とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

02章

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第二章 不幸は大体不注意から Careful_or_Hurtful  

1 5:30

チュンチュン………
少し早いがちらほら小鳥が鳴きはじめる時間。朝だ。
(…………………、一睡もできないと思ってたけど、気づけば朝ですか…………)
早朝。結局昨日(というか今日)上条たちが眠りについたのは日付が変わった頃。上条と美琴の娘と自称する美栄(みえ)が一緒に寝ようと無理難題なことを要求をしてきたのでこれをなんとか説得するためあれこれ言っているうちにそんな時間になってしまった、というわけである。しかし頑固なのは親譲りなのか全く聞く耳を持たず三人はどう大きく見積もっても1.5人分のベッドに身を寄せ合うように眠ることになったのである。
そして現在に至る。
(昨日は大変だったけど…………まだまだ序の口のような感じが…………)
どこぞの週刊誌よろしく『俺の不幸はまだまだ続くぜ!』というくらい自分の不幸は無限に満ちている気がする。まず3週間は美栄を匿わないといけない。そして、たぶんその間美琴も上条の家にいなくてはならない。…別に嫌な訳ではないが。次に食費。着替え。お風呂。寝るところ。などなど、まだまだ一悶着ありそうなことはあちこちに転がっている。
「…………………………、」
だああーっ!と勢いよく起きるとすでにベッドに美琴の姿はなく、
「…………………あ…………お、起きた?」
「…………、ん?」
エプロン姿の美琴が台所に立っていた。どうやら美琴は上条より早く起きていたらしく、すでに上条が貸したジャージからエプロン姿にクラスチェンジしていた。気の利くことに朝ごはんを作ってくれていたようで台所からは味噌汁のいい匂いが漂ってくる。
「…………、お前、朝飯作ってくれたのか?」
「ほ、ほら、きょ、今日は何かと忙しくなりそうじゃない?なな、なら?あ、朝ごはんくらい、み、美琴先生がお、おおいしい料理をご馳走してあげようかなーってかさっさと顔洗って支度してこいやこらー!?!?!?」
「……、」
なんというか、美琴の中では自分たちは何なのだろうか、と上条は思う。美琴は持っていたオタマをブンブン振り回しながら暴走しているわけだが、オーラにいつもの覇気はない。このタイプのリアクションにはどう反応していいのものなのかよくわからないのが正直な感想だ。
(…んー…というか何でワタクシなのでしょうか…御坂なら貰い手なんぞいくらでもいるだろうに…尻に敷かれるんだろうな…未来の俺…)
七時には小萌のうちに行って公欠扱いにしてもらうため、今の有り体を説明しなくてはならない。その後同じ理由で美琴の寮にも行き、最後に美栄を約束した遊園地に行く予定なので結構ハードな一日になりそうだ。洗面台に向かっている途中、台所から「またパパと~!」と聞こえたが無視することにした。
…どんだけだよ…と鬱憤とともに顔の汚れを洗い終わり、ああ今日も上条当麻か不幸だ、と夢から覚めた感覚を堪能しているところで「ん?」と何か違和感を感じた。
(…………まだ何かあんのか…………)
それは例えるなら、まるで自分はボロボロの家に住んでいるのに嵐の前に何の備えもしていないような…何か大切なことを忘れているような気がする。

ブオン!!と玄関の扉をおもいっきり開ける音がした。

ただのドアを開けた音のはずなのだが、上条には何故かそれが地獄の門が大口を開いて、自分を死へ誘っているような、そんな危険臭満載な音に聞こえた。
「とうまーただいまー」
女の子特有の甲高い声が部屋中に響く。そしてその音また上条にはガラスとガラスを擦り合わせるような、嫌な音の聞こえた。
(あ~インデックスかなんで昨日帰ってこなかったんだろてかいつもドアはゆっくり開けろって言ってんだろまた思いきり開けやがって完全記憶能力とかいっても言うこと聞かなきゃただの我が侭娘じゃねーか次やったらさすがの上条さんでも武力行使に乗り出しちゃいそうなんですがたく自分に娘がいたらもっとおしとやかな子になって欲しいですねそういえば俺には美栄がいるんだったというかーーーー!!!!!)
「だあ!!や!やべぇ!!!」
疲れていた。眠かった。だから仕方がないのだ。自分のうちに居候している女の子、インデックスのことをすっかり忘れていたとしても。しかしだからといって事態が好転してくれるわけでもない。美琴はインデックスが上条と一緒に住んでることを知っているから、問題ない。最初そのことが美琴に知られたとき、レールガンを撃たれそうになったが。問題はそれではなく、未来から来た自分と美琴の娘を見られてしまうことで…。台所に走ろうとする上条だが、右足と左足が絡まって、ズゴー!と思いっきりぶっこげる。上条は不幸と言うよりも単にお人好しで、少しドジな高校生なのかもしれない。
「mk十!!mw各sawg満daー!!!!!」
思っていることが言葉にならない。本当は『御坂ーーー!!美栄を隠せー!鬼がーー!!』と言いたいのだが舌が回らない。
ダッダッダッと、まるで死を愉しむ悪魔が罪人の処刑を促すようなリズムで、洗面台の前を足音が通り過ぎた。普段ならなんてことのない普通の足音なのだが、今はその音がものすごく恐ろしく感じる。上条は足の痛みをこらえ、惨めにいやああんんおねがいいいいいい待ってえええええと捨てられた女のごとく手を伸ばしたが、時すでに遅し。チーズが裂けるようにニヤリと笑った悪魔は催促をとめた。
「ア、アンタは!!」
「た、短髪!?なんでこんな時間にとうまの家にいるの!?説明して欲しいかも!!」
「あ!もしかしてインデックスさん!?わぁー、むかしはこんなにちいさかったんだーかわいい!」
「!?」
インデックスの目はまず美琴を睨み付けた。が、美琴の後ろにいる美栄に気付くと怒りのパーセンテージを更に上昇させ、同時に美栄の容姿に何か思ったようだ。インデックスは憤怒の矛先を美栄に向きなおす。美琴は憤怒のオーラ(炎)を身にまとうインデックスに我が子の危機を察知したのか、さっと美栄を後ろに隠す。だがその様子は誰が見ても『親が子を守る』ようにしか見えなく、インデックスの怒りを更に加速させることになってしまった。
「パパとママの名前!いますぐ言うんだよ!!」

「どうして、……」
こんな事になったんだろ、と洗面台からそのやり取りを聞いている上条は呟いた。
何もしていない。自分は何もしていない。いや、何もしていなかったのが悪いのか。そもそも、美栄がこの時代にやってきた理由は美栄の母、つまり美琴の惚気話が発端だ。ならインデックスの犬歯の餌食になるだろう犠牲者は自分ではなく美琴なのでは?と思わなくもない上条だが『美琴が惚気話をしてしまうほどのデートをしてしまった上条が元々の原因』という考えまではたどり着けなかった。それにインデックスが帰ってくるまで幾分かは対処できる時間が上条にはあったのだ。つまり原罪も、その後の対処にも、結局はドジな上条に責任があるのである。
なんにしても。
「そんなのかんたんだよ!とうまとみこと!」
ピキンと何かが壊れる音が部屋越しに聞こえた。それは自分の目の前で手榴弾の栓がはずされたような、そんな絶望的な音だった。もちろん本当に鳴ったわけではない。しかし今の上条には、はっきりとその音が聞こえた。
「……と……とおおおおおうううううまあああああああああ!!!!どこおおおおおおおおお!!!!????」

あ、ああ、あ、と上条は洗面台の前で動けずにいた。
…ところで皆さんは、Had I been careful, I would not have become a victim.と言う例文をご存知だろうか。現在の高校英語の代表的な文法である仮定法過去完了では、このような例文がよく使用される。一見普通の例文のようだが、なかなか奥が深い意味の例文として生徒間でよく話題に浮上する。上条は、口からシュゴーと瘴気を出しているシスターに噛まれる直前そんなことを考えていた。
ちなみに仮定法過去完了をまだ習ってない、もしくは習ったが忘れてしまった、と言う人たちのために一応日本語訳を添えておく。

――――――――もし注意深ければ、犠牲者になんてならなかったのに―――――――――――――


2 6:30


「………………ごはっ…………」
「…………とうま、そのリアクションはちょっと大げさすぎるかも」
「……お前な……」
結局、上条は『噛死(なんて発音するかわからない。ただすごく痛そう。)』と辞書に載せなければならないほど頭をゴリゴリガリガリされた。死んではいない。ちなみに上条が「むううん!痛いよママン!!」と痛みに悶絶している間に、美琴が事のなりを粗方説明してくれたようだ。この様子からするにある程度納得してくれたらしい。
「それよりもこの味噌汁すごくおいしいかも!!とうまと同じダシを使っているとは思えない!!あとこの玉子焼きも甘くておいしい!!」
「そ、そう?常盤台でよく作るんだけどうまくいってよかったわ」
「あいたた……確かにすげぇーおいしいな。なんかコツとかあんのかな……」
痛みをこらえている上条は、おいしい料理を作るのも食べるのもちゃっかり好きになりつつあるので、美琴が作った料理を味わいつつ研究していた。インデックスの修道服からにゅるんと出てきた三毛猫も美琴の朝ごはんをもらい『ったくいつもこんくらいの飯だせよな!そしたら俺だってもーちっと媚びるっつーの!』とご満足な様子だ。
「ん~ママにしては少しおいしくないかな……」
何気に辛口な娘。しかし、それはそうと上条一行は7時には小萌先生のうちにいかなければならない。うつつを抜かしている場合などではなく、さっさと身支度を済まさねばならないのだ。
「アンタたち、味わってもらうのはうれしいけどさ、さっさとしなさいよね。アンタの先生のとこはここから15分くらいかかるんでしょ?」
「ん……あ、ああ」
「はーい」
カッカッカッと箸と皿がぶつかる慌ただしい音と共に食事は性急に進んでいく。しばらくして美琴が作った朝ごはんを食べ終わった一同は、少しの間余韻に浸っていた。
「ふぅーくったくった。ごちそうさん」
「……アンタ行儀悪いわよ。まぁ、おそまつさま」
「ごちそうさまー」
「ごちそうさま短髪。じゃあ私は行くところがあるから。とうまのことよろしく……」
上条はどこ行くんだこんな朝っぱらからー?と聞こうとしたが、インデックスはそれだけ言うとドアに逃げるように走って行ってしまったので、聞くことが出来なかった。ふわっと扉が閉まり、再び3人の空間になる。
「……んじゃ私たちもそろそろ行きますか」
「……ん……そうだな。美栄、いい子にしてるんだぞ?」
「はーい」
美栄ののんきな返事だけが、リビングに響いた。

――――――インデックスは、とうまの事が大好きだったんだよ?
上条は少し驚いていた。あれは嘘だったのか。本当の気持ちではなく、感謝の念などから来る偽りの何かだったなのだろうか。結局インデックスは何故自分のそばに居続けたのか。何故美琴の話を聞いた瞬間に、上条に噛み付かなくなったのか。そんな疑問だけが上条の心に残る。
だから上条は「……とうまが幸せならこれでいいんだよね……」とどこかやり切れない表情で目的地などなく大泣きしながら走り続けるインデックスのことを知る由など何もなかった。


3 6:55

問題なんぞいくらでもあったのだ。
少しだけ美栄(みえ)の容姿について補足しておかなければならないことがある。確かに一言で済ませるならラストオーダー似の少女といってしまうのが一番だろう。しかし完全に瓜二つ、と言うわけでもないのだ。仮に、二言で済ませられるなら、ラストオーダーに『うん!僕、ママとパパのためにがんばるよ!!』的な上条を混ぜたような感じだ。髪は美琴よりかは少し黒く、顔は幼女と言うよりかは活発で女の子のような顔の男の子、だが母親譲りなのか目や鼻、口はバランスが取れていて、やはり典型的なかわいらしい女の子を連想させる。髪型も基本的には美琴と一緒だが、後ろの髪を2、3ヶ所結んでいて、チャームポイントとして頭のてっぺんにピョコンと髪が飛び出しており女の子だと再認識させる。
第一声に「はい元気です!」と言い出しそう、とでも言えばいいのか、そんな感じの女の子だ。
しかし今回はそれがまずかったのである。
 …ヒソヒソ…ヒソヒソ…
「……あんな……なのに……犯罪じゃ……」
「「……」」
「ね……あれって……だいの子じゃない?……なんてつくっちゃって……」
「「……」」
「と……にいるのア……タ倒した奴じゃねーか?……一発……か……つうか子持ちかよ……」
「……」
「………ビリ」
既に寮を出てから10分程たつが、三人は絶えず奥さんやサラリーマン、中学生、高校生、不良、色々な人の視線のターゲットになっていた。時には小学生に指を差され、「すげぇー!あんなに若いカーちゃんみたことねー!」とか大声で言われる始末だ。
そう。美栄の容姿はあからさまに上条と美琴を足して二で割ったような姿だったのだ。どう言い訳をしても血縁関係者が精いっぱいだろう。しかしそれすらも否定するのが、上条の左手と美琴の右手をブランコのようにして遊んでいる美栄の無邪気さだ。どうやらこの構図が『出来立てほやほやの新婚夫婦とその娘』と言うおかしなイメージをさせてしまうらしい。おまけに美琴の着ている服は常盤台の制服だ。誰もがあこがれるスーパーお嬢様学校の制服に身を包んでる少女がそんな光景の一部分になっているのは、はっきり言って異様だ。そうした理由から、上条たちは行く先々で指を指され、「あんなに若いのに…」とか「なんてうらやま…じゃなくてそこ変わ…でもなくて、いいぞお前らもっとやれ」とか散々なことを言われる羽目にあってしまったのだった。
「はぁ…この雑踏の中に知人がいないことを祈るのみですなぁ…」
「ちょ、ちょっとアア、アアンタ!私と美栄がいっしょなのがそんなにいやか…!?あん!?」
「い、いやいや!いやとかじゃなくて、恥ずかしいんだって!それにもし、知り合いがいたら上条さんはめった刺しのボコボコですよ!?」
「わわわ、わ私を恥と…!?みみ、美栄を恥と!?…つ、つつ、つむ、むむますをおおおお!?!!?」
さっきからなんだこいつは、と内心思ったりしなくもない上条だが、そんな考えは美琴が上条のほっぺを思いっきり引っ張ったせいで一時中断されてしまった。
「ふぃたたた!!ふぁじひぃふぇーふぁらふぇふぁらふぇふぃさか!(いたたた!!マジいてーから手ぇ離せ御坂!)」
美琴にしては珍しくビリビリはしてこない。まぁそりゃそうだ。今は、上条も美琴も美栄と手をつないだ状態。いくらなんでもこの状況で電撃なんぞ撃とうものなら、さすがの上条でも怒るに決まっている。
「?」
ん~?なにしてるの~?とでもいいたげな様子で美栄は二人を見上げていた。もし娘じゃなければ軽く小突いているところだ。というか月曜日の朝からこの調子では、週末には廃人か何かにでもなっているのではないだろうか…。毎日、妻子のために身を削る父親の気持ちが今なら絶賛10%オフくらいでわかるような気がする上条なのだった。

4 7:00 

……何はともあれ、件の小萌先生宅に到着した。美琴と美栄の顔は寒さからか僅かに赤くなっている。上条の左頬は美琴がつねったせいで赤くなっている。小萌の部屋は2階なので階段を上る訳だが、このときのカカカンカカカンと三人分の階段を上る足音が妙に心に響いた。ああ、本当に三人いるんだな…とどこか虚ろに実感させ、心が甘く切なく満たされるような気持ちになるのだ。家族とは不思議なものだ。ぴんぽんぴんぽーん、と学園都市にしてはレトロなインターホンを二回押して小萌の返事を待つ。
『はーい』
モーと牛が鳴くようなダルい声がマイクから発せられたが上条は構わず、
「あ、先生?俺です。上条です。」
『あ、ちょっと待ってくださいねー今開けますからー』
プツンッとインターホンは途絶えた。
美琴は通信が切れるの確認すると上条に話かける。
「……そういえばアンタ、どう説明するか決めてんの?まぁ有りのままを言うしかないと思うけど……」
「あ?……、あー……、……有りのまま言うしかねーだろーが」
ややぶっきらぼうに上条。そのままを見れば何でこんなことになっちまったのかめんどくせー、と言う様子だが、実際は知り合いに何を言われるか、一体どのくらいチヤホヤされてしまうのかビクビクしているのだった。つまりはテレのカモフラである。いつもの美琴ならそんな上条を見たら『何めんどくさそうにしてんだボンクラァ!』とでも言いながらイチャモンをつけるだろう。しかし、美琴は上条を悲しそうに見つめ、やがて何かを悟ったかのように小さくつぶやいた。
「………そっか」
「?」
美琴は、意味ありげにつぶやくが上条にはその真意は伝わらない。しかしそれは仕方のないことだ。今の彼らは未来の自分たちの状況を押し付けられただけで、本当は高校生と中学生、知り合ってまだ一年どころか半年ほどしか経っていないのだから。
「…あの、さ…今のうちに聞いておくけど、アンタは今の状況どう思ってんの?やっぱり迷惑かな…?」
「?…い、いや迷惑と言うかなんというかまだ戸惑ってる感じですかな…」
「…………私は嬉しかったけど」
美琴は本当の気持ちを暴露したが、上条には聞こえなかった。というより聞こえないくらいの声量しか出していない。
「あん?御坂、今なんか言ったか?」
さっきまでドアの奥からはタッタッタと慌しい音が響いていたが、言葉通りドアはすぐに開いた。
「はーい、カミジョーちゃんお待たせしましたー。書類に載せられる言い訳は考えてきましたかー?」
「「――――――――――――」」
ドアは開いたが、そこにいたのは小萌ではなかった。いや、眠そうな上、ダルそうな声の主は確かに小萌だし、そこに居たのも確かに上条がよく知る小萌だ。なのだが、何といえばよいのか。……そう、淫魔がそこにはいた。以前インデックスを匿ってもらうためここに訪れたときの小萌の服装は容姿通りの可愛いパジャマだった。それがどうだ。今彼女が着ているのは……いやこれは着てると言えるのだろうか。
とにかく上条は小萌から目を離せなかった。
彼女が着ているそれは、赤と紫からなる下着だった。ただし、それは正面から見たときの場合の話。未発達な体にまるでフィットしていないブラやパンツは、横から見ると更に大きく露出していて、隠すために機能する下着を着ているにも拘わらずあまりにも無防備な姿をしている。全体的に下着というよりは裸エプロンを極限まで際どくした何かに近い。つまりエロかった。
はっ、と上条は先日土御門が言ってたことを思い出す。どうやら今学園都市では改・児童ポルノ禁止法という法案が可決されそうになっているらしい。具体的には『アダルトゲームとかの登場人物の容姿を明らかに18歳より上にしなければならないって言う法案なんぜよ。裁量とか規定とか明確な理由は報道されてなくてにゃー?学生が何がなんだかわからないうちに一気に勝負を決めようという理事会の策略なんだにゃー。挙句揚げ足取りの得意なマスコミは「これでロリコンの存在は消えてなくなりますね」なんて クソ塗れな勝手な戯言を吐きやがって何も知らない純粋無垢なロリコンたちの僅かな牙すら抜き洗脳しようとしている始末なのだにゃーブッコロス!!!』というわけらしい。上条は土御門が熱情的にその話をした時「お前の好みのタイプはやっぱそっち系か!もっと普通の青春しろ!」と言ったことを覚えている。

――――――――――――バカめ。

目の前にいる小萌を見よ。これが犯罪?そっち系?あぁそうだろう。確かに犯罪だろうそっち系だろう。だがそれがどうした?それよりも、それ以前に人の愛を拘束しようとするそれは問われるべき悪ではないのか。人の愛の形なんて十人十色だ。キリストやイスラームが信仰している神がそれぞれ別々の唯一神のように、同じ愛の形がこの世に二つも存在するはずはない。ただ同じような形の愛が多いと言うだけで、似通わない少数派を否定し、迫害し、削除することがどうして罪にならない。
「カミジョーちゃん?どうしたのですかー?」
「……先生……俺……」
ポッと頬を染めた上条は、そのあまりにも神々しいその姿の前に跪こうとした。さながら永久の忠誠を誓ったナイトのように。

―――――――――――まぁ、そんな血迷った事を見逃す美琴ではなく。
「ア ン タ は!お、大きいのが好きかと思ったら小さいのも守備範囲だったのかー!!頬なんぞ赤らめやがって!死ねー!!!100回死ねー!!!!!」
怒りに我を忘れている美琴は上条の左手をバシッ!と握った。それが意味することなど言うまでもない。
「ッ!!みみみ御坂さん!?うそですよ!?硬派な上条さんがそんな特殊な趣味に目覚めるわけないじゃないですか!」
実はこの時上条は例の謎の花園で自分を未知の世界へ誘ってくる土御門と青ピアスの手をガシ!と握り「悪ぃ……遅れちまったぜ……」「いいんだにゃーカミヤン!この日をずっと待ってたにゃー!」「せやで?こんな友達思いな友人は僕らおいて他にいないさかい、ウェルカムやーカミヤン!」「二人とも……!」と理解不能な妄想をしていたのが、命惜しさに左手を握っている美琴の手を握る。一瞬ビリッときたが、どうやら間一髪助かったらしい。一方小萌と美栄はいきなり何し始めてンのテメェら?と言う感じで状況が飲み込めていない様子だ。
「ゴラァー!クソボケ!!離せー!!ビリビリできないだろうがー!!」
「お、落ち着け御坂!ほ、ほんと嘘だから!一生に一度のお願い!ビリビリしないで!」
どうにか口で説得しようとするが、しかし事実を否定する材料がない。上条のイマジンブレーカーは異能の力しか打ち消せないため、こういう肉弾戦に持ち込ませるとヒジョ――に不利なのだ。加えて美琴は怒りと火事場のバカ力でものすごい腕力を発揮している。感電死してしまうのは時間の問題だろう。上条が「何か…何かないか!?この状況を打開できる何かは!?」ときょろきょろしていると、
「二人ともやめてください!!まずは話し合う事が大切なのですー!」
「おわ!」
「おっと…」
小萌(今は微エロって感じだが)が美琴と上条の手を無理やり引き離す。どうやら上条に取り付いている不幸の神も、たまには助け舟を寄越してくれるようだ。あとは助けてくれる人がこんな半裸教師じゃなければ満点何だけどなーと上条はとりあえずホッとする。美琴は小萌のあまりの強引さに少し唖然としているようだ。いつも自分が好き勝手やってるとやられる側になったときどう対処して言いかわからなくなると言う深層心理をどこかで聞いたことがある上条は、エセお嬢様ざまーみろざまーみろ!と内心ほくそえむ。
「アンタが節操なしなのが悪いのよ!」
「はぁ!?別に何にもやってねーだろーが!!なんか証拠とかあんのかよ!?」
どうやら美琴は律儀に小萌の言ったことを守っているようだ。やはり根の部分では素直な女の子なのだろう、ともう安全に浸っている上条は勝手に推測する。しかしこうなればもうこちらの勝ちだ。
あとは「君の横顔にドキッとしちゃったんだYO!」と言えば完全勝―――
「鼻血出てんのよクソバカ!」
「……………Really?」
思わず慣れない英語を使った上条は「ほんとは出てませんでした~」と言う展開を期待したが、恐る恐る鼻に手をつけてみると本当に鼻血が出ており、これは言い逃れは出来そうにないと悟り逃げの一手にカードを絞ることにした。
「し、仕方ねーだろ!!こんな格好の女の人がいたら何も思わねーわけねーだろーが!!」
上条はチラッと小萌の姿をもう一度見てしまった。上条を凝視していた美琴はもちろんその様子を見ていた。今の美琴の前でそんな愚行をするのは大火事になっている山に核爆弾を投下するようなものだ。こめかみの血管がブチンとなり美琴の怒りは頂点を極め、理性は臨界点を突破した。美琴はまるで「虐殺!虐殺!」と唸りを上げる恐怖の大統領のように上条を攻め立てる。
「な、ならアンタは私が同じような下着着てもドキッとすんのかあん!?」
結局のところ。
美琴が気になるのはそこなのだ。これは上条の知るところではないが、美琴は上条のことが好き。なんたって命を救われたばかりか、自分の分身たち、友人さえも救ってもらったのだ。しかも上条はそのことに対して何も感謝の恩を要求してこない。美琴が上条にしたことと言えば生活費を貸してあげたこと、クッキーをあげたことと、2000円パンを奢ったことと、シャッターの開け方を教えたこと、あとなんか助けた事の五つぐらいだ。しかし上条は憎まれ口を言うことさえあるのものの美琴の前ではいつも笑い、楽しそうにしている。これで何も思わなかったら逆にどうかしている。
未来から美栄が来て内心超嬉しいと言うかもうこれ以上ないくらい幸せで「上条当麻(幸せ)、ゲットだぜ!」みたいなわけだったが、それを上条に言うのは些か悔しいと言うか何というか。だから美琴は少し攻撃的にでも上条の浮気指数がどれくらいなのかを少しずつ調べていくしかないのだ。
「するに決まってんだろーが!!」
だから美琴は大きく動揺した。それがカミジョー属性の所以とは露知らず。
「…………………、はぁ?………今アンタなんて言った?」
「だからするに決まってんだろーが!!」
あまりにも男らしい告白だ(もちろん上条にそんな気はない)。それは美琴の嫉妬の魂を払拭し、心に何か熱いものを生み出した。もしかしたら自分と上条は元々両思いでそれが満を持して未来から美栄を呼び出しそして二人は永遠に結ばれるみたいなラブストーリー!?とか妄想した美琴だったが、しかしここでニヤケ面をすると敗北感があるのでぐっとこらえる。
「……………、それ本当?」
「だぁー!ホントだって!!」
「…………、あ、そう……ならもういいわ……」
「………………………、はぁ?」
なにそれ?と上条は思う。
美琴はさっきまでの勢いが嘘のように大人しくなった。まるで本当は気の小さなガキ大将が高校生にガン飛ばされビビッてし待ったように。しかし死を覚悟していた上条としてはむしろそんなにあっさりと身を引く美琴にかえって不気味なものを感じられずにはいられなかったがせっかく助かったのに、これ以上余計なことを言ってまた怒らせて命を無駄にするのは自分を生んでくれた父母に申し訳ないような感じがしたのでもう何も言わないことにした。
「……あのー、カミジョーちゃん?もういいでしょうかー?」
小萌が頃合を見計らって聞いてきた。しかしまだ眠いのだろう。ついでに「俺寝ていいか!?」って感じだろう。しかし上条としても留年退学は避けたいところなので、食い下がるわけにもいかない。
「……あーはい。……えぇと先生、驚かずに聞いてくださいね?……実は未来から俺の娘が来ちゃったみたいなんですよ」
大して戸惑った様子でもなく落ち着いた感じで上条はゆっくりと言う。小萌は「かー!んなことかよ?んじゃ俺寝るわ!」ともいいたげに更にダルそうにして、とりあえず子供のために笑えぬ冗談に付き合う大人のごとく返答をよこしてきた。
「ええーカミジョーちゃんの子供ーそれどういうことですかーでもそれ書類には載せられませんよねー」
「……果てしなく棒読み臭く聞こえるんですが……本当のことです……」
小萌は、上下右ABCD!!とどこかの誰かにコマンド入力をされているのかと思うくらいわざとらしく小さい頭をブンブンして、上条の後ろにいる美栄にようやく気づいたようだ。次に小萌の視線は美琴に向けられ、しばらく無言で何かを訴えかけていた。暗に「おうおうてめぇか?俺の睡眠時間を減らしたクソヤローは?まずは出すもん出せやこらー!」と言っているのだろう。もちろん出すものとは名前のことだ。
「……あ……どうも、はじめまして。御坂美琴です。それから……」
「上条美栄でーす!パパがいつもお世話になってまーす!!」
えぇ…うそくさ…てか御坂ってあの御坂かよ!?ひえー、と様々な表情をする小萌は、美栄の顔を見ると疑いの表情を130度ほど変え、上条の話を聞くことにした様だ。
「っと、とりあえずうちにあがってくださいなのです……話はそれから……」
「……はい……ほんといつも迷惑ばっかかけてすみません……」
「おじゃましますー!」
「おじゃまします」
上条一家は上条、美栄、美琴の順番に家の中に入っていった。
上条は何気に丁寧に靴をそろえ、逆に乱暴に靴を脱いでさっさと奥へいった美栄に「こら!靴はちゃんとそろえて入りなさい!!」と地味に父親らしさを発揮した。美琴はその様子に満足なのか「ふ、ふん、やればできるじゃない」としゃくれてふんぞり返っている。上条は「子供っつうのは縛り付けすぎんのもよくねーんだぞ?」と思ったりしたが、それは胸の中だけに留めておいた。これから体力をごっそりもっていかれるステキハッピーなイベントがあるのに自分から体力を減らしても百害あって一利なしだ。美琴の偉そうな態度を見た後、上条は美琴が靴を脱ぎ終わるまで待つか美栄の後を追うか迷ったが美琴を一人にしておくのはさすがに忍びないので少しだけ美琴を待つことにした。
「………、」
「………ん……ありがと………」
「………、はいよっと………」

5 8:00

どうやら普通の服に身を包んだ小萌は、この1時間の上条と美琴の説明で残りの50度を一周ぶっとんでこちらに傾けてくれたようだ。
「………それじゃあ書類のほうは任せておいてくださいなのです。なんとかでっち上げておきます。」
もっとも説明している途中小萌が、「式はどこで!?」とか「お二人はいつから!?」とか「お子さんはあと何人欲しいですか!?」とかあんまり関係ないことを美琴に聞いて、美琴はふにゃー(イマジンプレーカーは今日も絶好調!)となり会話にならないので、ほとんど上条が説明したわけだが。ついでに前金というのもあれだが、二人で小萌に朝ごはんを作ることにした。というよりは本当はさっきの味噌汁がどう調理されているか気になったので、もう一度作ってくれ!!というニュアンスのほうが強い。

…コトコトコト…

「はぁ!?なんでそこで、レモン入れんの!?いくらなんでもそれは意味わかんねーよ!!」
「うっさいわねーこれが私のやり方なの!だいたい、さっきの味噌汁にだって入ってたわよ?」
「うそだ!上条さんの舌は、何気に一流メイドの料理で肥えているからだまされませんよ!?」
「ちょ!!アア、ア、アアンタ、メイドなんて雇ってたの!?ふ、ふ、ふざけんじゃないわよ!!」
「い、いや!ち、違うって!!俺の隣の部屋に土御門舞夏ってやつがいてだな、たまにあまりモンもらってんだよ!」
「え!?舞夏!?ってそんなこと信じられるかーー!!!」
「どわあ!!」
ぎゃあぎゃあ言っているわりには、手際よく料理はできていく。小萌はそんな二人を見て「さすが夫婦ですねー」とぼやいたが、当人たちは「「どこが!!??」」ととりあえず否定的な姿勢を主張するようだ。
だが小萌が言った通り二人の協力プレイはそれはそれはすばらしいものだった。
美琴が「ったくこれだから男ってのはー!これテーブルに持っていけクソバカ!」というと、上条は言われた通りに指定された皿を持って「なにおう!!俺だってなー舌には結構自信があんだよ!!レモンはないねレモンは!!」と憎まれ口を言いつつ、なんやかんやでその責務を果たすのだ。
と、こんな感じの共同作業で前金こと朝ごはんは素早く出来上がったわけである。
「ったく……これで変な味だったら一生お前のことレモンちゃんって呼ぶからな?覚悟しとけよレモンちゃん?」
「いいい、いっ一生う!!??……ふ……ふん……わ、わかったわよ……そこまで言うなら食べてみなさいよ!もしアンタがうまいって言ったら今日からずぅーっとこの御坂美琴にふふ、服従すんのよ!!??わかった!!??」
やや熱くなっている二人は美栄と小萌が「ね?アツアツのフウフでしょ?いつもはもっとラヴラヴなんだー!キスとかすると、もうとまんないんだよーーー!!」「へぇえ、これは手に負えませんねー見てるこっちが恥ずかしいです……」といっているのに気づけない。
「ふん!この中学生め!!そんな幻想、この俺がぶち殺す!!」
「いったっだきまーすー!」と力強く言った上条はなんかすごく流動的に体を動かしながらご飯を食べ始めた。美琴はてっきり上条がズズズズッッ!!とでも言うように具ごと思いっきり味噌汁を飲むのかと思っていたが、しかし上条は「んー?んー?」とか言いながらちまちま確認するように美琴が作った味噌汁を食べている。当の美琴は、テーブルから乗り出して上条を覗き込むようにして見つめていたが、「ち、ちかっ!」と自重し、自分の本来の位置にちょこんと座りなおした。
「……ど、どうよ?これで納得したでしょ?……アンタはこれでい、い一生、わ、わたわ、私の……おお、おおと……とおっ!」
(………、レベル5と言っても女の子は女の子ですねー)と小萌はぽかぽかしながら美琴のことを見ている。本来、彼女の職業は教師なので『こらこら、男女不純交際はだめです頭沸いてんじゃねーよ発情犬ども☆』と注意をするべきなのが、今は頬を染め二人のやりとりを黙って傍観している。しかし美琴が「弟」だか「オットセイ」だか何かは知らないが全部言い終わる前に、上条が言い放った言葉に小萌の表情は豹変する。




「……マズい……」
「っっっと!!!???って!?えぇ!!??そんなはずない!全部完璧のはずよ!!ちょっとアンタ、嘘言うんじゃないわよ!!!」
と確認するため美琴は自分の分の味噌汁に手をかけようとする。だってどう考えたっておかしい。まずいはずはないのだ。今までバカの一つ覚えみたいに何度も練習してきたメニューの一つなのに失敗するなんてありえない。「そ、そんなばかな!」とどこかの悪役みたいに事の成りを確認しようとするが、しかしそれはプルプル小刻みに震えている上条に阻止された。
「にょわ!?な!なにいきなり手握ってんのよアンタ!?」
「……、」
しかし上条はそれに答えない。急に人が変わったみたいに押し黙っている。間近で見た上条の顔は以外に整っている目、鼻、口、そして長い眉毛。これで頭がよければ、ほいほい女が寄ってくるだろう(実際には頭がよくなくても寄ってきている)。
「……、どうしたのよアンタ……」
「……、」
「…………………?」
「…………みさかぁ…」
ベッドの中で愛を囁くように上条がそう甘く囁くと、美琴は「はぅう!」となんかもう何もかもどうでもよくなってしまった。これはもしかしたら黒子とかが仕入れた媚薬が何かの因果で自分の手に付着しこれまた何かの因果でそれが上条の体内に侵入したりしなかったりでもうこれは実に遺憾というか超不本意だけどもまぁ媚薬なら仕方ないし本人公認と言うことでまだ大人のバカ下着は購入してないけど夫婦として早くも食べたり食べられたりの愛の巣作り突入だったりしちゃうわけー!?としかしここまで考えて即行動に移さない慎重さが、レベル5であり何気にお嬢様である美琴のすばらしい一面なのである。
「な、なに急に色っぽい声で呼んでんのよこのバカ!!そういうのには……その……もうちょっとムードってやつがあるでしょうが……でも私…アアアアンタになら…」
「……………、」
………どうもそんなフホンイな展開ではなかったようだ。
そんなにまずかったのだろうか、と美琴は再び作った手順を思い出す。だがやはりこれと言ってヒットするところはなかった。完璧のはずだ。しかし検索結果0件にもかかわらず、上条の震えはだんだんと大きくなり、やがて泣くのを堪えるような仕草になっていった。その様子はさながら、数十年の付き合いの親友が小さい子供を庇って死んでしまい、悲しみに酔いしれてる色男のようにも見えた。
「不味いんだ………」
「……………はぁ?」
もしかして、自分の作った味噌汁が死んだ友達が作ったそれの味に似ている、とかなんだろうか。まずいと言うのは、その不器用な味が印象的で忘れたはずの友達を思い出してしまったとかそんなところなんだろうかと、美琴は少ない情報から推測する。
しかし上条の口から出てきた言葉はそんなお涙頂戴のものではなく。
「すっげー不味いからお前の分も俺が食ってやろうってんだよ!!あるやつ全部もってこい今すぐ!!」

…………多分、本当のツンデレとはこういう人のことを言うのだろうと美琴は勝手に結論付けた。


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