とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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入れ替わりデートで知る本音



御坂美琴、という1人の少女を象徴する小物って何だろう?

「超電磁砲」の異名を支えるゲームセンターのコイン?
かわいいもの大好きな彼女のお気に入り、カエルのストラップ?
はたまた最近つけはじめた、可憐な花の髪飾り?

今回は、ひょんなことから「短パン」というアイデンティティを喪失した彼女のお話。


――――――――――――――――――――――――


(黒子めぇぇぇっ!帰ったらタダじゃおかないんだからっ!!)

御坂美琴は公共の道路上で1人スカートを押さえてもじもじしていた。
彼女の周りには学校帰りの学生達が行き交っている。1日の学業から開放された彼らたちは、夕食までの時間を思い思いに過ごしていた。

『お姉さまったら、いい加減に短パンは勘弁して欲しいですの。せっかくですので淑女らしい振る舞いをこの際身につけてくださいまし』
詳しいやりとりは省略するが、彼女のルームメイト、白井黒子から短パンだけをテレポートされてしまったからだ。
おまけにあの変態は、美琴の短パンを頭にかぶって、どこかに飛んでいってしまった。
淑女らしい振る舞いなどとお前がいうな!と美琴は叫びたいところだったが、いかんせんスカートの下がスースーして調子が出ない。
(あ、歩きにくいぃっ!)
まるでロングスカートのドレスを履いているかのように、これまで通り歩けない。
走るのはもちろん、蹴りをするなどとんでもない。
黒子の思惑通り、確かに自分の行動を矯正するのに一定の効果があるようだ、と美琴は頭を抱えた。

(とっ、とにかくこんなところを誰かに見られないうちに寮に戻らないと!特に知り合いに見られるのは絶対マズイ!)
人通りの多い場所に長居するのは危険だ。多少大回りしてでも人気の少ない道を通って寮に戻ろう。
願わくば何事も起きませんように。

そんな彼女の切実な願いをあざ笑うかのように、美琴の後方から大型トラックが猛スピードで追い抜いていった。当然のように周囲には小規模の突風が吹き荒れる。

念のために記しておくが、彼女は下着は履いている。
柄は幸いなことに、子供向けのキャラクターものではなく、オーソドックスな純白であった。


――――――――――――――――――――――――


「補習が長引いたー。うだーっ」

上条当麻は今日も今日とて、他の帰宅部の学生よりも遅い時間に学校から開放された。家に帰れば腹をすかせた居候シスターが待っている。
(ゲーセンででも気分展開したいところだけど、残金は僅か。上条さん的には悩みどころなのですよ)
よったらよったら歩く彼の視界前方に、見慣れた常盤台の制服の後姿が飛び込んだ。
やたらときょろきょろ周りを探りながら、じりじりと歩を進めているその人物は、お嬢様というより不審者か。

慎重に歩を進める彼女の背中に上条はすぐに追いつき、声をかけようとしたところでふと気づいた。
(はて、これは美琴か?それとも御坂妹の方なのか?)

目の前の少女は確かに彼の知り合いではあるのだが、見た目がまるっきり同じ少女がこの学園都市にはざっと10人はいるので、誰が誰やら判別がつかない。
(ま、何とかなるか)

いつも通りの楽観的な思考回路で3秒で結論を出し、呼びかけようとした絶妙なタイミングで、突然の突風が巻き上がった。


――――――――――――――――――――――――


御坂美琴は風で舞い上がるスカートを必死になって押さえ込んだ。
前は隠せたが、後ろはまずいことになった!と脳内プチパニックになったところで、
「え、えーと、上条さん的にはここはスルーした方がいいのでしょうか?……おっすー今帰りか?こんなところでなにやってんの?」
今もっとも顔をあわせたくない人物の声が背後から聞こえてきた。なんとも能天気な口調が美琴の逆鱗を静かに逆なでする。

「……見た?」
美琴は後ろを振り返らず、バチバチと青い火花を放電しながら、平坦な声を返す。
妙にドスのきいた声に、道端でえさを探していた小鳥が『やべーよ今なんかバチっとしませんでした?!』と言わんばかりにびっくりして飛び去っていった。

「うっ、いやチラッとしか!ほんの一瞬しか!大丈夫、問題ねーよすぐ忘れるから!だからその心臓に悪いスパーク音はやめってってば御坂妹!!」

……御坂妹?と美琴は怪訝に思いながらも感情の抜けきった冷たい視線で振り返り、怯える少年をねめまわした。
こいつ下着を見た挙句に、私をシスターズと勘違いしやがった。どう折檻してくれようか。
「アンタね、私は……」
といいかけたところで美琴は口をつぐんだ。
ぴぴぴん、と学園都市第3位のハイスペックな脳内を電気信号が駆け巡り、猛烈な勢いで思考を開始する。

(いや待て、そもそもコイツは何で私をあの子と勘違いした?8月15日に会ったあの子は短パンを履いていなかったけど、まさかあのバカ、あの子達のス、スカートを覗いたことがあるんじゃないでしょうね?!こっ殺す!い、いやいやそれは流石にやりすぎよ。そもそもコイツが積極的に変態行為に走った証拠は無いし何らかの不可抗力だったのかも……。それよりもうわぁやばい!見られたー!よりにもよってこのバカに見られた!?くっ……やっぱ八つ裂き決定ね!!……いやいや待て待て、コイツは今私をあの子と勘違いしているわけよね。このままうまく誤魔化して今ここにいるのは御坂美琴とは別人ですよーってことにしちゃえばノーカウント!問題ないんじゃないかしら!?)

わずか0.1秒の超高速・高精度な情報処理を完了させ、口元をヒクヒクさせながら美琴は上条に結論を告げる。

「あ、アンタはぁ、一瞬だろうが何だろうがこの私のスカートを覗きやがったのか!!…………ってとりあえず、み、御坂は叫んでみます」



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「軍用ゴーグルが無いと、ほんと美琴と区別つかないよなー」

結局、目の前の少女はシスターズの1人だと勝手に思い込んだ少年は、美琴と並んで繁華街を歩いていた。
放課後の時間を満喫する学生達の間を縫いながら、特にどこへと行くあてもなく歩を進める。
(そういや、さっきからずっと黙っているけど、こいつらこんなに無口だったっけ?)
上条の疑問ももっともだが、美琴はうっかりボロが出る事を危惧して、珍しく普段よりも口数をおさえていた。
『なんというか、この妹さんってば口調がちょっと違うよな』との独り言が聞こえてしまったことも後押しした。

「やっぱり見分けをつき易くするための小物が欲しいところだよな。そういえば、お前らっていつも何して過ごしてるんだ?」
上条の素朴な疑問に美琴はギクリと肩をこわばらせた。学園都市に残ったシスターズが、どこで何をしているのか、美琴は詳しいことを知らなかった。
どうごまかそうかとあせって逡巡する彼女を違う意味で解釈したのか、上条は慌てて、
「いや!言いづらいことなら無理に言わなくていいから!そりゃそうだよな。まだほいほい自由に歩きまわれる状況じゃないのはなんとなくわかってるから」
勝手に結論付けてしまった。再び2人の間に沈黙が落ちる。

仕方が無いこととはいえ、見た目14歳の年頃の少女が社会の輪から隔絶された環境で、日がな1日過ごすのはどうかと上条は思う。
が、シスターズの遺伝子上の元となった御坂美琴は、知る人ぞ知る有名人だ。うかつにあちこち連れまわす行動は彼女に迷惑をかけるかもしれない、と上条はジレンマに陥った。
(でもまぁ、その時はその時か。)
1人で表情をくるくる変える自分を不思議そうに見つめる隣の少女に、上条は心配ないと微笑んだ。


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自分に向けられた少年の無邪気な笑顔を見て、美琴は急に胸を締め上げられた気がした。

(というか、なんでコイツはあの子達に対してこんなに優しいわけ!?私に対する扱いと全然違うじゃない!)
隣の少年の振る舞いは、世間の一般常識に欠けるシスターズを気遣ってのことだろうとは美琴にだってなんとなく分かるのだが、理解は出来ても納得できない。

「ここらで学生らしい楽しみ方をエンジョイできる場所っつーと……うーん」
周りをきょろきょろと見渡していた上条は、ふとある方向に指を向けた。
「お、あそこのゲーセンによって行かないか?」

(よりによって女の子をゲーセンに誘うんかこいつは!)
心の中でツッコミつつも、なんだかんだで断れない美琴は不承不承うなずいた。

「よっしゃ、それなら早く行くぞ!」
放っておくとこの少女はいつまでも同じ場所に立ち尽くしていそうな気がした上条は、手をとって走り出す。
「え?ちょっと?!」
美琴は抗議の声が喉まででかかるも、いつものように言い返すことは出来なかった。
自分の手を引く少年が、美琴がこれまで見たことがない満面の笑みを浮かべていたから。

(そっ、そんな訳ないから!なんでコイツの緩んだ顔で動揺しなきゃいけない訳!?)

こんなにも調子が狂うのは、ひるがえるスカートが気になるからだと美琴は無理やり自分を納得させた。

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上条に手を引かれながら美琴が連れてこられたのは、学園都市外部の技術で開発された篤体が揃ったゲームセンターであった。
店内の隅に設置された小さなプリクラコーナーでは、セーラー服を着た女子生徒たちがわいわい盛り上がっている。

上条は店内の中央にある、一種のクレーンゲームの前で足を止めると、振り返ってガラスケースの中の景品を指差した。
「ほらこのストラップなんかどうだ?アクセサリー代わりに持ってれば見分けがつきやすいかも……ってなんですかその露骨に嫌そうな顔は?!」

超機動少女カナミンのストラップのセンスはそりゃないわー、と美琴は上条をにらみつつ、隣のクレーンゲームを指差した。色とりどりの動物のぬいぐるみたちが、つぶらな瞳でひしめき合っている。
むぅぅぅ~っとかわいらしく唸りながら、美琴は上条をぐいぐいと引きずった。

「いやぬいぐるみって、それじゃ身につけられないだろ?っておいおい引っ張るなって!こっちがいいのかよ?!お前ら本当こういうの好きですね!分かったからガラスに俺を押し付けるのをやめてくださいっての!」

――――――――――――

「うおあぁぁーっ!?また落ちたーっ!うだーっ!!」
先ほどからこの少年は持ち前の不幸さを発揮して、後一歩の所で景品を手に入れることに失敗し続けていた。店内を走り回る子供がぶつかって操作をミスるのは序の口で、アームのスプリングが突然はじけ飛んだ時にはさすがの美琴も唖然とした。何度もケースを開けて調整を繰り返す店員の顔があきれ返っているように見えるのは見間違いでは無いだろう。
実は美琴の電気を操る能力を使えば、この手のクレーンゲームなど簡単に攻略できるのだが、美琴の頭からはそのような思考はさっぱりと抜け落ちていた。
「な、なぁ。やっぱり俺がやるよりお前がやった方がいいんじゃないのか?ずっと見ているだけじゃつまらないだろ?」
どんよりとしたオーラをまとって上条は何度も同じことを尋ねてくるが、そのたびに美琴は黙って首を横に振り続けている。
少年のクレーンゲームを操作するタイミングは決して悪くないのだが、絶望的なまでの運の悪さに悪戦苦闘していた。それでも美琴は信じていた。美琴が絶対に不可能と信じていた絶望を、右手1つで打ち砕いたかつての出来事に比べれば、この少年はこの程度のゲームなどきっと乗り越えてくれるに違いないと。

――――――――――――

ようやく出てきた景品は、水色の子豚のぬいぐるみだった。
ずいぶんと憔悴しきった上条から手渡された、初めてのプレゼントをまじまじと眺めると、美琴は両手でぎゅっと抱きしめた。

上条は、無言で微笑みながらぬいぐるみを胸に抱く少女を苦笑しながら見守っていたが、やがてすまなそうな顔でおずおずと切り出した。
「悪い、上条さんのお財布はすっかり軽くなっちまった。最後に何か遊びたいのあるか?あと1つくらいなら何とかなるからさ」
なんとも甲斐性の無い台詞であるが、今回ばかりは美琴はこの少年に腹など立てる気など起こらなかった。
その一方で美琴の中では、この少年が誰かに渡すものを全て自分が独占したい衝動が湧き上がっていた。
すでに大切なものをもらったばかりなのに。もう十分満足したっていいはずなのに。
今日の最後にもう1つだけこの少年から何かをもらえるのなら、いつまでも残る思い出が欲しいと美琴は願った。

美琴は周りを見渡すと、黙って店内の隅に置かれたコーナーを指差した。



――――――――――――――――――――――――

ゲームセンターから連れ立って外に出ると、いつしか空は赤くなっていた。
美琴は上条からプレゼントされたぬいぐるみと、今しがた撮影したばかりのプリクラを眺めている。
前を見て歩かないと危ないぞ、との上条の声も耳に入っていない。

彼女の手元のプリクラには少年と、少年の腕にしっかりと抱きつく少女のツーショットが並んでいる。それを眺めていると、美琴は自然とほほが緩むのを抑えることが出来なかった。

プリクラの中の少年は、若干ぶっきらぼうながらも優しい顔で笑っている。
今だってきっと同じ顔をしているに違いない。見なくてもわかる。

でもこの少年の笑顔は、御坂美琴という少女に向けられたものではない。
それが何だか、すごく納得できない。シスターズのふりをすることは自分で選んだことなのに。

この少年と並んで、2人だけの時間を過ごしたことなら何度もある。
海原光貴が発端となった偽装デートに、ゲコ太ストラップを理由にした罰ゲーム。
今回はシスターズを装って、この少年の隣にいる。

いったいどうしてこの少年と向き合うのに、こんなに遠まわしなやり方しかできないのだろうと美琴は眉をひそめる。

今まで自分はいつだって一直線に突っ走ってきたはずなのに。

――――――――――――

夕焼けに照らされて2本の長い影が並んで伸びている。
いや、2本というのは語弊があるかもしれない。
美琴は少年の手を握っていたから、影は2つで1つだった。

美琴は右手でぬいぐるみを胸に抱き、左手で上条の手を指先だけでつまむようにつないでいた。
上条はいつの間にか2人分の学生かばんを、さりげなく左手に担いでいる。
(何も言わずになんなのよそれ。キザったらしいくせに天然でやってるんだから始末におえないわよ)
隣に並んで歩く少年の横顔を、こっそりと盗み見る。

思えばこの少年は、いつだって誰かのために動いてきた。それは割に合わないことばかりだったはずだ。
何の得にもならない、むしろ損をしてばっかりじゃないか。
もしかしたら先ほどゲームセンターで美琴のために使ったお金だって、美琴にとっては微々たる物だが少年にとっては食事代に当てるお金だったのかもしれない、と遅まきながら懸念する。
今まで浮かれていた気分が、急速に冷静な思考を取り戻していく。

(なんでアンタはそれで笑っていられるのよ……)
少年が自分に向ける笑顔を見て、美琴は何故だかいたたまれない気持ちになった。
少年が話しかけてくる会話の内容が上手く理解できない。
何故だかわからないが、胸が苦しい。

加えて彼の笑顔が、本来の自分に向けられたものではないのが、何故だかたまらなく悔しい。
問わずにはいられなかった。この少年が自分を御坂美琴と認識していない今なら訊けると思う。

「あ、アンタは……美琴お姉さまの事をどう思っていますか?……と御坂は問いかけます」
振りしぼるような声だと自分でも思う。

え?と今の今まで沈黙を続けていた少女から突然飛び出た質問に、数秒ほど目を白黒させつつも上条は正面から彼女の問いにこたえる。
「うーん、そうだな。とりあえずわがままだし、すぐキレるし、人の話は聞かねーし。自販機に蹴りを入れるわ、殺意マンマンで電撃を飛ばしてくるわ。おまけに人がテンパってるときに恋人ごっこなんて無理難題を押し付けてくるし。あいつって全然お嬢様っぽく無いんだよな」

こいつは普段こんな風に自分を見ていたのか!!
と美琴が内心で上条をギッタンギッタンのまっ黒こげにしていたのだが、

「まあ俺がどう思おうが、あいつは俺を嫌っているみたいだけどな」

どこか僅かにさびしそうな言葉に、美琴は心臓が止まるかと思った。
いったい以前の俺は何をやらかしたんだろうな、との独り言は美琴の耳に届かない。

ちょっとまて。嫌っている?自分が?この少年を?
そう思われているのは美琴にとって大きなショックだった。
そんなはずはない。そんなはずはないのだ。
この少年は自分には一銭の得にもなりはしないのに、命を懸けて自分と1万人の少女達を救ってくれた。
嫌いになんかなるはずが無い。むしろ……
とそこまで考えて、無意識のうちに思考を即座に切り替えた。

これは誤解を解かなきゃまずい。何故だかわからないが、とにかくこれはまずい。

「き、嫌ってなんか……いや嫌われてなどないって、御坂は主張するわよ!」
「ん……?お前がそういうのなら、きっとそうなのかな」

どこかほっとしたような息をはく少年を横目に、美琴は考え込んでしまう。
思い返してみるがいい。自分はこの少年に、今までいったい何をしてきたか。
事あるごとに、駄々をこねる子供のように突っかかり、電撃をあびせ、あまつさえ本気で命を奪おうとしたではないか。その後も少年の都合などお構い無しに振り回していた覚えもある。もしかしたら、相手が嫌がることしかしていないのかもしれない。

そんな人間に、いったい誰が好意を持つというのか?
この少年があの夜、自分の命を救ってくれたのだって、実はシスターズがメインであって、自分はあくまでオマケだったのかもしれない。
そこまで考えてしまうと、何故だか無性に悲しくなった。じわりと視界が滲み出し、胸をかきむしりたくなる。無意識のうちに彼を握る手にきゅっと力が入った。

再び黙り込んでうつむいてしまった少女を、上条は不思議そうに見つめているが、彼女は気づかない。
でもな、と少年はどこか照れくさそうな声で、頭をボリボリかきながら前を見て言葉を続けた。

「さっきはああは言ったけど。あいつと一緒にいるのは別に嫌ってわけじゃないんだよ。あいつはいつだって底抜けに明るくて、人懐っこい奴で。なんだかんだで困った奴を見れば放って置けないお人よしだし。この前だって何時間も宿題を手伝ってくれたしな。やっぱりあいつと一緒に歩く帰り道は楽しくて、ずっと過ごし続けたい時間だったんだと思う」
徐々に夕闇に染まる空のように沈みかけていた自分の心に、確かな光がともった気がした。
少年は少女の手を、力強く握り返す。

「それに何より……守るって誓ったから。嫌いになんかなるわけねーよ」

どうして自分はこの少年の言葉に一喜一憂しているのだろうか。この少年に守られ続ける。レベル5の自分がレベル0なんかに、なんてプライドの壁などもはや何の意味もなく染み込んでくる言葉。それはなんて温かくて心地よい誓いなのだろうか。
でも。

「それは……、誰かに頼まれたから?」

びっくりした顔で少年は隣を振り返った。その顔には隠しごとがばれたかも、と危惧する子供のような焦りが浮かんでいる。
「う……そうじゃないって言ったら嘘になっちまうけど、別にそれだけじゃなくてだな」
あたふたと言うと、少年は周りをきょろきょろと見渡し、誰もいないのを確認した上で、さらに少女の耳元に口をよせてささやいた。

「……美琴には秘密だからな?」

こっそりと、まるで大切な宝物の秘密の隠し場所を友人に教えるような真剣さで、上条当麻は言葉をつむいだ。


――――――――――――――――――――――――


燃えるような夕焼け空はいつの間にか夕暮れに変わり、空は海の底のように深い群青の色で世界を覆おうとしていた。いつの間にか、外を出歩いている学生は美琴と上条だけになっている。そろそろ夕食の時間だろう。

気をつけて帰れよー?あ、1人で帰れるか?途中まで送ろうか?

どこまでもおせっかいでお人よしの少年にやっとのことで、大丈夫、と一言だけ告げて美琴は少年と別れた。またなーと手を振りながら去っていく少年を、その場でぽけーっと見送る。

胸に抱えたぬいぐるみを、きゅっと抱きしめる。
周りに誰もいない事を確認してから、美琴はぷはぁ、と息を吐いた。
先ほどから激しい鼓動は収まらず、下手をしたら不整脈まで出そうかもしれない。
ううぅ~っ!と耳まで真っ赤にして顔をブンブンとふる。
照れくさいような、むずがゆいような、まったくもって落ち着かないくせに、決して不愉快というわけではない。
どちらかというと歓喜に近い気持ちが、必死に手綱を握っていないと自分の内側から爆発しそうになる。

(なんなのよ、これ~!あ、あのバカのせいで、まったくもう……)
彼女を揺さぶる原因は、少年の口からささやかれた本音。

それは確かに、御坂美琴という少女に向けられたものだった。

いつしか足元から伸びていた長い影法師は闇に溶け込んでいた。
道端に並ぶ街灯の群れが、美琴をスポットライトのように照らし始める。
足元に自分の影が何本も浮かび上がっても、少女はいつまでも同じ場所で立ち尽くしていた。


――――――――――――――――――――――――


翌朝。

本日は土曜日で午前中も授業はなく、上条当麻は1週間ほったらかされてむくれているインデックスを連れ、街に繰り出していた。
近所のスーパーに、午前中限定のセール目当てで買い物に行くだけなのに、やたらと上機嫌な白い修道服の少女はふと何かに気づいて声を上げた。

「あ、ねえとうま。あそこにいるのって短髪かも。隣にいる女も地下世界で会ったよね?」

ん?とインデックスの指差す方に、上条が片側2車線の道路の向かい側の歩道に目をやると、確かに見知った常盤台の制服が2つ、目についた。
白井黒子の隣に並んでどつきあいながら騒がしく歩く少女は、紛れもなく彼が良く知る御坂美琴その人であった。

白井は美琴が胸に抱えているものを見ながらあきれて愚痴をこぼし、美琴は美琴で真っ赤な顔でムキになっている風に上条には見えた。
距離は遠く、雑踏にまぎれていては声は届かないだろう。
それでもこのまま声をかけずに去るのも、なんだか惜しい気がする上条だったが、
「ほらーっ、短髪なんか放っておいて早く行こうよ、とうまぁー!」
なぜか、むーっとしだしたインデックスが、上条の腕をとってぐいぐい引っ張りながら歩き出す。
2人の少女は上条達には気づくことなく、人ごみの中に姿を消えていった。

インデックスに腕を引っ張られつつも、上条は首をかしげる。

美琴が抱えてたぬいぐるみ、なんであいつは昨日のアレと同じのを持ってるんだ??


                                   END


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