ぬくもりの正体2



                   ☆
「う…ん…きゃぁッ!クク!!また、アンタはっ!」

ゼシカが目を覚ますと、ククはなぜかいつもパジャマの内側に居た。
いつの間に入り込むのか、見事に胸の谷間にはまり込んで
眠っていることが多い。

「んも~!これでも嫁入り前なんだからね!気軽に触らないでちょうだい!
きゃあぁっ!動かないで!」

寝返りを打つククの毛並みがゼシカの肌をくすぐり、絶叫させる。

「ちょっ、ちょっと!出なさい!もう、いつまで眠ってるのよ!」

ククは気持ちよさそうに眠り続けている。
本当は猫ではなくて狸なのではないかと疑いたくなる。

ゼシカは仕方ないわね、とため息混じりに起き上がる。
ククがパジャマの中で転がり落ちる。
やがてククがもそもそと布団から這い出し、甘えた声でゼシカに擦り寄ってくる。

毎朝これだ。
時には寝呆けるのか、胸を舐められたり鼻先を擦り付けられたりする。

「信じらんない、猫じゃなかったら黒コゲよ、クク」

ゼシカに睨まれても、ククは平気で甘えてゼシカの顔を舐める。
どうも唇や、首筋や、胸を好んで舐めているような気がする。

「なんか、エッチなのよね…ククールが猫になったみたい」

当のククは、まるで意に介さないかのようにゼシカに寄りかかり、丸くなった。

826ぬくもりの正体sage2009/09/10(木) 00:30:08 ID:c4Vj4fbeOゼシカとククが暮らしだして、ひと月が経った。

最初は可愛らしかったククも、最近ではすっかりオレ様ぶりを発揮して、
我が物顔だ。

ククは所構わず四六時中ゼシカにまとわりついてくる。
ゼシカは、もー甘えんぼさんなんだから!と言いつつ、
ついついククに付き合ってしまう。

仕事場にも毎日連れて行っている。
仕事の合間にもちょくちょく抱き上げる。

ゼシカお嬢さんの恋人は銀髪に青い瞳、熱々でとても見ていられない、と
笑い話になるほどだった。

そんな冗談を言われると、どこかククは自慢気にニャン!とひと鳴きし、
当然の定位置であるゼシカの膝で丸くなるのだった。

「当然さ。オレ達の熱いところをもっと見せ付けてやろうぜ、ハニー?」

とでも言いたげだ。

そのくせククは女の子にはもれなく愛想が良く、男の人には素っ気ない所あり、
まるで本家の様でゼシカはつい笑ってしまう。

桶にぬるま湯を張って洗おうとすると逃げてしまうのに、
ゼシカが風呂に入っていると必ずドアの前で入れろ入れろと鳴く。
ドアを開けてやると飛び込んできて、あっさり洗わせてくれる。
自分が済んだら、あれこれゼシカにちょっかいを出してくるので
毎晩大騒ぎだ。

ゼシカが湯船に浸かっていると、必ず狭いヘリに飛び乗ろうとする。

「だーっ!だから危ないって言ってるのに!お湯に落ちたらどうするの!!
何回同じことを言わせるのよ!」

仕方なくゼシカはククを裸の胸に抱いて、
ちょっとだけ足先をお湯に付けさせたりして遊ばせてやる。

「ちょっ!やだ!登らないでっ!もーなにが楽しいのよ…」

ゼシカの体に上ろうと足掻くククに手を焼くのも毎度の事だ。

「ホントにいたずらっ子なんだから!」
と怒るふりをしても、甘えた声と仕草についつい許してしまう。

「猫可愛がりよね、まさに」

自嘲気味に言うゼシカは、気付いていた。

最近、ほとんど泣かなくなったことに。
827ぬくもりの正体sage2009/09/10(木) 00:35:12 ID:c4Vj4fbeOククと目覚め、ククを抱いて眠りにつく。
ククと一緒に食べ、クク相手に色々なことを話す。
ククの居る毎日。

居るはずだった人の居ないスキマに、スルリと入り込んできたクク。

ある時、ワインに手を伸ばそうとするククがグラスを倒さないよう、取り上げたゼシカは
ふとイタズラ心を起こして赤ワインを少し舐めさてみた。
すると気に入ってしまったらしく、ニャーニャーとねだりだした。

それから時々、一緒に飲みながら話すようになってしまった。

「飲み過ぎちゃダメよ、クク。顔色が分からないんだから」

「ニャン」

「お酒、強いの?私はあんまり飲めないの。少しなら美味しいんだけどね。
おうちでしか飲まないの。」

「ニャン」

「前にね、ほら、話したでしょ?…旅をしていたころにね、酒場で飲み過ぎちゃって、
ククールにすごく怒られたの。なんか、ナンパにしつこくされちゃって。
ククールに助けて貰ったんだけど、そのあと、金輪際オレの居ないところで飲むな!って」

「…ニャーン」

「すんごい怒っちゃってさ。そもそもアイツが女の子たちの所に
サッサと消えちゃうからじゃないの!」

「…ナーン」

「でね、約束するまであたしの部屋から帰らない、って言うの。
何言ってんのよ!って思ったんだけど、私、酔ってたから…。
じゃ、朝まで居れば?って言ったの」

「…ニャン」

「そしたらますます怒っちゃって。オレが居ない時は宿の部屋で飲め!分かったか!!って、
ドアが壊れそうなくらい叩きつけて出て行ったの!ひどいと思わない?!」

「…ニャ!」

ククは突然コルクを見つけた様で、転がして遊びだした。

「…ちょっと!聞いてよクク!…だからね、私はおうちでしか飲めないの。
ククールが…居ないから」

コルクサッカーに夢中になって居たはずのククがゼシカを見上げる。

「…だから!クク、付き合ってね」

ククはコルクにすっかり興味を失って、ゼシカの膝に静かに丸くなった。

828ぬくもりの正体sage2009/09/10(木) 00:38:34 ID:c4Vj4fbeO夜も更けて、ベッドに落ち着いた一人と一匹は、毎晩、
眠るまでの甘い時間を過ごす。

「いい子ね、クク。ククが人間だったら、私がお嫁さんになってあげるのに。なーんてね」

まるで腕枕で眠るように丸まりゼシカの鼻先を舐めるククの背中を撫でながら、
ゼシカはククに言った。

ククはぴくりと反応したが、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、
またゼシカに顔を擦り付けた。

秋も深まり、夜が肌寒くなってからはますます、
ゼシカとククはまるで磁石のように寄り添って眠るようになった。

「オレ、寒がりなんだよね。ゼシカ、ゼシカの肌でオレを暖めて?
いいだろ、ゼシカはオレのなんだから」

まるでそんなセリフでも言いそうな感じだ。

まどろみが近づいてきたゼシカの瞳に、銀色の月の光がクク背中に
キラキラと降り注ぐのが映る。

首に結んだ黒いリボンが、なおさらククとククールの印象をダブらせる。

なんだか…今夜はいつもよりもっと…。

ククの温もりと波の音を子守歌に、ゼシカは柔らかな眠りに落ちていった。





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最終更新:2009年09月12日 02:53
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