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 バレンタイン・デイ・メイドプレイ。のつづき。

 例の件がみなみにバレて、あろうことか、みゆきにまで伝わった。
 しかし、シンの努力のお陰で、なんとかそれ以上広まる事は防げた。
 苦労した。
 ゆたかは中々電話を止めないので、みなみの携帯はもちろん繋がらない。
 そして、運が悪いことに、みなみの家の電話も通話中。
 しかし、シンは諦めなかった。
 石油高騰に敗北して、泣く泣く封印していた愛車のデスティニー(バイク)を引っ張り出し、ガソリン代など気にも止めず爆走。
 ついでに、交通ルールも気に止めなかったので、パトカーとのカーチェイスを経て岩崎家に到着。
 受話器片手で通話中だったみなみのお母さんとの挨拶もそこそこに、みなみの部屋に突撃。
 目の前で呆然とするみなみとみゆき(遊びに来ていた)に、その場ですぐに事情を説明して、何とか分かってはもらえたが。
「わ、分かりました。シン先輩を信じます」
「わたしも……」
 あの時の、二人の珍獣を見るような目線と冷や汗交じりの苦笑いをシンは一生忘れないだろう。
 完全に疑惑が晴れたというわけでは無かった……。
 だが、シンは全員にメイドプレイ(勘違いVer)が知れ渡るという最悪の事態は避けられたと安堵した。
 しかし……。

 ○

 次の日。二月十五日。
 三年B組。
 シンは自分の机に座りながら、わなわなと小さく肩を震わせていた。
 原因は……、
「おい、ご主人様。悪いけど宿題見せてくんない?」
「なぁご主人様。この前の体育委員の会議の事なんだけど」
「あ、いたいたご主人様。今度のサッカーの試合また助っ人で出てくんないかな?」
「お~いご主人様。黒井先生が呼んでたぞ~」
「黙れおまえらぁぁぁぁぁぁ!」
 教室の入り口から次々と現れる男達にシンは怒声をあげた。
「「「うわぁ、ご主人様が怒ったぁ」」」
 しかし、男達は悪びれた様子も無く、ケラケラ笑いながら廊下に消えていった。
 昨晩の出来事はなぜか学校中に広がっていた……。
「くそ! 小学生かあいつらは!」
 シンは地団駄を踏みながら、朝から続く不条理ないじりに怒りを感じていた。
 こなたは登校して事情を察知すると、からかわれるのを避けるためHR開始十分で保健室へ直行した。
 仮病だ。当然の如く仮病だ。
 しかし、黒井先生はそういうのをいち早く見抜くため、最初は保健室行きを許可しなかった。
 だが、なんとこなたが、
「実は二日目で……」
 と魔法の呪文を唱えると、信じられないことに黒井先生はあっさり保健室行きを了承した。
 良く分からんがそれなら逃げられるのか。と思ってシンも黒井先生に、

「先生! 実は俺も二日目なんです!」

 ボコられた。教育委員会も真っ青なレベルで黒井先生にボコられた。
 不公平だとシンは思った。こなたはよくて、なんで自分はボコボコなのだ。
 もしかしたら全く同じ日にちというのが怪しまれたのかもしれない。次は三日目あたりにしようと思った。
しかし、それからしばらくしてから分かったのだが。
 確かに、昨日の出来事が噂として、学内に広がっているには広がっているのだが、その相手がこなただ、という事は伝わっていないようである。
 つまり今朝からの、男子達によるからかいの内容を考察するに、学内に広がっている噂は、

 シンが、誰か分からないけどある女の子にメイド服を着せて、さらにご主人様と呼ばせてパヤパヤしていた。

 という内容のようだ。
 まぁ、どちらにしろ、シンにとっては最悪な噂である事は変わりなかった。
 いや、むしろ状況はさらに悪化したと言ってもいいかもしれない。

 ○

「……どうやら、私は何も助けてあげられないみたいだね」
 こなたは、保健室のベッドの上でばつが悪そうに言った。
 昼放課。シンがこなたに皆の誤解を解く手伝いを頼み来たのだが、開口一番で言われたのがこの言葉である。
「何でだよ! 俺を見捨てるのか!?」
「落ち着きなよ。ここ保健室だよ……」
 シンは保健医の天原ふゆきの冷たい視線を感じ、ばつがわるそうに咳払いを一つすると声量を下げる。
「……どういうつもりだ。元はと言えばお前が悪いんだぞ」
「何言ってるの、悪ノリしたシンだって悪いじゃん」
「そ、それはそうだが……」
「いい、シン。そもそも今回の噂の中で私は登場してないんだよ。その私が『シンは無実だよ~』なんて言った所で誰が信じるのさ」
「うっ……。確かに……」
 よくよく考えてみればその通りである。そもそも今回の噂ではなぜかこなたの存在がすっぽり抜け落ちているのだ、
 それなのに、そのこなたが皆に対して一体何の説明が出来るというのか。
「私でも分かる事がシンに分からないなんて……想像以上に病んでるねシン」
 シンはそんなこなたの言葉など耳に入っていなかった。彼はこれから自分が取るべき行動を一生懸命模索していたからだ。
 味方は誰もいない。援軍は期待できない。完全に戦場で孤立した。孤立した兵士の辿る先は一つ、
 破滅だ。


 シンは教室に戻ると。がっくりと肩を落とした。
「くそ、何でみんな知ってるんだ……」
 なんか泣きたくなった。
 昨日はあんなにちやほやしてくれた女子には心身共に距離を取られ、男子は、まぁ毎年の事だが昨日の件で恨みを買っているので、いつも以上に態度が冷たい。
 喋りかけてくるのは、
「あ~、ご主人様が落ち込んでるぞ~」
「なんと、ご主人様が落ち込んでらっしゃるのか!」
「あっはっは。ならメイドに慰めてもらえよご主人様~」
「ご主人様はよりどりみどりだもんなぁ、死ね」
 という、ものばかり。
「うるせええええええええええええええええ!」
「「「うわぁ、ご主人様が怒ったぁぁぁあ!」」」
 シンの怒声を受けて、男子の一団が急いで教室から退散していく。
 シンは怒りの瞳を燃え上がらせながら足を何度も床に叩いた。
「はぁ、はぁ……くそ! どいつもこいつもぉぉぉぉ!」
 いっその事、裏山に隠してあるデスティニーで、こんな学校吹っ飛ばしてくれようか! と、本気で考えた時、
「シン。少しは落ち着けよ」
 親友。白石みのるがシンを制した。
「白石……」
「あいつらは、お前がバレンタインにチョコを沢山貰ってたから嫉妬してるのさ。毎年の事だろ?」
「白石……。お前も俺をからかいに来たんだろ……」
 シンは目を細めて白石を睨んだ。
 白石は確かに友達で良い奴なのだが、女が絡むととたんに手のひらを返して薄情になるからである。
 正直、この状況では最も信の置けない人間だった。
 しかし、白石はそんなシンの心情とは裏腹に、慈愛に満ちた微笑みを浮かべると、
「そんなわけ無いだろ“シン”。俺はお前の味方だ」
 シンは目を大きく見開いた。
「し、白石……俺をご主人様じゃなくてシンと呼んでくれるのか?」
 シンは我が耳を疑った。あの白石が、
 シンが告白されたと聞けば上履きに画鋲を仕掛け、ラブレターを貰ったと聞けば人の弁当を勝手に食べ、
 誕生日に女性から次々とプレゼントを貰っていると知れば、剃刀入りの手紙を送りつけてくるあの白石が……、
 シンは胸にジーンと熱いものが込み上げてくるのを感じた。
「白石、ありがとう。俺、お前の事誤解してたよ……お前、良い奴だな……」
「よせやい、俺達同士だろ」
「同士? 友達じゃなくて? まぁいいか、どっちも同じようなもんだよな。そうか同士か、俺とお前は同士だもんな……」
「バッカ、泣くなよシン」
「俺、頑張るよ白石。理不尽な言葉の暴力なんかに負けずに生きていくよ……」
「ああ、これからも弾圧なんかに負けず、しっかりメイド服の素晴らしさを広めていこうじゃないか」
「うん――って、は?」
 シンは涙をふいて白石を見る。
 白石は、なんか悦に入った表情で語り始めた。
「最高だもんなメイド服。俺さぁ、知り合いにすっごい胸の大きな未来人がいるんだけど、その子のメイド服姿がサイコーで――」
「……」
 シンは大体理解した。そして、そのまま黙って離れようとした。
 しかし、すぐに白石に肩に腕を回されてしまった。
「お前の気持ちは痛いほど分かるぜ、いいよなぁ~メイド♪」
「離せ。近づくな変態野郎……」
「仲間ができて嬉しいぜ~」
「一緒にするな! 離せ白石!」
「メイドは……そうだな、このクラスで言うなら高良なんか似合いそうだよな~」
「だから! 俺はそんな趣味は全く無いって言――っていうかお前、こんなに力強かったか!?」
 シンは結構本気で白石から離れようともがいたが、白石はビクともしない。
「いいからシン! 考えてみろって!」
「うるさい! はなせ馬鹿野郎!」
「妄想しろ! 高良のメイド姿を!」
「高良のメイド服だと……」
 シンは白石の顔面に押し付けていた拳をピタリと止めた。
「そうだよ! 高良だよ!」
「高良か……」
 思わずシンは白石の言葉に従い、妄想の世界に旅立ってしまった。

『ご主人様……』

想像。
 みゆきの事だ、慎ましく作業をこなすだろう。
 何かミスると恥ずかしげに取り繕うのだろう。
 しかもスタイルは抜群。白いレースの付いた服も良く似合う。何より清楚なイメージがより一層引き立つ。
「……うん。まぁ、悪くは無い」
 シンは腕を組んで真顔で頷いた。
 シンは別にメイド好きという訳ではないが、そこは思春期な男の子。
 綺麗な女性が、可愛い衣装を着ているのを良く思う事はあっても悪く思う事はまずない。
 悪く思う奴がいるのなら阿○さんにでもアッーー、されるといい。
「なっ! 素晴らしいだろうが!」
「……うん、素晴らしいな」
 なんということだろう。朝から傷付き続けた心が癒されていく。
 これがこなたから受けた英才教育の賜物なのかどうかはとりあえず置いておいて、まさか、メイド服が自分にこんな癒しの効果を与えるなんて思ってもみなかった。
(見てるとイライラするこなたのメイド服なんて比べ物にならない。例えるならばひのきの棒とレバ剣ぐらい違う)
 シンは満たされた表情を浮かべ、心でそう呟いた。つもりだった……。
「へぇ~。銅の剣以下、ねぇ……」
「!?」
 シンはビクッ! と肩を震わせた。
 そして、ゆっくりと振り返ると、


つづく。   

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最終更新:2008年04月14日 14:04
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