熱設計


高専ロボコンではあまり気にしない要素である熱設計は、
小型のものほど大きく影響します。
今回はかわロボにおける熱設計の重要性についてまとめたいと思います。

熱設計というのは、結論から言えば熱源が最大何度に到達するかを決めるものです。
かわロボにおいて、最大の熱源はモータとアンプです。
つまり、この2つの温度が何度になるのかを考えるのが目標となります。

熱回路


構成品の中で最大の温度に到達するのは必ず熱源です。
そして基本的には空気へ排熱されていきます。
熱源からの熱がどのように伝わり、空気に排熱されるのかを考えるのが熱回路となります。
そこで重要となるのは、熱がどうやって伝わるかになります。
実はすべての物体は同じ温度になろうと働きますが、伝わり方には熱伝導、対流、輻射の3種類しかありません。
一般的には、アンプのFET→アンプのケース→筐体→周囲の空気という伝わり方になると思います。

複数の経路がある場合、それぞれに熱移動が発生します。
簡単な計算では、それぞれの熱の移動量を計算して合算します。
実際には、お互いの熱移動が影響しあうことがあります。

より熱源の温度を下げるには、よりたくさんの排熱までの道を作る、
またはそれぞれの熱の伝わりやすさを上げることになります。

熱伝導


最も重要な熱の伝達は、直接接触している者同士の熱伝導となります。
熱伝導の特性は材質に依存します。
かわロボでは主に、アルミ、ポリカーボネート、鉄等ですが、熱の伝わりやすさは、
アルミを1とすると、鉄は約1/4、ポリカは1/1000となります。
つまり熱を伝えるにはポリカ(樹脂全般)は不利となるのですが、
もっと伝わりにくいものが空気で、1/10000にもなります。
エアキャップって暖かいですよね。

そうなるとかわロボでよく見る、アンプをカバーの中に押し込んでおく状態は非常に危険という事です。

対流


液体や気体は熱を持った分子そのものが移動し、熱を伝えます。
温度差のある液体や気体は拡散という現象で少しずつ交じり合うのですが、この速度は非常にゆっくりです。
これよりも多く発生する現象が自然対流です。
地球上では重力があるので、重い空気は下に、軽い空気は上に行きます。
空気は温度が高くなると密度が下がり、軽くなるので上に行きます。
しかしこの自然対流が厄介で、様々な条件によって熱が伝わる量が異なります。
厳密にはシミュレーションで解析することになりますが、解析上は無視してしまうのが手っ取り早いレベルです。
そこで対流を前提に使う場合は、ファンを使って空気を直接あてる、強制対流という手段を取るのが一般的です。

最後は空気に排熱をするため、結局は対流を考える必要がありますが、
実験的には表面積が広く表面温度が高い=効率がいいということになります。
逆に表面が冷たいということは、そこに熱が伝えられていないということになります。

輻射


地球でも宇宙でも発生する光による熱伝達です。
表面の材質、主に色とも呼ばれる光の吸収放射の特性に依存するのが特徴ですが、
伝わる量が非常に少ないため、熱解析上は無視しましょう。

設計


モータはコイルが、アンプは中のFETが一定の温度を超えると壊れます。
モータについては自分が回ることで対流による冷却も行われますので、定格負荷というものを守ることが重要です。
一方でアンプは冷却方法を考えないと壊れる可能性があります。

実際アンプがどれくらい発熱しているかについては、モータの電流量とアンプの内部抵抗に依存します。
要するにI*I*Rです。
MC402がなぜ優秀かについては、内部抵抗が小さいFETを使用しており、発熱量が下がるためです。
使われているDirectFETと呼ばれるFETは内部抵抗が約1mΩ程ですので、
380モータ1個のストール電流7.2V13Aでは、単純計算で169mWとなります。
なおFETの特性で厄介なのは、温度が上がると内部抵抗が上がることです。
つまり温度が上がる→抵抗が上がる→さらに温度があがるという悪循環が起き、最終的に壊れることになります。
それを防ぐためにも、温度を低く保つことは重要という事です。

アルミの熱伝導率は236W/m・Kです。
MC402のケースサイズは約25mmですので、1mm厚の板では面に垂直方向では、
169mW×1mm / (25mm×25mm × 236W/m・K) = 0.001K=0.001℃しか変わりません。
1mmの板の面方向では、同じ25mm幅の板を100mm伝わったとしても、
169mW×100mm/(1mm×25mm×236W/m・K)=2.8℃です。板厚が上がればその分温度差もなくなります。
つまりアルミ板は熱伝達なら同じ温度になると思ってもらって問題ありません。

これが樹脂になると、単純に1000倍になりますので、
MC402に使われているケースでも内外での温度差が1℃、3mmの樹脂板の表裏の温度差は3℃あることになります。
さらに面方向ではほぼ伝わらないと思ってもらって問題ありません。
そこで薄い両面テープでアルミ板に固定するといいでしょう。

ちなみにこの計算はアンプ1つモータ1つなので、アンプやモータが増えればその分掛け算になります。

つまり、熱伝達を期待するなら、アンプを固定する面はアルミでないと問題になるという事です。

さらに隙間のある状態で密閉するとどうなるかはご想像の通りです。

ヒートシンク


よく冷やすにはヒートシンクをつけるという話がありますが、
ヒートシンクには2つの効果があります。
一つめは比熱を利用して温度上昇を抑えることです。
もう一つは表面積を稼いで対流での熱伝導を増やすことです。

短時間しか発熱がないものについては、ほかのものに熱を伝えることで、熱の均一化を図り温度を下げることができます。
追いかけっこをしない大型機等であれば、この方法で対処できますが、
2分間移動し続ける小型機ではヒートシンクの温度が上がってしまい、最終的に故障を招くため非推奨です。

一方でアンプにヒートシンクが付いているものがあります。
こういった製品は、一般室温における自然対流で放熱できることを前提とした設計ですので、
密閉した中で使用しても効果は得られず故障を招きます。
その場合は冷却ファンをつけるだけで故障を防ぐことができます。

380モータの冷却


モータについての冷却の考察です。
構造はマブチモータのページに詳しく書いてあります。
https://www.mabuchi-motor.co.jp/product/knowledge/structure/function.html
380モータの直径は27.7mm、長さ37.8mmです。ケースはおよそ1mmです。
寸法から出せる重要な数値として、ケースの筒部分の断面積0.000084m2、ケースの外周の表面積0.0033m2
ケース内周の表面積0.0029m2、取付面の面積0.0006m2となります。

おおよそ発熱量=(消費電力-出力)となるため、定格出力25Wの場合、17Wほどの発熱があります。
まず380モータの熱源は巻き線です。
巻き線は整流子によって回転するため、接触点は軸受のみとなります。
回転軸そのものもステンレス製のため、熱は伝わります。
軸受は非金属性のため、熱伝導としては期待できない状態です。
一方で自分が回転しているため、運動による空冷が発生します。
高速で運動する空気は熱伝達が良くなり、モータ内部の空気を温めます。
一応モータのケースには穴が開いており、高温の空気はここを通って外に逃げますが、
温度差による対流の量は非常に小さいことに注意が必要です。
そのためほとんどの熱は空気からケースに伝わるか、軸を通すことになります。


まずは内部の空気を通る熱を考えます。

ケース内部の空気の量をケース内の30%程とすると、空気の比熱は1005J/kgK、比重1.166kg/m3として、
もし空気だけに熱が蓄積されると、
17W/1005J/kgK/(0.0006m2*0.0378m*30%*1.166kg/m3)=2132K/sとなります。
実際にはコイル温度>空気温度>ケース温度になるので、そんな温度にはなりませんが、
これだけ空気の温度上昇を行う熱量があるので、周りへの熱伝達で温度上昇を抑える必要があります。

ケースはステンレス製です。ステンレスの熱伝導は27W/mKと非常に低いです。
ケース取付面から内部面での温度勾配はワースト(ケースから空気への熱移動なし)で、
17W/27W/mK*0.001m/0.0006m2=1.05度になります。
一方で、仮にケース背面にすべての熱が移動していたとすると、
ケース背面から取付面までの熱移動は、筒状の断面積0.000084m2から、
17W/27W/mK*0.0378m/0.000084m2=283度となります。
つまり、ケースの熱伝導は取付面やその近辺以外期待できず、
それ以外はケース表面からの外気への排熱しか期待できないことになります。

取付面への熱の移動を多くするためには、アルミシートをモータに巻く方法があります。
アルミはステレンスの8倍程度の熱伝導性を持ちますので、
例えば1mmのアルミを巻いて取付面までつなげると、283/8=40度程度になります。
そうなると背面側では2.5%程度ですが、ケースとしては取付面に対して内周の表面積が5倍大きいため、
17Wに対してケース端部で8度、中央では4度の放熱ができることになります。
つまり12.5~25%の排熱効率改善となります。

ケースの外周からの空気への伝達量もそれなりに多いですが、
計算が困難のため実験する方が早いです。
表面積がそのまま熱の移動量に影響します。

次に軸の放熱速度を考えると、
軸は2.3mmですので、中央から先端までの距離で考えると、
17W/27W/mK*0.0199m/0.00000042m2=29832度となります。
非常に伝達が悪いので、軸を通した排熱は無視できる程度となります。

以上から、放熱として期待できるのは、
内部の空気→ケース→取付面から外部
内部の空気→ケース→表面から空気
のパターンということになります。
逆に言えば、内部の空気を直接冷却できると非常に効率のいい排熱を行うこともできます。

ちなみにモータがストールすると、消費電力はすべて熱に変わり、発熱量はおおよそ70Wとなります。(7Vの場合)
さらにコイルが回転しないため、熱は内部での自然対流に変わります。
軸への熱伝達は期待できないため、急激にコイル温度が上がり、コイルの短絡または整流子の破損へとつながります。
短時間であればどちらも復旧する可能性はありますが、特にコイルの短絡(エナメルの融解 155度)は、
モータがストールせず長時間使用していて回転しなくなる場合には、
コイルの温度だけが上がることはないため、
磁石の磁性が下がることとコイルの抵抗値が上昇し、停動トルクが下がることが影響していると考えられます。
最終更新:2024年10月21日 12:59