とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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恋する少年の酔っ払い



 春が過ぎ去りすっかりと夏の暑さが目を覚まし始めてしまった夏休みが間近なある日。
 今日も上条は宿題と特別課題に追われる夜をすごしていた。一問一問、わかっている部分も参考書を見ながら丁寧に解いていく。時間はかかるが確実な方法であり毎回の復習にもなる。単位は相変わらず危ないので、学力だけでも何とか高めなければならない上条からすれば、あえてこの方法をとりながら学力向上を目指したほうが一番理想的であった。といっても本当の理想は単位をしっかりとることなのだがそれは事情により難しかった。
「あと少しだな、と上条さんはラストスパートをかけます」
 御坂妹の口調を真似してもモチベーションは上がらない。これはただの気分転換だ。
 宿題は全て終わり小萌先生から出された課題も最後。残ったのは上条が苦手な記録術の課題だけだが、決して難問ではないというので参考書を何度も見ればわかるはずだ。
 しかし苦手な教科になると気持ちが下がってしまうのだが、課題はやらねばならないのが学生の宿命。上条は終えた課題を学校のカバンに詰め込み、最後に残った記録術の課題に手をつけようとした矢先、部屋のチャイムが鳴った。
「??? こんな夜遅くに誰だ?」
 今日は誰とも約束はしていないはずだと上条は自分の記憶を振り返ってみた。
 上条の専属の家庭教師の御坂美琴は、今日は母親と過ごすということで今日は来ない予定だったはずだ。ならばとインデックスを思い浮かべたが、生憎インデックスは教会に居候先を変更し今週はイギリスに戻っているので来ないはずだ。可能性の高い二人以外にも、隣の土御門を思い浮かべたが土御門であればチャイムを鳴らした直後にカミやんという声が聞こえてくるはずだ。
 では誰がと上条は立ち上がると玄関に向かいチェーンのつけっぱなしの扉を開いてその隙間から外をうかがった。
「どちらさまでせうか? 上条さんはただいま絶賛お勉強中なので用件は手短にお願いします」
「どうも~お久しぶりです♪」
「あれ、美鈴さんか。待ってくださいね、今ドアを開けます」
 上条は知り合いの女の子の親であり知り合いでもあった御坂美鈴だと確認できると、チェーンをあけてドアを開いた。
「ふふふ、勉強熱心なのね上条君は」
「ただ馬鹿なだけで課題ばかりやらされているだけですよ。それで、こんな夜の時間になんですか?」
「ふふふ、お届けものよ~ん♪」
 というと美鈴は玄関までやってくると後ろにいた一人の少女を引き摺り下ろした。
「えええっ!? 御坂ッ!!??」
「結構強いやつ飲んで、べろべろに酔っちゃってね、店を出て帰る途中で寝ちゃったの。それでタクシーを使ってここまで連れて来たんだけど…ってそんなことはどうだっていいわよね♪」
「ええ!!?? だからって……はいっ??」
「そういうことで、上条君の愛しの美琴ちゃんをよろしくね。あと寝取っちゃっても大丈夫よん♪」
「そんなことはしません!!!」
 顔を真っ赤にして反論したが、美鈴はそれすらも楽しそうに照れない照れないとニコニコ笑って帰っていった。
「ったく、こいつが起きてたらどうするんだよ」
 美鈴が去った後、とりあえず誰かに見られる可能性を潰すために扉を閉めた。もしかしたら隣の土御門に聞こえていたのかもしれなかったが、何も言ってこないでの大丈夫だなと判断した後、上条は美琴をどうするか悩んだ。
「背負う……いやいや、それはダメです。だったら……抱っこ?」
 高校2年生の上条は中学3年生の美琴をどのようにしてベットまで運ぶか悩んでいた。
 以前の上条であれば、意識せずそのまま運べたが残念ながら以前の上条はここにはない。今ここにいるのは、美琴に惚れて惚れて仕方ない高校2年生になった上条当麻。そして美琴と同じで告白することが出来ずに悩む、初々しい少年でもあった。
「ああ~好きな女の子を触れるのに、どうしてこんなに悩まなければならんのだ!!」
 すっかり美琴にべたべたになってしまった上条は、意識してしまったら最後、美琴に触れることもままならない。触れてしまったら、あまりのことに上条の思考はオーバーヒートしてしまい意識が飛びかけると、まるで過去の美琴のような状態になってしまう。もっとも美琴も同じ理由で意識を飛ばしかけ漏電してしまうので美琴の方がたちが悪いのだが、未だに気づいていない上条でもあったりするが。
 一人で知恵熱を出して悩んだ挙句、上条は意識しない意識しないと念じながら美琴をお姫様抱っこでベットまで移動させることにした。
(意識しない意識しない意識しない意識しない! 違うぞ、上条さんは美琴のことなんて意識してない! そうだ意識してない意識してない意識してない!)
 そして長い葛藤の末、上条は自分のベットに美琴を寝かせタオルケットをかけてあげた。それが終わると上条は、床に何度も何度も頭を叩きつけて、うおおおおと叫んだ。
 ちなみにそれでも土御門は来なかった。何故なら今日は土御門は留守であった…のだが上条はそんなことにも気づいていなかった。
「はぁ~よし。勉強しよう勉強。それが今日のため明日のため、これが一番です」
 上条は美琴の存在をなるべく意識の外におきながら、机に向かう。机においてあったシャーペンを取って、まず一番最初の問題に取り掛かろうと芯を出して問題を読み始めた。その時であった。
「………ん、と……ぅま」
 バタンと上条は後ろに倒れた。勉強しようとしたペンもその場に落っことし、上条は倒れたまま後ろを向いた。
 名前を読んだ張本人、美琴は相変わらず眠ったままだ。美鈴のように酔っぱらって酷い目にあうかと思ったが、気持ちよさそうに眠っているところを見ると美鈴のように暴れたりはしないようだ。
「まったく。なんで夢の中だと俺の名前を呼べんだよ」
 いつもはアンタや馬鹿と呼ぶはずなのに、眠っている夢の中だとちゃんと名前で呼んでくれている。上条はその事実を知って少しだけ美琴に腹を立てた。
 夢で呼ぶのならば現実でも呼んで欲しいと思うのが、上条なりの願いもである。だが生憎、美琴はまだ眠ったままで今そんなことを言っても美琴は答えてくれない。まずそれ以前に、恥ずかしくて頼むことすら出来ない自分に上条はため息をついた。
 美琴が来たせいですっかりと勉強する気持ちが消え失せてしまった上条は、立ち上がって美琴のそばまで近寄った。
 そして、美琴の寝顔を見て上条は心臓がドキッと飛び上がった、
「か、可愛い……」
 美琴の寝顔を見るのは初めてではないが、上条が好きだと自覚し始めてからは初めてであった。
 自覚する前はこうしていれば可愛いぐらいとしか思っていなかったが、今回はそんな甘い考えではない。一言で言えば、天使のように美しい表情であった。
 上条はあまりにも衝撃的であったため、一分ぐらいその顔に見とれて身動きが出来なかった。その一分後になって上条は顔を真っ赤にして、視線を逸らした。
「センセー、上条さんはどうすればよいのでせうか?」
 先ほどから誰もいないこの部屋で誰かに教えて欲しい質問ばかり言っている上条の理性は、様々な意味で限界に近かった。
 余裕がなくなり始め、このままで美鈴が言ったとおりの展開になりそうであった。それは上条も自覚していたが、自分でもどうしようもないこの状況をどう打開すればいいのかまったくわからなかった。
(うぅ、上条さんは今日を無事に乗り越えられる自信がなくなってきました。なのでいい加減に起きてくれよ、美琴)
「んふふ……とうま。捕まえた♪」
「うぎゃあぁぁぁぁ!!! なんだそれは!!!!」

 ここからはしばらく会話のみでどうぞ。
「やっと捕まえた。もう離さないよ」
「ああぁぁぁぁぁ!!!」
「当麻は私のもの。えへへ……へへへ」
「うおおおおぉぉぉ!!!」
「だ~め。私のものだからいいって言うまでこのまま」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
「もう、だからってどこ触ってるのよ。でも当麻だったら…むにゃむにゃ」
「にゃああぁぁぁぁぁぁ!!!」
 上条の理性は限界を突破していながらもまだ健在であった。だがその代わりに冷静さを完全に失ってしまっていた。
 何度も何度も床に頭を叩きつけて、邪念をはらっていたつもりだったのに、美琴の寝言のたびにその邪念はさらに大きくなるばかりだった。なので最後の言葉と共に上条は燃え尽きて床に倒れふした。
「不幸だ………こんな拷問は不幸すぎますよ、美琴先生」
 と呟いていると不意にベットからがさがさと動く音が聞こえた。上条は床に倒れふしたまま、顔を上げてみた。するとベットから身体を起こした美琴があたりを見渡していた。
 やっと開放されると上条は安堵のため息をついて、立ち上がった。そして美琴に声をかけようとした瞬間であった。
「わーい、と~まだぁ」
「うぉっ!!??」
 ベットにいた美琴は上条の身体に飛びついてくるやいなや、上条は美琴に抱きしめられてしまった。
「えへへ、とーまーとーまーと~ぉ~ま~ぁ~。いっつもこうやって私は寝てるんだよ」
「ソ、ソウナンデスカ」
 起きた美琴の態度はいつも知っているはずの美琴の態度ではない。というよりもこのようなことをしてくるキャラでもない。
 だったらなんでこんなことをと考えた時、少しだけだったがアルコールの匂いがした。これのおかげで上条は少しだけ冷静さを取りもどすことができ、真っ赤になった美琴の顔と態度の変化の原因は酔いだと理解した。
「それにね、私はいっつもと~まを抱きしめたかったんだよ。だ・か・ら、もっと抱きしめちゃう~」
「こらやめろ! 当たってるから! 御坂の発育中の胸のふくらみが当たってるから!!」
 さらに抱きしめられたことにより、美琴の胸の柔らかいふくらみが密着しては動く。会った当初はそこまで大きくなかったのに、月日を重ねるごとに大きくなった変化が少しだけわかるぐらいに成長している美琴の胸は、中の下あたりの大きさだ。
 しかしそれと好きな女の子の胸である事実が合わさって、上条の理性は消えかけの灯火になっている。だというのに美琴はさらなる攻撃を上条に仕掛けてくる。
「それにと~まの腕、すっごい逞しいにゃ~♪」
「って頬で擦るな! しかも口調は土御門かよ! だから御坂、それ以上は…こら本当にやめてくれ!」
 上条の右腕を取ると幸せそうな表情で頬でこすり付けてくる。しかも季節的に半そでだったので肌と肌がちょうどぶつかりあい、威力はさらに上がっている。
 柔らかい頬の感触は上条には幸せな感触ではあるが理性からすれば、追い討ちをかけるつもりかと涙を流したいほどに極悪な攻撃であった。しかし今の美琴には悪意などが一切なく、ただ酔ってしまっているだけであった。なので怪我や傷つけてしまわないように決して力で強引に離そうとしなかった。もっとも、その理由の中には男性の欲望が少しブレンドされているのだが。
「えへへ、と~ま~と~ま~と~ま~♪ 大好きなと~ま~♪」
「やめろ~~!!! 理性が! 上条さんの理性が音を立てて~~!!!」
「好き好き好き、大好き♪と・う・ま」
「だから好きなのはわかったから!!! 御坂が上条さんにデレデレなのは……………は???」
 そこで上条はとても大切なことを何度も何度も言われていたことに気づいた。
 そして同時に頭の中が真っ白になり、しばらくして顔を真っ赤にして頭の中がパニックになった。
「みみみみみみみみみみみみみみみみみみ」
「何それ? セミの声の真似? ふふふ、と~まったらまだはや~い」
「セミじゃない! というよりも上条さんのキャラはどこへ行ったんだ! 返せ御坂!!!」
「え~だったら、御坂じゃなくてみ・こ・とって呼んでくれたら返してあげる」
「んなななぁぁぁぁ!!!???」
 酔っぱらっているはずの美琴よりも、上条の方が酔っぱらっているように見えてしまうほどの慌てっぷりであった。だがお互いにそんなことは一切考えず、上条だけがどんどんおかしな方向へとキャラクター変更されていく。
「わかったわかりましたわかったんだよの三段活用! 美琴! 上条さんのキャラを返せ」
「だったら今度はキスしてくれたらいいわよ」
「ごめんなさい無理ですわたくしにはその根性がございません」
 上条は美琴に土下座した。根性がないというよりも恥ずかしすぎて出来ないのであるが、同じようなものであったのでとりあえず謝っておいた。
 すると美琴は仕方ないなと笑って上条の両方の頬に両手を添えると、
「んんっ…!!!???」
 美琴の方からキスをしてきた。しかもちゃんと唇と唇で。
「ちゅ………私のファーストキス、どうだった?」
「上条さん……もうダメになりそうですからこれでおわ、ん」
「んん……ふふふ、とーまったらしょうがないんだから~」
 上条は言葉の途中で美琴に口をふさがれ、さらに美琴は無邪気に笑うと両方の頬に添えられていた手を離すと、上条の右手を後頭部に回し左手を上条の手を掴み、指を絡めつかせる恋人つなぎで手を繋いだ。
 三度目のキスは、さきほどよりも長かった。もう理性の崩壊が30秒を切っているのがわかっていた上条は逃げなければと顔を離そうとしたが、美琴に手で逃げるどころか唇をずらすことも出来なかった。
 そして理性の崩壊が15秒を切ろうとした時であった。不意に上条の唇に生暖かく柔らかいものが触れた。
(???……この暖かい感触、御坂から……で上条さんの唇をなぞって……口の中、に)
 それが美琴の舌先であると気づいた瞬間、上条当麻の理性は崩壊し本能の物語が始まったのだった。

 翌日。
「それで、俺たちはこんなことになってしまったと」
「ああああ!!!! 言うな言うな言うな!!!」
「それで美琴さん、こうなった責任は取らせていただきたいのですが、美琴さんはどうするんですか?」
「どうって…何をするのよ?」
「上条さんが言いたいのはですね、酔っぱらったとしても美琴さんに手を出してしまいました。ですがこれは酔っぱらって上条さんの理性を壊した美琴さんにも責任があると言いたいのです」
「うっ……い、言われてみれば」
「なので美琴さんは上条さんとただのお付き合いするのではなく、結婚前提でお付き合いをしなければならないというわけです」
「け、結婚!!?? でででででででででもでも」
「美琴さん、あなたは上条さんの理性を崩壊させる前にも好きと証言しております。酔っぱらって記憶がないのはご存知ですが、それ以外にも何かいいわけがありますでせうか?」
「…………ありません」
「では結婚前提でお付き合いすると言うことで、よろしいですね?」
「(こくん)」
「よろしい。では美琴さん、これから美鈴さんに会いに行きましょうか」
「えええ!!!?? な、なんであのバカ親なんかに」
「いや結婚前提なら親に挨拶に行くのが普通でしょう。それにもう連絡を取っちゃったしな。そうと決まれば、レッツゴー」
「え? ええ?? えええ???」
「美琴さん、上条さんをべろべろにした責任、取ってもらうからな」
「……………想いは叶ったけど、アイツに引っ張りまわされるこの結末って不幸…なのかしら?」

<終わり>


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