトーストとコーヒに
させてもらうわよ イイ? 」
「アア・・いいよ。で美琴は午後から議案書の作成か?」
「エエ・・今日は要人の訪問はないし、在宅勤務よ。白井秘書、初春技師、
佐天アドバイザーと電話会議はするけど」
「はあ忙しいね。美琴最近1日休んだ日あるか?」
「そうね・・正月以来はないわね・・まあGWも東京と河口湖だしね」
「河口湖?ああ宇部総理か?」
「記者会見の後に官邸からね、急にゴルフの申し込みがあってね」
「全く。。美琴はもてるよな、各国の要人もまず美琴に会いたがるもんな」
「ふふ宇部さんも、こんなオバさんなんかどこがいいんだか。」
「美琴、謙遜もやりすぎると嫌味だぞ」
当麻は急に私の太ももに手を伸ばし、いやらしい手つきで触り始める
口で首をなめ、私の弱いところ的確にせめる。
全く・・美琴はさ・・こんなイイ体をしてるくせにさ・・自覚ないしさ・・
まあ美琴を襲うヤツなんて今はいないと思うけどさ・・
でも。。本当たまんないよ。だから・・」
「だから何よ?」
「いや・・上条さんは、心配なのですよ
こんな美琴さんが、心移りしないかね。」
「馬鹿ね・・別姓にしたところで何も変わるわけないじゃない
当麻はいままでどおり美琴として愛すればいいのよ」
「ああ・・そうだよな・・美琴と俺は窓のないビルを
壊した日から運命共同体なんだよな」
「そうよ。おたがいの背中を守り合うと決めたでしょ。
何があろうともそれはかわりないでしょ」
当麻は手で私の乳房を愛撫しながら、応える。
「アア、美琴を奪おうとするヤツがいればそんな幻想はぶち殺す」
「頼もしいわ・・頼りにしてるわよ・・上条当麻」
・・・・・・・・・
「かあさん、おはよう」
「麻琴 おはよう」
「かあさん・・今日はつやつや
してるね」
「ふふ・・当麻がいいのよね、やさしくてさ・・」
「母さん、あんまり惚気ないでよ」
「麻琴ちゃんにもいつかわかるわよ。ママのこの気持ちがね」
「は・・まったく鉄の女・・上条美琴がなに・・?」
「麻琴・・・どうしたの?」
「母さん上条やめるんだよね。私はどうすればいいの?」
「上条のままよ・・当然じゃない」
「法律上は御坂でもいいのよね」
「御坂麻琴?なんか変ね。でも私の旧姓よ?」
「かあさん・・かあさんはね。今の常盤台でも伝説の人なのよ?
母さんは、無自覚すぎるのよ」
「でもさ・・麻琴ちゃんもレベル5じゃないの?
こんなロートルなんてさ・・・」
「はあ・・母さんのご謙遜は嫌味よね
でも・・母さんはテレ屋さんだもんね」
「黒子も当麻も言うのよね、嫌味てさ・・
でも・・私なんて統括委員会の雑用係よ本質は」
「まあ・・本人に自覚がないがなんとやら・・
まあ。。上条か御坂かは私が決めていいのね」
「ええ・・どちらでも当麻も反対しないわ」
「そう・・あ父さんよ、父さんおはよ・・」
ひさしぶりに、麻琴が帰省し、親子で水入らずの時を過ごす。
学校のこと、統括理事会のこと、好奇心旺盛な麻琴は当麻
以上に私の仕事に興味を示す。
娘の目から見て、濃紺のスーツと白のミニスカートを履き、7cmの
ハイヒールをはく私の姿がよほどかっこよかったらしい。
麻琴ちゃんは、いつも私を目標に生きてきた。そんな麻琴にとって
父は頼りなく見えたらしく、麻琴はいつも当麻をよくは言わない。
でも・・麻琴にもいつかわかる日がくる。
そんな私にいつも尻をしかれているだらしのない男が、私を
闇から救い、世界を崩壊から救った英雄であることを。
・・・・・・・・
「美琴、電話会議は終わったか?」
「エエ・・半分は雑談みたいなもんだけど、4人の共有した日々は
他人には説明できないわね。みんないい仲間よ」
「美琴は本当仕事楽しそうだな。」
「エエ、本当楽しいわ・でもちょっと忙しいかもね・・」
「美琴・・大丈夫か?」
「ええ?」
「美琴は、難問をかかえているときでも、いつも笑顔で問題を隠し通す
お前は、ものすごく優しく、強く、どんな心が傷ついても、どんな
に打ちのめされても絶対弱音もはかないし、泣き言ひとつ言わない。
だから、、正直美琴が抱えている問題は俺には理解できないし、お前
ほど頭もよくないから学園都市の問題も正確には理解できない。
でも。。美琴が何か大きな問題を抱えてるように見えるんだ」
「当麻・・・ありがとう。でも、大丈夫よ。それにあの日以来いつも
当麻と一緒に悩んでいたじゃない・だから・・当麻・・大丈夫よ」
「美琴・・
「当麻・・
「今日も優しくしてね・・」
当麻は本当ズルイ・・いつもは飄々と事務局の秘書とたわいのない話をして私をイライラ
させているのに私が不安を抱えている時はすかさず、優しい言葉をかけてくれる。
でも・・当麻もちはもちやなのよ。
これは、正直な話殴って済む話ではないよ。
絡まった糸をほぐす作業なのよ・・だから当麻私を信じてね。
でも・・当麻本当に心配してくれて私はうれしいわ。
「当麻・・今日は我慢できないわ」
「美琴・・俺もだ・・体が疼いてしょうがない」
「ふふ・・・甘えていいわよ」
「美琴・・・」
「当麻・・・」
2人の真剣勝負は今日も長くなりそうだ、化け物じみた体力を持つ夜の儀式は
何回戦になるか2人ともしらない。
だが。。。美琴の感じた漠然した不安は、次第に顕在化していく。
そしてその大波はやがて・・・75億人の人類全体の問題となることを
2人はまだ知らない。
続く